生化学

生化学 · 5/10

血漿中トリグリセリドとコレステロールの測定

Determination of triglycerides and cholesterol in blood plasma — P I

前提:正常
コレステロールの代謝;血中コレステロール輸送動脈硬化におけるコレステロール恒常性の危険因子

🧠 は「で最終的にH₂O₂を作り、で発色させる」という共通パターンで読む。 コレステロール測定はエステラーゼ→オキシダーゼ→の3段階酵素反応、トリグリセリド測定はリパーゼ→→グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ→の4段階酵素反応。コレステロールは古典的には分離後、現在は直接ホモジニアス法でも測定される。コレステロールは多くの場合、この3項目から計算で求める。

血漿脂質とリポタンパクの基礎

は約500–600 mg/100 mLで、と強く結合している。リポタンパクは電気泳動でのにより、α()・プレβ()・β()リポタンパクと、原点にとどまるに分類される。

  • :①コレステロール(総量の約70%はで)、②(TAG)、③リン脂質。
  • リポタンパクの構造:(TAG・)を、との層が包む。
  • リポタンパクの2大機能:①脂質の、②へのの調節。

💡 体内コレステロールは合成との両方に由来する。 両者の比率は食事やで変動し、一定の「半分ずつ」ではない。一部は胆汁中に排泄され、胆汁酸への変換が脂質の・消化を助ける。によるコレステロールの組織への輸送は、とに重要な役割を果たす。

脂質と動脈硬化の臨床的背景

コレステロール測定の原理

をで加水分解し、をコレステロールオキシダーゼで酸化、生じたH₂O₂を共役反応(Trinder反応)で発色させる。エステラーゼを最初に置くことで、と遊離型を合わせたが測れる。

flowchart TD
  CE["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cholesteryl ester'>コレステロールエステル</span>"] -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cholesterol esterase'>コレステロールエステラーゼ</span><br>H₂O"| CH["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='free cholesterol'>遊離コレステロール</span>"]
  CE -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cholesterol esterase'>コレステロールエステラーゼ</span><br>H₂O"| FA["脂肪酸"]
  CH -->|"コレステロールオキシダーゼ<br>O₂"| CHON["コレスト-4-エン-3-オン"]
  CH -->|"コレステロールオキシダーゼ<br>O₂"| H2O2["H₂O₂"]
  H2O2 -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peroxidase'>ペルオキシダーゼ</span><br>2 H₂O₂ に対して<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phenol'>フェノール</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='4-aminoantipyrine'>4-アミノアンチピリン</span>各1分子<br>4 H₂O を放出"| QI["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='quinone'>キノン</span>イミン(赤色色素)"]
  QI -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spectrophotometer'>分光光度計</span>(505 nm付近)"| ABS["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='absorbance'>吸光度</span> ∝ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='total cholesterol'>総コレステロール</span>濃度"]
試薬 内容
試薬1 50 mmol/L PIPES緩衝液(pH 6.9)+24 mmol/L
試薬2 250 U/L、コレステロールオキシダーゼ250 U/L、1000 U/L、0.5 mmol/L、NaCl 2.5 mmol/L

HDLコレステロールの分別測定

・画分は、Ca²⁺/Mg²⁺/Mn²⁺イオン+()の存在下で選択的にする。後、(画分のみ残る)に対して同じでコレステロール濃度を測定すれば-コレステロールが求まる。

これは教育実習で用いられる古典的なである。臨床検査室では分離操作を省く直接ホモジニアス法も広く用いられるが、異常リポタンパク組成などで方法依存の誤差が生じうる1。

トリグリセリド測定の原理

トリグリセリドをで加水分解し、遊離したグリセロールを・グリセロール-3-リン酸オキシダーゼで酸化してH₂O₂を生成、同様に発色で定量する。

flowchart TD
  TG["トリグリセリド"] -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lipoprotein lipase (LPL)'>リポタンパクリパーゼ</span><br>3 H₂O"| GLY["グリセロール"]
  TG -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lipoprotein lipase (LPL)'>リポタンパクリパーゼ</span><br>3 H₂O"| FA["脂肪酸 ×3"]
  GLY -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glycerol kinase'>グリセロールキナーゼ</span><br>ATP → ADP、Mg²⁺"| G3P["グリセロール-3-リン酸"]
  G3P -->|"グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ<br>O₂"| DHAP["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dihydroxyacetone phosphate'>ジヒドロキシアセトンリン酸</span>"]
  G3P -->|"グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ<br>O₂"| H2O2["H₂O₂"]
  H2O2 -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peroxidase'>ペルオキシダーゼ</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='4-aminoantipyrine'>4-アミノアンチピリン</span>・ESPAS"| DYE["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='quinone'>キノン</span>系の赤色色素"]
  DYE -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spectrophotometer'>分光光度計</span>"| ABS["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='absorbance'>吸光度</span> ∝ トリグリセリド濃度"]

💡 両アッセイとも「は同じ」。 コレステロール・トリグリセリドいずれの測定も、最終的にH₂O₂を発生させ、共役反応で発色させる点は共通。特異性は上流の酵素(エステラーゼ/リパーゼ、オキシダーゼの種類)が担う。

⚠️ トリグリセリド法はグリセロールを測っている。 検体にもともと遊離グリセロールが多いと(脳浮腫治療に使うグリセロール製剤の中など)、その分もトリグリセリドとして読まれて高く出る。気になる場合はリパーゼを除いた試薬で遊離グリセロールだけを測って差し引く。

実習の測定対象とLDLコレステロールの計算

正常患者・脂質異常患者の血漿について、・-コレステロール・トリグリセリドを測定する。この3項目から-コレステロールを推定するのがである。

単位
mg/dL = − − TG/5
mmol/L = − − TG/2.2
  • 💡 TG/5 は コレステロールの推定値。 空腹時の血漿TGの大部分はにあり、ではTGとコレステロールの質量比がおよそ5:1なので、TG/5で中のコレステロールを近似する。からと-Cを引いた残りをとみなす。
  • ⚠️ トリグリセリドが400 mg/dL(4.5 mmol/L)以上では使わず、は直接測定する2。この域ではやが混じり、「のTG/コレステロール比がおよそ5」という前提が崩れるためである。はに空腹時検体に用いられてきたが、TG 400 mg/dL未満なら非空腹時でも直接測定値と近い値になる2。
  • TGが高めでが低い域では過小評価に傾く。 超法を基準にした約505万人の解析では、ガイドライン区分への正しい分類率はMartin/Hopkins式89.6%、83.2%で、で 70 mg/dL未満かつTG 150〜399 mg/dLの患者のほぼ半数が、Martin/Hopkins式では正しく70 mg/dL超に分類された3。の境界近くでは、どの式で出した値かを確かめる。
  • を直接測らずにすむ指標として、( − )も用いられる。

検査報告で「異常」として印を付ける値

欧州動脈硬化学会と欧州臨床化学・検査医学のが示す、検査室が報告書で異常として印を付ける値2。やそのものではなく、「望ましい濃度」から外れたことを知らせる目安である(日本のは・を参照)。

項目 異常として印を付ける値
トリグリセリド(非空腹時) 175 mg/dL(2 mmol/L)以上
トリグリセリド(空腹時) 150 mg/dL(1.7 mmol/L)以上
190 mg/dL(5 mmol/L)以上
115 mg/dL(3 mmol/L)以上
150 mg/dL(3.9 mmol/L)以上
40 mg/dL(1 mmol/L)以下
危険な値(別途紹介) 疑う病態
トリグリセリド 880 mg/dL(10 mmol/L)超 のリスク
500 mg/dL(13 mmol/L)超 の
190 mg/dL(5 mmol/L)超 の

まとめ

  • 血漿脂質はコレステロール・TAG・リン脂質からなり、リポタンパク(///)として輸送される。
  • apoB含有リポタンパクへのは動脈硬化・心筋梗塞の主要な危険因子である。
  • コレステロール測定はエステラーゼ→オキシダーゼ→の3段階(505 nm付近で発色)。
  • トリグリセリド測定はリパーゼ→→グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ→の4段階で、遊離グリセロールも測り込む。
  • -コレステロールは古典的には/を除去したで測定し、臨床検査では直接ホモジニアス法も用いられる。
  • は(TC − − TG/5)で推定するが、TG 400 mg/dL以上では使えず、TG高値・低域では過小評価に傾く。

出典

  1. 1.Evolution of methods for measurement of HDL-cholesterol: from ultracentrifugation to homogeneous assays(Clinical Chemistry・2001)HDLコレステロール測定法の沈殿法から直接ホモジニアス法への発展と、各方法の分析上の特徴閲覧 2026-08-20
  2. 2.Fasting is not routinely required for determination of a lipid profile: clinical and laboratory implications including flagging at desirable concentration cut-points—a joint consensus statement from the European Atherosclerosis Society and European Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine(European Atherosclerosis Society / European Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine(Eur Heart J)・2016)Consensus の全文抜粋と抄録で確認した。総コレステロール・HDL-C・トリグリセリドは直接測定し、LDL-Cはトリグリセリド4.5 mmol/L(400 mg/dL)未満ならFriedewald式(mmol/L単位ではTG/2.2、mg/dL単位ではTG/5)で計算でき、それ以上では直接測定すること、Friedewald式は伝統的に空腹時検体に用いられてきたが400 mg/dL未満では空腹時・非空腹時とも直接測定値と近いこと。非空腹時検体で異常として印を付ける値はトリグリセリド2 mmol/L(175 mg/dL)以上・総コレステロール5 mmol/L(190 mg/dL)以上・LDL-C 3 mmol/L(115 mg/dL)以上・non-HDL-C 3.9 mmol/L(150 mg/dL)以上・HDL-C 1 mmol/L(40 mg/dL)以下、空腹時検体ではトリグリセリド1.7 mmol/L(150 mg/dL)以上であること。トリグリセリド10 mmol/L(880 mg/dL)超は膵炎リスク、LDL-C 13 mmol/L(500 mg/dL)超はホモ接合体、5 mmol/L(190 mg/dL)超はヘテロ接合体の家族性高コレステロール血症を疑って別途紹介すべき値であること閲覧 2026-09-27
  3. 3.Accuracy of 23 Equations for Estimating LDL Cholesterol in a Clinical Laboratory Database of 5,051,467 Patients(Global Heart・2023)Friedewald式を含むLDLコレステロール推算式の精度と、高トリグリセリド・低LDL域での限界。Consensus の抄録で、超遠心法を基準とした5,051,467例の解析でガイドライン区分への正しい分類率がMartin/Hopkins式89.6%・Friedewald式83.2%であり、Friedewald式でLDL-C 70 mg/dL未満かつトリグリセリド150〜399 mg/dLの患者のほぼ半数がMartin/Hopkins式で正しく70 mg/dL超へ再分類されたことを確認した閲覧 2026-09-27