薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · B35 Targeted cancer therapy / 分子標的薬

ツシジノスタット

tucidinostat

分類
Targeted cancer therapy / 分子標的薬
商品名(日本)
ハイヤスタ
科目
Pharmacology
トピック
B35: Drugs used in cancer treatment V (Small molecule signal transduction inhibitors. Retinoids)
承認適応
成人T細胞白血病リンパ腫
副作用
下痢悪心嘔吐
監視検査値
血小板減少好中球減少リンパ球減少

🧠 全体像:ツシジノスタットは、クラスI (HDAC1・2・3)とクラスIIbのHDAC10を選択的に阻害する経口の阻害薬で、再発・難治()に日本で承認された初の阻害薬である。⭐ 同じ再発・難治の選択肢であるバレメトスタットと対比すると理解が深まる——バレメトスタットがを標的にするのに対し、ツシジノスタットはヒストンのを止めることでクロマチンを開く、逆方向の機序を持つ。

薬効群の中での位置づけ

標的・分類 代表薬 特徴
選択的阻害(経口) ツシジノスタット クラスI(HDAC1・2・3)+クラスIIb(HDAC10)に選択的。・PTCLに日本で承認
阻害(経口) クラスI(1・2・3)+クラスIIb(HDAC6)まで広く阻害
クラスI選択的阻害(静注) HDAC1・2に強く選択的。の
EZH1/EZH2デュアル阻害(ヒストンメチル化) バレメトスタット ではなくメチル化を標的とする、逆方向の機序

⭐ 同じ阻害薬でも「どのまで効くか」が薬ごとに違う。 ツシジノスタットはHDAC1・2・3・10に選択的で、が併せて阻害するHDAC6(主に細胞質でなどの非ヒストン基質を)への作用は乏しい。この選択性の違いが副作用プロファイルの違いにつながるという考え方は、との対比と同じ枠組みで理解できる。

機序

flowchart TD
    A["ツシジノスタットを<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oral'>経口投与</span>"] --> B["クラスI <span class='jp-term jp-term-diagram' title='histone deacetylase'>HDAC</span>(HDAC1・2・3)と<br>クラスIIb HDAC10の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='catalytic center'>触媒中心</span>の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='zinc ion'>亜鉛イオン</span>に結合"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deacetylation'>脱アセチル化</span>活性を阻害"]
    C --> D["ヒストンのアセチル化が蓄積し<br>クロマチンが開いた状態になる"]
    D --> E["抑制されていた<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor suppressor genes'>腫瘍抑制遺伝子</span>・<br>免疫関連遺伝子の転写が変化"]
    E --> F["腫瘍細胞の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='apoptosis induction'>アポトーシス誘導</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='cell cycle arrest'>細胞周期停止</span>、免疫応答の活性化"]

💡 阻害薬は「ヒストンのアセチル化を保つ」ことでクロマチンを開いた状態に近づける薬とまとめると覚えやすい。 がヒストンに残ると、とヒストンの静電的な結合が緩み、転写因子がアクセスしやすい「開いたクロマチン」状態になる。これによって、の過程で抑制されていたや免疫関連遺伝子の転写が再開される。ベンズアミド構造を持つことは同じ阻害薬(エンチノスタットなど)との構造的な共通点として押さえておく。

適応

再発又は難治性の()、および再発又は難治性の(PTCL)。化学療法との標準治療に失敗した再発・難治ATLL 23例を対象とした国内第2相b試験では、30.4%(中央値1.7か月・中央値7.9か月)が示された1。⭐ 病型によるの差が大きい。 同試験では、いったんした後に再発した「再発ATLL」で80.0%と高いが得られた一方、既存治療下でが進行していた「ATLL」では23.1%、初回治療から反応が乏しい「難治ATLL」では例が無かった——の勢いが強いほど効きにくいという傾向は、他の治療薬にも共通する実地の感覚と符合する1。

用法・用量

通常、成人にはツシジノスタットとして1日1回40mgを週2回、3又は4日間隔で食後にする。患者の状態により適宜減量する(添付文書の記載。第2相b試験そのものは「週2回」投与とのみ報告している)2 1。

禁忌・注意

  • ⚠️ が最も高頻度で高度な有害事象。 PTCLを対象とした55例の第2相b試験では、Grade3以上の血小板減少が51%、好中球減少が36%、が22%、が20%と、いずれも高頻度に報告されている3。サイクルごとの血算モニタリングが必須である。
  • 消化器症状:下痢・悪心・嘔吐などが高頻度に生じる。
  • 感染症のリスク:を背景とした感染症の増加に注意する。
  • 妊娠可能な患者では、標的薬に共通する胚・胎児への影響が懸念されるため、投与中の適切な避妊が必要になる。

まとめ

  • ツシジノスタットは、クラスI (HDAC1・2・3)とクラスIIb HDAC10を選択的に阻害する経口の阻害薬。に日本で承認された初の阻害薬。
  • 再発・難治ATLL 23例の第2相b試験で30.4%、中央値7.9か月。再発ATLLで80.0%と高い一方、難治ATLLでは例が無かった——病型による効きやすさの差が大きい。
  • 用法・用量は40mgを週2回、食後に。
  • 主な注意点はGrade3以上の(血小板減少51%・好中球減少36%など、PTCL 55例の試験より)で、サイクルごとの血算モニタリングが欠かせない。
  • 同じ再発・難治の選択肢であるバレメトスタットとは、を止めるか、メチル化を止めるかという逆方向の機序で対比される。

出典

  1. 1.Oral histone deacetylase inhibitor tucidinostat (HBI-8000) in patients with relapsed or refractory adult T-cell leukemia/lymphoma: Phase IIb results(Cancer Science・2022)化学療法とモガムリズマブの標準治療に失敗した再発・難治ATLL 23例を対象とした国内多施設第2相b試験で、ツシジノスタット40mgを週2回経口投与したこと、全奏効率が30.4%(95%信頼区間13.2〜52.9)であったこと、無増悪生存期間中央値が1.7か月・奏効期間中央値が9.2か月・全生存期間中央値が7.9か月であったこと、病型別の奏効率が再発ATLLで80.0%(5例中4例)・再燃ATLLで23.1%(13例中3例)・難治ATLLで0%と大きく異なっていたこと、全例に有害事象が発現し血液毒性と消化器症状が中心であったことを確認した閲覧 2026-09-05
  2. 2.ハイヤスタ錠10mg 添付文書(PMDA(医薬品医療機器総合機構)/Meiji Seikaファルマ・2025)ハイヤスタ(ツシジノスタット)錠10mgの添付文書(2025年4月改訂第8版)の用法及び用量に「通常、成人にはツシジノスタットとして1日1回40mgを週2回、3又は4日間隔で食後に経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。」と記載されていることを確認した閲覧 2026-09-05
  3. 3.Oral HDAC inhibitor tucidinostat in patients with relapsed or refractory peripheral T-cell lymphoma: phase IIb results(Haematologica・2022)再発・難治末梢性T細胞リンパ腫(PTCL、組み入れ基準はPTCL-NOS・血管免疫芽球性T細胞リンパ腫・退形成大細胞リンパ腫などの特定サブタイプに限定され、ATLLは対象に含まれない)に対しツシジノスタット40mgを週2回経口投与した55例の第2相b試験で、Grade3以上の有害事象として血小板減少51%(55例中28例)・好中球減少36%(20例)・リンパ球減少22%(12例)・白血球減少20%(11例)が20%以上の頻度で報告されたことを確認した閲覧 2026-09-05