Genetics

Genetics · 8.2

進化遺伝学

Evolution genetics

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W12Lecture / 講義

🧠 進化遺伝学は「なぜ疾患を起こす遺伝子が集団からされずに残っているのか」というへの答えを探る学問として読む。 答えの核心は——嚢胞性線維症鎌状赤血球症といった重篤な劣性疾患の変異アレルは、状態でマラリア・結核といった感染症への抵抗性を与えるからこそ、集団内に高頻度で維持されている。自然選択は今なお、COVID-19やHIVという現代の感染症を通じて進行中である。

進化の定義と3つの選択機構

進化=生物・集団の遺伝的形質の源: 変異、遺伝的組換え(genetic recombination)、(例:細菌・ウイルス由来)。現代進化遺伝学はダーウィン進化論・遺伝学・分子遺伝学の統合から生まれた。

選択機構 内容
ある遺伝子が他より高い適応度をもち、頻度が増加し続ける
/浄化選択(negative/purifying selection) 有害な遺伝子が選択的に除去される
遺伝子を集団内で中間頻度に維持する(固定には至らない)——が典型例(特定の環境下で状態が有利になる)

ヒトにおける自然選択は今も進行中

感染症は最も強力なの1つ。 TYK2遺伝子のSNPによる発現増加はCOVID-19による死亡リスクを高める——現代のでさえとして作用しうる実例。

💡 ウイルス・細菌はヒトゲノムに「統合」されている——100個超の遺伝子が細菌由来、ゲノムの8%がウイルス由来。 感染症の選択効果は、単なる圧にとどまらず、ゲノムそのものの構成要素として痕跡を残す(07-1-introduction-to-genomicsの項も参照)。

症例:ノロウイルス抵抗性とFUT2遺伝子

FUT2(2)遺伝子の変異は欧州人口の20〜30%に存在し、・体液上でのABO式の前駆体であるの産生を阻害する(04-7-autosomal-recessive-inheritance-ar-iiのボンベイ型血液型の項も参照)。ノロウイルス感染は年間7億人・20万人の死亡をもたらす——FUT2欠損はノロウイルス・・HIV-1・SARSに対し部分的な保護を与える。

FUT2欠損は「」の教材でもある——利益と不利益が同じ遺伝子の中で綱引きする。 有利な効果:ノロウイルス・・HIV-1・SARSからの保護、ビタミン吸収の改善、の向上。不利な効果:の多様性低下・不利な組成による多疾患への素因(マウス実験ではFUT2欠損による不良なは単純糖質の投与で改善しうる)。人口の95%はに対する自然抵抗性をもつ。

ヘテロ接合体優位性の実例集

なぜ重篤な劣性疾患の変異アレルが集団から消えないのか——答えはほぼ例外なく「が何らかの感染症に強くなる」から。 以下の5つの実例はすべて同じ論理構造をもつ:は重篤な疾患を発症するが、(保因者)は特定の感染症・毒素に対する生存上の優位性を得る——の帰結として、これらの変異アレルは集団内に維持され続ける。

疾患 変異遺伝子 対抗する 機序
嚢胞性線維症(AR) CFTR ハンガリーで1/28 (過去200年で7回の世界的流行、1億人超死亡)——一部の理論では結核(1600〜1900年のの20%)にも部分的保護 CFTRはのCl⁻チャネルとして毒素誘発性下痢に関与、部分機能で下痢を軽減(04-1-monogenic-inheritanceも参照)
(AR) PAH 保因者>1:50 (Aspergillus・Penicillium産生、・流産誘発性の最も一般的な PKU保因者は血中濃度が高く、のN-アセチル誘導体でPhe-tRNA合成酵素を阻害)による流産誘発作用を——PKU女性はが少ない(04-6-autosomal-recessive-inheritance-ar-iも参照)
鎌状赤血球症(AR) HBB(Glu6Val置換) 保因者最大30% マラリア ヘモグロビンSは低酸素下で凝集しやすく、・マクロファージに貪食されごと除去される
(AR) HEXA(欠損) 系ユダヤ人で11% 結核 仮説:HEXA量が多く、これが抗酸菌に対しマクロファージの感受性を高め殺菌を促進——ヨーロッパの過密都市に隔離居住したユダヤ人集団で結核のが高かった
CCR5-Δ32 CCR5 ハンガリー人の約1/100がホモ接合(無症状) HIV はHIV感染に抵抗性、はAIDS進行を遅延——約7,000年前に出現、北欧でより高頻度。への抵抗性との関連も示唆される

その他の選択の実例

乳糖不耐症

成人の乳糖不耐性自体は疾患ではなく、乳糖分解酵素()遺伝子が成人期に発現低下する野生型の状態——ヨーロッパ人にみられる乳糖持続型バリアントは約7,500年前に現在のハンガリー領域で出現した。すべての変異は遺伝子の点上流の調節領域に位置する。

収斂進化:高地適応

=類似の環境的課題に対し、異なる機序(バリアント)で類似の表現型に到達する現象。チベット・アンデス・エチオピア高地の集団は、低・低温・乾燥気候・強い日射・価という高地環境の課題に対し、重複する遺伝子経路と異なる遺伝子経路の両方を用いた類似・相違する適応を遂げた。

皮膚色素沈着の主要決定因子

SLC24A5(A111T)・SLC45A2(L374F)——いずれもヨーロッパ人特有の明るい肌色に典型的なバリアント。8,500年前、現在のハンガリー領域には黒い肌の人々が居住していた(01-1-introduction-to-human-geneticsの青い目の起源も参照)。

⚠️ 現代のと日光曝露の関係が皮膚色進化の物語を反転させる。 白人集団では日光曝露に伴い頻度が増加する一方、カナダの黒人の100%がビタミンD欠乏——「かつて有利だった形質」が現代の生活様式・居住地の変化により不利に転じる例。シベリアのような極寒・農業不可能・(海産:セイウチ・アザラシ・クジラ)環境では、寒冷・動物性への選択(通常はを来す条件)が働く。

CPT1A遺伝子と北極圏適応

GWAS・NGSで同定されたCPT1A遺伝子パルミトイルトランスフェラーゼ1)のrs80356779(c.1436C>T、p.Pro479Leu)変異——通常の栄養条件下では低を招くが、この地域集団では68%という高頻度で維持されている(選択優位性)。温暖な気候へ移住すると発症リスクが顕在化する——環境依存的な適応の典型例。

現生人類のゲノムと絶滅人類種の混血

過去5万年の間に、ホモ・サピエンスのゲノムは他のヒト属と混血した——中東ではと部分的に混血、特定集団(由来配列をもつオーストラリア先住民・オセアニア人等)ではとの混血が確認されている——寒候・特定の感染症・低日照など有用な遺伝子variantが選択的に残存した(07-1-introduction-to-genomicsも参照)。

💡 「その形質は本当に、それを持つ個体に有利だから広まったのか?」——選択以外の説明も忘れてはならない。

選択以外の要因

による遺伝子頻度の変化——(小集団からの分岐、04-6-autosomal-recessive-inheritance-ar-iも参照)はその代表例。選択対象遺伝子とのも、見かけ上の選択パターンを生みうる。

症例:多面発現の実例(EDAR遺伝子・ACTN3遺伝子)

EDAR遺伝子バリアント(V370A、東アジア人): 太い毛髪、汗腺の増加、女性の乳房の縮小、特徴的な歯列という異質な表現型群を同時にもたらす——選択効果は寒冷適応と考えられている(04-8-sex-linked-inheritance系との違いに注意——別の遺伝子)。

3(ACTN3)遺伝子欠損は「悪いこと」ばかりではない——スプリンター遺伝子との対比が興味深い。 ACTN3は速筋線維に発現するタンパク——世界人口の20%が遺伝的にACTN3欠損(R577X変異)。欠損あり: 寒冷適応が良好、転倒しやすい、の進行が速い、平均余命が長い、血圧が低くが高い。欠損なし(ACTN3正常)=「スプリンター遺伝子」: 優れた短距離走者はこの遺伝子を欠かない、が多く脂肪量が少ない。

まとめ

  • 進化は変異・組換え・を源とし、・負の(浄化)選択・という3機構で進む。感染症は現在も強力なであり続けている(TYK2とCOVID-19が現代の実例)。
  • FUT2遺伝子はノロウイルス等への抵抗性との多様性低下という相反する効果を併せもつの例。
  • CF・PKU・鎌状赤血球症・・CCR5-Δ32は、いずれもが感染症(・マラリア・結核・HIV等)や毒素への抵抗性を得るというの枠組みで、重篤な劣性疾患の変異アレルが集団内に維持される理由を説明する。
  • 乳糖持続性・高地適応()・(SLC24A5/SLC45A2)・CPT1A(北極圏適応)は、いずれも特定環境への進化的適応の実例で、環境が変わればかつての適応が不利に転じうる(リスク顕在化)。
  • 現代人ゲノムはとの混血の痕跡を残す。は、自然選択とは独立に遺伝子頻度を変化させうる要因で、EDAR・ACTN3遺伝子はそのの実例を提供する。