Pulmonology

Pulmonology · 17

酸素療法

Oxygen therapy

前提:正常
酸素・二酸化炭素運搬と低酸素症呼吸中枢の局在と神経性・化学性調節
症状
呼吸抑制
検査値
低酸素血症

🧠 全体像は低酸素血症を補正する治療であり、流量そのものではなくする。急性期はで評価し、慢性安静時低酸素血症ではを検討する。

ガス交換と評価

安静時のは約4 mL/min/kg(70 kgで約280 mL/min)であり、代謝に酸素(O₂)を使い、(CO₂)を排泄する。健常者のは通常95%以上、は概ね90〜100 mmHgだが、年齢や高度の影響を受ける。

検査 測るもの 限界・注意
の光吸収から機能的(SpO₂)を推定 非侵襲的、連続監視可能 PaCO₂・pH・・酸素含量は分からない。低灌流、体動、マニキュア、皮膚色素、機器差、異常ヘモグロビンで誤差
pH・ガス分圧の近似 疼痛が少ない PaO₂は動脈血より不正確。循環良好時に限る
PaO₂、PaCO₂、pH、HCO₃⁻ 呼吸不全と酸塩基を正確に評価 穿刺痛、出血・血腫。重症患者や高CO₂血症リスクで重要

SpO₂が正常でも、高CO₂血症・や貧血による酸素含量低下は除外できない。通常の2波長で誤認し得るため、疑う場合はーを用いる。酸素投与中や高CO₂血症リスク例では、見かけ上よいSpO₂だけでを省略しない。1

呼吸不全

主所見 典型的病態
I型/ PaO₂ <60 mmHg、PaCO₂は正常〜低値 肺炎、肺塞栓症、、ARDS、気胸など
II型/ PaO₂ <60 mmHgにPaCO₂ >45 mmHgを伴う COPD増悪、重症喘息の、神経筋疾患、薬物による呼吸抑制など

低酸素血症の原因として、肺疾患のほか、ショック・低血圧、心機能異常、・出血、敗血症、中毒・、意識障害、術後状態を考える。酸素投与と並行して原因治療を行う。

急性期の目標SpO₂

患者群 目標SpO₂ 実際の対応
多くの急性疾患で低酸素血症がある場合 94〜98% 必要最小限の酸素でし、安定後に減量
COPDなど高CO₂血症リスク 88〜92% 制御酸素で開始し、早期にABGを測定。酸素開始・濃度変更から30〜60分後に再検
心停止・重篤なショック 初期は高濃度酸素 循環再開・安定後は過剰酸素を避けて

高CO₂血症リスクはCOPDだけではなく、病的肥満、嚢胞性線維症、神経筋疾患、固定性を伴うなどでも考える。該当患者では血液ガスが判明するまでSpO₂ 88〜92%へし、酸素開始または濃度変更から30〜60分後にPaCO₂とpHを再検する。急速な悪化や意識障害ではこの時刻を待たず直ちに再評価する。1

患者安全:全員を95%以上にする運用は行わない。高CO₂血症リスク患者に無制限な高濃度酸素を与えず、ABGで換気と酸塩基を確認する。ただし重篤な低酸素血症の初期治療を血液ガス待ちで遅らせない。

酸素投与デバイス

鼻カニューレ

簡便で会話・食事が可能だが、吸気流量や、呼吸数、口呼吸でが変動する。一般的な概算は次のとおりだが、実際はSpO₂と必要時の血液ガスでする。

流量 概算FiO₂
1 L/min 0.24
2 L/min 0.28
3 L/min 0.32
4 L/min 0.36
5 L/min 0.40
6 L/min 0.44

概算法は FiO₂(%)≈ 20 + 4 × 流量 だが、あくまで近似である。では損傷・乾燥を起こしうる。

その他のデバイス

  • :中等度濃度。CO₂を避ける最低流量を確保する。
  • :既知のFiO₂を比較的正確に供給でき、高CO₂血症リスクに有用。
  • リザーバー付きマスク:で高濃度酸素を迅速に供給する。
  • したガスを供給し、一定FiO₂、、軽度陽圧効果を得る。

CO₂貯留が悪化する機序

酸素誘発性高CO₂血症を「低酸素ドライブの消失」だけで説明せず、複数機序で理解する。

flowchart TD
  A["高CO₂血症リスク患者へ過剰酸素"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary hypoxic vasoconstriction'>低酸素性肺血管収縮</span>が解除"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='V/Q mismatch'>換気血流比不均衡</span>が増悪"]
  A --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Haldane effect'>ハルデン効果</span>でHbからCO₂が遊離"]
  A --> E["一部で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='minute ventilation, V̇E'>分時換気量</span>が低下"]
  C --> F["PaCO₂上昇"]
  D --> F
  E --> F
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='respiratory acidosis'>呼吸性アシドーシス</span>・意識障害"]

したがって、酸素を急に中止するのではなくSpO₂ 88〜92%へ調整し、ABG再検と必要時のを行う。急な中止は低酸素血症を招き得る。

長期酸素療法

は、・覚醒時・安静・室内気で慢性がある患者に処方する。生存利益の根拠は主にCOPDで、は該当するCOPD患者に1日15時間以上を推奨し、にも重症安静時低酸素血症があればLTOTを推奨している。2

適応の目安

  • PaO₂ ≤55 mmHgまたはSpO₂ ≤88%
  • PaO₂ 56〜59 mmHgまたはSpO₂ =89%で、 ≥55%の、または心電図上のP pulmonaleのいずれかを伴う場合

これらは連続した「PaO₂ 55〜60 mmHg程度」の全例を意味しない。上記の合併所見がないCOPDの中等度安静時低酸素血症(SpO₂ 89〜93%)には、LTOTをに処方しない。2

SpO₂はスクリーニングと反復観察に便利だが、PaO₂との対応は酸塩基状態、末梢循環、皮膚色素、機器によってずれる。境界値、臨床像との不一致、高CO₂血症リスクでは、安定した室内気・安静条件のABGでPaO₂、PaCO₂、pHを確認して処方を決める。

目標は一般にPaO₂ ≥60 mmHgまたはSpO₂ 90%以上を保つ流量で、安静・睡眠・運動時を個別に評価する。安静時にはLTOT基準を満たさず、労作時に室内気SpO₂ ≤88%となるCOPD・では、症状・活動性の改善と機器負担をし、携帯酸素を検討する。これは生存利益を目的とするLTOTとは分けて考える。2

導入後の再評価

  • に開始した場合は60〜90日後に必要性と処方流量を再評価する。
  • 増悪時・退院時に開始した場合は、一時的低酸素血症が改善し得るため1〜4週後12〜16週後に再評価する。
  • 再評価では室内気と処方酸素下のSpO₂またはABGを安静時に確認し、必要に応じ労作時も測定する。不要になった酸素は漫然と継続せず、必要量が変われば処方と機器を更新する。2

在宅酸素源の比較

酸素源 原理・特徴 短所
酸素ボンベ 高圧ボンベ、減圧器、流量計、 静か、電源不要 重い、交換が必要。転倒・衝撃・高温を避け固定する
ゼオライトで空気中N₂を吸着し約90〜96% O₂を生成 の大量保管が不要、連続使用向き 電源・保守が必要、に限界、停電対策。リスクは残る
−183℃で液化し体積を縮小、親容器から携帯容器へ充填 携帯性、、静か 高価、損失、補充・保守が必要

20 L・200 barボンベの理論上のガス量は約4,000 Lであり、概算は1 L/minで約66時間、2 L/minで約33時間、3 L/minで約22時間、6 L/minで約11時間、10 L/minで約6時間となる。実使用では残圧と安全を見込み、供給業者の表示を優先する。

トラブル予防

  • 接続漏れ、流量計故障、必要時の加湿水の不足・汚染、屈曲を点検する。
  • 混乱患者による流量変更を防ぎ、処方流量と目標SpO₂を明記する。
  • 航空機内は低圧のため、飛行前評価を行い、必要流量を個別に決める。
  • 酸素は可燃物ではないがを強く促進する。患者・同居者は酸素使用中の喫煙・を行わず、裸火・ろうそく・ガス調理器・暖房器具から十分に離す。油脂類を機器へ付着させない。
  • ボンベは立て掛けず固定し、熱源や直射日光を避ける。による転倒を予防し、煙感知器・避難経路・停電時の代替供給を確認する。
  • 患者だけでなく家族・も、機器の操作・保守、処方流量、禁煙支援、・転倒予防、緊急連絡先について教育を受ける。2

まとめ

  • 酸素は「低酸素血症に対する薬」として、目標SpO₂を処方する。
  • 高CO₂血症リスクではSpO₂ 88〜92%を目標に、酸素変更30〜60分後のABGで換気とpHを追跡する。
  • LTOTはに適応を絞り、1日15時間以上使用して所定時期に必要性を再評価する。
  • デバイスの供給濃度、携帯性、電源、リスクを理解して安全に運用する。

出典

  1. 1.BTS guideline for oxygen use in adults in healthcare and emergency settings(British Thoracic Society・2017)急性期の目標SpO₂、高CO₂血症リスク例の制御酸素療法、血液ガス再検、パルスオキシメトリーの限界閲覧 2026-08-02
  2. 2.Home Oxygen Therapy for Adults with Chronic Lung Disease: An Official American Thoracic Society Clinical Practice Guideline(American Thoracic Society・2020)LTOTの適応閾値、使用時間、安定期・増悪後の再評価、携帯酸素、患者・介護者への機器・火災安全教育閲覧 2026-08-02