病理学

病理学 · A/10

可逆的細胞傷害と変性(可逆的障害)

Reversible cell injury, types of degeneration and its organ manifestation

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Mechanism / 機序High-yield / ポイント

🧠 全体像:可逆的傷害と不可逆的傷害を分けるのは「どれだけ傷んだか」ではなく「膜とミトコンドリアの機能が戻るかどうか」という一点——Ca²⁺流入が起こった瞬間が「」であり、しかもこのは目に見える形態変化(壊死の徴候)より先に成立している、という時間差が試験でよく問われる。

可逆的細胞傷害

  • 早期の軽い傷害では、刺激が除かれれば機能的・形態的変化は元に戻る。まだ膜傷害も核の溶解も起きていない。
  • 傷害が持続・重症化すると → 「」 → 不可逆的傷害へ。
  • のマーカー:
    1. 膜機能・膜のの喪失
    2. Ca²⁺流入 → の活性化1
    3. 不可逆的な
  • 順序:可逆的(細胞腫大)→ 徴候のない不可逆的傷害 → 徴候のある不可逆的傷害(は目に見える徴候に先行する)。
flowchart TD
    A["軽度・早期の傷害"] --> B["ATP低下→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ion pump'>イオンポンプ</span>機能不全<br>Na+/H2O流入→細胞腫大(可逆的)"]
    B --> C["刺激が除去される"]
    C --> D["形態・機能とも正常に復帰"]
    B --> E["傷害が持続・重症化"]
    E --> F["「<span class='jp-term jp-term-diagram' title='point of no return'>復帰不能点</span>」<br>膜機能の喪失+Ca2+流入→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autolysin'>自己融解酵素</span>活性化"]
    F --> G["徴候のない不可逆的傷害"]
    G --> H["徴候のある不可逆的傷害(壊死)"]

変性の種類

細胞腫大・水腫性(空胞)変性

  • ATP低下 → の機能不全 → Na⁺/H₂Oの流入 → 腫大。さらに進むと細胞内Ca²⁺から細胞死へ至る2。臓器は蒼白で重くなる。
  • 細胞質の = 小胞体(ER)がちぎれた断片。傷害の最も早期の所見。
  • ⭐ 「」「」という呼び方は古語ではなく、2011年の実験病理学の論文でもこの連続した変化(膜機能障害→Na⁺・水の流入→腫大→→壊死)を指す用語として使われている3。

脂肪変性(脂肪化)

  • 脂肪代謝を担う細胞(肝細胞、心筋、腎)における異常なトリグリセリドの蓄積。
  • 形態:びまん性(毒性)と斑状()。が核を辺縁に押しやる。染色:Oil-red O、Sudan black。
  • 原因: アルコール(NAD低下 → の低下)、低酸素、タンパク質栄養不良(低下 → リポタンパク輸送の低下)、糖尿病・肥満(脂肪過剰)。

臓器別の例

肝脂肪変性(脂肪肝)

  • : 慢性摂取 → 脂肪・リポタンパク合成の低下。経過は 脂肪変性 → 肝炎 → 肝硬変。
  • NAFLD(): 2型糖尿病・肥満。インスリン抵抗性 → の障害、脂肪酸取り込み増加、低下。はだけの段階と、脂肪+炎症・を伴うNASH()の両方を含む総称である。
  • ⭐ 2023年の多学会Delphiコンセンサスで名称が変わった。 は心代謝リスク因子5つのうち1つ以上を要件とする()へ、NASHはMASHへ改称され、概念は脂肪性肝疾患となった。の要件を満たしつつ中等量以上飲酒する例はMetALDという新区分に置かれる4。旧称も教科書・試験でまだ使われるので対応を覚えておく(詳細はA/11)。
  • 形態:腫大(4〜6kg)、軟らかく黄色い肝臓、緊張した被膜(可逆的)→ の線維化 → 肝硬変。

ニクズク肝

  • 右心不全 → → の肝細胞が+、の細胞は保たれる → 様のパターン。

心筋の脂肪変化

💡 ポイント: 細胞(水腫性)腫大は最も早期の可逆的変化。核を押しやる = 脂肪変性。Ca²⁺流入+膜・ミトコンドリアの機能不全が不可逆的な「」の指標。 = 右心不全によるうっ血。

まとめ

  • 可逆的傷害では膜傷害も核の溶解も起きておらず、刺激が除かれれば形態・機能とも元に戻る。
  • の指標は、膜機能・の喪失、Ca²⁺流入によるの活性化、不可逆的なの3つ。
  • 順序は可逆的(細胞腫大)→徴候のない不可逆的傷害→徴候のある不可逆的傷害で、は目に見える徴候より先に成立する。
  • 細胞(水腫性)腫大は最も早期の可逆的変化で、脂肪変性は核を辺縁に押しやるが特徴。
  • (右心不全によるうっ血)と()は臓器別の脂肪変化の代表例。
  • の分類名は2023年に/NASHから/MASHへ改められた。

出典

  1. 1.The role of calcium ions in toxic cell injury(Environmental Health Perspectives・1990)細胞外カルシウムイオンが傷害を受けた膜の透過性バリアを越え濃度勾配に沿って流入することが、それまで可逆的だった傷害を不可逆的な傷害へ転換させる一因であること、細胞内カルシウム恒常性の変化自体も膜傷害を引き起こす経路として提唱されていることを確認した。閲覧 2026-08-27
  2. 2.Cell biology of ischemia/reperfusion injury(International Review of Cell and Molecular Biology・2012)虚血が続くとATPと細胞内pHが低下してATPase依存性のイオン輸送機構が機能不全に陥り、細胞内・ミトコンドリア内のカルシウム過負荷、細胞腫大・破裂、壊死性・ネクロプトーシス性・アポトーシス性・オートファジー性の細胞死へ至ること、再灌流によって活性酸素種の急増と好中球浸潤が生じさらに傷害を悪化させることを確認した。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Gold nanoparticles induced cloudy swelling to hydropic degeneration, cytoplasmic hyaline vacuolation, polymorphism, binucleation, karyopyknosis, karyolysis, karyorrhexis and necrosis in the liver(Lipids in Health and Disease・2011)金ナノ粒子を投与したラット肝で、混濁腫脹(cloudy swelling)から水腫様変性(hydropic degeneration)、細胞質の空胞化、多形性、核濃縮・核崩壊・核融解、壊死へ至る一連の変化が観察されたこと、水腫様変性はイオン・水分の恒常性破綻による細胞内水分増加の結果であり膜機能障害によるNa⁺・水の大量流入を反映することを確認した。閲覧 2026-08-27
  4. 4.A multisociety Delphi consensus statement on new fatty liver disease nomenclature(Hepatology・2023)2023年の多学会Delphiコンセンサス(56か国236名)が、脂肪性肝疾患(steatotic liver disease)を各病因を包む上位概念とし、NAFLDをMASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)へ改称して心代謝リスク因子5つのうち1つ以上を診断要件とし、脂肪性肝炎(steatohepatitis)の概念は残してMASLDに脂肪性肝炎を伴うものをMASHとした(PMC全文で確認)。MASLDの条件を満たし週140〜350 g(女性)・週210〜420 g(男性)飲酒する例はMetALDという新区分に置いた閲覧 2026-09-23