病理学

病理学 · C/5

慢性骨髄性白血病(CML)/慢性骨髄線維症

CML and chronic myelofibrosis

タグ
High-yield / ポイント
応用トピック
フィラデルフィア染色体陰性骨髄増殖性腫瘍慢性骨髄性白血病骨髄増殖性疾患
疾患
慢性骨髄性白血病
症状
髄外造血脾腫

🧠 全体像:MPNは共通して活性化チロシンキナーゼシグナルが駆動するクローン性幹細胞疾患だが、はBCR-ABL融合遺伝子という単一の分子標的を持つのに対し、PMFはが放出する/が二次的に骨髄を線維化させる点が対照的。

慢性骨髄増殖性腫瘍— 概要

MPNは、骨髄での血球の過剰産生を特徴とするクローン性の幹細胞疾患。

共通するテーマ:

  • しばしば長い経過の慢性期をもつ
  • 以下へ進行しうる:
    • (AML様への転化)
    • (+)
  • → 肝脾腫(±軽度リンパ節腫脹)
  • 多くはに活性化したチロシンキナーゼシグナルが駆動

主要な古典的MPN(ノート記載):CML、ET、PMF、PV

慢性骨髄性白血病

定義

CMLは、成熟顆粒球とその前駆細胞の増殖を伴うクローン性の骨髄幹細胞疾患。

疫学

  • 授業資料では「典型的には中年(25〜60歳)、ピーク約35〜45歳」とされる。
  • ただし米国の登録データ(SEER、2019〜2023年)では診断時年齢の中央値は67歳で、新規診断は65〜74歳の層が最も多い1。「若い人の病気」と覚えず、高齢者にも多いことを押さえる。

発生機序(ポイント)

  • t(9;22)転座によるBCR–ABL融合遺伝子。
  • BCR–ABLをもつ22番染色体が。
  • BCR–ABLタンパクは異常な型チロシンキナーゼ → 様シグナル → 制御不能な増殖。

(は複数系統に存在しうるが、臨床的には顆粒球前駆細胞が優位。)

flowchart TD
    A["t(9;22)転座<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Philadelphia chromosome'>フィラデルフィア染色体</span>"] --> B["BCR–ABL融合遺伝子"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='constitutive activity'>構成的活性</span>型チロシンキナーゼ"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='growth factor'>増殖因子</span>様シグナル"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='granulocytic'>顆粒球系</span>の制御不能な増殖"]

形態・検査

  • 著明な(しばしば>100,000/µL)
  • 好中球+骨髄球/が優位(「」)
  • 少数の芽球
  • 、を伴うことも
  • による脾腫

臨床像

  • 発症、、脱力、体重減少
  • 著明な脾腫による
  • に類似しうるが、・BCR–ABLで鑑別

病期

授業資料の古典的な三相:

  1. 慢性期: 数年続きうる、典型的な像
  2. 移行期():
    • 貧血・血小板減少の悪化
    • 血液・骨髄中の芽球10〜19%
  3. 芽球期():
    • 血液・骨髄中の芽球20%以上 → 様(ときにリンパ性)の像
    • 重度の貧血、感染、出血

⚠️ 病期の定義は分類によって違い、2022年から2つの分類が並立している。 同じ2022年に公表された分類第5版(-HAEM5)と(ICC)は、移行期の扱いで分かれた。どちらか一方だけが「現行」なのではなく、両方が使われている。欧州白血病ネット(ELN)2025年推奨も両者を並べて比較し、パネル内の意見が割れて「どちらの分類も全面的には支持できない」としている2。

項目 -HAEM5(2022) ICC(2022)
病期の数 慢性期・芽球期の二相(移行期は廃止) 慢性期・移行期・芽球期の三相を維持
移行期の扱い 置かない。代わりに慢性期の高リスク指標(診断時の芽球10〜19%、末梢血20%以上、特定の付加的染色体異常、治療中の第2世代抵抗性など)を重視する2 芽球10〜19%、末梢血20%以上、Ph陽性細胞の付加的クローン性染色体異常のいずれか3
芽球期 芽球20%以上、の芽球増殖、末梢血・骨髄の増加のいずれか4 芽球20%以上または(の芽球増殖)。5%超はリンパ性に合致3

-HAEM5が移行期を外した理由は、治療と注意深いモニタリングで進行例が減って移行期という区分の意義が薄れ、ABL1キナーゼ変異・付加的染色体異常による抵抗性と芽球期への進展こそが重要な病態属性だと判断したためである4。ICCは移行期を残しつつ、 2017にあった・脾腫・抵抗性などの基準を外して簡素化した3。

💡 の文献では別の区切りも出てくる。 従来のELN基準(MD Anderson 由来)は移行期を芽球15〜29%、芽球期を30%以上としており、過去のの多くはこちらで病期を定義している2。文献を読むときは、どの基準の「移行期」「芽球期」かを確かめる。

治療(原則)

  • ():
    • がBCR–ABLのキナーゼ部位()に結合し活性を遮断する
    • 初回治療として承認されたは、、第2世代の・・、一部の国で(ミリストイル部位に結合する別機序の薬)などである2
    • 変異で耐性が生じうる。は多くのに対して活性を保つが、T315I変異には効かず、T315Iにはポナチニブかを選ぶ2
  • その他:化学療法、()

原発性骨髄線維症

定義

PMFはとのを特徴とし、骨髄の線維化は二次的(サイトカインへの反応性)。

疫学・遺伝

  • 高齢者(60歳超)
  • ・・のいずれかの変異が駆動する(3つとも陰性の「」例もあり、予後最不良とされる)5

二相性の経過

細胞期(前)

  • 異型+顆粒球を伴う
  • 血小板・顆粒球の増加
  • 明らかな線維化はまだない(上は線維化グレード2未満、つまり軽度のまでは許容される)3
  • で見つかることが多く、と紛らわしい。-HAEM5・ICCとも、前を・、さらにとも区別して診断することを求めている43

  • 腫瘍性がPDGFとTGF-βを放出
  • 線維芽細胞を刺激 → → (線維芽細胞自体は非腫瘍性・反応性の増殖)4
  • + → 肝脾腫
  • 末梢血:(+未熟細胞)

臨床

  • 早期:非特異的症状、に類似しうる
  • 後期:血球減少による合併症
  • → 血栓と出血
  • 感染への感受性
  • で吸引不能となるdry tapを来しうる(線維化を示唆する所見で、手技の失敗ではない)6
  • 生存期間中央値:授業資料では約4〜5年。Mayo Clinicの267例では5.9年(60歳未満では14.6年)で5、ICCの総説は前で11〜17年、で約7年という報告を挙げている3。病期と年齢で大きく違う

診断基準(WHO-HAEM5とICCの並立)

-HAEM5は、前版までに確立した・・のを小修正にとどめて引き継いだ4。ICCも3項目+という同じ骨格で、前とを別々に定義している。下表はICCの基準である3。

区分 前
1() の増殖と異型、線維化グレード2未満、年齢補正で細胞密度増加、の増殖、(しばしば)の減少 の増殖と異型に、グレード2〜3の・化を伴う
2(クローン性) ・・変異、または他のクローン性マーカー、または反応性の骨髄化の否定 同左
3(除外) ・・・などの基準を満たさない 同左
①併存症で説明できない貧血、②白血球11×10^9/L以上、③触知できる脾腫、④超 左の4項目に⑤を加えた5項目
診断に必要な数 3項目すべて+1項目以上(連続2回の測定で確認) 同左

💡 なぜ「反応性線維化の否定」がに入るのか。 感染症・自己免疫疾患・・などでも軽度(グレード1)のは起こる。が見つからない約1割()では、こうした反応性の線維化を除外することがクローン性の代わりの根拠になる3。

💡 ポイント: CML = BCR–ABL(t(9;22)、フィラデルフィア) → チロシンキナーゼ、古典的には慢性期 → 移行期(芽球10〜19%)→ 芽球期(20%以上)だが、-HAEM5は移行期を廃止して二相、ICCは三相を維持。PMF:の/ → 線維化 → +著明な脾腫。

💡 は症状を軽くするが「治す」薬ではない。 /2阻害薬のは中間〜高リスクので脾腫・全身症状を改善する。のでは死亡リスクの低下も示されたが、対照群の早期クロスオーバーのためへの効果には異論もある。量の減少は小〜中等度にとどまり、長期投与で一部の患者のが安定する(悪化しにくくなる)ことはあっても有意な可逆化は起こらず、真のとしては限界がある7。

まとめ

  • MPNはクローン性幹細胞疾患で、慢性期を経てやへ進行しうる。多くはチロシンキナーゼシグナルのが駆動する。
  • はt(9;22)によるBCR-ABL融合遺伝子()がチロシンキナーゼ活性を生み、の制御不能な増殖を来す。
  • の病期は古典的には慢性期→移行期(芽球10〜19%)→芽球期(芽球20%以上、様)だが、-HAEM5は移行期を廃止して慢性期・芽球期の二相とし、ICCは移行期を簡素化して三相を維持している。両分類は並立している。
  • の治療はなどのが中心で、にはなどが有効なことがあるが、T315I変異にはポナチニブかを用いる。
  • PMFは・のが一次病変で、は由来の/による二次的反応(線維芽細胞は)。
  • PMFは細胞期(前)から(++著明な脾腫)へ進行する。診断は3項目すべて+1項目以上で、前とを分けて定義する。生存期間は病期・年齢・で大きく異なる(Mayo Clinicの報告で中央値5.9年、例は2.3年)。

出典

  1. 1.Cancer Stat Facts: Chronic Myeloid Leukemia(National Cancer Institute SEER Program・2026)米国SEER 21(2019〜2023年)で慢性骨髄性白血病の診断時年齢の中央値は67歳、新規診断の年齢層別割合は65〜74歳が23.7%と最も多いことを確認した閲覧 2026-09-24
  2. 2.2025 European LeukemiaNet recommendations for the management of chronic myeloid leukemia(European LeukemiaNet・2025)全文(PMC12310532)の表2でWHO 2016・ICC 2022・WHO 2022・従来のELN基準によるCMLの病期定義を並べ、WHO 2022は移行期を廃止して慢性期の高リスク指標(診断時の高ELTSスコア・芽球10〜19%・末梢血好塩基球20%以上・3q26.2再構成/-7/i(17q)/複雑核型などの付加的染色体異常・線維化を伴う小型巨核球の集簇、治療中の初回TKIでの血液学的完全寛解未達成・第2世代TKI抵抗性・付加的染色体異常の出現・BCR::ABL1複合変異)に置き換え、従来のELN基準は移行期を芽球15〜29%、芽球期を30%以上としていたこと、パネル内で意見が割れ「どちらの分類も全面的には支持できない」としたことを確認した。初回治療として承認されたTKIはイマチニブ、第2世代のダサチニブ・ニロチニブ・ボスチニブ、一部の国でアシミニブ(韓国ではラドチニブ)の6剤で、T315I変異にはポナチニブかアシミニブを推奨している閲覧 2026-09-24
  3. 3.International Consensus Classification of myeloid and lymphoid neoplasms: myeloproliferative neoplasms(Virchows Archiv・2023)ICC(国際コンセンサス分類)の骨髄増殖性腫瘍の総説(全文)で、BCR::ABL1陽性CMLの慢性期・移行期(accelerated phase)・芽球期の三相を保ちつつ移行期と芽球期の定義を簡素化したこと——移行期は血液または骨髄の芽球10〜19%、末梢血好塩基球20%以上、Ph陽性細胞の付加的クローン性染色体異常のいずれか、芽球期は骨髄系芽球20%以上または骨髄肉腫で、リンパ芽球5%超はリンパ性急性転化に合致するとし、WHO 2017にあった血小板数・脾腫・TKI抵抗性などの移行期基準は外したこと——を確認した。あわせて原発性骨髄線維症の診断基準(前線維化期・線維化期とも大基準3項目すべてと小基準1項目以上を連続2回の測定で確認、前線維化期は線維化グレード2未満、線維化期はグレード2〜3の細網線維・膠原線維化)と、生存期間中央値が前線維化期で11〜17年、線維化期で約7年と報告されていることを確認した閲覧 2026-08-27
  4. 4.The 5th edition of the World Health Organization Classification of Haematolymphoid Tumours: Myeloid and Histiocytic/Dendritic Neoplasms(Leukemia・2022)WHO分類第5版(2022年)がCMLを慢性期・急性転化期の二相に分類し移行期(accelerated phase)の区分を外したこと、急性転化期の基準を血液・骨髄の芽球20%以上、髄外の芽球増殖、末梢血・骨髄でのリンパ芽球増加のいずれかとすること、原発性骨髄線維症の線維化期に増える線維芽細胞をポリクローナル(非腫瘍性)と位置づけ、腫瘍性の巨核球由来サイトカインへの二次的反応として細網線維・膠原線維の線維化と骨硬化・髄外造血をもたらすとしていることを確認した。あわせて全文(PMC9252913)で、移行期を外した理由(TKI治療と注意深いモニタリングで進行が減り、ABL1キナーゼ変異・付加的染色体異常による抵抗性と芽球期への進展が重要な病態属性であること)、真性多血症・本態性血小板血症・原発性骨髄線維症の区別は前版までに確立した診断基準を小修正で用いること、前線維化期の原発性骨髄線維症を本態性血小板血症・真性多血症だけでなく線維化期とも区別して認識する必要があることを確認した閲覧 2026-08-27
  5. 5.Long-term survival and blast transformation in molecularly annotated essential thrombocythemia, polycythemia vera, and myelofibrosis(Blood・2014)分子診断アノテーションのある原発性骨髄線維症428例の解析で、JAK2・CALR・MPLのいずれの変異も持たない「トリプルネガティブ」型が実在し予後最不良(生存期間中央値2.3年、急性転化率25%)であった一方、CALR変異型は最良(生存期間中央値16年、急性転化率6.5%)であったことを確認した閲覧 2026-08-27
  6. 6.Dry tap bone marrow aspiration: clinical significance(American Journal of Hematology・1990)同時に骨髄穿刺・生検を行った2,235件中87件(3.9%)でdry tap(吸引不能)が生じ、その大半に線維化や過形成などの骨髄病理を伴っており、原因の内訳は転移癌17.2%、慢性骨髄性白血病14.9%、特発性骨髄線維症13.8%、有毛細胞白血病10.3%の順であったこと、dry tapは手技の失敗ではなく骨髄病理を示唆する所見であることを確認した閲覧 2026-08-27
  7. 7.The ruxolitinib effect: understanding how molecular pathogenesis and epigenetic dysregulation impact therapeutic efficacy in myeloproliferative neoplasms(Journal of Translational Medicine・2018)中間〜高リスク骨髄線維症でルキソリチニブは最良の利用可能な治療・プラセボと比べ脾容積と症状負荷を減らし、COMFORT-I・IIの統合解析では死亡リスク30%低下が示されたが、対照群の早期クロスオーバーと検出力不足のため全生存への効果には異論もあること、変異アレル量の減少は小〜中等度にとどまり真の疾患修飾療法としては限界があること、JAK2 V617F変異は真性多血症の約95%、本態性血小板血症・原発性骨髄線維症の約50%にみられること、骨髄線維症での長期投与は一部の患者で骨髄線維化の安定化・悪化の抑制に働きうるが有意な可逆化はもたらさないこと(抄録でも骨髄線維化を可逆化する効果は限定的と記載)を総説の全文(Europe PMC、PMC6296062)で確認した閲覧 2026-08-27