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Symptoms · Published

髄外造血

Extramedullary hematopoiesis

別名
髄外造血巣骨髄外造血
臓器系
血液
科目
PathologyInternal MedicineEmbryology
トピック
病理学 C/2:造血低下による貧血(低形成性貧血など)病理学 C/5:慢性骨髄性白血病(CML)/慢性骨髄線維症内科学 H-30:フィラデルフィア染色体陰性骨髄増殖性腫瘍発生学 7.1:胎児期と胎盤:胎児の発育
関連疾患
サラセミア真性多血症・本態性血小板血症・原発性骨髄線維症

🧠 全体像は「骨髄の外で血球を作る」という一つの現象に見えるが、なぜ骨髄の外に出たかで意味が正反対になる。骨髄そのものは保たれているのに需要(・慢性溶血)に生産が追いつかない代償性の場合と、骨髄そのものが線維化・によって置き換えられ造血の場を失ったの場合を区別することが最初の分岐であり、この違いが治療の向きを決める。前者は原疾患を是正すればは自然に縮小するが、後者ではが唯一残された造血の場になっていることがあり、安易に潰してはならない。

定義と用語の整理

とは、骨髄以外の臓器(主に肝・脾、次いで傍脊椎軟部組織・・リンパ節など)で血球産生が行われる状態を指す。これは病的な新規現象ではなく、に卵黄嚢→肝臓→脾臓→骨髄の順で造血の場が移行していく過程の再活性化として理解できる。出生後は骨髄が唯一の造血臓器になるはずだが、重症の溶血性疾患やでは、肝臓・脾臓に残る造血幹細胞のが再び動員される。

脾腫のような明確な大きさの閾値は無く、そのものは画像所見と臨床背景の組み合わせ、必要に応じ生検による組織確認で診断する概念であり、単独ので定義される所見ではない。多くは無症候の肝脾腫として発見されるが、一部は限局した腫瘤が症状の主因になる。

用語は2つのレベルで区別しておくと混乱しない。

  • :肝・脾などにびまん性に生じる造血活動そのもの。多くは無症候で、脾腫の一因として画像・触診で気づかれる。
  • (腫瘤):傍脊椎・などに限局した腫瘤を形成するもの。血管に富み、周囲組織をして症状を出しうる点で、びまん性のとは臨床的な重みが異なる。

💡 脾腫との役割分担:脾腫は「脾臓が大きい」という所見であり、その原因の一つにがあるにすぎない(他にうっ血・・浸潤・血球破壊がある)。本ノートは「なぜ骨髄の外で血球が作られるか」という機序そのものを主題とし、脾腫はその帰結の一つとして扱う。

病態生理

に至る機序は2群に大別できる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extramedullary hematopoiesis'>髄外造血</span>"] --> B["代償性<br>骨髄は機能するが需要に追いつかない"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='marrow-replacing'>骨髄置換性</span><br>骨髄が線維化・浸潤で造血の場を失う"]
    B --> B1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ineffective erythropoiesis'>無効造血</span>・慢性溶血"]
    B1 --> B2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Thalassemias'>サラセミア</span>・鎌状赤血球症<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hereditary spherocytosis'>遺伝性球状赤血球症</span>"]
    C --> C1["線維化<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='megakaryocyte'>巨核球</span>由来PDGF/TGF-βが骨髄を線維化"]
    C --> C2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myelophthisis'>骨髄癆</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Metastatic Tumors'>転移性腫瘍</span>・白血病細胞による物理的置換"]
    B2 --> D["肝・脾へ造血幹細胞が動員・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='repopulate'>再定着</span>"]
    C1 --> D
    C2 --> D
    D --> E["肝脾腫<br>傍脊椎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrathoracic'>胸腔内</span>などの腫瘤形成"]
機序 代表疾患
代償性 ・慢性溶血で末梢の需要が増え、骨の造血幹細胞が動員される 鎌状赤血球症
(線維化) 由来サイトカイン(PDGF・TGF-β)が骨髄を線維化させ、造血の場を失わせる からの二次性
(浸潤・ (乳・肺・前立腺など)や白血病細胞が骨を物理的に占拠する 転移性固形腫瘍、CML

💡 代償性の群では、骨髄造血がに亢進した結果として造血幹・前駆細胞が末梢血中へ動員され、肝・脾に残る由来のすると考えられている。原疾患(・慢性溶血)が強いほど動員される細胞数も多く、の量は原疾患の重症度をおおむね反映する。

⚠️ 代償性とは併存し、経過とともに移り変わる。は当初こそ過形成骨髄だが、進行するにつれ線維化が優位になり、代償性からへ性格を変えていく。

分布は肝・脾が圧倒的に多く、次いで傍脊椎のが主)、リンパ節、腎、皮膚などに生じる。傍脊椎腫瘤と腫瘤は、無症候の肝脾腫と異なり圧迫症状を出しうる点でが高い。

⚠️ 見逃してはいけないこと

⚠️ 傍脊椎のによる脊髄圧迫。 慢性の重症溶血性疾患(特に)で椎体周囲に形成された腫瘤がに進展し、急性〜亜急性の脊髄圧迫を来しうるである。に下肢筋力低下・感覚障害・膀胱直腸障害が加われば直ちにを行う。腫瘤は血管に富み外科的合併症のリスクが高いため、輸血強化やに加え、の放射線照射をを避けた第一選択として用いる報告が増えている1

⚠️ 腫瘤としての による腫瘤は画像所見だけではなどと区別しにくく、腫瘍と誤認されて生検されることがある。腫瘤は血管に富み出血しやすいため、慢性溶血性疾患の病歴と特徴的な画像所見からを疑うことが不要なを避ける鍵になる2

⚠️ が主な造血源になっている患者での安易な 重症溶血性疾患で脾臓が主要なの場になっている場合、の是正だけを目的にを行うと造血の場を失い、が他の部位(特に肝臓)へ移行して・門脈圧亢進を悪化させることがある。においてもに生じるの主因はの肝への移行であり、など代替のない適応に限って慎重に検討する3

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["肝脾腫または腫瘤性病変"] --> B["血算・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral smear'>末梢血塗抹</span>"]
    B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dacrocytes'>涙滴赤血球</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='leukoerythroblastosis'>白赤芽球症</span>があるか"}
    C -->|"あり"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone marrow biopsy'>骨髄生検</span>で線維化の有無を確認"]
    C -->|"なし"| E["原疾患(溶血性貧血など)の精査を優先"]
    D --> F{"線維化があるか"}
    F -->|"あり"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='marrow-replacing'>骨髄置換性</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary myelofibrosis, PMF'>原発性骨髄線維症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myelophthisis'>骨髄癆</span>を検索"]
    F -->|"なし"| H["代償性:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ineffective erythropoiesis'>無効造血</span>・慢性溶血を検索"]
    G --> I["画像で分布を確認<br>肝脾・傍脊椎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrathoracic'>胸腔内</span>"]
    H --> I

血算・+未熟細胞)を認めればを疑う手がかりになる。で線維化の有無を確認できれば代償性かかの分岐がつき、その後の画像検査(超音波・CT・MRI)で肝脾腫や腫瘤の分布を確認する。腫瘤性病変を疑う場合でも、慢性溶血性疾患やという背景と特徴的な画像所見が揃えば、生検を急がず経過や治療反応で判断することも選択肢になる。

⭐ 傍脊椎の腫瘤は、しばしば左右対称に近い分布で椎体後方に沿って生じ、既知の慢性溶血性疾患・の病歴と組み合わさると画像だけでもの可能性が高いと判断できることが多い。この臨床的な組み合わせを踏まえずに単独の腫瘤としてなどの精査を進めると、不要なに至りやすい。

対応の考え方

そのものを「消す」治療は原則存在せず、原疾患の治療に委ねるか、症候性の腫瘤にのみ限局した介入を行うかで考える。

  • 無症候の肝脾腫としての:介入は不要で、原疾患の治療(の定期輸血・のJAK阻害薬など)が・線維化を抑えれば、もそれに応じて縮小する。
  • 症候性の腫瘤(脊髄圧迫・臓器など):所見そのものを標的にした介入が必要になる。輸血強化やで造血刺激を減らしつつ、放射線照射が非外科的な第一選択として有効性を示しており、は腫瘤の血管に富む性質からが高く、放射線療法がしない例や急速な神経症状の悪化例に限られる1
  • など)における脾腫:JAK阻害薬が脾腫・全身症状を軽減させる中心的治療であり、など代替のない適応に限る。が肝など他部位へ移行しうる点をあらかじめ患者・家族へ説明しておく3

まとめ

  • は代償性(骨髄は機能するが需要に追いつかない)と(骨髄が線維化・浸潤で置換される)に分けて捉える。この区別が治療の向きを決める。
  • 代償性の代表は・鎌状赤血球症などの慢性溶血性疾患、の代表はによる
  • の卵黄嚢→肝臓→脾臓→骨髄という造血部位の移行の再活性化として理解できる。
  • 」(びまん性)と「(腫瘤)」(限局性)は区別する。腫瘤性病変は圧迫症状を出しうる点で臨床的重みが異なる。
  • 傍脊椎のによる脊髄圧迫はで、血管に富む腫瘤に対しては放射線照射がより優先されつつある。
  • 腫瘤は腫瘍とされやすく、不用意な生検は出血のリスクを伴う。
  • が主要な源になっている患者での安易なは、他部位(特に肝臓)への移行と合併症悪化を招きうる。
  • 無症候のそのものへの治療はなく、原疾患の是正が基本方針である。

出典

  1. 1.Effective non-surgical management of spinal cord compression from extra-medullary hematopoiesis with radiotherapy in thalassemia intermedia: a case report(Oxford Medical Case Reports / Oxford University Press・2025)症候性の傍脊椎髄外造血巣による脊髄圧迫では、腫瘤が血管に富み外科的合併症のリスクが高いことから外科的減圧を避け、輸血強化・ヒドロキシウレアと併用した低線量放射線照射を非外科的な第一選択として用いた症例で神経症状が速やかに改善したことを報告した閲覧 2026-08-03
  2. 2.Myelofibrosis-associated extramedullary hematopoiesis: Insights into hepatic, pulmonary, and thrombotic complications(Blood Reviews・2025)骨髄線維症における髄外造血は肝・肺・血栓性合併症の主因であり、脾摘後に生じる肝腫大の主因も髄外造血の肝への移行であることを示した閲覧 2026-08-03
  3. 3.Clinicopathological characteristics and management of extramedullary hematopoiesis: A review(Pediatric Hematology Oncology Journal・2022)髄外造血は画像所見だけでは他病変と鑑別が難しく生検で確定診断されることが多いこと、治療は輸血・外科的処置・ヒドロキシウレア・放射線照射にまたがることを整理した閲覧 2026-08-03