泌尿器科学

泌尿器科学 · U-04

腎臓・尿管・膀胱の損傷

Injuries to the kidney, the ureter and the bladder

前提:正常
腹部:泌尿器と後腹膜骨盤・会陰:骨盤内臓
疾患
泌尿生殖器外傷

🧠 全体像:泌尿生殖器損傷の中で腎損傷が最多、尿管損傷は最も稀(多くは医原性)、膀胱損傷は骨盤に保護されるため稀だが満尿時にリスクが上がる。いずれも「損傷機転(鈍的/穿/医原性)→→血行動態が安定しているかで保存的治療か手術治療か」という共通の思考手順で評価する。

腎損傷

受傷機転

分類 特徴
交通事故、高所、暴行が主因。裂傷は腎のに生じやすい。肋骨・椎骨の骨折が実質を直接することがある。急激なは血栓症・損傷・など血管損傷を来しうる。既存の腎病変(水腎症・腫瘍・嚢胞など)があると軽微な外力でも破裂しやすい
・が主因。~上腹部のは、証明されるまで腎損傷を疑う

重症度分類(AAST腎損傷分類)

flowchart TD
  A["腎損傷の重症度"] --> B["軽症(約84%)"]
  A --> C["重症(約15%)"]
  A --> D["血管損傷(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blunt trauma'>鈍的外傷</span>の約1%)"]
  B --> B1["実質の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='contusion'>挫傷</span>・被膜<span class='jp-term jp-term-diagram' title='melena'>下血</span>腫・表在性皮質裂傷"]
  C --> C1["深部の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corticomedullary differentiation'>皮髄境界</span>裂傷が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='collecting system'>集合系</span>に達し尿の腹膜外漏出"]
  C --> C2["大きな後腹膜・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='perirenal hematoma'>腎周囲血腫</span>を伴うことが多い"]
  C --> C3["多発裂傷により腎が完全に破壊されることもある"]
  D --> D1["動静脈の完全<span class='jp-term jp-term-diagram' title='avulsion'>裂離</span>、または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='segmental branch'>区域枝</span>の部分<span class='jp-term jp-term-diagram' title='avulsion'>裂離</span>"]
  D --> D2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='avulsion'>裂離</span>を伴わない<span class='jp-term jp-term-diagram' title='large (trunk) artery'>主幹動脈</span>の伸展→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal artery'>腎動脈</span>血栓症"]

現行のAAST(American Association for the Surgery of Trauma)腎損傷分類は以下の通り。

Grade 所見
I 、または非拡大性の被膜腫。裂傷なし
II 深さ1cm以下の皮質裂傷で尿の漏出なし。血腫は後腹膜に限局し非拡大性
III 深さ1cmを超える裂傷で、の破綻・出を伴わないもの
IV に達する裂傷で尿の漏出を伴う、腎盂裂傷/腎盂尿管完全、区域動静脈損傷、を超える活動性出血、区域~全体の梗塞
V 腎茎(動静脈)の裂傷・、、実質構築が判別不能な腎

⚠️ 出典の図は「被膜腫→裂傷1cm未満→裂傷1cm以上→裂傷・血管損傷→腎」という段階像を示しており、現行のAAST 2018年改訂版分類とおおむね整合する。Grade分類は(保存的 vs 手術)の決定に直結するため、深さの数値(1cm)と・血管の関与を正確に押さえること。

症状

  • 低血圧・が主要な初期兆候となりうる。
  • 大きな後腹膜血腫→腹部腫瘤触知、腹部膨満、イレウス、悪心・嘔吐。
  • 片側の側腹部痛、または腹部全体の痛み。
  • 顕微鏡的または。

画像診断

検査 特徴
US 後腹膜血腫の描出には有用だが、実質裂傷や血管・損傷の評価には不十分
造影CT 腎外傷における第一選択
で疑われた動脈損傷の精査

合併症

  • 高度→ショック→死亡。
  • 尿の。
  • →発熱、悪寒、敗血症性ショック、腹部圧痛、側腹部痛。
  • 周囲線維化→・高血圧の原因となりうる。
  • 。

治療

を決める最優先の基準はAAST Gradeそのものではなく血行動態が安定しているかである。1

  • 保存的治療(:NOM):血行動態が安定していれば第一選択。Grade I〜IIIはほぼ全例、Grade IVも多くが保存的に管理でき、Grade Vは損傷像と併存損傷を踏まえて慎重に選別する。安静・輸液、血圧・・血腫のサイズと拡大をモニタリングする。2
  • 選択的血管塞栓術:血行動態が安定し、を要する他の適応がない活動性・持続性・遅発性出血では検討する。特に小児高gradeでは腎温存に有用だが、観察との優先順位を全例に一律適用できるほどエビデンスは確立していない。23
  • 手術治療:血行動態が不安定で蘇生に反応しない場合、または高度な出・区域動脈損傷などの相対的適応が併存する場合に検討する。術式は腎、広範な腎損傷では腎全摘除術。
  • 発熱、疼痛増悪、持続出血を示す低下などがあれば追跡造影CTを行う。無症候の高grade損傷における一律の再画像化時期は確立していない。3

⚠️ 「活動性出血=ただちに手術」ではない。血行動態と併存損傷を評価し、安定例では観察または選択的血管塞栓術を検討する。

尿管損傷

受傷機転

  • 尿管損傷は稀だが起こりうる。
  • 医原性(最多):外科手術操作による。
  • :交通事故での急外傷。・によって尿管が牽引・する。
  • :・。
  • 結石に対する内視鏡操作:尿管穿孔・。

症状

  • 受傷直後は無症状で、顕微鏡的またはのみのことが多い。
  • 数日〜数週間後に高熱、・腹部痛、、腹膜炎として顕在化する。

画像診断

  • を含む造影CT尿路造影で疑い、の造影剤漏出、水腎症、、腹水、を評価する。1
  • で診断が確定しない場合や損傷部位の詳細が必要な場合は、逆行性または尿路造影で確認する。
  • USや一回撮影の排泄性尿路造影は感度が低く、尿管損傷の除外には用いない。

治療

  • 診断のタイミング、重症度、部位により方針が変わる。
  • 部分損傷ではを試み、通過不能・無効時はで尿路を確保する。遅発診断例ではだけで完結しないことも多い。4
  • では開腹またはで再建する。壊死組織の、緊張のない血流良好な断端の吻合、、水密閉鎖が原則で、損傷部位と欠損長に応じて術式を選ぶ。1
術式 内容
した尿管と腎盂の半円状吻合
尿管新 下1/3の損傷で膀胱へ再移植
尿管が短い場合に使用
Psoas hitch 遠位尿管損傷における尿管再

膀胱損傷

膀胱は骨盤深部(骨盤骨に保護される)に位置するため外傷は比較的稀だが、充満するほどより上に挙上するため、満尿状態の方が空虚時より損傷しやすい。

  • と穿損傷に分類される。
  • 自動車事故ではシートベルトの圧迫で満尿膀胱が破裂しうる。
  • 破裂の型:
    • 腹膜外膀胱破裂:尿が腹膜外腔に漏出。
    • 腹膜内膀胱破裂:尿が腹腔内(腹膜内〜後腹膜)に漏出。

鈍的膀胱外傷

  • 満尿時の下腹部への、または骨盤骨輪骨折による筋膜付着部での膀胱裂傷が典型。
  • 重症度は(膀胱)から、・に及ぶ腹膜内外裂傷まで5段階。
型 機序
膀胱 粘膜または筋層の損傷
腹膜外膀胱破裂 に典型的。尿が漏出し後腹膜腔のまで進展しうる
腹膜内膀胱破裂 満尿時の下腹部・シートベルト圧迫による膀胱内圧の急激な上昇に起因
  • 症状:下腹部痛、不快感、腹部膨満、尿閉、血尿、ではの消失。
  • 診断:十分な逆行性充満を行うまたはで診断する。通常の静注造影CTで膀胱内の造影剤排泄を待つだけでは不十分である。では骨盤周囲、では腸管係蹄間やへ造影剤が広がる。1
  • 治療:単純は留置で管理する。はし、損傷、骨片の膀胱内突出、直腸・腟損傷などを伴う複雑でも手術を検討する。5

穿通性膀胱損傷

  • 穿膀胱損傷では血尿を認めることが多いが、症状だけでは除外できない。損傷範囲と併存臓器損傷を評価し、多くは手術による探索・修復を要する。
  • 手術時には隣接する損傷臓器(腟、直腸)も同時に修復する。

医原性膀胱壁損傷

分野 状況
泌尿器科的 で、膀胱穿孔を来さずに腫瘍を完全切除することが目標
婦人科的 、切除術、・尿失禁手術、帝王切開で損傷しうる
外科的 内の一般外科手術(など)

まとめ

  • 腎損傷はで最多であり、AAST分類(Grade I〜V)で重症度を評価し、性と損傷の程度から保存的治療と手術治療を判断する。
  • 尿管損傷は稀だが医原性が最多で、初期は無症状のことが多く発見が遅れやすいため、術後の遅発性発熱・側腹部痛には注意する。
  • 膀胱損傷は満尿状態でリスクが上昇し、とを/の造影剤分布で鑑別し、それぞれが異なる。

出典

  1. 1.Urotrauma Guideline 2020: AUA Guideline(2021)腎・尿管・膀胱損傷の画像診断、血行動態に基づく腎外傷管理、尿管再建、および膀胱破裂の治療原則を確認した。閲覧 2026-08-13
  2. 2.Pediatric blunt renal trauma practice management guidelines: Collaboration between the Eastern Association for the Surgery of Trauma and the Pediatric Trauma Society(2019)血行動態が安定した小児鈍的腎外傷ではgradeを問わず非手術的管理を推奨し、持続・遅発出血では血管塞栓術が腎温存に寄与することを確認した。閲覧 2026-08-13
  3. 3.Management of adult renal trauma: a practice management guideline from the Eastern Association for the Surgery of Trauma(2023)成人腎外傷では安定例の非手術的管理が基本である一方、塞栓術と観察の選択や高grade損傷の再画像化時期には確実な一律推奨を示せないことを確認した。閲覧 2026-08-13
  4. 4.Management strategies and root causes of missed iatrogenic intraoperative ureteral injuries with delayed diagnosis: a retrospective cohort study of 40 cases(2023)遅発診断された医原性尿管損傷では画像と造影で部位を同定し、ステント・腎瘻・損傷部位別再建を症例に応じて選ぶことを確認した。閲覧 2026-08-13
  5. 5.Management of blunt force bladder injuries: A practice management guideline from the Eastern Association for the Surgery of Trauma(2019)鈍的膀胱損傷では腹膜内破裂を手術し、単純腹膜外破裂をカテーテルドレナージで管理し、複雑腹膜外破裂では手術を検討する原則を確認した。閲覧 2026-08-13