解剖学

解剖学 · 3.3

腹部:腹膜

Abdomen — Peritoneum

応用トピック
救急の腹部画像診断腹膜炎の診断と治療腹部外科における腹腔鏡手術の役割鈍的腹部外傷の観察・診断・治療

🧠 腹膜は「腹腔を裏打ちする一枚の漿膜」で、臓器がどこまで包まれるかで腹膜内・後腹膜が決まる、と読む。 が腹壁を、が臓器を覆い、その間のが。臓器を吊る膜(間膜・網)と、包まれ方を整理する。

腹膜の基本

腹膜は腹腔・を裏打ちする漿膜で、とが連続する。

腹膜 覆う対象 感覚支配
腹壁内面 (部位が明確な鋭い痛み)
臓器表面 自律神経(鈍く局在不明な痛み)

💡 痛みの性質が壁側と臓側で違う。 虫垂炎の初期は由来で臍周囲の漠然とした痛み、進行してに及ぶと限局した鋭い痛みに変わる。この「痛みの移動」は腹膜の神経支配で説明できる。

腹膜内器官と後腹膜器官

臓器が腹膜にどこまで包まれるかで分類する。

分類 特徴 代表臓器
間膜で吊られ可動性がある 胃、空腸・回腸、、S状結腸、脾、肝、卵巣
発生時から後腹膜 腎、副腎、尿管、大動脈、下大静脈
発生の途中で後腹膜に固定 十二指腸(大部分)、上行・、膵(尾部以外)

⭐ SAD PUCKER(後腹膜臓器の語呂)。 Suprarenal(副腎)、Aorta/IVC、十二指腸(2–4部)、膵臓(尾部除く)、Ureters、Colon(上行・下行)、Kidneys、Esophagus(下部)、Rectum。手術・画像で臓器の可動性を予測できる。

間膜・網・靭帯

腹膜が二重に折り重なって臓器を吊り、血管・神経・リンパの通路になる構造を整理する。

構造 内容・意義
腸間膜 空腸・回腸を後腹壁に吊る。上腸間膜動静脈を含む
を吊る
S状結腸を吊る
肝と胃・十二指腸の間。にを含む
胃から垂れ下がる「腹部の警察官」

💡 は「腹部の警察官」。 脂肪に富むは可動性が高く、炎症巣(虫垂炎など)を包み込んで感染の限局に働く。には門脈・・のが走る。

大網嚢と網嚢孔

は、大部分を占めると、胃の後方に隠れた小嚢(lesser sac = , omental bursa)に分けられる。両者は(omental/epiploic foramen = Winslow孔)で交通する。

空間 位置
の主部
胃・の後方
と小嚢の交通口

の境界は臨床的に重要である。

境界 構成
前 ()
後 下大静脈
上 肝
下 十二指腸上部

⚠️ Pringle法は前縁を圧迫する。 肝出血制御で()を指で挟む手技。に指を入れてを圧迫する。前縁に・門脈・が走るためこれで出血を抑えられる。

腹膜の陥凹・襞

腹膜が作る陥凹やには、液が溜まりやすい・内ヘルニアが生じうる部位がある。

  • : 仰臥位でを探す代表的な。ただしFASTでは、早期のが肝下縁・上部右でより高感度に検出されることがある。1
  • /(Douglas窩): 骨盤内の最下部(立位)。
  • : 上行・の外側。液の移動路。

⭐ Morison窩はFASTでを探す代表部位。 FASTでは・脾腎窩・骨盤を系統的に観察する。仰臥位早期のはMorison窩だけに限られず、肝下縁から上部右も重要である。立位・座位ではDouglas窩など骨盤の依存部に液が溜まりやすい。2

まとめ

  • 腹膜は壁側(・鋭い痛み)と臓側(自律神経・鈍い痛み)からなる。
  • 臓器は(可動)と後腹膜器官(固定)に分かれる(SAD PUCKER)。
  • 間膜・網が臓器を吊り、血管・神経の通路になる。は感染を限局する。
  • はとに分かれ、で交通する。
  • 前縁のはPringle法で圧迫できる。
  • Morison窩・肝下縁周囲(仰臥位)とDouglas窩(立位)はを探す重要部位。

出典

  1. 1.Caudal Edge of the Liver in the Right Upper Quadrant (RUQ) View Is the Most Sensitive Area for Free Fluid on the FAST Exam(Western Journal of Emergency Medicine・2017)FAST陽性例では右上腹部のうち肝下縁・上部右傍結腸溝が自由液検出に最も高感度だった閲覧 2026-08-24
  2. 2.Current Role of Emergency US in Patients with Major Trauma(Radiographics・2008)FASTで評価する代表的な自由液貯留部位には肝腎陥凹・脾腎窩・Douglas窩がある閲覧 2026-08-24