疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 耳鼻咽喉科 · 疾患

耳小骨連鎖の離断と固着

Ossicular chain discontinuity and fixation

臓器系
耳鼻咽喉科
科目
ENT
トピック
耳鼻咽喉科 02:中耳の解剖・生理と耳管の機能・診察耳鼻咽喉科 12:慢性中耳炎の種類耳鼻咽喉科 17:耳硬化症の臨床像・診断・治療耳鼻咽喉科 18:外耳・中耳・内耳の外傷
鑑別疾患
鼓室硬化症耳硬化症
症状
伝音難聴耳鳴
原因となる疾患
急性中耳炎・慢性中耳炎(滲出性中耳炎を含む)側頭骨骨折

🧠 全体像の異常は、伝わるべき振動が途切れる(か、動くべき関節が動かない(かという、互いに逆向きの2つの機序で同じを来す。は外傷・による耳小骨の破壊・吸収で連鎖の途中に隙間ができる病態、・先天性形成異常などで耳小骨や関節が骨性・線維性に固まって動かなくなる病態である。どちらもと同じ「鼓膜は正常なのにがある」という入口を共有し、確定はと術中所見に委ねられる。

病態と分類

の3骨が関節で連結し、鼓膜の振動をへ伝える整合装置である。この連鎖のどこかが物理的に途切れる、あるいは本来動くべき部分が固まって動かなくなると、鼓膜振動がへ伝わらずを来す。

機序 何が起こるか 代表的な原因
連鎖の一部が破壊・吸収され、振動が途中で途切れる による
本来動くはずの骨・関節が骨性・線維性に固まり動かない 、先天性、外傷後の癒着
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ossicular chain'>耳小骨連鎖</span>の異常"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='avulsion'>離断</span>か<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fixation'>固着</span>か"}
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='avulsion'>離断</span>"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='temporal-bone trauma'>側頭骨外傷</span>"]
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='avulsion'>離断</span>"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic otitis media'>慢性中耳炎</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cholesteatoma'>真珠腫</span>による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone resorption'>骨吸収</span>"]
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fixation'>固着</span>"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tympanosclerosis'>鼓室硬化症</span>(既往の炎症)"]
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fixation'>固着</span>"| F["先天性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stapes fixation'>アブミ骨固着</span>(形成異常)"]
    C --> G["連鎖の途中に間隙"]
    D --> G
    E --> H["関節・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='floor plate'>底板</span>が動かない"]
    F --> H
    G --> I["振動が伝わらず<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conductive hearing loss'>伝音難聴</span>"]
    H --> I

💡 も広い意味では「」の一種(による)だが、原因不明の原発性疾患として別に扱う。本項は以外のを扱う。

離断(耳小骨連鎖離断)

外傷性

の主因で、によるが最も多い。を伴わなくても連鎖がすることがある1で受診した患者全体の4%は、受傷6週間の時点で残存するを認め、その原因はと考えられるとする報告があり、後にが遷延する場合は本症を疑う1

手術所見ではキヌタ・が最も一般的な部位とされる一方、CT画像上ではツチ・キヌタ関節のが最も高頻度に指摘される(キヌタ・はCTでの評価が難しい)1は血流に乏しく外傷・慢性炎症の影響を受けやすい部位でもある。

慢性中耳炎・真珠腫による吸収性離断

では、持続する炎症・・酵素性のによって耳小骨、特にが徐々に吸収され、連鎖が途切れる。ではが耳小骨に及ぶ前に手術介入することが望ましいが、進行例では術中にが判明することも多い。

⚠️ に伴うは、原病変()の根治なしに耳小骨だけを再建しても再発・再を来しうるため、まずを優先する。

固着(耳小骨の固着)

は、耳小骨そのものではなく関節・が異常に硬くなり可動性を失う病態である。原因によって・先天性に大別され、いずれもとは成り立ちが異なる(は慢性炎症後の続発性変化、そのものの原発性)。

先天性アブミ骨固着

先天性は、の輪状の形成異常によりが固定される、先天性耳小骨異常のなかで最も頻度が高い病態である。1970〜2017年の人口ベース調査では、年齢・性補正したは10万人年あたり0.28で、対象期間中に16例(うち8例は術中にを確認)が同定された2

⭐ 先天性は、いずれも小児〜若年でを来す点で似るが、次の点で区別される2

項目 先天性
成り立ち 輪状の形成異常
経過 出生時から進行しない 緩徐進行性
手術成績(閉鎖) よりやや劣る傾向 比較的良好

⚠️ 先天性は他の耳小骨奇形(キヌタ・の異常など)を合併することがあり、術前ので随伴奇形の有無を確認してから手術計画を立てる。

臨床像・診断

とも、鼓膜は正常に見えるのに聞こえが悪いという入口を共有する。

検査 で典型的な所見 で典型的な所見
陰性、が患側へ側方化 同左
。連鎖が過可動になるためが良好な帯域を含むことがある が進行性・非進行性いずれもありうる
の高いピーク(Ad型)を示すことがある 型Aまたは浅い型As
消失または異常なことが多い によりなし・異常
連鎖の間隙、との関係を評価 ・関節周囲のを評価

⚠️ CTで全てのが明らかになるわけではなく、確定診断は術中の中耳探索による場合がある1

治療

方針 適応・注記
経過観察・補聴器 手術を望まない、または適さない場合の中心的選択肢
連鎖の間隙を組織で架橋する。受傷から手術までの間隔は平均5年を超えるとする報告があり、急性期を過ぎてから計画することが多い1
に小開窓を作りピストン型を留置する。先天性ではより閉鎖率がやや劣る傾向がある2

に対するでは、が平均35 dB閉鎖し、70%を超える症例で術後20 dB未満まで改善したとする報告がある1

鑑別

はいずれもと並んで、の鑑別に挙がる。に限局した原発性のは既往の中耳炎後に残る続発性の石灰化病変である点が、外傷歴・の既往・先天性の非進行性経過を手がかりとする本症との違いになる。

まとめ

  • の異常は、連鎖が途切れる「」と、動くべき部分が固まる「」という逆向きの機序で、共通してを来す。
  • の主因は(キヌタ・が手術所見で最多)とによるである。
  • の代表は先天性輪状の形成異常、出生時から進行しない)で、進行性のと鑑別する。
  • 鼓膜は正常に見えるのにがあるという入口はと共通し、確定はと術中所見に委ねられる。

出典

  1. 1.Ossicular-Chain Dislocation(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)耳小骨連鎖離断の主因は側頭骨外傷(交通外傷・転落・対人暴力が多い)で、側頭骨骨折を伴わなくても生じうること。手術所見ではキヌタ・アブミ関節が最も一般的な離断部位である一方、CT画像ではツチ・キヌタ関節脱臼が最も高頻度に指摘されること。頭部外傷で受診した患者全体の4%が、受傷6週間の時点で残存する伝音難聴を認め、その原因は耳小骨連鎖離断と考えられること。CTで全ての離断が明らかになるわけではなく、術中の中耳探索でのみ確定する例があること。受傷から手術までの平均間隔は5年を超え、耳小骨形成術で気骨導差は平均35 dB閉鎖し70%超が術後気骨導差20 dB未満を達成すること閲覧 2026-08-11
  2. 2.Incidence of Congenital Stapes Footplate Fixation Since 1970: A Population-based Study(Otology & Neurotology・2020)1970〜2017年の人口ベース調査で、先天性アブミ骨底板固着の年齢・性補正累積発生率は10万人年あたり0.28、外科的に確認された症例を含む16例が同定され(8例は術中確認)、診断時年齢中央値は8歳、16例中3例(19%)が両側性であったこと。診断時の純音聴力平均値の中央値は37 dBで、生涯にわたり進行しない伝音難聴という点で若年発症・進行性の若年性耳硬化症と鑑別されること。術後残存気骨導差の中央値は10 dBで、気骨導差閉鎖率は若年性耳硬化症より劣る傾向にあること閲覧 2026-08-11