Microbe Atlas · 細菌
Mycobacterium kansasii
- 分類
- 抗酸菌 / Acid-fastMycobacterium
- 性状
- 抗酸菌 Acid-fast桿菌 Bacilli
- 科目
- Medical Microbiology
- トピック
- 2/34: Causative agents of human tuberculosis, Mycobacterium leprae2/33: Actinomyces and Nocardia genus, atypical and apathogenic mycobacteria
- 原因となる疾患
- 非結核性抗酸菌症
🧠 全体像:M. kansasiiは非結核性抗酸菌 nontuberculous mycobacteria, NTM 非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteria, NTM) nontuberculous mycobacteria, NTM(非結核性抗酸菌) の中でも臨床像・胸部画像が結核に最もよく似る種で、水系(水道水)からの環境曝露で肺に定着する。Runyon分類Runyon classification Runyon分類(Runyon classification)Runyon classification(Runyon分類) ではI群(緩徐発育・光発色性photochromogen光発色性(photochromogen)photochromogen(光発色性))に位置づけられ、基礎に構造的肺疾患 structural lung disease 構造的肺疾患(structural lung disease) structural lung disease(構造的肺疾患) を持つ中高年男性の慢性肺感染が典型像である。本菌でも空洞型と結節・気管支拡張型が区別され、それが投与間隔 dosing interval 投与間隔(dosing interval) dosing interval(投与間隔) の推奨を分ける点はMACと共通だが、治療の骨格がマクロライドではなくリファンピシンであるところが決定的に違う。
微生物学的な特徴
- RunyonI群:緩徐発育・光発色性photochromogen光発色性(photochromogen)photochromogen(光発色性)——暗所で培養すると無色だが、光に曝露すると黄色色素を産生する。Runyon分類Runyon classification Runyon分類(Runyon classification)Runyon classification(Runyon分類) 全体の枠組みはMACMAC(Mycobacterium avium complex)のノートを参照
- 抗酸菌に共通する性質(グラム染色不可、Ziehl-Neelsen陽性)を持つ
- 水道水・水系タンクなど人工的な水環境に生息し、土壌からの検出はまれ。飲用水の給水口を膜濾過して調べた古典的な調査では、米国の一地域の19か所のうち8か所から潜在的に病原性のある本菌が分離されており、配管内の水が供給源になることが早くから示されている1
感染経路と疫学
- 水系からの吸入・接触が主経路——ヒト-ヒト感染は起こさない
- 基礎に構造的肺疾患 structural lung disease 構造的肺疾患(structural lung disease) structural lung disease(構造的肺疾患) (COPDCOPD(chronic obstructive pulmonary disease)、気管支拡張症bronchiectasis気管支拡張症(bronchiectasis)bronchiectasis(気管支拡張症)、陳旧性結核瘢痕old healed tuberculous scar陳旧性結核瘢痕(old healed tuberculous scar)old healed tuberculous scar(陳旧性結核瘢痕)、じん肺pneumoconiosisじん肺(pneumoconiosis)pneumoconiosis(じん肺))を持つ中高年男性に多い
- 免疫不全者HIV/AIDS 免疫不全者(HIV/AIDS)HIV/AIDS(免疫不全者) では播種性感染 disseminated infection 播種性感染(disseminated infection) disseminated infection(播種性感染) も起こしうるが、MACほど高頻度ではない
起こす疾患
| 病型 | 特徴 |
|---|---|
| 肺感染 | 結核に酷似した空洞性病変 cavitary lesion空洞性病変(cavitary lesion) cavitary lesion(空洞性病変)・浸潤影。慢性の咳・喀痰・体重減少で緩徐に進行 |
| 播種性感染disseminated infection播種性感染(disseminated infection)disseminated infection(播種性感染) | 進行したHIVHIV(human immunodeficiency virus)/AIDSAIDS(acquired immunodeficiency syndrome)など重度免疫不全 severe immunosuppression 重度免疫不全(severe immunosuppression) severe immunosuppression(重度免疫不全) でまれに起こる |
| 皮膚・軟部組織感染skin and soft tissue infection皮膚・軟部組織感染(skin and soft tissue infection)skin and soft tissue infection(皮膚・軟部組織感染) | まれ |
診断
喀痰の抗酸菌塗抹 acid-fast smear抗酸菌塗抹(acid-fast smear) acid-fast smear(抗酸菌塗抹)・培養で検出するが、塗抹・培養陽性だけでは結核と区別できない——菌種同定 species-level identification 菌種同定(species-level identification) species-level identification(菌種同定) (分子生物学的検査molecular methods分子生物学的検査(molecular methods)molecular methods(分子生物学的検査))まで行って初めてNTMNTM(nontuberculous mycobacteria)感染と確定する。NTM肺疾患の診断は、①呼吸器または全身症状、②画像所見(胸部X線での結節性または空洞性陰影、あるいはHRCTHRCT(high-resolution computed tomography)での多発小結節 lesser tubercle 小結節(lesser tubercle) lesser tubercle(小結節) を伴う気管支拡張)、③微生物学的所見(喀痰2検体以上の培養陽性、気管支洗浄液bronchial washing fluid 気管支洗浄液(bronchial washing fluid)bronchial washing fluid(気管支洗浄液) 1検体以上の培養陽性、または生検組織 biopsy specimen 生検組織(biopsy specimen) biopsy specimen(生検組織) の抗酸菌組織像+培養陽性)の3基準をすべて満たし、他疾患を適切に除外して確定する2。
⭐ 「培養1回陽性では治療を始めない」という一般則は、本菌にはそのまま当てはまらない。 NTMの病原性は菌種によって大きく異なり、ヒトにほとんど疾患を起こさないM. gordonaeとは対照的に、M. kansasiiは通常は病原性があるものとみなすべき菌に位置づけられる——適切な臨床的文脈 context 臨床的文脈(context) context(臨床的文脈) があれば、1回の培養陽性が治療開始の根拠として十分になりうる2。
💡 感受性検査susceptibility test 感受性検査(susceptibility test)susceptibility test(感受性検査) で見るべき薬剤はリファンピシンである。 本菌で in vitro 活性と治療反応の相関が記録されているのはリファンピシンであり、この薬剤については経験的治療 empiric therapy 経験的治療(empiric therapy) empiric therapy(経験的治療) よりも感受性に基づく治療が提案されている。一方でイソニアジド isoniazid, Hイソニアジド(isoniazid, H) isoniazid, H(イソニアジド)・エタンブトールethambutol, E エタンブトール(ethambutol, E)ethambutol, E(エタンブトール) については、専門家expert 専門家(expert)expert(専門家) パネルはそのMICMIC(minimum inhibitory concentration)の結果にかかわらず良好な治療成績が得られてきたとしている2。
治療
NTMの中では例外的にリファンピシンを基軸とした抗結核薬 antituberculosis drugs 抗結核薬(antituberculosis drugs) antituberculosis drugs(抗結核薬) のレジメンがよく効く——リファンピシン感受性の肺疾患にはリファンピシン+エタンブトールethambutol, Eエタンブトール(ethambutol, E)ethambutol, E(エタンブトール)+イソニアジドisoniazid, Hイソニアジド(isoniazid, H)isoniazid, H(イソニアジド)またはマクロライド系の3剤併用が提案されている(条件付き推奨。イソニアジドisoniazid, H イソニアジド(isoniazid, H)isoniazid, H(イソニアジド) とマクロライドを直接比較した無作為化試験はない)2。MACのようなマクロライド中心の治療とは出発点が異なる。
| 論点 | 現行の推奨(2020年) |
|---|---|
| 基本レジメン | リファンピシン+エタンブトール ethambutol, E エタンブトール(ethambutol, E) ethambutol, E(エタンブトール) +(イソニアジドisoniazid, H イソニアジド(isoniazid, H)isoniazid, H(イソニアジド) またはマクロライド系)2 |
| 治療期間 | 少なくとも12か月。培養陰転化culture conversion 培養陰転化(culture conversion)culture conversion(培養陰転化) 後12か月ではなく12か月の固定期間でよい2 |
| 投与間隔dosing interval投与間隔(dosing interval)dosing interval(投与間隔) | 空洞型は連日。イソニアジドisoniazid, H イソニアジド(isoniazid, H)isoniazid, H(イソニアジド) 含有レジメンも連日。非空洞性の結節・気管支拡張型でマクロライド+リファンピシン+エタンブトール ethambutol, E エタンブトール(ethambutol, E) ethambutol, E(エタンブトール) を使う場合は連日でも週3回でもよい2 |
| アミノグリコシド | アミカシンamikacinアミカシン(amikacin)amikacin(アミカシン)・ストレプトマイシンstreptomycinストレプトマイシン(streptomycin)streptomycin(ストレプトマイシン)の注射はルーチンには用いない2 |
| フルオロキノロン | リファンピシン感受性例では第一選択にしない。リファンピシン耐性例または第一選択薬 First-line drugs 第一選択薬(First-line drugs) First-line drugs(第一選択薬) 1剤に不耐容 intolerance 不耐容(intolerance) intolerance(不耐容) の例でモキシフロキサシンmoxifloxacinモキシフロキサシン(moxifloxacin)moxifloxacin(モキシフロキサシン)などを二次レジメンに組み込む2 |
⚠️ 治療期間の数え方が2020年に変わった。 2007年の声明は「培養陰転化culture conversion 培養陰転化(culture conversion)culture conversion(培養陰転化) 後12か月」を求めていたが、2020年のガイドラインは12か月の固定期間で治療しうるとした——培養陰転化 culture conversion 培養陰転化(culture conversion) culture conversion(培養陰転化) 後12か月を超えて延長すれば再発を防げるという証拠はなく、報告されている再発の一部は外からの再感染 reinfection 再感染(reinfection) reinfection(再感染) である可能性が指摘されている2。⭐ MACの「培養陰転化culture conversion 培養陰転化(culture conversion)culture conversion(培養陰転化) 後12か月」と混同しない。
💡 陰転化しないときは4か月が目安になる。 リファンピシン基盤のレジメンでは通常4か月までに喀痰が陰転化するため、その時点で陰転化していなければ専門家 expert 専門家(expert) expert(専門家) への相談が勧められている2。
まとめ
- Runyon I群(緩徐発育・光発色性photochromogen光発色性(photochromogen)photochromogen(光発色性))のNTM。水道水などの人工的な水系が感染源。
- 構造的肺疾患structural lung disease 構造的肺疾患(structural lung disease)structural lung disease(構造的肺疾患) を持つ中高年男性の慢性肺感染が典型像で、胸部画像は結核と酷似する。
- 塗抹・培養陽性だけでは結核と鑑別できず、菌種同定species-level identification 菌種同定(species-level identification)species-level identification(菌種同定) が必須。診断は症状・画像・微生物の3基準で行うが、本菌は通常は病原性があるとみなすべき菌なので、文脈が合えば1回の培養陽性でも治療開始の根拠になりうる。
- 他のNTMと異なりリファンピシンを基軸とした抗結核薬 antituberculosis drugs 抗結核薬(antituberculosis drugs) antituberculosis drugs(抗結核薬) のレジメンがよく効き、リファンピシン+エタンブトール ethambutol, E エタンブトール(ethambutol, E) ethambutol, E(エタンブトール) +(イソニアジドisoniazid, H イソニアジド(isoniazid, H)isoniazid, H(イソニアジド) またはマクロライド系)を12か月の固定期間投与する。感受性検査susceptibility test 感受性検査(susceptibility test)susceptibility test(感受性検査) で見るのはリファンピシン。
出典
- 1.High-catalase strains of Mycobacterium kansasii isolated from water in Texas(Journal of Clinical Microbiology・1980)抄録のみを閲覧した。米国テキサス州中部の小さな町の飲用水の代表的な給水口19か所のうち8か所から、膜濾過法で潜在的に病原性のある高カタラーゼ産生 M. kansasii が分離されたこと、同じ検体すべてから M. gordonae、2検体から M. fortuitum が分離されたこと、著者らが水が M. kansasii の供給源であり感染の疫学上の重要な経路になりうると結論したことを確認した。全文は未取得で、塩素濃度の考察の内容は確かめていない。閲覧 2026-09-27
- 2.Treatment of Nontuberculous Mycobacterial Pulmonary Disease: An Official ATS/ERS/ESCMID/IDSA Clinical Practice Guideline(American Thoracic Society / European Respiratory Society / European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases / Infectious Diseases Society of America・2020)PMC全文 PMC7768748 の M. kansasii 肺疾患の節(Questions X〜XIV)と Table 2、感受性検査の推奨(Question II)を直接確認した。リファンピシン感受性例にはリファンピシン+エタンブトール+イソニアジドまたはマクロライドのレジメンを提案する(条件付き推奨、効果推定の確実性は very low)。アミカシン・ストレプトマイシンの注射はルーチンには用いないことを提案する(strong recommendation、very low certainty)。フルオロキノロンはリファンピシン感受性例では第一選択にせず、リファンピシン耐性例または第一選択薬1剤に不耐容の例でモキシフロキサシンなどを二次レジメンの一部として提案する。投与間隔は、非空洞性の結節・気管支拡張型でマクロライド+リファンピシン+エタンブトールを用いる場合は連日でも週3回でもよいが、空洞型は連日、イソニアジド含有レジメンも連日とする。治療期間は少なくとも12か月を提案し、Justification で 2007年声明の「培養陰転化後12か月」ではなく「12か月の固定期間」で治療しうると明記している(培養陰転化後12か月を超える延長で再発が防げるという証拠はないとする)。また、リファンピシン基盤レジメンでは通常4か月までに喀痰が陰転化するため、その時点で陰転化しなければ専門家に相談すべきとする。感受性検査は M. kansasii ではリファンピシンについて経験的治療より感受性に基づく治療を提案し、パネルはイソニアジドとエタンブトールのMICの結果にかかわらず良好な成績が得られてきたとしている。Table 2(出典は2007年ATS/IDSA声明)は診断に臨床・画像・微生物の3基準すべてを要求し、注釈で NTM の病原性は菌種によって大きく異なるとして、ほとんど疾患を起こさない M. gordonae と対照的に M. kansasii は通常は病原性があるとみなすべきであり、適切な文脈では1回の培養陽性が治療開始の根拠として十分でありうると述べている。閲覧 2026-09-27