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Disease Atlas · 運動器 · 腫瘍

腱鞘巨細胞腫

Giant cell tumor of tendon sheath

別名
腱滑膜巨細胞腫色素性絨毛結節性滑膜炎限局型腱滑膜巨細胞腫
臓器系
運動器腫瘍
科目
Pathology (Histopathology)Oncology and Reconstructive Oncoplastic Surgery
トピック
組織病理 H2-124B:滑膜肉腫(皮下発生:予後因子編)腫瘍学 II-37:軟部腫瘍の疫学・病因・組織型・病期・症状・診断
鑑別疾患
Dupuytren拘縮滑膜肉腫足底線維腫症
症状
皮膚結節腫脹

🧠 全体像:は「手指のにできる無痛の硬いしこり」として現れ、⭐ 手の領域ではに次いで2番目に多い軟部腫瘍である1。長らく「反応性の過形成」と説明されてきたが、⭐ CSF1 の転座が見つかったことで腫瘍として扱われるようになった2。しかもその転座は腫瘍内のごく少数の細胞にしかない——少数の腫瘍性細胞がCSF1をまき散らし、CSF1受容体をもつ非腫瘍性のマクロファージを大量に呼び寄せて腫瘤を作る2。この機序の解明がそのままという治療になった3。⚠️ 良性だが局所再発が多いのが臨床上の主題である。

名称の整理——PVNSとの関係

現行の枠組みでは、(TGCT)がの名称で、その下に2型がある。かつて「」「(PVNS)」と呼ばれていたものが、この1つのにまとめられた3。

(旧・) (旧・)
形 単発の病変または結節 多発結節。滑膜を広範に侵し侵襲的に発育する
部位 膝・股関節のほか、しばしば手と手関節を含む 膝・・股関節などの
約100万人あたり10〜50 約100万人あたり5〜10
手術 。多くで治癒しうる (合併症なく肉眼的完全切除ができるとき)
再発 手の症例で15〜45%の報告1 20〜50%と推定3

・部位・術式は総説による3。

💡 同じ病気なのに臨床像がここまで違うのは「どこに生えたか」で決まる。 という細い管の周りでは結節状に留まるが、の広い滑膜面に生えると滑膜そのものが増殖の場になり、取りきれない。手のが「切って終わり」に近く、膝のが薬物治療の対象になるのは、この違いによる。

⚠️ とは別の疾患である。 名前に「」を共有するだけで、発生の場も機序も治療も異なる。

病態——少数の腫瘍細胞が景色を作る

染色体1p13を含む転座がTGCTとPVNSの大多数の症例に存在し、そのの遺伝子が**CSF1**であることが示された。一部の症例では CSF1 が COL6A3(2q35)と融合しており、この転座がCSF1のをもたらす23。

⭐ 決定的なのは「誰が転座をもっているか」である。 転座は腫瘍内細胞の少数にのみ存在し、その細胞だけがCSF1を発現する。大多数の細胞はCSF1Rを発現するがCSF1は発現しない——つまり腫瘤の大部分は、呼び寄せられた非腫瘍性の細胞である2。

flowchart TD
    A["腫瘍内のごく少数の細胞に<br>1p13転座(CSF1-COL6A3など)"] --> B["その細胞だけがCSF1を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='overexpression'>過剰発現</span>"]
    B --> C["CSF1受容体を発現する<br>非腫瘍性マクロファージの集積"]
    C --> D["腫瘤の大部分は非腫瘍性細胞"]
    B --> E["CSF1がCSF1Rに結合し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='kinase pathway'>キナーゼ経路</span>を活性化"]
    E --> F["腫瘍の増大"]
    D --> G["治療標的はCSF1/CSF1R軸"]
    F --> G

💡 「反応性」という古い説明も、まったくの誤りではなかった。 性疾患の特徴とクローン性の特徴を両方もつ病態であり2、その二重性の正体が「少数の腫瘍細胞+大量の反応性細胞」だったということである。⭐ CSF1Rを標的にすれば、腫瘍細胞そのものを殺さなくても腫瘤が縮む——が効く理由がここにある。

臨床像と診断

  • 通常は手指のに無痛性で緩徐に増大する腫瘤として現れる1。
  • あらゆる年齢に生じるが30〜40歳代にピークがあり、女性に多い1。TGCT全体では35〜50歳の若い成人に多い3。
  • 単純X線も無駄ではない。 のびらんを作り、へ浸潤しうる1。

MRI

⭐ が最も有用な診断手段であり、手術計画にも必要である1。特徴的な所見は次の2つ4。

所見 内容
T1・T2ともに低〜中等度信号 どちらの強調像でも低〜中等度にとどまる
のため、系列で信号が抜けて実際より大きく見える

⚠️ で高信号にならないことが、かえって見落としの原因になる。 多くのはT2で明るく光るのに、この腫瘍は筋肉と同じくらいの信号にとどまる。を撮ってを探すのが確実である4。

鑑別

鑑別 手がかり
手で最も多い。があり内容は粘液。で
の索と皮膚の陥凹を作り、指のを来す。境界明瞭な腫瘤ではない
の・の内部の結節。が
⚠️ では良性のと紛らわしく、単純な摘出のあとに病理で判明することがある

⚠️ 「良性のしこり」と決めてかかって剥がし取らない。 増大を続ける、大きい、より深い、硬い、疼痛を伴う、といった所見があれば、切除の前に画像評価と専門施設への相談を挟む。

治療

手術が中心

可能なら完全切除が標準治療である。はで多くの患者が治癒しうる。は、重大な合併症なく肉眼的完全切除ができるならが望ましいが、完全に取りきることは難しい3。

⭐ 手のでは、丁寧さが再発率を変える。 同一が4.5倍のと下で標準化された手技を用い、3年以上追跡した50例(平均追跡84.3±43.2か月)では再発は3例(6%)にとどまった。文献上の15〜45%と比べて低い1。

⚠️ 再発の危険因子として挙げられてきたのは、・の破壊・母指およびへの局在・の併存・分離した複数の腫瘍・分裂像の多い腫瘍・摘出時の神経血管の剥離である。 この50例で有意だったのは母指以外の手指のへの近接のみであった1。

経過観察・放射線治療

  • 無症候例や、手術・全身治療の合併症の危険が大きい例では経過観察が推奨される。未治療の61例では中央値28か月の追跡で43%が安定・21%が改善・37%が悪化した3。
  • ⚠️ 放射線治療は一般に推奨されない。 性の・・線維化・・の懸念があり、多くのは用いない3。

CSF1R阻害薬

手術が選べないが対象である。米国ではとが承認されている3。

はCSF1Rに強い選択性をもつ(KITとFLT3-ITDも阻害する)で、TGCTに承認された最初の全身治療である。米国・台湾・韓国で、重度の合併症または機能障害を伴い手術で改善が見込めない症候性TGCTの成人に承認されている3。

第3相ENLIVEN試験(手術が推奨されない進行TGCT 120例)の第25週の成績3。

評価項目
(RECIST) 39% 0%(P<0.0001)
(スコア) 56% 0%(P<0.0001)
グレード3/4の有害事象 44% 12%

⚠️ 腫瘍が縮むことと、痛みが取れることは同じではない。 患側関節の相対的可動域・身体機能・最悪時のこわばりは改善した一方、第25週の疼痛反応の主要評価では有意差が無かった3。

⚠️ 肝毒性に注意する。 頻度の高いグレード3/4の有害事象は・・の上昇と高血圧で、3例で混合型またはの肝毒性を示すが認められた3。

適応外だがも用いられてきた。局所進行または再発した58例のでは、追跡中央値52か月でRECIST31%であった3。

まとめ

  • は、現行の枠組みでは(TGCT)のにあたる。⭐ 手ではに次いで2番目に多い軟部腫瘍で、手指のに無痛性・緩徐増大の腫瘤として現れる(30〜40歳代、女性に多い)。
  • ⭐ が、かつての(PVNS)である。 の滑膜を広範に侵し、再発率20〜50%。と1つのにまとめられた。
  • ⭐ **CSF1 の転座(COL6A3 との融合など)による腫瘍性病変である。⚠️ **転座をもつのは腫瘍内の少数の細胞だけで、腫瘤の大部分はCSF1Rをもつ非腫瘍性マクロファージが呼び寄せられたものである。これがの根拠になっている。
  • MRIはT1・T2ともに低〜中等度信号で、によるが決め手。⚠️ T2で光らないので見落としやすい。単純X線でのびらんを見ることもある。
  • 治療の中心は切除(は、は)。⚠️ 局所再発が多く、手の症例では文献上15〜45%。標準化された手技で6%まで下げた報告もある。
  • 手術が選べないには(・)。ENLIVEN試験でRECIST39%対0%だが、⚠️ 疼痛の主要評価では有意差が無く、肝毒性がある。
  • ⚠️ 放射線治療はなどの懸念から一般に推奨されない。無症候例は経過観察でよい。

出典

  1. 1.Giant cell tumor of tendon sheath in the hand: analysis of risk factors for recurrence in 50 cases(BMC Musculoskeletal Disorders・2019)手の腱鞘巨細胞腫(GCTTS)の再発率と再発の危険因子を、同一術者による標準化された治療のもとで検討した後ろ向き研究(PMC6805347で全文を取得)。本論文の記述として、GCTTSが巨細胞腫のなかで最も多い型であり、手の領域ではガングリオンに次いで2番目に多い軟部腫瘍であること。病因は明らかでなく、炎症過程を伴う反応性または再生性の過形成が最も広く受け入れられてきた説であるが、近年の研究はこれらの腫瘍の大多数が染色体1p13を含む染色体転座を示すことを明らかにしたこと。あらゆる年齢に生じるが30〜40歳代にピークがあり女性に多いこと、通常は手指の掌側面に無痛性で緩徐に増大する腫瘤として現れること。単純X線はGCTTSが皮質骨のびらんを作り髄腔へ浸潤しうるため有用でありうること、MRIが最も有用な診断手段であり手術計画にも必要であること。標準治療は単純切除であり、主要な問題は高い再発率で、複数の研究で15〜45%と報告されていること。不完全切除は確立した危険因子として広く受け入れられていること、皮質骨の破壊・母指IP関節およびDIP関節への局在・変形性関節症の併存・複数の腫瘍が分離して存在する型・分裂像の多い腫瘍・摘出時の神経血管の剥離・不完全切除が再発を促す危険因子として挙げられていること。本研究では手関節より遠位のGCTTSと組織学的に診断され3年以上追跡された50例(女性34例・男性16例、手術時の平均年齢44.4±13.3歳)を解析し、平均追跡期間84.3±43.2か月で脱落例は無かったこと、4.5倍の拡大ルーペと駆血下の標準化された手技で切除したこと、再発は3例(6%)で、有意な再発の危険因子は母指以外の手指の指節間関節への腫瘍の近接のみであったこと、術後に大小の合併症は認められなかったこと。著者らは文献上で最も低い部類の再発率を示せたとしつつ、複数の手外科施設の成績を合わせた研究計画が必要であると結論していること閲覧 2026-09-02
  2. 2.A landscape effect in tenosynovial giant-cell tumor from activation of CSF1 expression by a translocation in a minority of tumor cells(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America・2006)腱滑膜巨細胞腫(TGCT)と色素性絨毛結節性滑膜炎(PVNS)を、反応性炎症性疾患の特徴とクローン性腫瘍性増殖の特徴の両方をもつ関連した病態と位置づけ、染色体1p13を含む転座がTGCTとPVNSの大多数の症例に存在することを確認し、1p13切断点の遺伝子がCSF1であることを示した研究。TGCT・PVNSの一部の症例でCSF1がCOL6A3(2q35)と融合していること、このCSF1転座がCSF1の過剰発現をもたらすこと。転座を有するTGCT・PVNSの症例では、転座は腫瘍内細胞の少数にのみ存在してその細胞だけがCSF1を発現し、大多数の細胞はCSF1Rを発現するがCSF1は発現しないこと。著者らは、腫瘍性細胞での異常なCSF1発現が非腫瘍性細胞の異常な集積を招いて腫瘤を形成する「腫瘍による landscaping 効果」を示唆すると結論していること(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02
  3. 3.Medical Management of Tenosynovial Giant Cell Tumor(Current Oncology Reports・2025)腱滑膜巨細胞腫(TGCT)の薬物治療を中心とした総説(PMC12328534で全文を取得)。本総説の記述として、TGCTがかつて色素性絨毛結節性滑膜炎または腱鞘巨細胞腫と呼ばれた、関節・滑液包・腱鞘の滑膜組織から発生するまれな良性腫瘍であること。発育様式と部位により2型に分類され、限局型(L-TGCT)は通常は膝・股関節や、しばしば手と手関節を含む小関節に単発の病変または結節として現れ、びまん型(D-TGCT)は膝・足関節・股関節などの大関節に多発結節として現れ、侵襲的に発育して滑膜を広範に侵すこと。発症は通常35〜50歳の若い成人であること。発生率のデータは限られており、限局型がおよそ100万人あたり10〜50、びまん型がおよそ100万人あたり5〜10と報告されていること。病態はCSF1遺伝子の再構成を特徴とし、CSF1はマクロファージの分化・増殖・生存を制御すること、報告されている染色体再構成にはCSF1をCOL6A3のコラーゲンプロモーターへつなぐt(1;2)転座があり、3側非翻訳領域の欠失によってCSF1が過剰発現すること、CSF1の過剰発現が腫瘍内の腫瘍性細胞の増殖と、CSF1受容体(CSF1R)を発現する非腫瘍性マクロファージの滑膜への集積を促すこと、CSF1がCSF1Rに結合してキナーゼ経路を活性化し腫瘍の増大を駆動すること。可能なら完全切除が現在の標準治療であり、限局型では辺縁切除が推奨され多くの患者で治癒しうること、びまん型では重大な合併症なく肉眼的完全切除が可能なら広範滑膜切除が望ましいこと、ただしびまん型の完全切除は難しく再発率は20〜50%と推定されること。無症候例や手術・全身治療の合併症の危険が大きい例では経過観察が推奨されること、未治療のびまん型61例の後ろ向き研究では中央値28か月の追跡で43%が安定・21%が改善・37%が悪化したこと(本総説が引用する報告)。放射線治療は早発性の関節症・関節硬直・線維化・放射線誘発肉腫・悪性転化の懸念があり一般に推奨されず多くの専門家は用いないこと。全身治療はCSF1/CSF1R経路を標的とし、CSF1R阻害薬のペキシダルチニブとビムセルチニブが米国でTGCTに承認されていること。ペキシダルチニブはCSF1Rに強い選択性をもつチロシンキナーゼ阻害薬でKITとFLT3-ITDも阻害し、TGCTに承認された最初の全身治療であること、米国・台湾・韓国で、重度の合併症または機能障害を伴い手術で改善が見込めない症候性TGCTの成人に承認されていること。第3相ENLIVEN試験は手術が推奨されない進行TGCT 120例を対象とし、第25週のRECISTによる奏効率がペキシダルチニブ群39%・プラセボ群0%(P<0.0001)、腫瘍体積スコアによる奏効率が56%対0%(P<0.0001)であったこと、患側関節の相対的可動域・身体機能・最悪時のこわばりの副次評価項目が改善した一方、第25週の疼痛反応の主要評価では有意差が無かったこと。同試験の主解析でグレード3/4の有害事象はペキシダルチニブ44%・プラセボ12%であり、頻度の高いものはAST・ALT・ALPの上昇と高血圧であったこと、3例で混合型または胆汁うっ滞型の肝毒性を示す肝酵素上昇が認められたこと。イマチニブは局所進行または再発したびまん型58例の後ろ向き研究でRECIST奏効率31%(追跡中央値52か月)であったこと(本総説が引用する報告)閲覧 2026-09-02
  4. 4.Diffuse-Type Tenosynovial Giant Cell Tumor: What Are the Important Findings on the Initial and Follow-Up MRI?(Cancers・2024)びまん型腱滑膜巨細胞腫の初回および経過観察のMRI読影を扱った総説。MRIが診断と治療計画の双方で第一に選ばれる検査であること、疑わしい症例の初回MRIを読むときに考えるべきこととして、①腱滑膜巨細胞腫に特徴的な所見はT1強調像・T2強調像のいずれでも低〜中等度信号を示し、ヘモジデリン沈着のためグラジエントエコー系列でブルーミングアーチファクトを生じること、②びまん型の可能性、すなわち浸潤性の辺縁を伴って滑膜が広範に侵されること、③切除可能性と進展範囲、を挙げていること。切除可能なら滑膜切除を行い、切除できなければコロニー刺激因子1受容体阻害薬による新しい全身治療が用いられること(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02