生理学

生理学 · 2.10

循環の神経体液性・反射性調節:圧受容器反射と化学受容器反射。心血管中枢。

Neurohormonal and reflex control of circulation: baroreceptor and chemoreceptor reflexes. Cardiovascular centers.

応用トピック
慢性心不全―病因、症状、診断高血圧I―病因と診断窒息の分類と徴候機械的窒息の種類高血圧の診断・合併症・血圧目標失神の鑑別診断分娩中の胎児機能不全の検出心拍陣痛図薬剤性有害反応:起立性低血圧

🧠 循環の反射調節は「速い(, baroreceptor)」「遅い(, renin-angiotensin system)」「もう一つの速い(低=容量センサー)」「化学的(, chemoreceptor)」の4系統として整理する。 すべてが同じ延髄の心血管中枢(→中枢→)というを通るが、何を感知するか(圧・容量・化学組成)で反応の速さと目的が異なる。

心血管中枢と自律神経支配

ΔP=Q×R(Q=ΔP/R)\Delta P = Q \times R \quad (Q = \Delta P / R)

: を通した平均圧、正常約93mmHg。交感神経活動がなければ約50mmHgに低下し、最大交感神経活動では約150mmHgまで上昇しうる——交感神経のがMAPの土台を作っていることを意味する。

交感神経は以下を支配する:

標的 効果
(細動脈など) TPRを決定(細動脈が最大の寄与)
(静脈・) 交感神経活動で→静脈還流↑
心臓(SA/AV結節・心筋) 変時・変伝導・
flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='afferent pathway'>求心路</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='baroreceptor'>圧受容器</span>(圧変化)・心肺受容器・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chemoreceptor'>化学受容器</span>(化学的変化)"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasomotor center'>血管運動中枢</span><br>昇圧域(RVLM)・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antihypertensive (blood-pressure lowering)'>降圧</span>域(CVLM)・副交感<span class='jp-term jp-term-diagram' title='preganglionic neurons'>節前ニューロン</span>"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='efferent pathway'>遠心路</span>:交感神経・副交感神経"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='effector'>効果器</span>:心臓・血管"]

高圧受容器

で、圧/伸展に応答する。動脈圧上昇→↑、低下→↓。急激な圧変化(起立時 orthostasisなど)に最も強く応答する。

速い高圧受容器反射

部位 感受範囲 求心神経
50–200 mmHg 神経(, glossopharyngeal nerve)
100–200 mmHg 迷走神経

両者とも延髄のへ投射する。

💡 は圧の絶対値だけでなくにも応じて閾値を移動させる(リセッティング)。 に血圧が高い状態が続くと、自体の圧-発火閾値曲線がより高い圧の方向へシフトし、同じ動脈圧でも発火が減る(末梢性リセッティング)。加えて求心性活動をへ変換する中枢側の結合様式が変わる「中枢性リセッティング」もあり、両者は内(瞬時)・急性(短時間の圧上昇後)・慢性(血管構造の変化を伴う)と異なる時間スケールで生じる1。この機構ゆえに、は「血圧の絶対値」ではなく「その人にとっての新しいからの変化」を守る調節系になっている——患者でが高い血圧をそのまま容認してしまう一因でもある。

flowchart TD
  A["血圧変化"] --> B{"高血圧 or 低血圧?"}
  B -->|"高血圧"| C["副交感神経活性化<br>SA/AV結節のmAChR→頻度・伝導↓→CO↓"]
  B -->|"低血圧"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sympathetic activation'>交感神経活性化</span>"]
  D --> E["β1受容体(SA/AV結節・心室)→変時・変伝導・変力↑→CO↑"]
  D --> F["α1受容体(細動脈)→血管収縮→TPR↑・静脈還流↑→CO↑"]

遅い高圧受容器系:レニン-アンジオテンシン系

のが圧の低下を感知する。

プロレニン→レニン→をANG I に変換→(肺・腎の, angiotensin-converting enzyme)→ANG II\text{プロレニン} \to \text{レニン} \to \text{をANG I に変換} \to (\text{肺・腎の, angiotensin-converting enzyme}) \to \text{ANG II}

ANG IIの効果(本質:血液量↑→血圧↑):

  • 副腎皮質を刺激し→・集合管でNa⁺再吸収↑→↑→血液量↑
  • 視床下部を刺激し口渇+ADH分泌→飲水↑+集合管での↑→血液量↑

低圧受容器

静脈系内に位置するため「低圧」——血液量の増加を感知する。・下大静脈・が心房に入る手前、および両心房に受容体が存在する。

血液量↑(例:輸液)→↑→受容体刺激→HR↑+ホルモン調節(ANP↑, RAS↓)→Na+排泄↑→血液量↓\text{血液量↑(例:輸液)} \to \text{↑} \to \text{受容体刺激} \to \text{HR↑} + \text{ホルモン調節(ANP↑, RAS↓)} \to \text{Na}^+\text{排泄↑} \to \text{血液量↓}

⚠️ 「↑→HR↑」という部分(Bainbridge反射)を、確立したとして断定しすぎない。 この反応はSir Arthur Bainbridgeが麻酔下のイヌで最初に実証したものであり、イヌでは追試により反射の存在がおおむね確認されているが、ヒトでこの反射を支持する証拠は乏しい2。教科書的な図式としては上の連鎖で覚えてよいが、「ヒトでも同じ強さで働く」と過信しないこと。

機構 効果
ANP(atrial natriuretic peptide, ) ↑に応じて分泌。血管拡張→血圧↓。腎でNa⁺・H₂O排泄↑→血液量↓
ADH分泌抑制 の情報が視床下部に投射しADH分泌を抑制→↓
腎血管拡張 腎細動脈の交感神経性血管収縮を抑制→濾過↑→Na⁺・H₂O排泄↑

⭐ は「今すぐの圧」を、低は「体内の血液量」をモニターする——目的の違いが受容体の位置(動脈側 vs 静脈・心房側)に対応している。

化学受容器

呼吸を調節し、を高める。低酸素・高CO₂に感受性がある他、K⁺・pH・浸透圧にも反応する。

末梢化学受容器

()・(carotid body、分岐部)。主にpO₂低下に感受性、pCO₂上昇・pH低下にも反応する。pO₂低下→求心性発火↑→交感神経性血管収縮中枢の活性化→骨格筋の(酸素を脳など必要な場所へ温存)+必要な部位での血管拡張。

中枢化学受容器

安静時を担う。に位置し、pCO₂とpHに最も敏感(O₂への感受性は低い)。のpH変化に応答する。

↓→pCO2↑,pH↓(・H+生成)→→強い→TPR↑→血流を脳へ再分配\text{↓} \to \text{pCO}_2\uparrow, \text{pH}\downarrow(\text{・H}^+\text{生成}) \to \text{} \to \text{強い} \to \text{TPR}\uparrow \to \text{血流を脳へ再分配}

クッシング反射

の働きを示す例。

頭蓋内圧↑→脳動脈圧迫→↓→活性化→+\text{頭蓋内圧↑} \to \text{脳動脈圧迫} \to \text{↓} \to \text{活性化} \to \text{+}

→ ICP上昇による動脈圧上昇をが感知→副交感神経活性化→HR↓。

要約:ICP↑→HR↓+BP↑\text{要約:ICP}\uparrow \to \text{HR}\downarrow + \text{BP}\uparrow

⚠️ (徐脈+高血圧)は頭蓋内圧亢進の。 を守るために血圧を上げる代償反応が、を介してな徐脈を伴う点が臨床的に重要。

まとめ

  • 心血管中枢は(圧・)→(昇圧域/域)→(交感/副交感)というで構成される。
  • (・)は速い圧調節、RASは遅い圧調節(血液量↑経由)を担う。
  • 低(心肺受容器)は血液量をモニターし、ANP↑・ADH↓・腎血管拡張でNa⁺利尿を促す。
  • はpO₂低下に、はpCO₂/pHに主に応答し、(ICP↑→HR↓+BP↑)はこの経路の代表例。

出典

  1. 1.Peripheral and central mechanisms of baroreflex resetting(Clinical and Experimental Pharmacology and Physiology Supplement・1989)総説で、圧受容器反射のリセッティングには「末梢性」(圧受容器自体の圧-発火閾値曲線が、持続する動脈圧の方向へシフトする現象。慢性高血圧など圧上昇が持続すると閾値が上昇し同じ圧での発火が減る)と「中枢性」(求心性活動から遠心性活動への中枢内の結合様式が変化する現象)の2種類があること、末梢性リセッティングは心周期内(瞬時性)・急性(短時間の圧上昇後)・慢性(持続的な血管構造変化を伴う)の時間スケールで生じることを確認した閲覧 2026-08-26
  2. 2.Physiology, Bainbridge Reflex(StatPearls Publishing・2023)静脈還流・心房内圧の上昇に伴う心拍数増加(Bainbridge反射)はSir Arthur Bainbridgeが麻酔下のイヌで最初に実証した反射であり、その後の再現実験では結果が一致せず、多くの研究でイヌではこの反射の存在が確認される一方、ヒトではこの反射を支持する証拠が乏しいことを確認した(動物=イヌのデータが主体、ヒトでの証拠は限定的)閲覧 2026-08-26