スコア体系ノート一覧へ

Scores · Published

HEARTスコア

HEART score

臓器系
循環器
科目
Internal MedicinePulmonology and Thoracic Surgery
トピック
内科学 L-14:胸痛の鑑別診断呼吸器内科 06:胸痛
構成:症状
胸痛
構成:検査値
心筋トロポニン
適用疾患
急性冠症候群

🧠 全体像:HEARTスコアは、救急外来の胸痛患者を History(病歴)・ECG(心電図)・Age(年齢)・Risk factors(危険因子)・Troponin() の5項目で採点するである。頭字語がそのまま構成要素になっている。⭐ 測っているのは「いまか」ではなく「数週間以内に主要心事故(MACE)を起こす確率」で、答えとして返ってくるのは診断名ではなく 帰宅させる/入院観察する/早期に侵襲的検査へ進む という処遇である。

何を評価するスコアか

内容
目的 胸痛患者の短期MACEリスクを層別化し、帰宅・観察・侵襲的検査の振り分けを決める
対象 救急外来を胸痛で受診した患者。は対象外——原法の集団からも搬送段階で除かれている1
使う場面 初回の心電図と採血が出そろった時点。診察の入口ではなく、最初の検査結果を解釈する段階で使う
評価しないもの ACS以外の致死的胸痛。・肺塞栓症・はこのスコアの外にある

構成要素と配点

各項目を0〜2点で採点し、合計0〜10点とする1。

項目 2点 1点 0点
History(病歴) 強く疑わしい 中等度に疑わしい 非特異的
ECG(心電図) 有意な・ST上昇(・・ジゴキシンの影響がない場合) 非特異的、、、ジゴキシンによる変化 正常
Age(年齢) 65歳以上 45〜65歳 45歳未満
Risk factors(危険因子) 3個以上、またはの既往 1〜2個 なし
Troponin() 基準値上限の2倍超 基準値上限の1〜2倍 基準値上限以下

危険因子として数えるのは糖尿病、喫煙(現在または1か月以内)、高血圧、、冠動脈疾患の家族歴、肥満である。冠・心筋梗塞・脳卒中・の既往があれば、危険因子の数によらず2点とする1。

💡 病歴だけがな項目である。 他の4項目は年齢・・既往で機械的に決まるのに対し、History の0/1/2はの解釈で動く。同じ患者でも診る人によって合計が1〜2点ずれうるのは、ほぼこの項目のせいである。

解釈とカットオフ

合計点 判定 原法(122例)のイベント率1 前向き検証(2440例)の6週間MACE2 対応
0〜3点 低リスク 2.5% 1.7%(全体の36.4%) 早期退院を検討する
4〜6点 20.3% 16.6% 入院して観察・追加評価
7〜10点 高リスク 72.7% 50.1% 早期の侵襲的戦略を検討する

2440例の前向き検証では、識別能を示すc統計量が0.83で、TIMI(0.75)・GRACE(0.70)を有意に上回った2。

💡 単回ので採点する原法には、時間軸が入っていない。 これを補うのがHEART Pathwayで、HEARTスコア0〜3点かつ0時間・3時間のがいずれも陰性の患者を早期退院に振り分ける。282例の無作為化試験では、30日以内の心臓検査が12.1%減り、在院時間が21.9時間から9.9時間へ短縮し、早期退院と判定された患者に30日以内のMACEは発生しなかった3。

限界と使ってはいけない場面

⚠️ 低リスクはゼロリスクではない。 0〜3点でも6週間MACEが1.7%残る2。「低値だったから胸痛は心臓ではない」と読み替えない。

⚠️ に使わない。 心電図でST上昇を認めた時点で採点する対象ではなく、再灌流治療の判断へ進む。原法の集団にもは含まれていない1。

⚠️ ACS以外の致死的胸痛を除外しない。 ・肺塞栓症・・心タンポナーデはHEARTスコアの点数に現れない。肺塞栓症を疑うならと、ならADD-RSというように、疑う疾患ごとに別のスコアが要る。

⚠️ の点数は測定系に依存する。 原法はの「基準値上限の1〜2倍/2倍超」で採点しており、を施設固有の閾値と0/1時間アルゴリズムで運用する現在の経路とは、同じ「陽性」でも意味が違う。施設の測定系と迅速経路に合わせて運用を決める。

まとめ

  • HEARTスコアは病歴・心電図・年齢・危険因子・を各0〜2点、計0〜10点で採点し、短期MACEリスクで処遇を決める。
  • 0〜3点は低リスク(6週間MACE 1.7%)、4〜6点は観察、7〜10点は早期侵襲的戦略が対応となる。
  • 低リスクでも1.7%が残る。ゼロリスクの意味に取らない。
  • 原法は単回で採点する。0/3時間の連続測定と組み合わせたHEART Pathwayが、早期退院の安全性を高める運用として検証されている。
  • 評価しているのはACSのリスクだけで、・肺塞栓症などは別のスコアと画像で除外する。

出典

  1. 1.Chest pain in the emergency room: value of the HEART score(Netherlands Heart Journal・2008)原法の配点を定義した論文である。病歴(非特異的0/中等度に疑わしい1/強く疑わしい2)、心電図(正常0/非特異的再分極異常・脚ブロック・左室肥大・ジゴキシンによる変化1/有意なST低下・上昇2)、年齢(45歳未満0/45〜65歳1/65歳以上2)、危険因子(なし0/1〜2個1/3個以上または動脈硬化性疾患の既往2)、トロポニンI(基準値以下0/基準値の1〜2倍1/2倍超2)で採点する。搬送中にST上昇を認めた患者は他院の冠動脈治療室へ直送されており、この研究集団に含まれていない。122例中120例の解析で、0〜3点のエンドポイント(急性心筋梗塞・血行再建・死亡)発生は2.5%、4〜6点は20.3%、7点以上は72.7%だった閲覧 2026-09-08
  2. 2.A prospective validation of the HEART score for chest pain patients at the emergency department(International Journal of Cardiology・2013)オランダ10施設の胸痛患者2440例の前向き検証で、HEARTスコア低値(0〜3点)は36.4%を占め6週間の主要心事故(MACE)発生は1.7%、4〜6点では16.6%、高値(7〜10点)では50.1%だった。c統計量0.83はTIMI(0.75)・GRACE(0.70)より有意に高い閲覧 2026-08-25
  3. 3.The HEART Pathway randomized trial: identifying emergency department patients with acute chest pain for early discharge(Circulation: Cardiovascular Quality and Outcomes・2015)ST上昇を伴わない急性冠症候群疑いの救急患者282例の無作為化試験で、HEARTスコアに0時間・3時間のトロポニン測定を組み合わせたHEART Pathway群は、通常診療群と比べて30日以内の心臓検査(負荷試験・血管造影)が12.1%(68.8%対56.7%)少なく、在院時間が9.9対21.9時間と短く、早期退院が21.3%(39.7%対18.4%)多かった。早期退院と判定された患者に30日以内の主要心事故は発生しなかった閲覧 2026-09-08