薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · B1 Other / その他

デフィブロチド

defibrotide

分類
Other / その他
商品名(日本)
デファイテリオ
商品名(EU)
Defitelio
科目
Pharmacology
トピック
B1: Drugs influencing blood coagulation I: Antiplatelet agents. Fibrinolytic drugs. Drugs inhibiting bleeding
承認適応
肝類洞閉塞症候群
副作用
低血圧下痢嘔吐悪心
相互作用
アルテプラーゼヘパリン

🧠 全体像:は単一の分子ではない。⭐ ブタ腸管組織から得られる、主として一本鎖のの(14〜19 kDa)であり、「の構造式が1つに描けない薬」である1。⚠️ 作用機序も完全には解明されていない——添付文書自身が「not been fully elucidated」と書き、国際グループも「なお活発な研究対象」としたうえで、内皮細胞の保護と血栓・線溶バランスの回復という2要素からなると整理している2。それでもでは、⭐ 重症・最重症の治療で有効性が証明された唯一の薬剤である2。⚠️ 主な有害事象は出血で、全身性の抗凝固薬・との併用は禁忌である1。

薬効群の中での位置づけ

薬 何をするか 位置づけ
傷ついたを守り、内皮上の血栓・線溶バランスを線溶側へ戻す(・を増やし、・を減らす)1 ⭐ すでにできた血栓を溶かす薬ではない。 内皮の障害が起点であるに固有の治療
・ を活性化して血栓そのものを溶かす 急性の(心筋梗塞・・肺塞栓)
ヘパリンなどの抗凝固薬 を止めて血栓の形成を防ぐ ⚠️ の予防には推奨されない(本症では発症リスクを有意に下げない)

⭐ 「抗凝固ではなく内皮を守る」という発想が、この薬をこの疾患に結び付けている。 はのでが剥がれ落ちる病態であり、抗凝固薬で止められる種類の血栓症ではない。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conditioning'>前処置</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='toxic metabolite'>毒性代謝物</span>が<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='sinusoidal endothelial cell'>類洞内皮細胞</span>を傷害"] --> B["内皮の活性化と剥離<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='von Willebrand factor'>vWF</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasminogen activator inhibitor-1'>PAI-1</span>の発現増加"]
    B --> C["微小循環レベルの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombus formation'>血栓形成</span>と<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='sinusoids'>類洞</span>の閉塞"]
    D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='defibrotide'>デフィブロチド</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polydeoxyribonucleotide'>ポリデオキシリボヌクレオチド</span>の混合物)"] -.->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue plasminogen activator'>tPA</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombomodulin'>トロンボモジュリン</span>の発現を増やす"| E["内皮を介する線溶が高まる"]
    D -.->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='von Willebrand factor'>vWF</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasminogen activator inhibitor-1'>PAI-1</span>の発現を減らす"| F["内皮の活性化が抑えられる"]
    D -.->|"化学療法・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor necrosis factor-alpha'>TNF-α</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='serum starvation'>血清飢餓</span>・灌流による<br>傷害から内皮を保護"| G["内皮細胞そのものが守られる"]
    E --> H["血栓・線溶バランスが回復する"]
    F --> H
    G --> H

💡 標的は血栓ではなく内皮である。 in vitroではによるフィブリン分解を促進する作用も示されるが1、臨床での位置づけは「」ではなくに近い。⚠️ ただしをマーカーとする探索的解析では、例・100日生存例でベースラインより低下する傾向はあったものの統計学的有意には至らなかった1。機序が完全には詰め切れていないことの一例である。

薬物動態

項目 値・特徴
(2時間かけて)1
蛋白結合 平均93%1
半減期 ⭐ 2時間未満。でも蓄積しない1
代謝 ヒト肝細胞ではほとんど代謝されない。ヌクレアーゼ等による段階的な分解が想定される1
重度・ではが50〜60%高いが、では除去されない1
相互作用 治療域の用量ではは起こりにくい1

適応

⚠️ 日本と米国で適応の範囲が違う。

地域
米国(DEFITELIO) 後の肝VOD/SOSのうち、⚠️ または肺機能障害を伴う成人・小児1
日本(デファイテリオ静注200mg、2019年9月販売開始) ⭐ 「()」。⚠️ 腎・肺機能障害の併存は要件になっていない3

⭐ 有効性の根拠:を伴う重症例102例に25 mg/kg/日を投与した第3相試験で、移植後100日が38.2%対25%(推定差23%、95.1%CI 5.2〜40.8、調整解析でP=.0109)、100日時点のが25.5%対12.5%(P=.0160)であった4。添付文書は3試験の100日を38%・44%・45%と示し、本剤以外の介入を受けた同様の患者の期待を21〜31%としている1。

💡 なぜなのか。 無治療の合併VOD/SOSの死亡率が80%を超えるため、や支持療法のみへのが倫理的に不可能だった。6867例の診療録から盲検下の独立レビュアーが対照32例を選ぶという方法が採られ、著者らはこれを高死亡率のに対する新しい第3相評価の手法と位置づけている4。⚠️ ではないという限界は残る。

用法・用量

6.25 mg/kgを6時間ごと(=25 mg/kg/日)、1回2時間かけてする。13

  • 体重は前の値を用いる1。
  • 最低21日間投与し、21日で徴候・症状が消えていなければ消失するまで、最長60日まで続ける1。
  • 投与前に、臨床的に問題となる出血がないことと、が1剤以下で血行動態が安定していることを確認する1。
  • 0.2ミクロンのを用い、投与直前・直後にラインを5%ブドウ糖液またはでフラッシュする。⚠️ 同一ラインで他の静注薬と同時投与しない1。

禁忌・注意

⚠️⚠️ 出血が最大の問題である。

  • 禁忌(米国):⚠️ 全身性の抗凝固薬またはとの併用、本剤・への過敏症1
  • 禁忌(日本):過敏症の既往、⚠️ 出血している患者(、、等)、⚠️ を投与中の患者3
  • ⚠️ 「併用注意」ではなく「禁忌」である。 ヘパリンやの作用を増強するため、開始前に抗凝固薬・を中止し、抗凝固作用が消えるまで開始を遅らせることを考慮する(中心静脈カテーテルの維持・に使う分は除く)1。
  • ⚠️⚠️ が存在しない。 線溶促進作用に対する既知のリバース薬はなく、の少なくとも2時間前に投与を中止し、処置に伴う出血リスクが解消してから再開する1。
  • 出血時の対応:持続する・重篤な・生命を脅かしうる出血ではし、原因を治療して支持療法を行う。止血して血行動態が安定すれば同量・同容量で再開を検討する。⚠️ 重大な出血を繰り返した場合は恒久的に中止する1。
  • ⚠️ 過敏症反応が2%未満に生じる(皮疹・蕁麻疹・)。⚠️ 既に本剤の投与歴がある患者でアナフィラキシーが1例報告されている——再投与時にとくに注意する。重度・生命を脅かす反応が起きたら恒久的に中止する1。日本の電子添文もショック・アナフィラキシーを重大な副作用に挙げている3。

副作用

176例(年齢中央値25歳、生後1か月〜72歳)での成績1。

副作用 全グレード Grade 4-5
低血圧 37% 7%
下痢 24% 0
嘔吐 18% 0
悪心 16% 0
14% 0
肺胞出血 9% 7%
消化管出血 9% 3%
3% 2%

⚠️ 何らかの型・グレードの出血は104例(59%)に生じ、うち35例(20%)がGrade 4-5であった1。恒久的中止に至った副作用は情報のある102例中35例(34%)で、内訳は肺胞出血5例、・低血圧・・が各3例、・敗血症が各2例である1。

💡 第3相試験では、出血性有害事象の頻度はと同程度であった(肺胞出血11.8%対15.6%、消化管出血7.8%対9.4%)4。⭐ 出血の多くは薬ではなく背景の病態(重症VOD/SOSと移植後の血小板減少)によると読むのが妥当で、「を使うと出血が増える」と単純に暗記しない。ただし薬剤側の寄与を否定するデータでもなく、監視は必須である。

まとめ

  • ⭐ 単一分子ではなく、ブタ腸管由来の(主に一本鎖)の(14〜19 kDa)。
  • ⚠️ 作用機序は完全には解明されていない。 内皮細胞の保護と血栓・線溶バランスの回復という2要素からなると整理され、・の発現増加と・の発現低下が示されている。
  • で重症・最重症に対して有効性が証明された唯一の薬剤。 第3相試験で100日38.2%対25%。⚠️ ではない。
  • 6.25 mg/kgを6時間ごと(25 mg/kg/日)、2時間かけて、最低21日間(最長60日)。
  • ⚠️ 主な有害事象は出血(何らかの出血が59%、Grade 4-5が20%)と低血圧。⚠️ 全身性の抗凝固薬・との併用は禁忌で、⚠️ がないための2時間以上前に中止する。
  • 日本では2019年9月に「()」の適応で販売開始。⚠️ 米国と違い、腎・肺機能障害の併存は適応の要件になっていない。

出典

  1. 1.DEFITELIO (defibrotide sodium) injection, for intravenous use — Prescribing Information(DailyMed(U.S. National Library of Medicine)/Jazz Pharmaceuticals・2025)openFDAのラベルAPI経由でSPL全文(effective_time 2025年7月1日)を確認した。米国の適応が造血幹細胞移植後に腎機能障害または肺機能障害を伴う肝中心静脈閉塞症(VOD)/肝類洞閉塞症候群(SOS)を発症した成人・小児の治療であること、デフィブロチドナトリウムがブタ腸管組織由来で主として一本鎖のポリデオキシリボヌクレオチドナトリウム塩の多分散混合物であり重量平均分子量が14〜19 kDaであること、作用機序が完全には解明されていないこと(原文 "The mechanism of action of defibrotide sodium has not been fully elucidated")、in vitroでプラスミンがフィブリン凝塊を加水分解する酵素活性を高めること、ヒト微小血管内皮細胞株を用いた検討でtPAとトロンボモジュリンの発現を増やしvon Willebrand因子とPAI-1の発現を減らして内皮細胞の活性化を抑え内皮細胞を介する線溶を高めること、化学療法・TNF-α・血清飢餓・灌流による傷害から内皮細胞を保護すること、用量が成人・小児とも6.25 mg/kgを6時間ごとに2時間かけて静脈内投与し、体重は前処置前の値を用い、最低21日間投与して徴候・症状が消失しなければ消失まで(最長60日まで)継続すること、禁忌が全身性の抗凝固薬または線溶薬との併用および本剤・添加物への過敏症であること、警告が出血と過敏症反応であり出血のある患者には投与を開始せず出血を来したら中止して原因を治療すること、抗凝固薬・線溶薬は本剤の開始前に中止し抗凝固作用が消えるまで開始を遅らせることを考慮すること、線溶促進作用に対する既知の中和薬が存在せず観血的処置の少なくとも2時間前に投与を中止すること、過敏症反応が2%未満に生じ発疹・蕁麻疹・血管性浮腫を含み既投与歴のある患者でアナフィラキシーが1例報告されたこと、安全性が176例(年齢中央値25歳、範囲生後1か月〜72歳)で評価され、10%以上の副作用が低血圧37%(Grade 4-5が7%)・下痢24%・嘔吐18%・悪心16%・鼻出血14%であったこと、いずれかの型・グレードの出血事象が104例(59%)に報告されGrade 4-5が35例(20%)であったこと、5%以上の重篤な副作用が低血圧11%と肺胞出血7%であったこと、恒久的中止に至った副作用が情報のある102例中35例(34%)でありその内訳が肺胞出血5例(5%)、肺出血・低血圧・カテーテル刺入部出血・多臓器不全が各3例(3%)、脳出血と敗血症が各2例(2%)であったこと、有効性が移植後100日生存率に基づき、Study 1で38%(95%CI 29〜48%)、Study 2で44%(95%CI 33〜55%)、拡大アクセス試験のStudy 3で45%(95%CI 40〜51%)であり、支持療法または本剤以外の介入を受けた同様の患者の期待100日生存率が21〜31%とされていること、半減期が2時間未満で反復投与による蓄積がないこと、重度腎機能障害・末期腎不全ではAUCが50〜60%高いが血液透析では除去されないこと、治療域の用量では薬物動態学的相互作用は起こりにくいことを確認した。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Prophylactic, preemptive, and curative treatment for sinusoidal obstruction syndrome/veno-occlusive disease in adult patients: a position statement from an international expert group(Bone Marrow Transplantation・2020)Europe PMC経由でPMC7051913の全文XMLを取得して該当箇所を確認した。デフィブロチドが重症・最重症の類洞閉塞症候群/肝中心静脈閉塞症の治療に対して有効性が証明された唯一の薬剤であること(原文 "DF is the only agent with proven efficacy for the treatment of severe/very severe SOS/VOD")、デフィブロチドが微小血管のレベルで抗血栓作用・抗虚血作用・抗炎症作用をもつ多分散オリゴヌクレオチドであること、本症における正確な作用機序はなお活発な研究対象であるが内皮細胞の保護と血栓・線溶バランスの回復という2つの要素からなること、高用量メチルプレドニゾロン単独を長期の一次治療として用いることはデータが乏しく用量も定まらず高用量ステロイドに伴う感染症の危険があるため推奨しないとされたことを確認した。閲覧 2026-09-03
  3. 3.デファイテリオ静注200mg(デフィブロチドナトリウム)電子添文(独立行政法人医薬品医療機器総合機構・2026)電子添文(2026年8月改訂・第3版)の本文を確認した。販売名がデファイテリオ静注200mg、一般名がデフィブロチドナトリウム静注で販売開始が2019年9月であること、効能・効果が「肝類洞閉塞症候群(肝中心静脈閉塞症)」であり米国のように腎機能障害・肺機能障害の併存を要件としていないこと、用法・用量が通常デフィブロチドナトリウムとして1回6.25 mg/kgを1日4回、2時間かけて静脈内投与することであること、禁忌が本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者、出血している患者(脳出血、肺出血、血胸等)、血栓溶解剤を投与中の患者であること、重大な副作用がショック・アナフィラキシー、重篤な出血(脳出血、肺出血等)、低血圧であること、その他の主な副作用が鼻出血・潮紅・凝血異常・悪心・嘔吐・頭痛であること、薬効薬理が血管内皮細胞保護を通じた凝固・線溶系への作用であることを確認した。閲覧 2026-09-03
  4. 4.Phase 3 trial of defibrotide for the treatment of severe veno-occlusive disease and multi-organ failure(Blood・2016)Europe PMC経由で抄録を確認した(PMID 26825712)。無治療の多臓器不全を伴う肝VOD/SOSの死亡率が80%超であること、確立した肝VOD/SOSと進行した多臓器不全を有する患者102例にデフィブロチド25 mg/kg/日を投与し、6867例のHSCT患者の診療録から盲検下の独立レビュアーが選んだ歴史的対照32例と比較したこと、主要評価項目である移植後100日生存率がデフィブロチド群38.2%・対照群25%(推定差23%、95.1%CI 5.2〜40.8、傾向スコア調整解析でP=.0109)であったこと、100日時点の完全奏効率が25.5%対12.5%(差19%、95.1%CI 3.5〜34.6、P=.0160)であったこと、関連有害事象が出血または低血圧であり肺胞出血(11.8%対15.6%)・消化管出血(7.8%対9.4%)など高頻度の出血性有害事象の頻度は両群で同程度であったこと、歴史的対照を用いる方法論が高い死亡率を伴う希少疾患の第3相評価に対する新しい有意義な手法であると結論されたことを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-03