Physiology

Physiology · 3.2

呼吸器系におけるガス交換。肺循環。換気血流比。

Gas exchange in the respiratory system. The pulmonary circulation. Ventilation-perfusion relationship.

応用トピック
呼吸不全肺塞栓症の病態・診断・治療肺塞栓症体外循環と人工心肺装置の理論・実際肺塞栓症と肺性心間質性肺疾患原発性・続発性肺高血圧症肺解剖・呼吸生理の臨床的要点動脈血液ガス検査と結果の解釈呼吸機能検査:静的・動的肺気量呼吸困難急性呼吸不全
検査値
肺拡散能

🧠 このトピックは「拡散(膜を挟んだガス交換)」と「灌流(血流の空間分布)」という2つの独立の掛け算」だと捉える。 どちらか一方が完璧でも、両者の「マッチング」が悪ければ酸素化は損なわれる——によるの不均衡( vs 底部)がその最も重要な実例。

呼吸膜とガス拡散

肺胞-は6層・厚さ約1.0μmの薄い膜(①サーファクタント層②肺胞上皮③⑤毛細血管基底膜⑥)。ガス移動はに従う。

Vgas=A×D×(P1P2)T=DL×(P1P2)V_{gas} = \frac{A \times D \times (P_1-P_2)}{T} = D_L \times (P_1-P_2)

(A=表面積、D=、T=AD/TA \cdot D/TをまとめてDLD_Lと呼ぶ。)

肺胞 毛細血管(静脈血)
pO₂ 100 mmHg 40 mmHg 60 mmHg
pCO₂ 40 mmHg 46 mmHg 6 mmHg

💡 O₂のはCO₂の10倍なのに、輸送量はほぼ同じ。 これはDLD_Lがガスごとに異なるため——CO₂はO₂よりH₂Oへの溶解度が約20倍高く、DLD_LもCO₂の方が約20倍大きい。運動中は表面積(A)が拡大する(CO 3-4倍増→の毛細血管開存数増加)ことでDLD_L自体も増大する。

通過時間

の血液滞在時間は約0.75秒だが、実際のガス交換(酸素化)に必要なのはその1/3(約0.25秒)のみ——残り2/3は予備。

vs

定義
血液が肺胞圧と平衡化する前に毛細血管を出てしまう CO(Hbへの結合が強く血中遊離分圧が上がりにくい)
0.25秒以内に肺胞圧と平衡化する O₂、CO₂(正常肺では血流量が輸送量を決める)

⚠️ 肺水腫はに体液が溜まり(T)を増大させDLD_Lを低下させる——これはそのものを障害する典型例。組織では毛細血管-細胞間距離が1.0μmをはるかに超えるため、O₂・CO₂はになる(肺と組織でのガス交換の性質が異なる点に注意)。

気体の分圧とヘンリーの法則

液体中ではの法則(ideal gas law、PV=nRTPV=nRT)ではなくが支配する。

[Gas]溶存=α(溶解度)×Pgas[\text{Gas}]_{溶存} = \alpha(\text{溶解度}) \times P_{gas}

(O₂の溶解度係数は約0.03 mL O₂/L H₂O/mmHg、CO₂はその約20倍。)

分圧が重要な理由:①溶存量は分圧に線形比例②ガスは高分圧から低分圧へ流れ、等しくなったところで平衡に達する。

pO₂ pCO₂
100 mmHg 40 mmHg
静脈血 40 mmHg 46 mmHg
動脈血 95 mmHg 40 mmHg

動脈血のpO₂が肺胞と同じ100mmHgでなく95mmHgになる理由が2つ。由来のややの血液が混入する(生理的シャント, physiological shunt)②によるの不均衡(後述)——完全な平衡化が起こらない。

肺循環

機能: 血液の再酸素化とCO₂放出、肺組織へのの輸送。総血液量の約10%(500mL)を占める。量は右心のCO=左心のCOに等しい(接続, in series)。

部位
25/0 mmHg
肺動脈 24/9 mmHg(平均14mmHg)
肺毛細血管 約10 mmHg
約9 mmHg
8 mmHg

体循環に比べが著しく小さい(≈6mmHg、体循環の約1/15)理由:肺血管は平滑筋が少なく低抵抗——抵抗も体循環の約1/15(流量は同じなため)。

受動的調節

運動でCO増加(3-4倍)しても、血管拡張+抵抗低下により、圧の大幅な上昇なしに増加した血流を受け入れられる——の「」がここにある。

能動的調節:低酸素性肺血管収縮

局所肺胞pO2局所血管収縮(反射)その部位の血流\text{局所肺胞pO}_2\downarrow \to \text{局所血管収縮(反射)} \to \text{その部位の血流}\downarrow

この反射は換気と血流のバランスを保つ(換気の悪い肺胞への血流を減らし、無駄な灌流を防ぐ)——体循環の(圧に応じた血管収縮)とは逆に、低酸素で収縮するという特有の性質。

⚠️ 全肺が低酸素になる状況(高地居住の慢性低酸素、呼吸不全)では、この反射が肺全体で働き全体が上昇、肺高血圧→右室増大を招く。 これは局所的には合目的的な反射が、全身性に起こると病的帰結(, cor pulmonale)をもたらす例。

気管支循環

とは別に、肺組織自体を養う体循環由来の血流(総循環の約1%)。へ合流し静脈血を混入させる——動脈血pO₂が100ではなく95mmHgになる一因(前述)。

重力の影響

立位からにかけて、肺胞圧(P_A)・動脈圧(P_a)・静脈圧(P_V)のが変化する。

領域 圧の関係 血流
Zone 1(、非現実的) P_A > P_a > P_V 毛細血管が完全に圧迫→血流なし
Zone 2(の実際) P_a > P_A > P_V 部分的圧迫→血流減少
Zone 3( P_a > P_V > P_A 血管拡張→血流最大

からにかけ血流が劇的に増加する(:抵抗↑・圧↓→血流↓/:抵抗↓・圧↑→血流↑)。

換気血流比

換気もの影響を受ける。胸膜圧はで約−10cmH₂O、で約−2.5cmH₂Oと、の方がより陰圧(立位で肺自身の重みがを下方へ引くため)。

💡 の肺胞は(強い陰圧のため)すでに大きく膨らんでいる分コンプライアンスが低く、同じでも容積変化が小さい。の肺胞は小さい分コンプライアンスが高く、より大きくできる——換気量はで多い。

部位 換気(V˙A\dot V_A 血流(Q˙\dot Q V˙A/Q˙\dot V_A/\dot Q 血液の性質
相対的に多い 少ない 高い 高酸素(側)
相対的に少ない 多い 低い 低酸素(側)
flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='apex of lung'>肺尖</span>:換気>血流→高いV/Q→高酸素血液(流量小)"]
  B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='base of the lung'>肺底</span>:血流>換気→低いV/Q→低酸素血液(流量大)"]
  A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary vein'>肺静脈</span>で混合"]
  B --> C
  C --> D["平均<span class='jp-term jp-term-diagram' title='arterial oxygen partial pressure'>PaO2</span> < 肺胞PAO2(100mmHg)"]

低いV/Qの血液(、流量が多い)が高いV/Qの血液(、流量が少ない)より支配的に混合に寄与するため、混合後の動脈血pO₂は肺胞のpO₂(100mmHg)より低くなる(95mmHg)。 「量が多い方の性質が平均を支配する」という非対称な混合が本質——これがによる生理的な(病的でない)の一因。

まとめ

  • ガス拡散はVgas=DL(P1P2)V_{gas}=D_L(P_1-P_2)に従い、DLD_LはCO₂がO₂の約20倍(溶解度の違い)。運動時は表面積増大でDLD_Lも増える。
  • O₂・CO₂は正常肺で(0.25秒で平衡化)、CO・線維性肥厚下のO₂は。組織では距離が長く常に
  • は低抵抗・低で、低酸素に対して血管収縮するという体循環と逆の反応(換気血流マッチングのため)を示す。
  • によりは高換気/低血流(高V/Q)、は低換気/高血流(低V/Q)となり、両者の混合で動脈血pO₂は肺胞pO₂よりわずかに低くなる(100→95mmHg)。