外科学

外科学 · G-01

創傷の分類と創傷治療の原則

Classification of wounds and principles of wound treatment

前提:病態
急性炎症の特徴
前提:正常
止血と血小板の役割

🧠 全体像:創傷診療は「生命を脅かす損傷を先に除外し、深さ・汚染・失活組織・重要構造損傷を評価し、洗浄・・止血・適切な閉鎖で治癒環境を整える」と捉える。創の見た目だけでなく、と末梢のまで記録する。

創傷の定義と記録

創傷は、機械的、熱的、化学的、電気的、放射線などの外力で上皮または深部組織の構造・機能が損なわれた状態である。のような創傷と、創傷に分けられる。

記録項目 観察内容
種類・部位 、解剖学的位置、左右
大きさ・深さ 長さ×幅×深さ、露出する組織、治癒段階
創床 、上皮、壊死、、異物
接着、、肥厚、線維化、巻き込み
ポケット ポケット、トンネル、瘻孔を患者頭側=12時として時計方向で記録
滲出液 量、性状、色、
周囲皮膚 発赤、浮腫、蒼白、、皮疹
症状・機能 疼痛、知覚、運動、末梢血流
治癒阻害因子 糖尿病、虚血、栄養、喫煙、薬剤、感染
実施処置 洗浄、、被覆材、閉鎖法

ポケットは下の、トンネルは創から方向性をもって延びる、瘻孔は深部病変と皮膚表面を結ぶ路である。

分類

深さと複雑性

分類 到達範囲・特徴
表皮性 表皮に限局
真皮まで
全層 まで
深部創 筋膜、筋、腱、神経、血管、骨、臓器へ及ぶ
単純創 主に皮膚・皮下組織
複雑創 神経血管、腱、骨、臓器損傷、広範な欠損を伴う
特殊創 糖尿病性、、など、原因疾患の評価が必須

微生物学的状態

状態 意味
汚染 微生物が創に存在するが、増殖や宿主組織への侵入を示さない
定着 微生物が増殖しているが、宿主障害や臨床的感染徴候を示さない
微生物が組織へ侵入し、疼痛増悪、発赤、熱感、排膿、治癒遅延などを来す
全身感染 発熱、頻脈、低血圧、臓器障害など創部を越えた反応を伴う

培養陽性だけで感染とは診断しない。創所見、、深部組織への侵入を合わせて判断する。

開放創と閉鎖性損傷

種類 特徴
な物体による比較的整った
で組織が裂け、不整なやを伴う
摩擦で表皮が
創 皮膚・軟部組織が基部から引き剝がされる
小さな入口から深部へ達し、異物・嫌気性環境に注意
入口と出口をもつ可能性があり、経路上の深部損傷を疑う
弾道とによる見かけ以上の
咬傷 多菌種汚染、腱・関節損傷、破傷風・リスクを評価
皮膚は保たれるが皮下出血・筋損傷を伴う
圧 高圧で広範な筋壊死、、を来し得る
血腫 限局した血液貯留

熱傷は現在、表在性、、、全層など「」で表す。旧来の1〜3度分類だけでは、治癒見込みや手術適応を十分に表せない。

創傷治癒

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue injury'>組織損傷</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemostasis phase'>止血期</span><br>血管収縮・血小板・フィブリン"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inflammatory phase'>炎症期</span><br>好中球・マクロファージが異物と壊死組織を除去"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proliferative phase'>増殖期</span><br>血管新生・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='granulation'>肉芽形成</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Re-epithelization'>再上皮化</span>"]
    D --> E["成熟・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='remodel'>再構築</span>期<br>コラーゲン再配列・瘢痕成熟"]
段階 主な現象
一過性血管収縮、、凝固、フィブリン
好中球・マクロファージ、サイトカイン、壊死組織・細菌の除去
などを介する血管新生、線維芽細胞、、、の遊走
期 細胞・血管密度低下、、創収縮、増加

治癒相は明確に切り替わるのではなく重複する。後も瘢痕のは正常皮膚と同等には戻らない。

閉鎖様式

様式 適する状況 特徴
清潔で失活組織が少なく、を安全に寄せられる創 縫合・ステープル・接着剤などで閉鎖し、治癒が速く瘢痕が小さい
、感染、汚染、閉鎖困難 開放管理し、・収縮・で治癒
汚染リスクが高いが、感染制御後に閉鎖可能 初期は開放管理し、反復評価後に閉鎖する

咬傷、深い、・虚血創を「必ず開放」と固定せず、部位、受傷時刻、洗浄の質、を含めて個別化する。

治癒を遅らせる因子

虚血・低酸素、感染、壊死、異物、血腫・、浮腫、反復外力、過度な張力 糖尿病、、貧血、喫煙、肥満、高齢、免疫抑制、、

グルココルチコイドは炎症・線維芽細胞機能を抑え得る。抗菌薬全般が一律にを阻害するわけではなく、不要な抗菌薬は耐性化と有害事象のため避ける。

合併症

時期 代表例 要点
早期 出血、血腫、、感染、 原因を評価し、・・再閉鎖の要否を判断
晩期 慢性創、瘻孔、潰瘍、、、 原因疾患と瘢痕の機能障害を評価

は元の創の範囲内にとどまりし得る。はを越えて増殖し、しにくい別の病態である。治療は、圧迫、病変内グルココルチコイド、凍結・レーザー・手術、難治例の補助放射線療法などを組み合わせる。

初期治療

flowchart TD
    A["外傷患者を評価"] --> B["ABCDEと活動性出血を優先"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='causation'>受傷機転</span>・汚染・深さ・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurovascular findings'>神経血管所見</span>"]
    C --> D["十分な洗浄と異物除去"]
    D --> E["失活組織を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='debridement'>デブリードマン</span>"]
    E --> F["破傷風・咬傷・感染リスクを評価"]
    F --> G["一次/遅延一次/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary intention'>二次治癒</span>を選択"]
    G --> H["湿潤環境を保つ被覆と再評価"]
  • 洗浄は十分量の清潔な水またはを用い、のある薬剤を創内へ漫然と用いない12。
  • 止血は圧迫を基本に、必要に応じて、、手術を行う。
  • は創の種類と接種歴で決める3。
  • 抗菌薬は感染、特定の咬傷、深部汚染、開放骨折、免疫不全など適応がある場合に用い、単なる創傷の存在だけでは投与しない。
  • 深部構造損傷、血流障害、機能障害、異物残存、治癒遅延が疑われれば専門診療へつなぐ。

まとめ

  • 創傷は深さ、機転、汚染、失活組織、重要構造損傷で記録する。
  • 治癒は止血、炎症、増殖、が重なって進む。
  • 閉鎖法は清潔度と組織生存性で選び、汚染創を無理に閉じない。
  • 洗浄、、止血、湿潤環境、原因疾患の是正が治療の幹である。
  • 熱傷や瘢痕の旧分類・旧治療をに用いない。

出典

  1. 1.Water for wound cleansing(Cochrane Database of Systematic Reviews・2022)創傷洗浄に関する13試験2504例を対象とした2022年改訂版のコクランレビューで、急性・慢性創傷を水道水・蒸留水・生理食塩水で洗浄した場合の創感染・治癒への影響差はいずれも統計学的に不確実(エビデンスの確実性はvery low〜low)であり、水道水が生理食塩水より劣るという根拠も優れるという根拠も示されなかったことを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Cytotoxicity and Wound Closure Evaluation in Skin Cell Lines after Treatment with Common Antiseptics for Clinical Use(Cells (MDPI)・2022)ヒト線維芽細胞・ケラチノサイト培養を用いたin vitro研究で、クロルヘキシジングルコン酸塩とエタノールがケラチノサイトの生存率と細胞遊走能を有意に低下させ、ポビドンヨードとクロルヘキシジンが線維芽細胞の生存率を有意に低下させた一方、次亜塩素酸ナトリウムは両細胞種への毒性が最も低かったことを確認した(in vitro試験であり臨床的な治癒遅延を直接測定したものではない)。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Prevention of Pertussis, Tetanus, and Diphtheria with Vaccines in the United States: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP)(MMWR Recommendations and Reports(米国CDC ACIP)・2018)米国CDC ACIPの包括的推奨で、創傷管理における破傷風予防(Td/Tdapおよびヒト破傷風免疫グロブリンの適応)は、創が清潔軽微創かそれ以外かの分類と、患者の破傷風トキソイド接種歴(完了回数・最終接種からの経過年数)の組み合わせで決定する枠組みであることを確認した。閲覧 2026-08-26