薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · B7 Vasodilators / 血管拡張薬

ベルイシグアト

vericiguat

分類
Vasodilators / 血管拡張薬
商品名(日本)
ベリキューボ
商品名(EU)
Verquvo
科目
Pharmacology
トピック
B7: Ca++-channel blockers and other vasodilators
承認適応
慢性心不全
副作用
低血圧
影響検査値
ヘモグロビン
相互作用
シルデナフィルタダラフィルリオシグアト

🧠 全体像:はと同じ(sGC)刺激薬だが、狙う病態が違う——がを狙うのに対し、はが低下した()の増悪後を狙う。⭐ NOに依存せず、しかもNOとにsGCを直接刺激してcGMP産生を増やす。心不全ではNO産生・sGC活性そのものが低下しているため、この経路を補うことに意味がある。⚠️ と機序が完全に重複するため、両薬の併用は禁忌——どちらのノートを見ていても必ず確認する。

薬効群の中での位置づけ

の治療は、/・β遮断薬・・阻害薬のが土台になる。はこのに加えて、症状が残る・増悪を繰り返す患者にする薬という位置づけである。

薬剤 標的 心不全での適応
sGCをNO非依存的に直接刺激→cGMP産生を増加 症候性で、直近の入院または外来での静注利尿薬使用歴がある例への1
同じくsGC刺激(NO+NO非依存刺激の二重機序) (PAH・手術不能CTEPH)。の適応は無い
/ + の基盤治療薬
阻害薬 阻害 の一つ。EFを問わず有効性が示されている

⭐ 「同じ標的、違う疾患」がこの薬の試験に出やすいポイント。 とはどちらもsGC刺激薬だが、開発された適応がPAH/CTEPH()と()で分かれており、互いの適応に承認されていない。

機序

flowchart TD
    A["心不全でNO産生低下・sGC活性低下"] --> B["cGMP産生が不足"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular smooth muscle relaxation'>血管平滑筋弛緩</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myocardial remodeling'>心筋リモデリング</span>抑制が働きにくい"]
    D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vericiguat'>ベルイシグアト</span>がsGCに直接結合"] --> E["NOに非依存的にsGCを刺激"]
    D --> F["内因性NOがあれば<span class='jp-term jp-term-diagram' title='synergistic'>相乗的</span>にsGC刺激を増強"]
    E --> G["cGMP産生が増加"]
    F --> G
    G --> H["血管拡張・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myocardial fibrosis'>心筋線維化</span>や肥大の抑制に働く"]

💡 「NO非依存的」と「NOと」の両方を持つのが鍵。 内因性NOが乏しい心不全患者でも直接sGCを刺激して薬効を出せる一方、NOが存在すればその効果をさらに増強する。この二面性はと共通する1。

適応

領域 使いどころ
米国 症候性の慢性心不全でEF 45%未満、かつ直近の心不全入院歴、または外来での静注利尿薬使用歴がある患者。・心不全入院のリスク低減が目的1
日本 「。ただし、の標準的な治療を受けている患者に限る」——入院歴の限定は効能・効果の文言には明記されていない2

⚠️ のの代わりにはならない。 VICTORIA試験の対象は阻害薬//・β遮断薬・MRAなど標準治療を受けている患者へのであり、を差し置いて開始する薬ではない3。

用法・用量

成人にはとして1回2.5 mgを1日1回、食後にから開始する。血圧・を確認しながら約2週間ごとに倍量し、1回10 mg1日1回の目標まで増量する(2.5 mg→5 mg→10 mgの2段階増量)12。

禁忌・注意

  • 禁忌:本剤成分への過敏症、⚠️ 他の()を投与中の患者(機序が重複するため)12
  • ⚠️ 妊娠の扱いは国で異なる。 米国添付文書は妊娠そのものを禁忌に含める(催奇形性のと連動)1。日本の電子添文では妊婦は禁忌ではなく、9.5「特定の背景を有する患者に関する注意」で「投与しないことが望ましい」という禁忌より弱い区分で扱われている2。
  • ⚠️ の。 でヒトの4倍以上で心臓・大血管の奇形や流産・吸収胚の増加が報告されており、挙児可能な女性は投与前に妊娠を除外し、投与中および中止後1か月は避妊する1
  • 阻害薬(・など)との併用は低血圧のおそれがあり推奨されない(禁忌ではない)1
  • 腎機能: 15 mL/min/1.73m²以上で透析なしならは不要。 15未満・透析中の患者では検討されていない1
  • 肝機能:分類A・Bでは不要。 Cでは検討されていない1

副作用

VICTORIA試験(群2,519例、プラセボ群2,515例、平均投与期間1年)でより高頻度だった有害事象1。

事象 群 プラセボ群
低血圧 16% 15%
貧血(ヘモグロビン低下) 10% 7%

日本の添付文書では低血圧が重大な副作用として挙げられ、での発現率は9.1%であった2。時も低血圧が主な懸念で、蛋白結合率が高いためでの除去は期待しにくい1。

まとめ

  • と同じsGC刺激薬だが、狙う病態はPAH/CTEPHではなく症候性の増悪後の治療。
  • NO非依存的な直接刺激とNOとのの二面性を持ち、NO-sGC-cGMP経路が低下した心不全を補う。
  • 用法は2.5 mg→5 mg→10 mgへ約2週ごとに倍量する。
  • ⚠️ との併用は禁忌。 のがあり、挙児可能な女性は投与前後の避妊が必須。妊娠の扱いは国で異なり、米国は禁忌に含めるが日本は禁忌より弱い「投与しないことが望ましい」という区分。
  • VICTORIA試験で・心不全入院のを有意に減少(35.5%対38.5%、HR 0.90)。
  • 主な副作用は低血圧・貧血。・高度/透析中は使用経験が乏しい。

出典

  1. 1.VERQUVO (vericiguat) tablets, for oral use — Highlights of Prescribing Information(DailyMed(U.S. National Library of Medicine)/Merck Sharp & Dohme・2021)適応(症候性慢性心不全でEF 45%未満、直近の心不全入院歴または外来での静注利尿薬使用歴がある患者に対する心血管死・心不全入院リスクの低減)、作用機序(sGCをNOに非依存的かつNOと相乗的に直接刺激しcGMP産生を増加)、用法・用量(1回2.5mgを1日1回食後から開始し、約2週間ごとに倍量して1回10mgの維持量へ)、禁忌(他のsGC刺激薬との併用、妊娠)、催奇形性についてのボックスド警告、VICTORIA試験での有害事象(低血圧16%対プラセボ15%、貧血10%対プラセボ7%)、腎機能障害(eGFR 15mL/min/1.73m²未満・透析中は未検討、それ以上は用量調節不要)、肝機能障害(Child-Pugh A・Bは用量調節不要、Cは未検討)、PDE5阻害薬との併用が低血圧のおそれから推奨されないことを確認した閲覧 2026-09-05
  2. 2.ベリキューボ錠2.5mg/5mg/10mg 添付文書(2022年9月改訂・第3版)(バイエル薬品株式会社(医薬品医療機器総合機構 掲載)・2022)効能・効果が「慢性心不全。ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る」であり米国のような直近入院歴の限定が明記されていないこと、用法・用量が1回2.5mgを1日1回食後投与から開始し2週間間隔で段階的に増量すること、禁忌が「本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者」と「可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬(リオシグアト)を投与中の患者」の2つのみであること(妊婦は禁忌ではなく、9.5「特定の背景を有する患者に関する注意」で「投与しないことが望ましい」という禁忌より弱い区分で扱われている)、重大な副作用として低血圧(臨床試験で9.1%、承認時の重大な副作用としての記載頻度7.4%)が挙げられていることを確認した閲覧 2026-09-05
  3. 3.Vericiguat in Patients with Heart Failure and Reduced Ejection Fraction(New England Journal of Medicine・2020)VICTORIA試験(NYHA心機能分類II〜IV、EF45%未満の慢性心不全患者5050例を対象としたプラセボ対照第III相試験)で、心血管死亡または心不全による入院の複合主要評価項目がベルイシグアト群35.5%・プラセボ群38.5%(ハザード比0.90、p=0.019)と有意に減少したことを確認した閲覧 2026-09-05