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Lab values · Published

選択的動脈内カルシウム刺激試験

Selective arterial calcium stimulation test

別名
ASVS選択的動脈内カルシウム注入試験
臓器系
内分泌・代謝肝胆膵
科目
Internal Medicine
トピック
内科学 E-07:神経内分泌腫瘍
関連疾患
カルチノイド症候群・神経内分泌腫瘍(ゾリンジャー・エリソン症候群、インスリノーマを含む)低血糖(非糖尿病性)

🧠 全体像:ASVSは、CT/MRI・といった画像検査とは種類が異なる検査である。腫瘍の形を写すのではなく、膵を灌流する動脈へ一本ずつカルシウムを注入し、どの領域が異常なを起こすかをホルモン濃度の勾配として読む。生化学的にが確定し、かつ画像で腫瘍が指摘できない場合にだけ登場する検査で、特にびまん性のβ細胞病変(NIPHS・成人の細胞症)は画像に写らないため、この試験のが切除範囲(限局切除か、より広い切除か)を左右する。

何を見ているか

カルシウムは、異常に機能亢進したβ細胞(細胞、またはびまん性に過形成した非腫瘍性β細胞)からのインスリン分泌を選択的に刺激する。正常なβ細胞はこの程度のカルシウム負荷では大きく反応しないため、注入した動脈のに機能亢進したβ細胞があれば、その領域の静脈血だけにインスリンのが現れる。

膵の静脈血はいったん門脈を経て肝臓に流入するため、直接膵静脈を採血する代わりにでインスリンを採血する。動脈側は下でカテーテルを選択的に進め、静脈側はに留置したカテーテルからに採血するという、動脈注入と静脈採血を組み合わせた検査である。

カルシウム負荷試験(ガストリノーマ)との違い

「カルシウム」を使う検査という共通点だけで、と混同しやすいが、・検査が登場する段階のいずれも異なる別の検査である。

項目 ASVS(本ノート)
・NIPHSなど
刺激されるホルモン インスリン
下で膵を灌流する各動脈へ選択的に注入 から一定時間かけて持続静注
採血部位
登場する段階 が確定したあとの局在診断 が未確定な段階での確認

⚠️ は「本当にかどうか」を確かめる生化学的な検査であるのに対し、ASVSは「であることは既に確定していて、それがどこにあるか」を絞り込む検査であり、目的の段階がまったく異なる。名前が似ているからと同じ場面で使う検査だと誤解しない。

手技と判定基準

下で、・脾動脈・へ一本ずつ選択的にカテーテルを進め、10%をカルシウムとして約0.025 mEq/kgとなる量で、に希釈して注入する12。注入する順序は報告によって異なる。

動脈 主な灌流領域
膵頭部
・膵頭下部
脾動脈(近位・遠位) 膵体部・尾部
膵実質は灌流しない。標準的な注入部位の一つとして順に注入する2

からにカテーテルを留置し、各動脈への注入前後でに採血してインスリンを測定する。採血のタイミングは報告によって幅があり、NIHのシリーズでは投与前・20・40・60秒後1、別の総説では投与前・30・60・90・120・180秒後としている2

判定基準は資料間でほぼ一致している。 いずれかの採血時点で、その動脈の投与前値からインスリン濃度が2倍以上に上昇すれば、その動脈が灌流する膵区域にがあると判定する1(総説では「2倍を超える上昇」と表現している2)。

陽性の意味

flowchart TD
    A["各動脈へカルシウムを順に注入し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatic vein'>肝静脈</span>でインスリンを<span class='jp-term jp-term-diagram' title='serial'>経時的</span>に測定"] --> B{"どの動脈でインスリンが<br>2倍以上に上昇したか"}
    B -->|"1つの動脈領域のみ陽性"| C["その動脈が灌流する膵区域に<br>限局性病変を推定"]
    B -->|"複数の動脈領域で陽性"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diffuse beta-cell lesion'>びまん性β細胞病変</span><br>(NIPHS・成人の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='islet'>膵島</span>細胞症)<br>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multiple insulinomas'>多発性インスリノーマ</span>を疑う"]
    B -->|"いずれの動脈でも陽性なし"| E["診断を再検討するか<br>再検査・他の局在診断を検討"]
    C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraoperative ultrasonography'>術中超音波</span>・触診で<br>確認してから切除"]
    D --> F

局在の正診率はNIHの単施設シリーズ(45例)で84%(偽陰性11%・偽陽性4%)であり、同じ集団で超音波14%・CT32%・MRI25%より明らかに優れていた1。複数の総説を横断すると正診率は67~100%まで幅があり、多くは90%以上と報告している2

⭐ 1つの動脈だけが陽性であれば限局性病変()を示唆するが、複数の動脈領域が陽性になる反応は、びまん性のβ細胞過形成(NIPHS・成人の細胞症)を示唆する所見であり、CT/MRI/EUSには写らない。限局性のとびまん性のを鑑別できる点にこの検査の意義があり2、この違いが、で足りるか、より広い膵切除が必要かを左右する。ただし、この検査だけでびまん性分泌となどのを確実に区別できるとは限らない2に伴う多発病変では、機能性腫瘍を病変と鑑別する目的でもASVSが有用とされ、外科切除前に考慮すべきとされる3

⚠️ 測定上の注意

⚠️ 侵襲的な手技である:動脈穿刺と静脈を要し、造影剤を約100 mL使用し線量は150~250 mGy程度になる2。穿刺部の合併症や造影剤による腎障害のリスクを負う手技であることを患者に説明する必要がある。NIHのシリーズでは1例の推定腫瘍梗塞以外に重篤な合併症は報告されていないが1、検査中に低血糖を来す理論的リスクもある2

⚠️ 複数動脈が陽性でも、びまん性病変とは限らないの隠れた使用によるでも、複数の膵領域で陽性反応が出てびまん性のβ細胞刺激を示唆する所見となった症例が報告されている1。この試験に進む前にスクリーニングが陰性であることを確認しておく。

⚠️ の習熟を要する:技術的難易度は中等度とされるが、と血管解剖の双方に精通したインターベンショナルラジオロジストを要する2。どの施設でも気軽に追加できる検査ではない。

⚠️ で灌流領域の判定が狂うから分岐する狭窄による逆行性血流などの破格があると、注入した動脈と実際の灌流領域がずれ、偽陽性・偽陰性の原因になる2。脾静脈からのなど静脈側の破格があれば、以外からの採血に切り替える必要がある2

  • 術中は超音波と直接触診を併用して術前の局在診断を裏付けてから切除範囲を最終決定する。

位置づけ/次に進むべき検査

ASVSは、が確認されたあと、CT/MRI・で局在が得られない場合に考慮する、局在診断の最後の砦にあたる検査である3。画像で既に責任腫瘍が指摘できているなら、この侵襲的な検査を追加する必要はない2

局在が絞り込めれば外科的切除に進み、術中は超音波・触診を併用して切除範囲を確定する。周術期や例の血糖維持にはなどが用いられる。鑑別の全体像との基準は非糖尿病性低血糖を参照。

まとめ

  • ASVSは画像検査ではなく、膵を灌流する動脈へカルシウムを選択的に注入しのインスリン濃度勾配を読むである。
  • 対象・・登場する段階のいずれも)とは異なり、混同しない。
  • ・脾動脈・へ順に注入し、投与前値からインスリンが2倍以上に上昇した動脈のがあると判定する。
  • 正診率はNIHの単施設シリーズで84%、複数の総説では90%以上とする報告が多く、超音波・CT・MRIより優れる。
  • 複数の動脈領域が陽性になる反応は、画像に写らない(NIPHS・成人の細胞症)を示唆し、切除範囲の判断を左右する。
  • 侵襲的な手技であり、による誤判定リスクと、施行できる施設の限定性が最大の弱点になる。
  • が確認されCT/MRI・EUS・で局在が得られない場合の最終手段であり、画像で局在済みなら不要である。

出典

  1. 1.Localization of Insulinomas to Regions of the Pancreas by Intraarterial Calcium Stimulation: The NIH Experience(The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism(Guettier JM, Kam A, Alexander HR, Skarulis MC, et al.)・2009)NIHで1996~2008年に手術で確認されたインスリノーマ45例を対象としたASVSの検証で、上腸間膜動脈・近位脾動脈・中脾動脈・胃十二指腸動脈・固有肝動脈へ順に10%グルコン酸カルシウムをカルシウムとして0.0125 mmol/kg(肥満例は0.005 mmol/kgへ減量)で選択的に注入し、右肝静脈・左肝静脈から投与前・20・40・60秒後に採血してインスリンを測定するプロトコルであること、いずれかの時点で投与前の2倍以上へインスリンが上昇した場合を陽性とする判定基準であること、45例中38例(84%)が正しい膵区域に局在し偽陰性5例(11%)・偽陽性2例(4%)であったこと、同じ集団で超音波14%・CT32%・MRI25%の正診率よりASVSが優れていたこと、経口血糖降下薬の隠れた乱用例で複数動脈が陽性となりびまん性β細胞刺激を示唆した症例があったこと、合併症は1例の推定腫瘍梗塞以外に低血糖・高カルシウム血症・アレルギー・出血・血栓・腎障害等は認めなかったことを確認した閲覧 2026-08-04
  2. 2.Essentials of Insulinoma Localization with Selective Arterial Calcium Stimulation and Hepatic Venous Sampling(Journal of Clinical Medicine(Zhao K, Patel N, Kulkarni K, Gross JS, Taslakian B)・2020)典型的な血管解剖では遠位脾動脈・近位脾動脈・固有肝動脈・胃十二指腸動脈・上腸間膜動脈の順に選択的注入すること、10%グルコン酸カルシウム(940 mg/10 mL)を希釈し1 mg/kg(カルシウムとして0.025 mEq/kg)を5 mLアリコートでボーラス投与すること、右内頸静脈から肝静脈にカテーテルを留置し投与前・30・60・90・120・180秒後に採血すること、投与前値から2倍を超える上昇を陽性とする判定基準であること、局在の正診率は報告により67~100%と幅があり多くの報告が90%以上としていること、非侵襲的画像で病変が同定できない場合・多発病変が疑われる場合・局在した病変への機能的裏付けが必要な場合に適応となり非侵襲的画像で自信を持って同定できれば施行不要であること、造影剤約100 mL・被曝線量150~250 mGyを要すること、副肝動脈への置換や上腸間膜動脈由来の背側膵動脈・腹腔動脈狭窄などの解剖学的破格が偽陽性・偽陰性の原因になること、脾静脈からの門脈大循環短絡などの静脈灌流異常では肝静脈以外からの採血が必要になり得ること、この検査は限局性インスリノーマとびまん性の内因性高インスリン血症を鑑別できるがMEN1などの多発性インスリノーマとびまん性分泌を確実に区別できるとは限らないこと、技術的難易度は中等度でマイクロカテーテル手技・血管解剖・手技に精通したインターベンショナルラジオロジストを要すること、文献上の報告は無いものの検査中に低血糖を来す理論的リスクがあり血糖モニタリングとブドウ糖の準備が推奨されることを確認した閲覧 2026-08-04
  3. 3.ENETS Consensus Guidelines Update for the Management of Patients with Functional Pancreatic Neuroendocrine Tumors and Non-Functional Pancreatic Neuroendocrine Tumors(Neuroendocrinology(Falconi M, Eriksson B, Kaltsas G, et al.)・2016)選択的動脈内カルシウム注入と肝静脈インスリン勾配測定(IACIG)は他の画像検査が陰性の患者で考慮すべき高感度な機能的局在法とされ90~100%の症例で陽性になること、MEN1に伴う多発性膵病変で機能性腫瘍を非機能性病変と鑑別する際にも有用で外科切除前に考慮すべきとされていることを確認した閲覧 2026-08-04