Physiology

Physiology · 4.3

腎における尿の濃縮と希釈。膀胱の機能と排尿の調節。

Concentration and dilution in the kidney. The function of the urinary bladder and the regulation of the urination.

応用トピック
尿失禁低Na血症・高Na血症多尿・多飲の鑑別小児の多尿・多飲小児尿路結石症夜尿症夜尿症、多尿・多飲尿失禁と尿流動態検査(urodynamics)排尿時痛と排尿困難

🧠 尿の濃縮は「」という1つのからくりに尽きる。 の下行脚(水だけ通す)と上行脚(塩だけ通す)が逆向きに並んでいるおかげで、小さな局所的な浸透圧差が縦方向に積み重なり、髄質の奥に向かって浸透圧が段階的に強化される。と尿素のはこの勾配を「壊さず維持する」補助装置——主役はあくまでNa⁺/K⁺/2Cl⁻による能動輸送。

尿生成に関わる3つの機構

  1. エネルギーを使ってそのものを作る(濃縮の主エンジン)。
  2. が、作られた勾配を壊さず維持する(受動的)。
  3. 髄質の形成に追加で寄与する。

対向流増幅

の性質:下行脚=水透過性・溶質不透過性、上行脚=溶質透過性・水不透過性。この非対称性が鍵。

flowchart TD
  A["下行脚に入る<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tubular fluid'>尿細管液</span>:300mOsm(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proximal tubule'>近位尿細管</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='isotonic'>等張性</span>のまま)"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thick ascending limb'>太い上行脚</span>:Na+/K+/2Cl-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cotransporter'>共輸送体</span>が溶質を能動的に間質へ輸送"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='single effect'>間質浸透圧上昇</span>"]
  C --> D["下行脚:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='osmotic gradient'>浸透圧勾配</span>に従い水が間質へ移動→下行脚内液が濃縮"]
  D --> E["新たに濃縮された液が上行脚へ流れ込む"]
  E --> B
  • Single effect: 上行脚で溶質が間質へ汲み出されるたびに生じる、局所的な浸透圧差。これ自体は小さいが、対向する2本の管(下行脚・上行脚)が並走することで縦方向に何度も繰り返され、最終的に髄質先端で大きな浸透圧差(1200 mOsm)にまで増幅される——これが「マルチプリケーション(増幅)」の意味。
  • 下行脚に入る液:300 mOsm(で等張的に処理されるため血漿と同じ)。
  • ループ底部(内髄質)で最大約1200 mOsmまで濃縮。
  • を通過後、溶質が汲み出され続けた結果、入口では約100 mOsmまで希釈される。

💡 なぜ髄質のが必要か。 の髄質間質が、水透過性を持つ集合管から水を「吸い出す」ことで、尿をさらに濃縮できる——濃縮の最終段階は集合管でこの髄質勾配を利用して起こる。

皮質での容積減少という補助効果

・皮質集合管は皮質内で水透過性となる(皮質は尿細管周囲毛細血管への血流が豊富で90%の血流を受ける)。ここで水が洗い流されると、から等張へ変わり——同時に体積が減る。体積が小さくなった状態でさらに水が除去されると、より容易に高張化できる。

尿素再循環

ADHを促進する状況下で、集合管-髄質間質間に尿素の濃度勾配が生じる過程。

flowchart TD
  A["ADHが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='V2 receptor'>V2受容体</span>(Gs)に結合→cAMP→PKA→Aq2"]
  A --> B["皮質・外髄質集合管:水透過性↑(尿素透過性は変化なし)"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraluminal'>管腔内</span>[尿素]が上昇(水だけ抜けるため)"]
  C --> D["内髄質集合管でのみADHが尿素輸送体UT-A1を管腔膜へ移動させる"]
  D --> E["尿素が高濃度の管腔から間質へ拡散→間質浸透圧↑"]
  E --> F["尿素は細い上行脚へ再流入(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='recycling'>再循環</span>)"]
  F --> G["サイクルを繰り返すたびに間質[尿素]が上昇"]

最終的に内髄質間質の浸透圧(約1200 mOsm)の約半分をNaCl(600 mOsm)、残り半分を尿素が担う。

対向流交換

と間質の間で起こる受動的な溶質・水交換——増幅とは異なり勾配を維持するだけ

  1. 300 mOsmの血液がに入り、髄質を下るにつれ水を失い溶質を得る(拡散)。
  2. ループの折り返し点で血液は周囲の組織液と1200 mOsmで平衡化。
  3. 上行しながら間質浸透圧は徐々に低下するため、血液は逆に溶質を失い水を得る。
  4. 結果、を出る血液の浸透圧は約100 mOsmまで戻る——勾配をほとんど洗い流さずに血液を通過させる、腎髄質特有のヘアピン型血管構造の意義。

濃縮のプロセス(ADH存在下)

濃縮/希釈の:TALでのNa+再吸収(Na+/K+/2Clによる濃度勾配形成)\text{濃縮/希釈の:TALでのNa}^+\text{再吸収(Na}^+/K^+/2Cl^-\text{による濃度勾配形成)}
  1. 細い下行脚:浸透圧的に→管腔液は高張化・体積減少。
  2. :Na⁺/K⁺/2Cl⁻でNaCl能動再吸収→管腔液は化、髄質間質は高張化。
  3. DCT:NaClでさらにNaCl再吸収→管腔液はさらに化。
  4. ・皮質集合管:ENaC(アルドステロン調節)でNaCl再吸収→さらに希釈。
  5. ADHが集合管に作用(Aq2)しを促進:
    • 皮質域→管腔液は等張化、体積さらに減少
    • 外髄質→
    • 内髄質→管腔液は高張化、体積さらに減少(この段階だけでは限界があり、尿素の寄与が必須)

⚠️ 多尿(尿量が多い)=尿素の浸透圧寄与が小さい状態、乏尿(尿量が少ない)=尿素の浸透圧寄与が大きい状態。 の効率は尿量そのものと表裏一体の関係にある。

希釈のプロセス(水を排泄する必要がある場合)

体液浸透圧が低いとADH分泌が減少し、以下が変化する。

  • :ADHの影響を受けず常に等張的にNaCl再吸収(管腔液は常に300 mOsm)。
  • 下行脚での濃縮・上行脚〜DCT前半での希釈:通常通り進行。
  • DCT後半〜集合管:ADH欠如でAq2が管膜から除去され、水はに留まったまま間質と平衡化しない→間質浸透圧 > 管腔液浸透圧という乖離が生じる。
  • 内髄質間質浸透圧自体も、希釈時は低下する(例:600 mOsm、通常の1200 mOsmの半分)——ADH依存性の尿素再吸収が起こらないため、尿素の寄与分が消失し、NaClのみが間質浸透圧を担う。

膀胱の機能と排尿の調節

尿は腎盂・尿管を経て膀胱に蓄えられ、に排出される。

構造 役割
膀胱壁の平滑筋。時は弛緩、排尿時は収縮する
平滑筋、不随意。を取り囲みを維持
骨格筋、随意。支配で意識的に制御できる

自律神経支配:

神経 起始 効果
(副交感神経) S2-S4 収縮(→排尿への切り替え)
(交感神経) 弛緩+収縮(の維持)
S2-S4 収縮/弛緩

膀胱壁のが充満(正常で約300-400mL)を感知しを介して脊髄・脳幹(, pontine micturition center)へ伝達。脳幹からの下行性制御が、幼児期以降は排尿をに開始/抑制できるようにする——脊髄レベルのは本来自動的だが、大脳皮質・橋の排尿中枢による抑制/許可のもとに置かれている。

⚠️ によって膀胱機能障害のパターンが異なる。 よりの損傷では、皮質からの抑制が失われる一方でレベルの弓自体は保たれるため、反射性(不随意)排尿が起こりうる。そのもの(S2-S4)の損傷では弓自体が破綻し、弛緩性(低緊張性)膀胱となる。

まとめ

  • 尿濃縮の主エンジンはの下行脚=水透過、上行脚=溶質透過という非対称性とTALの能動輸送)で、300→1200mOsmの勾配を作る。
  • によるは受動的にこの勾配を維持し、はADH依存的に間質浸透圧の約半分(600mOsm)を尿素が担うことに寄与する。
  • ADH不在時はDCT後半〜集合管でAq2が失われが止まり、が生成される(内髄質浸透圧自体も尿素寄与分だけ低下する)。
  • 排尿は(副交感神経性収縮)・(交感神経性収縮で維持)・による随意制御)の協調と、に対する橋・皮質からの制御で成り立つ。