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Microbe Atlas · 細菌

Mycobacterium leprae

らい菌

分類
抗酸菌 / Acid-fastMycobacterium
性状
抗酸菌 Acid-fast桿菌 Bacilli
科目
Medical Microbiology
トピック
2/34: Causative agents of human tuberculosis, Mycobacterium leprae5/1: Bacteria causing skin and wound infections (list) and their diagnosis
原因となる疾患
ハンセン病
作用する薬剤
クロファジミンダプソンプロチオナミドリファンピシン

🧠 全体像:もマクロファージに隠れる抗酸菌だが、と違うのは菌自体ではなく宿主の細胞性免疫(CMI)の強さが病型を決めるという点。強いTH1優位のCMIは菌を少数病変に封じ込めるを、弱いCMI・TH2優位のは菌が全身に広がるを生む——この1本の軸での臨床像・・感染性のすべてが説明できる。低温を好むため皮膚・末梢神経という体温の低い部位を選んで侵す点は、が酸素の豊富な肺を好む理由と対をなす。

微生物学的な特徴

項目 内容
染色性 グラム染色では染まりにくい抗酸菌(でがを保持)
形態 桿菌(「葉巻状」に配列)
至適温度 低温を好む——皮膚・末梢神経・上気道粘膜など体温の低い部位で増殖
——(皮膚マクロファージ)、、内で増殖

⚠️ 人工培地では培養できない。 増殖させるにはや体温の低いといった動物を用いるほかなく、このため培養による確定診断ができず、・生検が診断の中心になる。

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["Mycobacterium leprae感染<br>(曝露者の最大95%は発症しない。<br>潜伏期は2〜20年、さらに長いこともある)"] --> B{"宿主の細胞性免疫(CMI)は?"}
    B -->|"強い(TH1優位)"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tuberculoid leprosy'>類結核型</span><br>少数病変・非対称性神経障害・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lepromin'>レプロミン</span>陽性"]
    B -->|"弱い(TH2優位・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='humoral immunity'>液性免疫</span>優位)"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lepromatous leprosy'>らい腫型</span><br>多数病変・対称性神経障害・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lepromin'>レプロミン</span>陰性<br>高い感染性"]
項目
位置づけ 側の限局病型。感染性はほぼない 側のびまん病型。未治療では感染性が高いが治療開始後は速やかに低下する
細胞性免疫 強い(TH1優位) 弱い、優位(TH2優位)
陽性 陰性
組織内菌量 皮膚生検でごく少数〜検出なし 皮膚生検で多数、血中にも検出
皮膚病変 少数の境界明瞭な 多数の境界不明瞭な丘疹・結節
神経病変 局在性・非対称性の末梢神経障害 広範・比較的対称性の末梢神経障害。進行例で・鼻変形(獅子様)

💡 こそがの障害の本体。 末梢神経障害による痛覚・温度覚の消失は、気づかれない外傷・熱傷・潰瘍を積み重ね、二次的な変形・切断へつながる——菌そのものが組織を壊すのではなく、感覚を奪うことで防御反応が働かなくなる点が障害の核心である。

感染経路と疫学

  • 主なはヒト。と少数の他の動物にもがある1
  • 伝播は未治療患者との長期・濃厚接触による鼻・口からのが主体と考えられる。⭐ 握手・抱擁・会食・隣に座るといったな接触では広がらず、治療を開始した時点で伝播は止まる2
  • 潜伏期は幅が大きく、2〜20年、さらに長いこともある。💡 菌に曝露された者の最大95%は発症しない——菌量よりもが発症を左右することの疫学的な裏づけである1
  • 120か国超で年間約20万の新規例が報告される。2024年のデータではブラジル・インド・インドネシアが各1万例超を報告している2

起こす疾患:ハンセン病

実務ではの・分類を用い、免疫学的スペクトラム名だけで治療期間を決めない。

分類 基準 推奨(MDT)
皮膚病変1〜5個で、に菌を認めない リファンピシン++を6か月
皮膚病変5個超、または神経病変を伴う(純神経型を含む)、または病変数を問わずで菌が証明された 同じ3剤を12か月

💡 も3剤になったのは2018年の改訂による。 それ以前の標準はリファンピシンとの2剤6か月だった。3剤へ揃えた理由は、3剤6か月のほうが臨床転帰がよいとする根拠があること、同一のパックで両型を扱えること、そしてをと誤分類しても全員が3剤を受けられることである。一方でを6か月へ短縮する案は、再発増加の懸念があり根拠不十分として採られなかった1

⚠️ この治療推奨はGRADEでいう conditional(弱い推奨)である。 原文の助動詞は「may be used」であり、強い推奨ではない。エビデンスの質は巻頭の推奨一覧では low とされているが、本文の推奨文との根拠説明ではいずれも very low と書かれており、同じ文書の中で格付けが割れている1。どちらを採っても「弱い推奨・低い質のエビデンス」という読み方は変わらない

リファンピシン耐性例には第二選択の組み合わせがある(いずれも conditional、に基づく)。

耐性の型 最初の6か月 続く18か月
リファンピシン耐性 ・・キノロン(、、)のうち2剤以上+を毎日 +1剤
リファンピシン+耐性 キノロンを使わず、++ +または

の疾患ノートに、病型別の合併症・機能障害予防の詳細をまとめてある。

らい反応と神経炎

⚠️ は「治療中」に限らない。 治療開始前・治療中・治療終了後のいずれにも起こる。1型反応は細胞性免疫が急激に変化するで、らいの初発症状としても、中にも、治療終了後3〜4年たってからも起こりうる。💡 の開始そのものが1型反応を誘発しやすい——菌が急速に殺されて免疫系が立ち上がるためと考えられている3

項目 1型反応 2型反応(らい性紅斑)
機序 組織内の菌に対する細胞性免疫の急激な変化() 菌量の多い病型に起こる多臓器性・性の病態
起こる病型 らいの初発症状としても、治療中・治療後にも ・境界で菌量が多い例
頻度 発症リスクが高いのはで障害度グレード2を伴う例で、それ以外は中〜低リスクとされる3 全らい患者の1.2%、の15.4%が発症。症例集積では最大50%との報告もある3
皮膚 既存の皮疹の腫脹・発赤・熱感・疼痛。重症例では 有痛性の皮下結節、発熱、全身症状
反復 単回で自然に収まることもある を繰り返すことが多い

⚠️ ステロイドの適応は「皮疹が派手かどうか」ではなく神経機能である。 神経機能の喪失が最も重要な適応で、ステロイドは急性に対する唯一の証明された治療である。適応となるのは①を生じるほど重症、または・で制御できない1型反応、②新たな神経機能障害として現れる。⭐ は疼痛も症状も伴わない形をとることがあるため、定期的な神経機能評価なしには見逃す3

  • 標準は経口。は体重1kgあたり0.5〜1.0mg/日で、多くの場面では0.5mg/kgが第1コースの適切な開始量にあたり、成人の大半では30mgまたは40mg/日に相当する。近年の研究では20週間のコースが最良の結果を与えるとされる3
  • らい性紅斑では・・がやより良好な結果を与える。ステロイド不応例・例・重篤な併存症のある例ではまたはを追加・第二選択として用いる
  • ⚠️ 慢性化したらい性紅斑への長期ステロイドは害が大きい。エチオピアのコホートでは敗血症などステロイド関併症による9%の死亡が報告されている3

診断

診断は臨床的に行う。 は次の3つを基本徴候と呼び、少なくとも1つを満たせばと診断する2。

  1. 淡色()または赤色の皮疹における明らかな
  2. 末梢神経の肥厚・腫大で、またはその神経が支配する筋の筋力低下を伴うもの
  3. での抗酸菌の顕微鏡的検出
  • はを用い、必要に応じ皮膚生検で・肉芽腫と菌量を評価する。は診断を「臨床診察に基づいて、や生検の病理検査を併用してもしなくてもよい」としており、これも conditional・エビデンスの質 low の推奨である1
  • ⚠️ 血清抗体検査はの診断には使えない。 と横流れ式アッセイはに対する診断精度が低い。は精度が高いものもあるが標準化されておらずもされていないため、一次医療の現場では実施が難しい1
  • ⚠️ 無症候のに対して「潜伏らい」を診断する検査は推奨されない。 発症を予測する検査のが低いためである1
  • は細胞性免疫と病型分類の参考にはなるが、そのものには用いない(陽性・陰性というパターンは病型判定の補助)

予防

  • 患者をに隔離せず、と推奨MDTで感染源を治療する
  • ⭐ 患者の発見と治療だけでは伝播を断ち切れないことが実証されている。 そのためWHOは家庭内・近隣・のスクリーニングと、単回リファンピシンによる曝露後予防を組み合わせて勧めている2
  • 曝露後予防の対象は2歳以上の成人および小児ので、活動性のらいと結核を除外し、他の禁忌がないことを確認したうえで投与する。根拠となったCOLEP試験では発症リスクが2年後に57%、5〜6年後に30%低下した1
  • ⚠️ この推奨は conditional・エビデンスの質 moderate で、かつ実施主体に条件が付いている——①を適切に管理でき、②発端患者本人が自分の病名を開示することに同意している、という2点を担保できるプログラムだけが実施すべきとされる。は強い偏見を伴うため、家族外のでは特に慎重さが求められる1

まとめ

  • 低温を好むで、人工培地では培養不能(・が必要)。
  • 病型を決めるのは菌ではなく宿主のCMIの強さ——強いCMIは(少数病変・非対称性神経障害・陽性)、弱いCMIは(多数病変・対称性神経障害・陰性・高感染性)を生む。
  • が末梢神経障害の中核で、気づかれない外傷の蓄積が変形・切断につながる。
  • 実務はの(MDT6か月)・(MDT12か月)分類で治療期間を決める。2018年の改訂でも3剤になった(それ以前はリファンピシンとの2剤)。
  • 診断は基本徴候3つのうち1つ以上を満たすかで臨床的に行う。血清抗体検査はに使えず、無症候の潜伏らいを診断する検査も推奨されない。
  • への単回リファンピシンによる曝露後予防が推奨されるが、conditional な推奨であり、管理のと発端患者の同意を担保できるプログラムに限られる。
  • は治療前・治療中・治療終了後いずれにも起こる。ステロイドの適応は皮疹の派手さではなく神経機能の喪失で、症状のないを拾うには定期的な神経機能評価が要る。0.5〜1.0mg/kg/日で開始し20週間かけてするのが現行の目安。

出典

  1. 1.Guidelines for the diagnosis, treatment and prevention of leprosy(World Health Organization・2018)発行元のPDF全文(106ページ)を取得して確認した(2026-09-28に再取得。who.int の item ページからは直接落ちず、Wayback 保存版の apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/274127/9789290226383-eng.pdf を --compressed 付き curl で取得して pymupdf で抽出)。推奨は3領域ともGRADEで conditional(弱い推奨)である。治療は「The same 3-drug regimen of rifampicin, dapsone and clofazimine may be used for all leprosy patients, with a duration of treatment of 6 months for PB leprosy and of 12 months for MB leprosy」で強さは conditional。⚠️ エビデンスの質は巻頭の推奨一覧(Area of the recommendation の表)では low だが、本文2.1の推奨文は「conditional recommendation, very low-quality evidence」、少菌型の根拠説明も「a conditional recommendation based on very low quality evidence」で、同じ文書の中で割れている。これは少菌型の従来標準(リファンピシンとダプソンの2剤6か月)からの変更であり、多菌型を少菌型と誤分類した場合の影響を減らせること、同一のブリスターパックで両型を扱えることが利点として挙げられている。多菌型の6か月化はエビデンスが限定的で再発増加の懸念があるため支持されなかったこと。リファンピシン耐性例はクラリスロマイシン・ミノサイクリン・キノロン(オフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン)のうち2剤以上とクロファジミンを毎日6か月、続いてクロファジミンと第二選択薬1剤を18か月追加する(conditional・エビデンスなし=専門家意見)。オフロキサシン耐性も併存する場合はキノロンを用いず、クラリスロマイシン・ミノサイクリン・クロファジミンを6か月、続いてクラリスロマイシンまたはミノサイクリンとクロファジミンを18か月追加する。診断は「may be based on clinical examination, with or without slit-skin smears or pathological examination of biopsies」(conditional・low)で、ELISAと横流れ式アッセイは少菌型の診断精度が低く、PCRは精度が高いものが一部あるが標準化されておらず市販されていないこと。無症候の接触者における感染(潜伏らい)を診断する検査は推奨されないこと(conditional・low)。曝露後予防は「Single-dose rifampicin (SDR) may be used as leprosy preventive treatment for contacts of leprosy patients (adults and children aged 2 years and above), after excluding leprosy and tuberculosis (TB) disease, and in the absence of other contraindications」で conditional・moderate、かつ接触者の適切な管理と index case の疾患開示への同意を確保できるプログラムのみが実施すべきとされること。COLEP試験で2年後57%・5〜6年後30%のらい発症リスク低下が示されたこと。潜伏期は「The incubation time is variable, ranging from 2 to 20 years, or longer」。菌に曝露された者の最大95%は発症せず宿主免疫が重要な役割を果たすこと。アルマジロと少数の他の動物に病原巣があること。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Leprosy(World Health Organization・2026)2026年1月23日付の本文を取得して確認した。伝播が未治療患者の鼻・口からの飛沫を介した長期かつ濃厚な接触によると考えられ、握手・抱擁・会食・隣席といった日常的接触では広がらないこと、「The patient stops transmitting the disease upon initiation of treatment」として治療開始により伝播が止まると記載されること。診断は臨床的で、3つの基本徴候(淡色または赤色の皮疹における明らかな感覚脱失、感覚脱失または支配筋の筋力低下を伴う末梢神経の肥厚・腫大、皮膚スメアでの抗酸菌の顕微鏡的検出)の少なくとも1つで診断すること。少菌型が皮膚病変1〜5個で皮膚スメアに菌を認めないもの、多菌型が皮膚病変5個超、または神経病変を伴うもの(純神経型、あるいは病変数を問わず神経炎を伴うもの)、または病変数にかかわらず皮膚スメアで菌が証明されたものであること。現行の推奨治療がダプソン・リファンピシン・クロファジミンの3剤による多剤併用療法で、同一処方を少菌型は6か月、多菌型は12か月続けること。予防については「Case detection and treatment with MDT alone have proven insufficient to interrupt transmission」として、家庭内・近隣・社会的接触者のスクリーニングと単回リファンピシンによる曝露後予防を推奨すること。120か国超で年間約20万の新規例が報告され、2024年のデータでブラジル・インド・インドネシアが各1万例超を報告していること。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Leprosy/Hansen Disease: Management of reactions and prevention of disabilities(World Health Organization・2020)発行元のPDF全文(本文78ページ)を取得して確認した(2026-09-28に再取得。iris.who.int/server/api/core/bitstreams/c3ad484c-764d-4675-a049-da90bc83643c/content から取得して pymupdf で抽出)。反応の発症リスクの層別化が第4.2節に表として置かれ、High risk が「Multibacillary case with grade-2 disability」、Medium - Low Risk が「All other cases」であり、高リスク例は多剤併用療法中に注意深く監視すべきとされること。らい反応は治療開始前・治療中・治療終了後のいずれにも起こる臨床事象であること(「occurring before, during and even after completion of treatment」)。1型反応(reversal reaction)は細胞性免疫の急激な変化による遅延型過敏反応で、らいの初発症状としても、多剤併用療法中にも、治療終了後3〜4年後にも起こりうること、多剤併用療法の開始自体が1型反応を誘発しやすいこと。皮膚だけの1型反応は自然に収まることが多いが、しばしば1本以上の神経の炎症(神経炎)を伴い、これが重大な帰結をもたらすこと。2型反応(らい性紅斑=ENL)はらい腫型・境界らい腫型で菌量の多い患者に起こる多臓器性・再燃性の病態で、公表データの総説では全らい患者の1.2%・らい腫型の15.4%が発症し、症例集積では最大50%との報告もあること。ステロイドの適応は、皮膚潰瘍を生じるほど重症かパラセタモール・NSAIDsで制御できない1型反応と、新たな神経機能障害の出現として現れる神経炎であり、神経炎は症状を伴わない silent なこともあること。経口プレドニゾロンが標準で、開始用量は体重1kgあたり0.5〜1.0mg/日、多くの場面では0.5mg/kgが第1コースの適切な開始量で成人の大半では30mgまたは40mg/日に相当し、最近の研究では20週間のコースが最良の結果を与えること。神経機能の喪失がステロイド治療の最も重要な適応であり、ステロイドが急性神経炎に対する唯一の証明された治療であること。ENLではプレドニゾロン・サリドマイド・クロファジミンがNSAIDsやペントキシフィリンより良好な結果を与え、ステロイド不応例・ステロイド依存例・重篤な併存症のある例ではサリドマイドまたはクロファジミンを追加・第二選択として用いること。慢性ENLへの長期ステロイドは重篤な有害事象を伴い、エチオピアのコホートでは敗血症などステロイド関連合併症による9%の死亡が報告されたこと。閲覧 2026-09-27