内科学

内科学 · I-13

薬剤耐性と抗菌薬適正使用

Antimicrobial Resistance and Stewardship

前提:病態
抗菌薬耐性の機構(例)院内(医原性)感染とその主要な起因菌

🧠 全体像:は、微生物が薬剤存在下でも生存・増殖できる性質である。耐性菌診療では菌名だけで薬を決めず、感染か保菌か、感染部位、重症度、、感受性、を統合する。は「使わない」活動ではなく、必要な患者へ最適な薬を最適な量・経路・期間で届ける活動である。12

耐性の分類

分類 意味 例
菌種が本来持つ構造・生理による Mycoplasmaのβラクタム耐性、Enterococcusのセファロスポリン耐性
突然変異または外来遺伝子獲得 のmecA、、
・表現型耐性 環境で一過性に発現が変化 、、誘導型AmpC

MDR、XDR、PDRは菌種ごとに定義された抗菌薬カテゴリーに対する獲得性非感受性で判定し、や単純な「3剤耐性」を全菌種へ共通適用しない。3

用語 標準化された基本定義
多剤耐性 3カテゴリー以上で、それぞれ1剤以上に獲得性非感受性
感受性が残るのが1〜2カテゴリーのみ
定義対象となる全カテゴリーの全薬剤に非感受性

判定には必要な全カテゴリーのが必要で、日常用語としての「多剤耐性」と監視定義を混同しない。

主な耐性機序

flowchart TD
  A["抗菌薬曝露"] --> B["感受性菌が減少"]
  B --> C["耐性菌が選択される"]
  D["突然変異"] --> E["標的変化・透過性低下"]
  F["プラスミド・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transposon'>トランスポゾン</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='integron'>インテグロン</span>"] --> G["耐性遺伝子を獲得"]
  E --> C
  G --> C
  C --> H["患者内で増殖"]
  H --> I["接触・環境・医療器具で伝播"]
機序 内容 代表例
薬剤不活化 加水分解・修飾 、AmpC、、
標的変化 結合部位を変える PBP2aによる、vanA/vanBによる、gyrA変異
透過性低下 ポリン欠失などで流入を減らす Enterobacterales、緑膿菌
細胞外へ能動排出 緑膿菌、テトラサイクリン・
代謝迂回・標的過剰 阻害経路を回避 ・耐性
異物表面で低増殖・薬剤浸透低下 カテーテル、、人工関節

耐性遺伝子の水平伝播

機序 説明
接合 プラスミドを細菌間接触で伝達。複数耐性遺伝子が同時に広がり得る
形質転換 環境中の遊離を取り込む
がを運ぶ
可動性因子 、が耐性遺伝子を集積・移動させる

抗菌薬は耐性を目的をもって「作る」というより、既存または新生した耐性集団を選択する。患者、病棟、地域、環境をまたぐワンヘルスの問題である。

検査結果の読み方

感受性試験

  • を臨床と比較し、S/I/Rなどで報告する。
  • は投与量・投与法、感染部位、PK/PD、臨床成績を含むため更新される。
  • 「感受性」は標準曝露または増量曝露での成功可能性を示し、感染源未処置や到達不良を補えない。
  • 尿分離菌の感受性薬でも、のように血中・腎実質感染へ使えない薬がある。

検査の順序

flowchart TD
  A["感染を疑い良質な検体採取"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='species-level identification'>菌種同定</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='minimum inhibitory concentration'>MIC</span>"]
  B --> C["過去培養・局所耐性率と比較"]
  C --> D{"重要な耐性表現型"}
  D -->|"あり"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carbapenemase'>カルバペネマーゼ</span>等の機序検査"]
  D -->|"なし"| F["最<span class='jp-term jp-term-diagram' title='narrow-spectrum'>狭域</span>の有効薬へ"]
  E --> G["機序・感染部位に合う薬を選択"]
  G --> H["用量最適化・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='source control'>感染源コントロール</span>"]
  F --> H

迅速耐性は治療を早めるが、検出対象外の機序があり、遺伝子保有と発現が一致しないこともある。培養・と臨床像を合わせる。

主要なグラム陰性耐性菌

以下は米国向けの 2026 AMR guidance(2024年版を置き換えた現行版)に沿う概念整理であり、個々の治療は最新感受性、感染部位、地域の薬剤承認・入手性、相談で決める。1

ESBL産生腸内細菌目

  • は多くのペニシリン、セファロスポリン、を分解するが、通常は保たれる。
  • では感受性があれば、TMP-SMXなどを優先できる。
  • 腎盂腎炎・では感受性があるTMP-SMXまたはフルオロキノロン、使用できなければ/エンメまたはを選ぶ。
  • 尿路外感染ではが基本で、安定後はの高いへ切替可能な例がある。

AmpC産生リスク腸内細菌目

Enterobacter cloacae complex、Klebsiella aerogenes、Citrobacter freundii(Hafnia alveiも同等に扱いうる)は誘導型AmpCを持ち、セフトリアキソン治療中に耐性化し得る。

  • はAmpCに比較的安定で、が8 µg/mL以下(感受性または感受性)なら推奨される選択肢となる。
  • はには不十分なので、との同時産生が疑われる株ではを検討する。
  • Morganella、Providencia、Serratiaを「SPACE」などの語呂合わせでまとめてAmpC菌として機械的に同じ扱いにしない。これらで臨床的に問題となるAmpC産生は感染の5%未満と見積もられ、の結果どおりに薬を選ぶことが勧められる。ただし菌量が多く感染源の制御が限られる感染(心内膜炎・)では、セフトリアキソン感性でもを代わりに考慮するのが妥当とされる。1

カルバペネム耐性腸内細菌目

まずの種類を確認する。

機序 主な治療候補
セフタジジム/、/、/が推奨。治療中の耐性出現はセフタジジム/で約10%、他の2剤では3%未満と報告されている。代替は/、、、(後2剤は血流・尿路感染には勧めない)
など /または。/が無ければセフタジジム/+
OXA-48-like セフタジジム/が推奨。代替は/、、、(後2剤は血流・尿路感染には勧めない)
陰性 、ポリン・/AmpC、感染部位に基づく

旧来の「++アミノグリコシド」の毒性が高い併用を、新規有効βラクタムがあるのに優先しない。 2026年版も、βラクタムにアミノグリコシド・フルオロキノロン・静注・テトラサイクリン系・のいずれかを加える併用療法を、CREに対してには勧めていない。1

難治耐性緑膿菌

は、、、セフタジジム、、、、、・の8剤すべてに非感受性の株と定義される。多剤耐性はこれとは別の定義で、感受性が通常期待される5系統(・・・・アミノグリコシド系)のうち3系統以上でそれぞれ1剤以上に非感受性の株を指す。1

  • 従来の非βラクタム(・・セフタジジム・・)との両方に感受性なら、より前者を選ぶ。
  • に非感受性だが従来βラクタムには感受性という株では、その従来の非βラクタムを高用量・延長投与で用いる。ただし重症例や感染源の制御が不十分な例では、感受性が確認された新規βラクタム(・セフタジジム/・/・/)を用いるのも妥当とされる。
  • 尿路外の感染では、セフタジジム/、/、/が優先薬(肺炎では/を優先)で、は代替薬である。株では4剤の活性が一様でないため、4剤すべてのを行うことが勧められている。
  • 産生株ではが優先薬となる。

カルバペネム耐性アシネトバクター・バウマニ

  • 侵襲性感染症では/+/またはが優先治療である。
  • 高用量アンピシリン/(成分で1日9 g)に・・のいずれか1剤以上を加える併用療法は、/が手に入るまでのつなぎに限る。
  • は血中濃度が不安定で肺への移行も不十分、治療域が腎毒性の閾値に近い。の肺炎・125例の無作為化試験では、+の28日が68%(42/62)で/+の81%(51/63)より低く、臨床的治癒も40%(25/62)対62%(39/63)だった。用いるとしても体内動態のよいを他剤と併用し、耐性で/が使えないときか、それまでのつなぎに限る。1

主要なグラム陽性耐性菌

耐性菌 機序 治療の考え方
mecA/mecCによるPBP2a 菌血症・心内膜炎はバンコマイシンまたは、肺炎はバンコマイシンまたはリネゾリドなど
vanA/vanBによるD-Ala-D-Lac等 リネゾリド、適切な高用量などを感染部位・で選択
ペニシリン耐性肺炎球菌 変化 髄膜炎か非髄膜炎かでと薬剤が異なる

はで失活するため肺炎に用いない。黄色ブドウ球菌菌血症では、デバイス、膿瘍を探し、陰性化を確認する。

細菌以外の耐性

  • Candida auris:医療施設内で伝播し、やを含む多剤耐性があり得る。、感受性、が重要。
  • 耐性Aspergillus:環境曝露と患者内選択の双方があり、地域疫学と感受性で治療する。
  • HIV:不十分な併用・服薬不良で耐性が選択される。遺伝子型耐性検査に基づき、活性のあるを維持する。
  • マラリア:などを地域別に監視し、推奨併用療法を単剤化しない。
  • インフルエンザ:耐性は免疫不全者の遷延複製などで問題となる。

抗菌薬適正使用

患者ごとの実践

時点 行動
処方前 感染か保菌かを判断し、培養・迅速検査を採る。感染源処置を計画
経験治療 重症度、既往菌、局所耐性率に必要十分なスペクトラムを選ぶ
用量 腎肝機能、体格、透析、感染部位、PK/PDから負荷量・延長投与・TDMを最適化
48〜72時間 標準的なレビュー時点として診断を再確認し、中止・狭域化・単剤化を検討。吸収可能で有効ながあり、などの除外条件がなければIVから経口へ切替
終了 起算日と終了日を明記し、感染源処置後の最短有効期間を選ぶ

組織としての介入

  • 感染症・薬剤師による前承認と処方後監査・フィードバック2
  • 施設と症候別治療指針
  • 培養採取、、選択的感受性報告
  • 抗菌薬使用量、Clostridioides difficile感染、耐性率、臨床転帰の監視
  • 、、環境清掃、デバイス管理、ワクチン

AWaRe分類では、一般的感染で優先するアクセス、耐性選択リスクが高く監視するウォッチ、最後に温存するリザーブに分ける。分類は個々の患者で有効薬を遅らせるためではなく、集団レベルの質改善に用いる。

まとめ

  • AMRは、突然変異、、抗菌薬による選択、医療環境での伝播が連鎖して生じる。
  • 菌名だけでなく、、、感染部位、重症度、感染源を統合して薬剤を選ぶ。
  • 、AmpC、CRE、-Pseudomonas、では機序別の新規βラクタムを含む選択肢があり、だけが最終薬ではない。
  • 適正使用は、迅速な有効治療と48〜72時間の中止・狭域化・経口化・短期化を両立させる。

出典

  1. 1.Infectious Diseases Society of America 2026 Guidance on the Treatment of Antimicrobial-Resistant Gram-Negative Infections(Clinical Infectious Diseases / Infectious Diseases Society of America・2026)DOI 先の academic.oup.com は bot 判定で 403 を返すため、IDSA の指針掲載ページ(`https://www.idsociety.org/practice-guideline/amr-guidance/`、CURRENT 表示、2026年7月30日公開、2024年版を置き換える。内容は2026年3月1日時点)にブラウザの User-Agent を付けた素の curl で全文を取得し、各 Suggested approach を逐語で確認した。ESBL産生腸内細菌目の複雑性尿路感染はTMP-SMX・シプロフロキサシン・レボフロキサシンが推奨で、使えなければセフェピム・エンメタゾバクタムかカルバペネム(Q1.2)、尿路外はエルタペネム・イミペネム・メロペネムが推奨で、改善後は感受性があれば経口のシプロフロキサシン・レボフロキサシン・TMP-SMXへ切り替えうること(Q1.3)。AmpCの節では中等度リスク(原文 moderate risk)の菌が *Enterobacter cloacae* complex・*Klebsiella aerogenes*・*Citrobacter freundii* で、2026年版が in vitro データから *Hafnia alvei* を同じ枠に加えたこと、語呂合わせ(SPACE・SPICE・ESCPM)は菌種間の差を覆い隠すこと(Q2.1)、*Morganella morganii*・*Providencia*属・*Serratia marcescens* では臨床的に問題となるAmpC産生が感染の5%未満で感受性試験どおりに選ぶことを提案する一方、菌量が多く感染源の制御が限られる感染(心内膜炎・中枢神経感染症)ではセフトリアキソン感性でもセフェピムを考慮するのが妥当とすること(Q2.1)、セフェピムはMIC 8 µg/mL以下なら推奨されること(Q2.3)。KPC産生株はセフタジジム・アビバクタム、イミペネム・レレバクタム、メロペネム・バボルバクタムが推奨で、治療中の耐性出現がセフタジジム・アビバクタムで約10%、他の2剤で3%未満、代替がアズトレオナム・アビバクタム、セフィデロコル、エラバサイクリン、チゲサイクリン(後2剤は血流・尿路感染には勧めない)であること(Q3.4)、NDM産生株はアズトレオナム・アビバクタムとセフィデロコルが推奨で、アズトレオナム・アビバクタムが無ければセフタジジム・アビバクタム+アズトレオナムが代替(Q3.5)、OXA-48様産生株はセフタジジム・アビバクタムが推奨で代替は上と同じ4剤(Q3.6)、CREにβラクタムとアミノグリコシド・フルオロキノロン・静注ホスホマイシン・テトラサイクリン系・ポリミキシンのいずれかを組み合わせる併用療法は日常的には勧めないこと(Q3.8)。緑膿菌の章では、多剤耐性が5系統(ペニシリン・セファロスポリン・カルバペネム・フルオロキノロン・アミノグリコシド)のうち3系統以上でそれぞれ1剤以上に非感受性の株、DTRが8剤(アズトレオナム、セフェピム、セフタジジム、シプロフロキサシン、イミペネム、レボフロキサシン、メロペネム、ピペラシリン・タゾバクタム)すべてに非感受性の株と定義されること、従来の非カルバペネムβラクタムとカルバペネムの両方に感受性なら前者を優先し、カルバペネム非感受性で従来βラクタム感受性の株では従来の非カルバペネムβラクタムを高用量・延長投与とし、重症例や感染源の制御が不十分な例では感受性の新規βラクタムも妥当とすること(Q4.1)、尿路外のDTRではセフタジジム・アビバクタム、セフトロザン・タゾバクタム、イミペネム・レレバクタムが推奨で肺炎ではセフトロザン・タゾバクタムを優先、セフィデロコルは代替であること、DTR株では4剤の活性が一様でないため4剤すべての感受性試験を行うよう促していること(Q4.3・節の導入部)、MBL(NDM・VIM・IMP)産生緑膿菌ではセフィデロコルが推奨(Q4.4)。CRABは逐語「Sulbactam-durlobactam, in combination with imipenem or meropenem, is the preferred treatment for invasive CRAB infections.」で、高用量アンピシリン・スルバクタム(スルバクタム成分で1日9 g)にセフィデロコル・ミノサイクリン・ポリミキシンBなど少なくとも1剤を加える併用はスルバクタム・デュルバクタムが手に入るまでのつなぎに限ること(Q5.1・5.2)、ポリミキシンBは他剤との併用で、耐性によりスルバクタム・デュルバクタムが使えないときかそれを待つ間の暫定治療に限る代替であること、CRABの肺炎・血流感染125例の無作為化試験でコリスチン+イミペネムの28日生存率が68%(42/62)、スルバクタム・デュルバクタム+イミペネムが81%(51/63)、臨床的治癒が40%(25/62)対62%(39/63)だったこと(Q5.5)を確認した。閲覧 2026-09-28
  2. 2.Core elements of hospital antibiotic stewardship programs from the Centers for Disease Control and Prevention(2014)病院抗菌薬適正使用プログラムの中核要素と処方後監査・フィードバックを確認した。閲覧 2026-08-13
  3. 3.Multidrug-resistant, extensively drug-resistant and pandrug-resistant bacteria: an international expert proposal for interim standard definitions for acquired resistance(2012)MDR・XDR・PDRを菌種別抗菌薬カテゴリーと獲得性非感受性で判定する標準定義を確認した。閲覧 2026-08-13