Physiology

Physiology · 3.3

酸素と二酸化炭素の運搬。ヘモグロビン。低酸素症の種類。

Oxygen and carbon dioxide transport. Hemoglobin. Types of hypoxia.

応用トピック
ショックの病態・分類・診断・治療呼吸不全窒息の分類と徴候一酸化炭素中毒とヒ素・シアン化物・鉛・メタノール中毒呼吸困難の鑑別診断一酸化炭素・二酸化炭素中毒小児急性呼吸不全の認識と緊急治療周産期仮死と低酸素虚血性脳症動脈血液ガス検査と結果の解釈酸素療法
疾患
シアン化物中毒
検査値
ヘモグロビン胎児ヘモグロビン低酸素血症

🧠 O₂とCO₂の輸送は「わずかな物理溶解量が全体を代表し、大部分は化学的に隠れて運ばれる」という共通パターンで理解する。 O₂の98%はHb(hemoglobin, ヘモグロビン)結合、CO₂の90%はとして運ばれるが、輸送を駆動するのはあくまで物理溶解分の分圧。の4分類は「どの段階(肺→Hb→循環→組織利用)でが途切れるか」という1本のパイプラインで整理する。

酸素の運搬

O₂は2形態で運ばれる。

形態 割合
O₂(dissolved O₂) 約3 mL O₂/L blood(Pa=100mmHgで) 約1.5%
Hb結合O₂(Hb-bound O₂) 約206 mL O₂/L blood 約98%

💡 だけでは全身の(約250 mL O₂/分)を賄うのに毎分80〜90Lの血流が必要——通常のCOをはるかに超える。この非現実性が、Hbという酸素の「大量輸送手段」の必要性を物語る。

輸送順序: ①血漿に物理溶解→②赤血球へ拡散→③Hbに結合。量が少量でも重要なのは、肺胞のpO₂とHb飽和度の橋渡し役だから(Hb飽和度はpO₂に依存する)。

ヘモグロビンとO₂解離曲線

Hbは4量体(tetramer、2α+2β)で、1molが4molのO₂と結合する(協調的結合:1つ結合すると次の結合が容易になる)。この協調性がS字状(シグモイド, sigmoidal)のO₂解離曲線を生む。

pO₂ Hb飽和度
95 mmHg(動脈血) 97%
40 mmHg(混合静脈血) 75%
26 mmHg(P50) 50%

組織では血液中のO₂の約25%しか使われず、残り75%は(運動・疾患時に動員される「貯蔵」)として残る。

解離曲線のシフト

方向 意味 要因
Hbの O₂親和性↓→組織への解離促進 CO₂↑・pH↓(Bohr効果, Bohr effect)、体温↑、2,3-BPG↑
Hbの O₂親和性↑→解離抑制 CO₂↓・pH↑、体温↓、2,3-BPG↓、胎児Hb(HbF、fetal hemoglobin)、CO

Bohr効果(CO₂/pHがHbのO₂親和性に与える影響):

CO2+H2OH2CO3H++HCO3CO_2 + H_2O \underset{\text{}}{\rightleftharpoons} H_2CO_3 \rightleftharpoons H^+ + HCO_3^-
  • H⁺がHbを→O₂親和性↓。
  • カルバミノHb(carbaminohemoglobin)形成→O₂親和性↓。

2,3-BPG(2,3-bisphosphoglycerate): 中間体1,3-BPGから作られる。低pO₂(運動・高地)→代謝亢進→1,3-BPG↑→2,3-BPG↑→(組織へのO₂供給を促進)。

⚠️ 運動中のは常に合目的的。 筋がCO₂・乳酸(H⁺)を産生し体温が上昇することで曲線がし、必要な組織へより多くのO₂を解離させる——生理的に「都合よく」働く仕組み。

胎児Hb(HbF): 2α+2γ構成。HbAより2,3-BPGへの結合が弱いため、はHbAに比べて左方偏位)する。これは胎盤で母体血から胎児血へO₂を受け渡すのに有利な性質である。

輸血血液の保存: 保存中に代謝で2,3-BPGが枯渇→→受血者では組織へのに不利(低いpO₂まで行かないと解離しない)。対策:グルコース添加+低温保存でBPG消費を遅らせる。

COはHbへの親和性がO₂の約250倍(Hb50%飽和がO₂では26mmHgのところ、COでは約0.1mmHg)。COはHbのO₂結合部位を奪うだけでなく、残る部位のO₂親和性をさせる(協調性のため)——低いpO₂まで解離せず、二重の意味で組織へのを妨げる。

二酸化炭素の運搬

CO₂は3形態で運ばれる(動脈血の内訳)。

形態 割合 機序
約5%(24 mL/L) CO₂はO₂よりH₂Oへの溶解度が約20倍高い
約5%(24 mL/L) HbNH2+CO2HbNHCOO+H+Hb-NH_2 + CO_2 \rightleftharpoons Hb-NH-COO^- + H^+
約90%(432 mL/L) CO2+H2OH2CO3H++HCO3CO_2+H_2O \to H_2CO_3 \to H^+ + HCO_3^-、生じたH⁺はHbが緩衝

動脈-静脈較差は約40 mL CO₂/L blood(内訳:10%・カルバミノ20%・70%)。

Cl⁻シフト

flowchart TD
  A["組織からCO2が赤血球へ流入"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carbonic anhydrase'>炭酸脱水酵素</span>でH2CO3→H++HCO3-"]
  B --> C["H+はHbに結合(HHb形成)"]
  B --> D["HCO3-が赤血球内に蓄積"]
  D --> E["Cl--HCO3-交換体がHCO3-を血漿へ、Cl-を赤血球内へ"]
  E --> F["赤血球内の浸透粒子増加→H2O流入→赤血球がわずかに膨張"]

この機序により、CO₂運搬には赤血球内だけでなく血漿も関与する。静脈血の赤血球はこのため動脈血よりわずかに大きい(への影響)。

Bohr効果とHaldane効果の対比: Bohr効果=CO₂がHbのO₂親和性に与える影響、Haldane効果=O₂がHbのCO₂親和性に与える影響(O₂化Hbほどカルバミノ形成・H⁺が下がる)——互いに鏡写しの関係。

低酸素症の分類

AVDO2=動脈O2含量静脈O2含量50 mL O2/L bloodAVDO_2 = \text{動脈O}_2\text{含量} - \text{静脈O}_2\text{含量} \approx 50\ \text{mL O}_2/\text{L blood}

AVDO2×CO250AVDO_2 \times CO \approx 250 mL/分=全身のは「パイプラインのどこで途切れるか」で4型に分類される。

flowchart TD
  A["肺胞での酸素化"] --> B["Hbとの結合"]
  B --> C["循環による運搬"]
  C --> D["組織での酸素利用"]
  A -.->|"障害"| E["1. <span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoxic / hypoxemic'>低酸素性</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoxia'>低酸素症</span>"]
  B -.->|"障害"| F["2. <span class='jp-term jp-term-diagram' title='anemic hypoxia'>貧血性</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoxia'>低酸素症</span>"]
  C -.->|"障害"| G["3. うっ滞性(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='circulating'>循環性</span>)<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoxia'>低酸素症</span>"]
  D -.->|"障害"| H["4. <span class='jp-term jp-term-diagram' title='histotoxic hypoxia'>組織中毒性</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoxia'>低酸素症</span>"]
機序 [Hb] 動脈pO₂ 静脈pO₂ AVDO₂
1. 肺胞pO₂低下 高地、COPD 正常 正常〜(極端な場合)↓
2. Hbの低下 貧血、CO中毒 正常 正常
3. うっ滞性 組織への灌流不足 心不全、動脈閉塞 正常 正常
4. 組織がO₂を利用できない 正常 正常

静脈pO₂の変化方向がこの4型を鑑別する鍵。 1・2・3型はいずれも組織がO₂を「使い切ろうとする」ため静脈pO₂は低下するが、4型()だけは組織がO₂を使えないため静脈pO₂はむしろ上昇する——この1点の違いがなどの病態識別の核心。

⚠️ チアノーゼは毛細血管血の脱酸素化Hbの絶対量が増えたときに生じる。 では起こりやすいが、(Hb自体が少ない)では脱酸素化Hbの絶対量が増えにくくチアノーゼが目立ちにくい——「貧血が高度でもチアノーゼが出にくい」という臨床的な落とし穴に対応する。

まとめ

  • O₂の98%はHb結合(協調的結合、シグモイド解離曲線)、CO₂の90%はとして運ばれる。
  • 解離曲線の(CO₂↑・pH↓・体温↑・2,3-BPG↑)は組織へのO₂供給を促進し、運動時に生理的に働く。CO・HbFはを起こす。
  • Cl⁻シフトによりCO₂運搬は赤血球と血漿の両方が関与する。Bohr効果(CO₂→O₂親和性)とHaldane効果(O₂→CO₂親和性)は鏡写しの関係。
  • ・うっ滞性・の4型に分かれ、静脈pO₂の変化方向(特にだけが上昇)が鑑別の鍵。