薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · B1 Hemostatics / 止血薬

クリオプレシピテート

cryoprecipitate

分類
Hemostatics / 止血薬
科目
Pharmacology
トピック
B1: Drugs influencing blood coagulation I: Antiplatelet agents. Fibrinolytic drugs. Drugs inhibiting bleeding
監視検査値
フィブリノゲン

🧠 全体像:を理解する軸は「(FFP)をさらに濃縮した画分」という一点である。FFPを低温でゆっくり融解すると、フィブリノゲン・第VIII因子・()・・といった大きな糖蛋白質だけが不溶性のとして残る——これが(“cryo”=低温、“precipitate”=)である。日本にはのクリオ製剤が存在せず、各施設がFFPから院内調製するという点が、同じのである(FFP)・(PCC)との大きな違いになる。

薬効群の中での位置づけ

製剤 含有因子の濃度 必要容量・時間 主な用途
(FFP) すべての凝固因子・アルブミン・免疫グロブリンを生理的濃度で含む 10〜15 mL/kg前後、大容量 複合的な、大量輸血
フィブリノゲン・第VIII因子・・を濃縮 FFPよりはるかに少量でフィブリノゲンを補充できる を伴う出血(大量輸血、など)
(PCC) 第II・VII・IX・X因子を濃縮 数十mL、単回静注 の緊急拮抗

⭐ は「FFPの互換」ではなく「フィブリノゲンだけを効率よく上げたいときの製剤」として対比する。 FFPは全因子を生理的濃度で含むぶん大容量を要するが、クリオは特定の糖蛋白質だけを濃縮しているため、少量でフィブリノゲン値を引き上げられる1。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fresh frozen plasma (FFP)'>新鮮凍結血漿</span>(FFP)を2〜6℃で緩徐に融解"] --> B["フィブリノゲン・第VIII因子・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='von Willebrand factor'>vWF</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='factor XIII'>第XIII因子</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibronectin'>フィブロネクチン</span>が不溶性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='precipitation'>沈殿</span>として<span class='jp-term jp-term-diagram' title='precipitation'>析出</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='centrifugation'>遠心分離</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='supernatant'>上清</span>(クリオ除去後血漿)を除く"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='precipitation'>沈殿</span>画分=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cryoprecipitate'>クリオプレシピテート</span>を回収・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='refreezing'>再凍結</span>"]
    D --> E["融解後に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='IV dosing'>静脈内投与</span>"]
    E --> F["少量でフィブリノゲン値を上昇させる"]

💡 なぜ低温でゆっくり融解すると特定の蛋白だけがするのか。 フィブリノゲンや第VIII因子といった大きな糖蛋白質は低温での溶解度が低く、緩徐な融解過程で他のより先に不溶化する。この物理化学的な性質の違いを利用して、FFPから目的の凝固因子だけを濃縮しているのがである2。

薬物動態

項目 値・特徴
(融解後速やかに)
含有量の目安 上パックの75%がフィブリノゲン140 mg以上・第VIII因子70 IU以上を含む1
効果 院内調製したクリオの投与で、フィブリノゲン値が投与前後で有意に上昇する(例:151.3 mg/dL→189.8 mg/dL)2
供給形態(日本) 製剤は無く、各施設がFFPから院内調製する2

適応

位置づけ
を伴う出血(大出血がない状況) ()など、フィブリノゲン値1.0 g/L(100 mg/dL)未満で出血リスクが高い状況の補充に用いる1
外傷などの大量出血で経験的に早期投与されることがあるが、CRYOSTAT-2試験では早期・高用量投与を追加しても28日死亡率は改善しなかった3
第VIII因子・補充(歴史的位置づけ) 血友病Aやへの使用は、遺伝子組換え第VIII因子製剤()や/第VIII因子の普及により、現在ではな第一選択ではなく、それらが入手できない場合の代替に位置づけられる1

⚠️ 「出血を止める万能薬」ではない。 CRYOSTAT-2試験のように、経験的な早期投与を追加しても全体の死亡率が改善するとは限らない。フィブリノゲン値という具体的な指標に基づいて使うべき製剤である3。

用法・用量

大出血がない状況で、フィブリノゲン値1.0 g/L(100 mg/dL)未満かつ手術などで出血リスクが高い場合に投与を考慮する1。日本ではFFPから院内調製するため、必要量はFFPの使用量(プールする単位数)に依存し、施設のプロトコルに従う。投与後はフィブリノゲン値を再測定し、目標値への到達を確認する2。実際の投与量・単位数は施設のプロトコルで確認する。⚠️ かつて参照先とされていた厚生労働省「の使用指針」は、2026年3月24日付けの医薬発0324第2号をもって「輸血療法の実施に関する指針」「保管管理マニュアル」とともに廃止され、日本輸血・学会の「輸血療法実践ガイド」に統合された4。

禁忌・注意

  • 明示的な禁忌区分はないが、全般に共通するリスク・免疫学的副作用(アナフィラキシー等)に注意する
  • ⚠️ 日本では製剤が無く、院内調製の品質・供給に施設間差がありうる。 導入時にはフィブリノゲン値の上昇効果は確認されているが、輸血量そのものの削減効果は限定的との報告がある2
  • 経験的な早期・高用量投与を漫然と行っても予後改善が保証されるわけではない。フィブリノゲン値などの指標に基づいて適応を判断する3

副作用

頻度 内容
共通(頻度不明) (・・等)、(TRALI)、(TACO)
免疫学的 、蕁麻疹・発疹等の過敏症、アナフィラキシー

まとめ

  • はFFPを低温でゆっくり融解して得られる画分で、フィブリノゲン・第VIII因子・・を濃縮して含む。
  • 日本には製剤が無く、各施設がFFPから院内調製する——供給形態そのものがFFPやPCCと大きく異なる点。
  • 主な適応はフィブリノゲン値1.0 g/L未満の出血リスクが高い状況(、産科大量出血など)で、FFPよりはるかに少量でフィブリノゲンを補充できる。
  • 第VIII因子・補充目的の使用は、・の普及により現在は代替的な位置づけにとどまる。
  • CRYOSTAT-2試験が示すように、経験的な早期・高用量投与を漫然と追加しても死亡率改善は保証されない。フィブリノゲン値に基づいた適応判断が重要。

出典

  1. 1.British Society of Haematology Guidelines on the spectrum of fresh frozen plasma and cryoprecipitate products: their handling and use in various patient groups in the absence of major bleeding(British Society for Haematology・2018)クリオプレシピテートが第VIII因子・von Willebrand因子(vWF)・第XIII因子・フィブロネクチン・フィブリノゲンを濃縮した画分であり、規格上パックの75%が140 mg以上のフィブリノゲンと70 IU以上の第VIII因子を含むこと、本ガイドラインは大出血がない状況を対象とし、手術など重大な出血リスクがある患者のフィブリノゲン値が1.0 g/L(100 mg/dL)未満、または重症の入院患者で1.0 g/L未満に低下した場合に補充を考慮すること、米国など多くの国では第VIII因子・vWF補充を目的とした日常的な使用は既に行われておらず濃縮製剤が入手できない場合の代替に位置づけられることを確認した。一次資料(Wiley本文・BSH公式ページの全文)は403/404で取得できず、書誌情報とタイトルの適用範囲(in the absence of major bleeding)のみ確認済み。閲覧 2026-09-05
  2. 2.クリオプレシピテートの院内作製導入の効果と課題(日本臨床衛生検査技師会(医学検査誌)・2022)日本国内には市販のクリオプレシピテート製剤が無く、新鮮凍結血漿(FFP-LR-480)を2〜6℃で24時間かけて緩徐に融解し4℃・3,000 g・15分の遠心で作製する院内調製に依っていること、投与によりフィブリノゲン値が投与前151.3 mg/dLから投与後189.8 mg/dLへ有意に上昇したことを確認した。閲覧 2026-09-05
  3. 3.Early and Empirical High-Dose Cryoprecipitate for Hemorrhage After Traumatic Injury: The CRYOSTAT-2 Randomized Clinical Trial(JAMA・2023)大量出血プロトコル発動例において、標準治療に早期・経験的な高用量クリオプレシピテートを追加しても28日死亡率は改善しなかった(25.3% 対 26.1%)ことを確認した。閲覧 2026-09-05
  4. 4.「血液製剤の使用指針」、「輸血療法の実施に関する指針」及び「血液製剤保管管理マニュアル」の廃止並びに「輸血療法実践ガイド」の周知について(医薬発0324第2号)(厚生労働省医薬局・2026)令和8年3月24日付け医薬発0324第2号(厚生労働省医薬局長通知)が、「血液製剤の使用指針」(平成31年3月25日付け薬生発0325第1号)・「輸血療法の実施に関する指針」・「血液製剤保管管理マニュアル」を本通知の発出をもって廃止すると明記し、他の通知等でこれらを引用している場合は日本輸血・細胞治療学会が公表した「輸血療法実践ガイド」を参照するよう求めていることを確認した。同ガイドはこれまで示してきた指針及びマニュアルの内容を整理し統合したものであると本通知に記されている閲覧 2026-09-08