生理学

生理学 · 8.7

脊髄の運動機能。脊髄反射。脊髄離断と脊髄ショック。

Motor functions of the spinal cord. Cord reflexes. Spinal cord transection and spinal shock.

応用トピック
脊髄損傷のリハビリテーション:神経学的後遺症・合併症とその管理上位・下位運動ニューロン障害の症候脊髄損傷の症候神経根症候群(頸腕痛・腰坐骨神経痛)筋緊張の調節と障害脊椎・脊髄損傷の診察と手術適応椎体骨折の固定と脊椎・脊髄損傷のリハビリテーション

🧠 は「受容器→→脊髄内中枢(±介在ニューロン、interneuron)→→」という単一の設計の変奏である。 シナプス数が1(、monosynaptic stretch reflex)→2(、disynaptic inverse stretch reflex)→多数(多、polysynaptic flexor withdrawal reflex)と増えるほど、反応は複雑・広範囲・遅くなる。後の回復順序(→→自律神経反射→支持反射→歩行様活動)も同じ「単純→複雑」の論理をなぞる。

運動単位と運動ニューロン

:1個の運動ニューロンとそれが支配する筋線維群。運動ニューロンは支配の精密さに応じて数本から数千本の筋線維を支配する——眼球運動は極めて精密な制御を要するため、の各運動ニューロンはわずか数本の筋線維しか支配しない。

:多数の運動ニューロンからなり、それぞれが筋の1を支配する。

運動ニューロン 支配対象
A =通常の骨格筋、を担う
Aγ運動ニューロン =。と並走する小さな線維で、精密な運動を要する筋に多い

骨格筋線維の3タイプ

タイプ 色 収縮速度 発生張力 代表例
I型(、slow-twitch) 赤(酸化能力、oxidative capacity高、ミトコンドリア、mitochondria活性↑) 最大収縮に≥1秒 低(約1g) 立位保持
— — — — — —
IIa型(速筋、fast-twitch) 赤 1秒以内に最大収縮 数分で緩徐に疲労 高(約10倍) ランニング
IIx型(旧称「IIb」、速筋) 白(、glycolytic、ミトコンドリア・、myoglobin↓) 非常に速い 非常に疲労しやすい 最大(約20倍) ジャンプ・

⚠️ ヒトに真の「IIb線維」は無い。 ATPase染色による古典的な分類では「IIb」と呼ばれてきたが、ヒト骨格筋でin situにより単独発現が確認されるはβ/slow・IIa・IIxの3種のみで、「IIb」と染色される線維の実体はIIx型の転写産物である。げっ歯類にある真のIIb型はヒトでは発現しない1。

筋紡錘

は求心性・遠心性の両方のに支配され、形状によって2種に分かれる。基本機能は、収縮や伸展後の筋線維長の変化をの刺激によって是正することである(神経支配の違いは感受性の調節のため)。

核の配置 中央領域に集中 —
感覚神経支配 (・速い)のみ (Ia)+二次終末(II線維・遅い)
支配 動的γ運動ニューロン(小さな「」) 静的γ運動ニューロン(広い表面積の「」)
  • :中心部に位置し筋線維長の変化速度を検出
  • II線維:筋線維の長さそのものを検出

介在ニューロン

介在ニューロンは運動ニューロンの30倍存在する。

種類 機能
Ia介在ニューロン 状況に応じてを抑制する
Renshaw細胞 の発火強度・頻度を調節する
Ib介在ニューロン 反射の介在ニューロン
興奮性介在ニューロン で使用される

脊髄反射

は受容器(体内外)・(感覚神経)・中枢(主に脊髄)・遠心性ニューロン()・(骨格筋線維)からなり、場合により介在ニューロン(前角、anterior horn)を含む。主要な3反射は・・である。

反射 受容器 刺激 中枢遅延 反射反応
筋の伸長 (0.5〜0.8 ms)2 同一筋の収縮
3 (GTO) GTOの伸長(筋の収縮) (1.1〜2.0 ms) の過分極
多(数百ms) (屈曲)

伸張反射

で、筋の伸展に始まり同じ筋の収縮で終わる。

flowchart TD
  A["筋が伸展される"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrafusal fiber'>錘内線維</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='afferent neuron'>求心性ニューロン</span>(Ia軸索)活性化"]
  B --> C["前角の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alpha motor neuron'>α運動ニューロン</span>とシナプス"]
  C --> D["伸展された筋(伸筋)の収縮"]
  B --> E["Ia<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inhibitory interneuron'>抑制性介在ニューロン</span>を介して<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antagonist muscle'>拮抗筋</span>(屈筋)を抑制"]

がこの反射の典型例であり、によりの収縮との弛緩が同時に起こる。

⚠️ 「」はであって全成分ではない。 ヒトの・H反射を対象にした学的研究では、の興奮性上昇の(時間・)がEPSPだけでは説明しにくく、少なくとも一部にオリゴ(介在ニューロンを1つ以上介する)の寄与があると報告されている(ヒトのデータ)2。試験で問われる「」は主要な伝達成分を指す簡略化であり、実際には純粋な単シナプス回路だけで完結しているわけではない。

ゴルジ腱反射(逆伸張反射)

1個のを含むで、筋の収縮に始まり筋の弛緩で終わる。GTOは筋腱に位置しと直交して配置され、腱が伸展(=筋の収縮)した際に主に活性化する。

flowchart TD
  A["筋の収縮→腱の伸展→GTO活性化"] --> B["Ib<span class='jp-term jp-term-diagram' title='afferent fiber'>求心性線維</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inhibitory interneuron'>抑制性介在ニューロン</span>(Ib)とシナプス"]
  B --> C["収縮していた筋の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alpha motor neuron'>α運動ニューロン</span>を抑制"]
  C --> D["その筋の弛緩"]
  A --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antagonist muscle'>拮抗筋</span>の収縮"]

💡 この反射は歩行時などに筋のを適切な範囲に維持する役割を持つと考えられる。

⚠️ GTOは「からの保護装置」だけではない。 かつては筋の過緊張・を防ぐ安全装置として説明されたが、正常な収縮強度の範囲でも力の変化に応じて発火し続ける、筋張力の連続的なモニターとしての側面が近年重視されている。ヒトを対象とした総説でも、正常な四肢でGTO(および場合により)が力・重さの感覚に寄与すると述べられている3。「過緊張時だけ働く保護反射」という理解に留めない。

屈曲逃避反射(外受容反射)

で、痛覚・温度覚(、nociception)刺激により誘発され、同側の屈曲と対側の伸展を引き起こし刺激から「跳びのく」動作を生む。

⚠️ 「」という呼び名ほどは特異的ではない。 ヒトの下肢を精査した研究では、反射の惹起にはの(遅い主要成分)だけでなく、非の大径()も関与しており、全体は「(FRA)」という複合的な括りで捉えられている4。「だけが引き金になる」という理解は単純化しすぎである。

  • 疼痛刺激によりAδ・のが活性化し、数百個の介在ニューロンとシナプスする
  • 介在ニューロンは疼痛源に近い同側の屈筋と対側の伸筋(体の安定化)を興奮させる
  • 同時に同側の伸筋と対側の屈筋を抑制する
  • 持続的な神経により、反射発動後もしばらく屈曲位が維持される

脊髄離断と脊髄ショック

脊髄ショック

後に生じる筋緊張との消失。

  • 運動ニューロンが過分極する——例えばが消失するのは、運動ニューロンが過度に過分極しており紡錘からの興奮だけではAP発生に必要な脱分極に届かないため
  • の喪失→四肢の
  • 感覚の消失
  • 自律神経機能の低下→が93 mmHgから40 mmHgまで低下しうる

脊髄離断

脊髄の部分的または完全なにより、損傷部位以下のあらゆる神経活動が消失する。これは伝導路の途絶により運動ニューロンの脱分極が起こせなくなるためである。

  • ・心拍数・の低下→MAP低下
  • の障害
  • 排尿・排便反射の消失(関与する反射が機能しない)

⚠️ は数か月間持続しうる。とは決して回復しないが、一部の反射は回復する。

機能回復の順序

反射は以下の順序で回復する:

  1. :危険からの
  2. 自律神経反射(マス反射、mass reflex):損傷部位以下への刺激が屈筋群の痙攣を誘発しうる(例:の患者の脚を強く叩くと一部のが興奮し、排尿・排便などの自律神経反射が誘発される)
  3. 陽性・陰性支持反射:抗的な身体動作(起立)
  4. :麻痺した動物の腹根や末梢神経に記録される、歩行様のリズミックな活動——脊髄が歩行反射を発火させているが実際の歩行は生じない状態

その他の脊髄反射

反射 内容
(歩行) に類似し、の補助のもと脊髄内で協調される屈筋・伸筋の活性化(歩行・走行など)
陽性・陰性支持反射 (伸筋または屈筋)の活性化
数か月で消失する群。最重要なのはバビンスキー反射(足底反射、Babinski reflex)
掌に触れると指を握る
水中でうつ伏せにすると協調的な遊泳様運動を行う
大きな音で四肢を伸展させた後、体幹に引き寄せる
歩行・姿勢反射 姿勢反射(次項)と関連
脊髄立ち直り反射 中脳の運動協調(次項)と関連

足底反射(バビンスキー徴候、Babinski sign):乳児ではのため足底を鈍的にこするとのが生じる。成人では同じ刺激でが生じる——成人でが見られる場合はバビンスキー徴候と呼ばれ、CNS病変を示唆する。

まとめ

  • はA()とAγ運動ニューロン(=)に分かれ、筋線維はI・IIa・IIb型で収縮速度・・発生張力が異なる。
  • 3大(・・)はシナプス数が増えるほど反応が複雑化・遅延化・広範囲化するという共通則を持つ。
  • は運動ニューロンの過分極による・・自律神経機能低下(MAP低下)として現れ、数か月持続するが・は回復しない。
  • 後の反射回復は→→自律神経マス反射→支持反射→という一定の順序をたどる。
  • バビンスキー徴候(成人での)は乳児では正常だが、成人で出現した場合はCNS病変を示唆する重要なである。

出典

  1. 1.Type IIx myosin heavy chain transcripts are expressed in type IIb fibers of human skeletal muscle(American Journal of Physiology・1994)ヒト骨格筋でin situハイブリダイゼーションにより単独発現が確認されるミオシン重鎖はβ/slow・IIa・IIxの3種で、ATPase染色で「IIb線維」と判定されるヒト線維に多いのはIIx型ミオシン重鎖の転写産物であること、ヒトにげっ歯類型のIIb線維があるという記載は誤りであることを確認した閲覧 2026-08-26
  2. 2.Monosynaptic and oligosynaptic contributions to human ankle jerk and H-reflex(Journal of Neurophysiology・1984)健常なヒト被験者を対象とした電気生理学的研究で、ヒラメ筋の腱反射(アキレス腱反射)およびH反射における運動ニューロンプールの興奮性上昇の立ち上がり時間(腱叩打で平均10.8ms、電気刺激ではより短いが明確に単シナプス性EPSPより長い)を計測し、その時間経過から「これらの反射が純粋に単シナプス性であるとは考えにくい」と結論し、オリゴシナプス性(介在ニューロンを介する)経路の寄与を報告した閲覧 2026-08-26
  3. 3.The proprioceptive senses: their roles in signaling body shape, body position and movement, and muscle force(Physiological Reviews・2012)ヒトを対象とした総説で、正常な四肢ではゴルジ腱器官(および場合により筋紡錘)が力と重さの感覚(sense of force and heaviness)に寄与すると述べており、ゴルジ腱器官を単なる過負荷保護装置ではなく力の持続的モニターとして位置づける根拠となる閲覧 2026-08-26
  4. 4.The lower limb flexion reflex in humans(Progress in Neurobiology・2005)ヒトの下肢屈曲反射(LLFR)を対象にした総説で、安静時のLLFRは大径・低閾値の非侵害受容性Aβ線維が媒介する早期成分(RII反射)と、小径・高閾値の侵害受容性Aδ線維が媒介する遅い主要成分(RIII反射)の二相からなること、実際には侵害受容性・非侵害受容性を問わず皮膚・筋からの多様な求心性線維がLLFRの惹起に寄与すること、反射弓の求心性入力が「屈曲反射求心線維(flexion reflex afferents、FRA)」と総称される複合的な入力であることを確認した閲覧 2026-08-26