病理学

病理学 · C/102

メラノサイト系腫瘍

Melanocytic tumors

応用トピック
悪性黒色腫の前駆病変と危険因子皮膚悪性黒色腫の病型・臨床徴候・予後因子色素性メラノサイト母斑
薬剤
ベムラフェニブ
疾患
悪性黒色腫家族性異型多発母斑・メラノーマ症候群雀卵斑虹彩母斑・虹彩黒色腫
症状
色素性病変の経時的変化非典型的な色素性病変
スコア
Breslow厚

🧠 全体像:病変は「深さとともに成熟するか」で良悪性を見分ける——良性母斑は深部ほど小さく成熟しメラニンを失う(良い徴候)のに対し、は成熟を示さず、(転移なし)から(転移する)へ進むとがそのまま予後を決める。

= 表皮の基底層にあるメラニン産生細胞。

単純黒子

  • 皮膚の小さな。
  • の。
  • 特徴:対称性、境界明瞭、均一な色素、小さい(1〜3 mm)。
  • と異なり、日光曝露で濃くならない。

メラノサイト性母斑(ほくろ)

A)先天性母斑

  • 出生時に存在、多発しうる。
  • 1.5〜20 cm → 悪性化リスク増加(巨大 >20 cm → 最高リスク)。
  • 暗色、、時に有毛。

B)後天性母斑

部位による3型

型 の位置
の巣のみ(早期)
表皮+真皮の両方
真皮のみ(後期、成熟)

成熟

  • 母斑はから真皮へ下方に増殖。
  • 表層の母斑:より大きく未成熟 → メラニンを産生。
  • 深部の母斑:より小さく成熟 → なし。
  • 成熟 = 良性過程の良い徴候。
  • は成熟を示さない。
  • 深部の母斑 = のリスクが低い(と逆)。

遺伝

  • 多くの良性母斑:BRAF変異(V600E)、頻度は低いがRAS。

C)異形成母斑(異型ほくろ)

  • 通常の母斑と異なる異型。
  • 拡大、色の混在(ピンク〜暗褐色)、平坦で平滑・鱗屑状の表面、不整な縁。

発生機序

臨床

  • 5 mmより大きい、様々な色素、不整な境界。
  • (背中)+非曝露部(乳房、腹部)。

悪性黒色腫

の悪性腫瘍。

素因

  • 日光曝露(紫外線による損傷) — 若年での強い間欠的曝露(日焼け)。
  • 既存の母斑(特に異形成)。
  • (CDKN2A、色白、家族歴)。

主要な亜型

  1. — 最多(約70%):
    • 平坦な病変としての水平・。
  2. ・:
    • 高齢者、高度に日光曝露した皮膚(顔)、隆起しうる。
  3. (AL):
    • 暗い肌の人の手掌、足底、爪下。
    • 紫外線と。
  4. (NM):
    • 突然の、予後最悪(放射相なし)。

💡 上の4型は臨床病理学的な古典分類で、現行の分類は「どの経路で生じたか」で分ける。 皮膚腫瘍分類第4版(2018年)は、・部位・疫学から黒色腫を日光曝露と病因的に関連するものと関連しないものに分けた。日光曝露皮膚の黒色腫は周囲皮膚の日光傷害(CSD)の程度で低CSD(を含む)と高CSD(・を含む)に分かれ、非日光関連の群には末端型・内・内・Spitz・粘膜・ぶどう膜の黒色腫が入り、全体で9型の経路になる1。第5版(Skin5)もこの9経路を踏まえ、母斑から一段進んだが黒色腫の基準に満たない中間的腫瘍にーマの用語を広げた(はこれに含めない)2。が「紫外線と」とされるのは、この分類で非日光関連の群に置かれることと対応する。

増殖パターン

1.

  • 平坦な病変として表皮+表在真皮内で水平増殖。
  • 転移なし、血管新生なし。

2.

  • 成熟を欠く拡大腫瘤として真皮深部への。
  • 以前の平坦病変に結節として現れる。
  • 転移が可能:深いほど転移の可能性が高い(母斑と逆)。
  • 他の指標:、表面の、リンパ管密度。
flowchart TD
    A["紫外線曝露・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dysplastic nevus'>異形成母斑</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic predisposition'>遺伝的素因</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='radial growth'>放射状増殖</span><br>(水平・表皮内、転移なし)"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vertical growth'>垂直増殖</span><br>(真皮深部への浸潤、結節形成)"]
    C --> D["転移<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='depth of invasion'>深達度</span>に比例してリスク上昇)"]

遺伝

  • 散発性または遺伝性。
  • 変異:CDKN2A(p16)、BRAF(V600E、第1位)、NRAS、、KIT。

形態

  • 平坦病変(放射相)→ 結節(垂直相)。
  • 細胞は母斑細胞より大きい。
  • 明瞭な「」好酸性核小体。
  • 不整な境界、複数の色、炎症細胞。
  • IHC:S-100陽性、HMB-45陽性、Melan-A陽性、SOX10陽性。

検出のABCDE

  • A — Asymmetry(非対称)。
  • B — Border(不整な境界)。
  • C — Color(不均一)。
  • D — Diameter(> 6 mm)。
  • E — Evolving(大きさ・形・色・隆起・掻痒・疼痛の変化)。

臨床像

  • 通常は無症状。
  • 徴候:既存病変の拡大/掻痒/疼痛、成人期の新規色素病変、不整な境界や色の変化。
  • 後期の腫瘍 → 後期に脳、肝、肺、消化管へ転移。
  • 治療:表在性 → 外科的切除、BRAF変異 → +の併用(、または+;単剤より併用が標準)、進行転移例では抗PD-1±抗CTLA-4の免疫療法が第一選択となることが多い(BRAF変異例でも)。未治療のBRAF V600変異陽性転移例265例を対象とした(DREAMseq)では、+を先に使った群の2年全生存率71.8%が、を先に使った群の51.5%を上回った3。
  • ():米国臨床腫瘍学会・外科腫瘍学会(ASCO-SSO)2018年指針は、T1a(0.8 mm未満で潰瘍なし)にはには勧めず、T1b(0.8〜1.0 mm、または0.8 mm未満で潰瘍あり)では利益と害を話し合ったうえで考慮、T2・T3(1.0 mm超〜4.0 mm)には推奨、T4(4.0 mm超)には話し合いのうえ推奨しうる、とする4。根拠の一つである無作為化試験MSLT-Iでは、全体集団の10年黒色腫特異に差はなかったが、中間厚(1.20〜3.50 mm)・厚い(3.50 mm超)黒色腫では生検群で10年が改善し、中間厚でリンパ節転移のある例の10年黒色腫特異は62.1%(転移のない例85.1%)と、転移の有無が予後を強く分けた5。転移陽性例での即時完全郭清は所属リンパ節領域の疾患制御を改善するが黒色腫特異は改善せず(MSLT-II)6、指針も低リスクのでは郭清と慎重な経過観察のいずれも選択肢としている4。

病期分類

講義資料は厚さと5年生存を次のように対応させている。

講義資料の区分 5年生存(目安)
上皮内 in situ 90〜100%
I < 1 mm 80〜90%
II 1〜2 mm 70〜80%
III 2.1〜4 mm 60〜70%
IV > 4 mm 約50%

⚠️ この表の「I〜IV」は厚さだけで区切った簡略な目安で、現行の病期とは一致しない。 第8版では厚さとでT分類を決め、リンパ節(N)と遠隔転移(M)を合わせて病期を組む。IV期は厚さによらず遠隔転移(M1)がある場合で、中枢神経転移はM1dとして新設された8。

第8版のT分類 厚さ
上皮内 —
T1a < 0.8 mm なし
T1b < 0.8 mm/0.8〜1.0 mm あり/有無を問わない
T2(a/b) > 1.0〜2.0 mm a:なし、b:あり
T3(a/b) > 2.0〜4.0 mm a:なし、b:あり
T4(a/b) > 4.0 mm a:なし、b:あり
  • 第8版のデータベースでは、リンパ節転移のない例の10年黒色腫特異はT1aで98%、T4bでも75%で、のある腫瘍はおおむね1段厚い潰瘍なしの区分と同程度の生存を示した。ごとの5年/10年黒色腫特異はI期98%/95%、II期90%/84%、III期77%/69%である8。

  • (解剖学的):

    • I:上皮内(表皮)。
    • II:真皮。
    • III:–境界。
    • IV:真皮。
    • V:。

⚠️ はかつて予後因子として用いられたが、現行のでは・(第8版ではさらにも除外)に置き換えられている。 30,946例ので・・が最も強い予後因子とされ、がT1亜分類の基準としてに取って代わった。第8版(2017年)ではT1が0.8mmを新たな区切りとして再定義され、もT分類の基準から外れた78。

💡 ポイント: 母斑は深さとともに成熟(良い徴候)、深いほど良性。 = >5 mm、不整な境界、様々な色、+非曝露部、家族型 → 約100%のリスク。:紫外線(強い間欠的日焼け)、亜型:SSM(第1位)、(高齢者、顔)、(手掌/足底、暗い肌、非紫外線)、(垂直のみ、最悪)。2つの増殖相:放射状(転移なし)→ 垂直(転移する)、成熟の欠如、。変異:BRAF V600E、CDKN2A、NRAS、PTEN。ABCDE。(+)= 限局期の最重要予後因子、T分類の基準。治療:+併用(単剤ではない)、進行例は免疫療法(抗PD-1/CTLA-4)が第一選択となることが多い。IHC:S-100、HMB-45、Melan-A。

まとめ

  • はから真皮へ向かうにつれ成熟し(→→)、深部の母斑ほど良性でリスクが低い。
  • は家族性()だとほぼ100%のリスクを伴う。
  • の主な素因は若年での強い間欠的紫外線曝露、既存の、CDKN2A等のである。
  • が最多(約70%)で、他に(高齢者・顔)、(手掌・足底、紫外線と)、(のみ、最も予後不良)がある。
  • (水平、転移なし)から(、転移しうる)への移行が最大の予後ので、はとともに限局期の最も強い予後因子であり、第8版のT分類(0.8・1・2・4 mmで区切る)の基準になる。IV期は厚さではなく遠隔転移で決まる。
  • 検出にはABCDE基準(非対称・不整境界・・6mm超の径・変化)を用い、BRAF変異例では阻害薬併用療法、進行例では抗PD-1/CTLA-4免疫療法が主体となる(BRAF変異例でも免疫療法先行が優れた試験がある)。
  • はT2・T3で推奨、T1bとT4では話し合いのうえ考慮・推奨しうる。現行の分類は古典4型ではなく、日光との関連と日光傷害に基づく9つの経路で黒色腫を分ける。

出典

  1. 1.The 2018 World Health Organization Classification of Cutaneous, Mucosal, and Uveal Melanoma: Detailed Analysis of 9 Distinct Subtypes Defined by Their Evolutionary Pathway(Archives of Pathology & Laboratory Medicine(Elder DE, Bastian BC, Cree IA, Massi D, Scolyer RA)・2020)抄録で、WHO皮膚腫瘍分類第4版(2018年)の「メラノサイト系腫瘍」の章に基づき、黒色腫を変異シグネチャー・部位・疫学から日光曝露と病因的に関連するものとしないものに分け、日光曝露皮膚の黒色腫を周囲皮膚の累積日光傷害(CSD)の程度で低CSD(表在拡大型を含む)と高CSD(悪性黒子型・線維形成性を含む)に分け、非日光関連の群に末端型・一部の先天性母斑内黒色腫・青色母斑内黒色腫・Spitz黒色腫・粘膜黒色腫・ぶどう膜黒色腫を置いた9型の経路分類であること、中間的な腫瘍に「メラノサイトーマ」の総称が提案されたことを確認した閲覧 2026-09-24
  2. 2.WHO classification of skin tumours: key updates in the fifth edition(Histopathology(Goldman-Lévy G, Barnhill R, Bastian BC, Kempf W, Elder DE, et al.)・2026)PMC12793825の全文で、WHO分類第5版の皮膚腫瘍巻(Skin5)が黒色腫に至る9つの進展経路を踏まえて記載され、母斑から一段進んだが黒色腫の基準に満たない中間的腫瘍に「メラノサイトーマ」の用語を広げたこと(異形成母斑はメラノサイトーマに含めない)を確認した閲覧 2026-09-24
  3. 3.Combination Dabrafenib and Trametinib Versus Combination Nivolumab and Ipilimumab for Patients With Advanced BRAF-Mutant Melanoma: The DREAMseq Trial-ECOG-ACRIN EA6134(Journal of Clinical Oncology(Atkins MB, Lee SJ, Chmielowski B, et al.)・2023)抄録で、未治療のBRAF V600変異陽性転移性黒色腫265例をニボルマブ+イピリムマブ先行群とダブラフェニブ+トラメチニブ先行群に無作為化した第III相試験で、2年全生存率は前者71.8%(95%CI 62.5〜79.1)、後者51.5%(95%CI 41.7〜60.4、log-rank P=.010)であり、大多数の患者ではニボルマブ+イピリムマブを先行させ必要に応じてBRAF・MEK阻害薬へ移る順序が望ましいと結論されたことを確認した閲覧 2026-09-24
  4. 4.Sentinel Lymph Node Biopsy and Management of Regional Lymph Nodes in Melanoma: American Society of Clinical Oncology and Society of Surgical Oncology Clinical Practice Guideline Update(American Society of Clinical Oncology / Society of Surgical Oncology(Wong SL ら。J Clin Oncol 36巻399-413頁)・2018)抄録の推奨で、T1a(0.8mm未満で潰瘍なし)にはセンチネルリンパ節生検を日常的には推奨しないこと、T1b(0.8〜1.0mm、または0.8mm未満で潰瘍あり)では利益と害を十分に話し合ったうえで考慮してよいこと、中等度の厚さ(T2・T3=1.0mm超4.0mm以下)では推奨すること、T4(4.0mm超)では話し合いのうえ推奨しうること、陽性時は低リスクの微小転移であれば所属リンパ節郭清と慎重な経過観察のいずれもが選択肢であることを確認した閲覧 2026-09-24
  5. 5.Final trial report of sentinel-node biopsy versus nodal observation in melanoma(The New England Journal of Medicine・2014)原発皮膚黒色腫2,001例を広範切除+経過観察群とセンチネルリンパ節生検(陽性なら即時郭清)群に無作為割り付けした第III相試験の最終報告で、全体集団の10年黒色腫特異生存率に有意差はなかったが、中間厚(1.20〜3.50mm)と厚い(>3.50mm)黒色腫では生検群で10年無病生存率が有意に改善し、中間厚でリンパ節転移陽性例の10年黒色腫特異生存率は62.1%(転移陰性例85.1%)であったことを確認した閲覧 2026-08-27
  6. 6.Completion Dissection or Observation for Sentinel-Node Metastasis in Melanoma(The New England Journal of Medicine・2017)センチネルリンパ節転移陽性1,934例を対象に即時完全郭清群と超音波による経過観察群を比較した国際無作為化試験(MSLT-II)で、3年黒色腫特異生存率は両群とも86%と同等であり(p=0.42)、即時郭清群で所属リンパ節領域の疾患制御率は改善したが黒色腫特異生存率の改善にはつながらなかったことを確認した閲覧 2026-08-27
  7. 7.Final version of 2009 AJCC melanoma staging and classification(Journal of Clinical Oncology・2009)I〜III期黒色腫30,946例とIV期黒色腫7,972例を対象とした多変量解析に基づくAJCC病期分類改訂で、限局黒色腫では腫瘍厚・有糸分裂率・潰瘍化が最も強い予後因子であり、有糸分裂率がT1b黒色腫を定義する主要基準としてClarkレベル(浸潤の解剖学的深さ)に取って代わったことを確認した閲覧 2026-08-27
  8. 8.Melanoma staging: Evidence-based changes in the American Joint Committee on Cancer eighth edition cancer staging manual(CA A Cancer Journal for Clinicians(Gershenwald JE, Scolyer RA, Hess KR, et al., AJCC Melanoma Expert Panel)・2017)10施設46,000例超のI〜III期黒色腫データベースに基づくAJCC第8版で、T1aを0.8mm未満かつ潰瘍なし・T1bを0.8〜1.0mm(潰瘍の有無を問わない)または0.8mm未満で潰瘍ありと再定義し、有糸分裂率をT分類の基準から外したことを確認した閲覧 2026-08-27