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外科学 · S-22

良性肛門疾患(痔核・裂肛・痔瘻・肛門周囲膿瘍)

Benign anorectal diseases

前提:正常
骨盤・会陰:会陰
疾患
良性肛門疾患(痔核・裂肛・痔瘻・肛門周囲膿瘍)
画像所見
肛門超音波

🧠 全体像:排便時のだけなら、排便時から続く鋭い痛みなら、急な持続痛・腫脹なら膿瘍、反復する排膿ならを考える。治療では「症状を治す」だけでなく、を温存してを避ける。

痔核

は正常なが拡張・下垂して症候性となった状態である。出血を安易にへ帰属せず、年齢、貧血、便通変化、家族歴に応じて大腸病変を除外する。

型 との位置 典型像
上方 無痛性の、脱出、粘液漏出、掻痒
下方 通常は腫脹・不快感。急性で強い痛み

内痔核のゴリガー分類

⚠️ 以下は日本大腸肛門病学会の診療ガイドラインがCQ-6で採用している定義(推奨度B)で、の脱出の程度だけを測る物差しである。には適用しない1。

度 ガイドラインの定義1
I度 で確認でき内腔に膨隆するが、より下方へは脱出しない
II度 排便・で外へ脱出するが、自然にする
III度 排便・で脱出し、にする必要がある
IV度 で、絞扼しうる(常時脱出したままになる)

💡 度数を分けているのは「脱出するか」「自力で戻るか」「手で戻せるか」の3つの問いだけで、出血の有無は条件ではない。

診断は、、で行う。急性では痛みが発症後早期で強ければ血栓を含む切除を検討し、改善傾向なら鎮痛、、便通調整を行う。

治療

  1. 全例で、水分、排便時の過度な・長時間座位の回避を指導する。
  2. I~II度と選択したIII度ではが最も有効な外来処置で、やも選択肢となる2。日本大腸肛門病学会ガイドラインCQ-8もゴム輪はIII度までのとし、推奨度Bを付けている1。
  3. 大きな、内併存、症候性III~IV度にはを検討する。はゴム輪よりが高いが、痛み・合併症も多いため、ゴム輪不応例に位置づける2。⭐ はIII度・IV度のおよびに対して推奨度Aで、CQ-8が挙げる5つの術式のうち唯一のAである1。
  4. ステープル式固定術(PPH)はを治療できず再発・特有の重篤合併症があるため、第一選択として一律に用いない。⚠️ 更新(17試験・2072例)でも、ステープル式固定術は切除術より長期の再発リスクが高く(1.56)、とくに脱出関連の再発で差が大きい(3.28)ことが確認されており、合併症を理由に位置づけがした経緯を裏づける3。

⚠️ 外来処置と手術の境界は資料によってIII度の扱いが違う。 どちらの線引きの話かを断ってから使う。

線引き 外来処置の対象 手術の対象
保存・外来・手術の3段階で教える書き方 症状のあるすべての+III度 IV度
日本大腸肛門病学会ガイドラインCQ-81 ゴム輪はIII度まで(推奨度B。II度では第一に推奨され、III度でも第一に考慮しうる) はIII度・IV度(推奨度A)

💡 食い違っているのはIII度の置き場所だけである。 ガイドライン自身が「III度ではゴム輪はより効果が劣り再施行を要することがある」と認めたうえで「III度でも第一に考慮しうる」と書いている1。1995年のが「I〜III度の初期治療はゴム輪、は不応例へ」としているのも同じ帯の話である2。I〜II度=保存的治療/IV度=手術という両端は、どちらの書き方でも動かない。

⭐ 推奨の強さまで含めて覚える1。

処置 適応する病期 推奨度
III度・IV度のおよび A
ゴム輪 III度までの B
5%アーモンドオイルはIII度まで/アルミニウムカリウム硫酸塩・酸(ALTA)はII〜IV度の脱出 B
III度の(長期予後が不良で再発率が高く、腟瘻・直腸穿孔などの重篤な合併症の懸念がある) C
分離 III度・IV度の・(を要する) C

裂肛

肛門上皮の縦走で、典型的には後方正中に生じる。排便による、、局所虚血が悪循環をつくる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hard stool'>硬便</span>・排便時外傷"] --> B["肛門上皮の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='laceration'>裂創</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='internal sphincter spasm'>内括約筋攣縮</span>"]
    C --> D["局所血流低下"]
    D --> E["治癒遅延・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic anal fissure'>慢性裂肛</span>"]
    E --> C
急性 慢性
多くは6週未満の表在性 、、内括約筋線維の露出を伴う

正中から外れる多発では、感染症、悪性腫瘍、外傷を考える。診断はを優しく開くが中心で、強い痛みのある急性期に無理な・を行わない。

治療

  • 、便軟化、で排便時外傷を断つ。
  • では局所またはが、と同等の治癒効果で有害事象が少なく第一選択になりやすい4。
  • 注射は局所薬不応例などで用いる。GTN同様よりわずかに優れる程度で、いずれの薬物療法も外科的術には及ばない4。
  • は高い治癒率を持つが、長に合わせて切開しリスクを下げる。既存失禁、括約筋損傷、産科損傷、、既往肛門手術では法を優先する。

肛門周囲膿瘍と痔瘻

の感染が膿瘍をつくり、排膿後にと皮膚を結ぶ上皮化が残るとになる。では穿炎症が原因となり、薬物治療を含む多職種管理が必要である。

病態 主症状 評価 治療
急な持続痛、圧痛、発赤、腫脹。深部では外表所見に乏しい 通常は診察。深部・再発・複雑例、では/ 速やかな
間欠的な腫脹、排膿、皮膚刺激 、、既往を評価。複雑例は骨盤または 括約筋を温存してを処理

膿瘍に抗菌薬だけを投与して排膿を遅らせない。蜂窩織炎、全身感染徴候、免疫抑制がある場合は排膿に抗菌薬を追加する5。

⚠️ 排膿しても終わりではない。 の既往が無い急性170例のうち146例を平均99か月追跡した研究では、37%がを発症し、10%が膿瘍を再発した(追加治療なく治癒したのは50%)6。日本大腸肛門病学会のガイドラインもこの研究を引き、を受けた患者の約30%がに至るという報告と併せて紹介している5。排膿後はの出現を前提に経過観察する。

痔瘻のパークス分類と術式

400例の解析から解剖と病因に基づき提示された分類で、現在も臨床の共通言語になっている7。

型 括約筋との関係 原則
括約筋間 内外括約筋間を下行 単純瘻なら
外括約筋を貫く は切開可能、は等
上方を回る
挙筋上から直腸外を通る 原因精査と専門的再建

⚠️ は「どこを通るか」を記述するだけで、そのままでは術式を決められない。 開放してよいかを決めるのは単純か複雑かという別の軸で、の・表在性・が単純、の・・・女性の前方・多発瘻孔が複雑である。💡 女性の前方が深さによらず「複雑」に入るのは、前方では外括約筋が薄く産科的損傷が加わっていることもあり、同じ深さでも切開がに直結しやすいためである。数字でも一次瘻口が前方にあるのは女性に多く(男性12.3%に対し女性25%)5、前方膿瘍からへ進む頻度も女性88%対男性33%と大きく開く6。⚠️ なお、が標準なのは欧米で、日本では隅越分類を用いることが多い5。

・複雑瘻ではドレナージ、(LIFT法)、などを解剖と便に応じて選ぶ。LIFT法は瘻・複雑瘻を中心にまとめられた24論文1110例ので、治癒率76.4%、0%と報告されている8。は成績が一定せず万能ではない。

まとめ

  • 出血は無痛性、は排便関連の強い痛み、膿瘍は急性持続痛、は反復排膿が手掛かりである。
  • は便通調整から段階的に治療し、推奨の強さごと覚える——はIII度・IV度に推奨度A、ゴム輪はIII度までで推奨度B、ステープル式固定術()は推奨度Cで一律の第一選択にしない。III度をどちらに置くかは資料で違うが、I〜II度=保存的治療/IV度=手術という両端は動かない。
  • は局所を優先し、は失禁リスクを評価して行う。
  • 膿瘍は速やかに排膿し、排膿後も37%が・10%が膿瘍再発(平均99か月追跡)という長期データがあるので経過観察を続ける。はと再発制御の両方を目標にし、女性の前方は深さによらず「複雑」として扱う。

出典

  1. 1.Japanese Practice Guidelines for Anal Disorders I. Hemorrhoids(日本大腸肛門病学会・2017)全文(PMC6768674)で確認した。CQ-6 はゴリガー分類を4段階で定義する(推奨度B)——I度は肛門鏡で確認でき内腔に膨隆するが歯状線より下方へは脱出しない、II度は排便・怒責で肛門管外へ脱出するが自然に還納する、III度は用手的な還納を要する、IV度は還納不能で絞扼しうる。CQ-8 の推奨は、結紮切除術がIII度・IV度の内痔核および外痔核に有効(推奨度A)、ゴム輪結紮術はIII度までの内痔核に用いる(推奨度B)、硬化療法は5%フェノールアーモンドオイルがIII度まで・アルミニウムカリウム硫酸塩・タンニン酸(ALTA)はII〜IV度の脱出に有効(推奨度B)、吻合器痔核固定術はIII度の内痔核に有効だが長期予後が不良で再発率が高く腟瘻・直腸穿孔などの重篤な合併症の懸念がある(推奨度C)、分離結紮はIII度・IV度に有効だが局所麻酔を要する(推奨度C)である。本文の考察は「III度ではゴム輪結紮術は結紮切除術より効果が劣り再施行を要することがある」としたうえで「II度では第一に推奨され、III度でも第一に考慮しうる」と述べる。閲覧 2026-09-21
  2. 2.Comparison of hemorrhoidal treatment modalities. A meta-analysis(Diseases of the Colon and Rectum・1995)症候性痔核の治療法を比較した無作為化比較試験18件のメタ解析。痔核切除術はゴム輪結紮術より奏効率が高い一方、痛みと合併症が多く、著者らはI〜III度の痔核に対する初期治療としてゴム輪結紮術を推奨し、痔核切除術はゴム輪結紮術が奏効しない症例に限定すべきと結論した閲覧 2026-08-26
  3. 3.Long-term outcomes of stapled haemorrhoidopexy versus conventional haemorrhoidectomy: An updated systematic review, meta-analysis and trial-sequential analysis of randomized controlled trials(International Journal of Colorectal Disease・2026)II〜IV度痔核の成人を対象に、術後12か月以上追跡した無作為化比較試験17件(ステープル式痔核固定術1041例、従来型痔核切除術1031例)の更新メタ解析。ステープル式痔核固定術は従来型痔核切除術より長期の再発リスクが高く(リスク比1.56)、とくに脱出関連の再発が有意に多かった(リスク比3.28)閲覧 2026-08-26
  4. 4.Non surgical therapy for anal fissure(Cochrane Database of Systematic Reviews・2012)裂肛に対する薬物療法を評価した無作為化比較試験75件・参加者5031例のコクランレビュー。局所ニトログリセリン(GTN)はプラセボよりわずかだが有意に治癒率が高く(48.9%対35.5%)、ボツリヌス毒素とカルシウム拮抗薬(ジルチアゼム・ニフェジピン)はGTNと同等の治癒効果を有害事象の少なさで示したが、慢性裂肛の成人ではいずれの薬物療法も外科的括約筋切開術に遠く及ばない閲覧 2026-08-26
  5. 5.Japanese Practice Guidelines for Anal Disorders II. Anal fistula(日本大腸肛門病学会・2018)全文(PMC6752149)で確認した。肛門膿瘍の切開排膿を受けた患者の約30%が痔瘻に至ると報告されており、146例を追跡した研究では50%が追加治療なく治癒し、10%が膿瘍を再発し、37%が痔瘻を発症したと本文が引いている。⚠️ 同じ段落は「男性のほうが痔瘻を発症しやすい」と書いているが、引用元の原著(Hämäläinen 1998)の抄録は女性50%対男性31%で女性のほうが高いとしており、この一文は原著と食い違う。一次瘻口が前方にあるのは女性に多い(男性12.3%、女性25%)。パークス分類は欧米で広く用いられるが日本では隅越分類を用いることが多い。肛門周囲膿瘍では、周囲に蜂窩織炎を伴う場合、全身疾患を併存する場合、切開排膿で改善しない場合に抗菌薬を投与する。閲覧 2026-09-21
  6. 6.Incidence of fistulas after drainage of acute anorectal abscesses(Diseases of the Colon and Rectum・1998)抄録で確認した。痔瘻の既往が無い急性陰窩腺性肛門直腸膿瘍170例のうち146例を平均99か月(範囲22〜187か月)追跡し、54例(37%)が痔瘻を発症、15例(10%)が膿瘍を再発した。痔瘻の発生率は男性31%に対し女性50%と女性で高く(P=0.0403)、とくに前方の膿瘍では女性88%対男性33%だった。著者らの結論は、この方針なら半数を超える患者で不要な一次的瘻孔切開術を避けられるので急性肛門直腸膿瘍には切開排膿単独を勧める、というものである。閲覧 2026-09-21
  7. 7.A classification of fistula-in-ano(British Journal of Surgery・1976)過去15年間に治療した痔瘻400例の解析に基づき、骨盤底の筋解剖と病因から括約筋間・経括約筋・括約筋上・括約筋外の4主型に分類した原著(Parks分類)閲覧 2026-08-26
  8. 8.Ligation of intersphincteric fistula tract (LIFT) to treat anal fistula: systematic review and meta-analysis(Techniques in Coloproctology・2014)経括約筋瘻・複雑瘻を中心としたLIFT法(括約筋間瘻管結紮術)1110例を含む24論文のシステマティックレビュー。平均追跡10.3か月で治癒率76.4%、便失禁0%、術中合併症0%、術後合併症率5.5%だった閲覧 2026-08-26