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Disease Atlas · 肝胆膵 · 症候群

非インスリノーマ膵性低血糖症候群

Noninsulinoma pancreatogenous hypoglycemia syndrome

別名
NIPHS成人膵島細胞症nesidioblastosis
臓器系
肝胆膵内分泌・代謝
科目
Internal Medicine
トピック
内科学 L-25:低血糖内科学 E-07:神経内分泌腫瘍
上位概念
低血糖(非糖尿病性)
鑑別疾患
インスリン自己免疫症候群カルチノイド症候群・神経内分泌腫瘍(ゾリンジャー・エリソン症候群、インスリノーマを含む)ダンピング症候群
治療薬
アカルボースジアゾキシドオクトレオチド
症状
めまい発汗
検査値
インスリンCペプチドプロインスリンスルホニル尿素薬・グリニド薬スクリーニング選択的動脈内カルシウム刺激試験
画像所見
超音波内視鏡ソマトスタチン受容体イメージング

🧠 全体像:NIPHS()は「性の低血糖はあるのに、(腫瘍)が無い」という一点で成立する病態である。鑑別の軸はただ一つ、がを主体とするのに対し、NIPHSは食後(反応性)低血糖が主体であること。病理はびまん性の・過形成()で、/には写らない。局在診断は画像ではなく(SACST)という機能的検査に頼る。

定義

NIPHSは、インスリン分泌が病的に高まり低血糖を来しているにもかかわらず、画像検査でも術中所見でも(限局性の腫瘍)が同定されない病態を指す。1999年にMayo Clinicから成人5例のシリーズとして初めて記載された。全例が食後4時間以内のと陰性という共通の臨床像を示し、腹部超音波・・はいずれも陰性であったが、は全例で陽性であった。切除された膵には無く、とを認め、Kir6.2・SUR1遺伝子にも明確な病因変異は同定されなかった1。

臨床像と生化学的診断基準

時には、自律神経症状(発汗・・振戦)と(めまい・・など)を伴う。診断はWhippleの三徴(症状の出現、その時点での低値、糖投与による症状消失)を確認することから始まり、に採取した検体でを生化学的に証明する。

Endocrine Societyのガイドラインは、低血糖時(55 mg/dL未満)に次の項目をすべて満たす場合をと判定するとしている2。

項目 判定基準
55 mg/dL未満
インスリン 3 μU/mL以上
Cペプチド 0.6 ng/mL以上
5.0 pmol/L以上
2.7 mmol/L以下
グルカゴン負荷後の 25 mg/dL以上

NIPHSでは、この生化学的基準を満たすが空腹時ではなく食後に再現される点が診断の起点になる(次節)。

病理:膵島細胞症

NIPHSの病理学的本体は、限局した腫瘍ではなくびまん性の・過形成である。この所見は「」と呼ばれ、膵内に散在性・びまん性に分布するため、・・・のいずれにも腫瘤として描出されない。この「画像に写らない」という一点が、後述する局在診断の方法を規定する。

インスリノーマとの鑑別:食後か空腹時か

⭐ NIPHSとの鑑別の中心は、低血糖の起こる時間帯である。

項目 NIPHS
低血糖の主体 食後(反応性)低血糖
病理 限局性の内分泌腫瘍 びまん性の・過形成()
多くは腫瘤として描出される 描出されない
局在診断の主体 画像検査+・触診 ()
治療の基本 摘出() →薬物療法→の
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuroglycopenic symptoms'>神経糖欠乏症状</span>を伴う低血糖エピソード"] --> B["Whippleの三徴を確認<br>(症状・低血糖・糖投与での改善)"]
    B --> C["監視下<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fasting test'>絶食試験</span>(最大72時間)"]
    C --> D{"空腹時に低血糖と<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='endogenous hyperinsulinemia'>内因性高インスリン血症</span>を来すか"}
    D -->|"はい(空腹時が主体)"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='insulinoma'>インスリノーマ</span>を疑う"]
    D -->|"いいえ(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fasting test'>絶食試験</span>は陰性)"| F["食後の低血糖再現を確認"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mixed meal tolerance test'>混合食負荷</span>試験などで<br>食後の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endogenous hyperinsulinemia'>内因性高インスリン血症</span>を確認"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='computed tomography'>CT</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>/EUSで限局性腫瘍を検索"]
    H --> I{"腫瘍が同定できるか"}
    I -->|"できる"| E
    I -->|"できない"| J["NIPHS(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nesidioblastosis'>膵島細胞症</span>)を疑う"]
    J --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='selective arterial calcium stimulation test'>選択的動脈内カルシウム刺激試験</span>で<br>局在パターン(限局性かびまん性か)を評価"]

低血糖のに進む前に、・スクリーニングで外因性の使用を除外しておく。

ダンピング症候群・胃バイパス術後低血糖との役割分担

⚠️ NIPHSは、後低血糖と病理組織像が重なる。 いずれも膵で・・を含むの像を示し、いずれも食後1〜4時間のとして現れる点で共通する3。両者を分けるのは主に文脈であり、Roux-en-Y胃バイパスなど胃のを欠く例をNIPHS、手術後に発症した例を後低血糖と呼び分けるのが実務上の整理である。

のも食後1〜3時間のを来すため、症状だけでは3者を区別できない。ただし機序は異なる。

NIPHS 後低血糖
不要 Roux-en-Y胃バイパスなどの既往 胃切除・胃バイパスなどの既往
中心病理 びまん性・過形成() びまん性・過形成() 特定の膵病理はなく、急速な糖吸収に対するインスリンの過剰反応
低血糖の性質 食後の 食後の の高血糖に対する反応性の相対的
治療の到達点 難治例で 難治例で 外科的の有効性は不確実で保存的治療が推奨される

胃切除・胃バイパスの既往と、での評価がまず鑑別の入り口になる(詳細はを参照)。既往が無く、陰性・食後のが確認された非手術例をNIPHSとして扱う。

局在診断:選択的動脈内カルシウム刺激試験(SACST)

NIPHSは//EUSに腫瘤として写らないため、局在診断は画像ではなく機能的検査であるに頼る。膵を灌流する各動脈へカルシウムを選択的に注入しでインスリン濃度を測定する検査で、1つの動脈領域のみが陽性なら()、複数の動脈領域が陽性ならびまん性のβ細胞病変(NIPHS)を示唆する所見として解釈する。他の画像検査で局在が得られない症例で考慮すべき高感度な検査とされる4。

治療

NIPHSの治療は、侵襲度の低いものから段階的に進める。

  1. :頻回少量の食事、の制限、・タンパク質を増やすなど、急激なとそれに続くを避ける食事指導を土台とする。
  2. 薬物療法:で不十分な場合、糖の吸収を遅らせる、あるいはβ細胞からのを抑えるを追加する。周術期や難治例にはなどのも用いられる3。
  3. :・薬物療法に反応しない難治例が対象となる。SACSTで得られた局在パターン(限局性かびまん性か)が切除範囲を左右し、を受けた例では長期の症状消失が報告されている1。

まとめ

  • NIPHSは、性低血糖があるのにが無い病態で、病理はびまん性の・過形成()である。
  • のに対し、NIPHSは食後(反応性)低血糖が主体であるという時間帯の違いが鑑別の中心になる。
  • 後低血糖と病理組織像が重なり、とも症状が似るため、の有無と機序で役割分担して整理する。
  • 画像検査に腫瘤として写らないため、局在診断はという機能的検査に頼る。
  • 治療は→・(難治例には)→という段階的アプローチで進める。

出典

  1. 1.Noninsulinoma pancreatogenous hypoglycemia: a novel syndrome of hyperinsulinemic hypoglycemia in adults independent of mutations in Kir6.2 and SUR1 genes(Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism(Service FJ, Natt N, Thompson GB, Grant CS, van Heerden JA, Andrews JC, Lorenz E, Terzic A, Lloyd RV)・1999)食後4時間以内の神経糖欠乏症状かつ72時間絶食試験が陰性という共通像を示す成人5例を報告し、画像検査(腹部超音波・CT・腹腔動脈造影)はいずれも陰性だが選択的動脈内カルシウム刺激試験は全例で陽性であったこと、切除膵にインスリノーマは認めずβ細胞肥大と膵島細胞症を認めたこと、Kir6.2・SUR1遺伝子に明確な病因変異を認めなかったこと、部分膵切除を受けた4例は最長3年症状再発なく経過したことから、びまん性β細胞機能亢進による新しい食後低血糖症候群であると結論したことを確認した閲覧 2026-08-19
  2. 2.Evaluation and Management of Adult Hypoglycemic Disorders: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline(Endocrine Society / The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism・2009)Whipple三徴(症状、低い血漿グルコース、補正後の症状消失)の定義、非糖尿病患者の低血糖精査で発作時に採取すべき検体(血漿グルコース・インスリン・Cペプチド・プロインスリン・βヒドロキシ酪酸・経口血糖降下薬スクリーニング)、内因性高インスリン血症と判定する生化学的基準(血漿グルコース55 mg/dL未満、インスリン3 μU/mL以上、Cペプチド0.6 ng/mL以上、プロインスリン5.0 pmol/L以上、βヒドロキシ酪酸2.7 mmol/L以下、グルカゴン投与後30分の血糖上昇25 mg/dL以上)を確認した閲覧 2026-08-20
  3. 3.Recognition and management of hyperinsulinemic hypoglycemia after bariatric surgery(Obesity Research & Clinical Practice(Malik S, Mitchell JE, Steffen K, Engel S, Wiisanen R, Garcia L, Malik SA)・2015)胃バイパス術後高インスリン血症性低血糖はNIPHSと病理組織像(β細胞肥大・膵島過形成・膵島細胞異形成を含む膵島細胞症)を共有すること、いずれも食後1〜4時間の食後性低血糖として現れ空腹時低血糖が主体のインスリノーマとは対照的であること、治療は食事療法を土台にアカルボース・ジアゾキシド・オクトレオチドなどの薬物療法を追加し難治例に部分膵切除を行う段階的アプローチであることを確認した閲覧 2026-08-19
  4. 4.ENETS Consensus Guidelines Update for the Management of Patients with Functional Pancreatic Neuroendocrine Tumors and Non-Functional Pancreatic Neuroendocrine Tumors(Neuroendocrinology(Falconi M, Eriksson B, Kaltsas G, et al.)・2016)選択的動脈内カルシウム刺激試験(IACIG)は他の画像検査が陰性の内因性高インスリン血症患者で考慮すべき高感度な機能的局在法であり、限局性のインスリノーマとびまん性のβ細胞病変を鑑別する目的でも有用とされていることを確認した閲覧 2026-08-19