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Disease Atlas · 運動器 · 疾患

大腿骨頭すべり症

Slipped capital femoral epiphysis

別名
SCFE
臓器系
運動器小児
科目
Pediatrics
トピック
小児科 1-11:小児の関節痛小児科 1-07:小児・思春期の肥満
鑑別疾患
Perthes病
原因薬剤
ソマトロピン
症状
大腿部痛四肢痛関連痛歩行不安定
原因となる疾患
甲状腺機能低下症

🧠 全体像:(SCFE)は、まだ閉鎖していない大腿骨近位の()のもっとも脆弱な層で、がに対して後下方へすべる相当の障害である。思春期前後・肥満・男児という典型像を持つが、学習上の最大の落とし穴は「股関節の疾患なのに膝や大腿の痛みで受診する」ことにあり、股関節を診察しなければ診断できない。もう一つのは荷重できるか(安定型)できないか(不安定型)で、この違いがそのままのリスクを大きく左右する。診断がつけば荷重を止めて緊急でを行うという、時間との勝負の疾患である。

病態

成長期のは、に近いがもっとも力学的に弱い。思春期には・性ホルモンの影響での強度との傾き(平面の垂直化)が変化し、そこへ体重増加によるが加わることで、この脆弱な層を通って()がに対して後下方へすべる1。骨頭そのものは内で本来の位置にとどまり、骨頸部の側が前上方へ回旋するイメージで捉えると分かりやすい。

flowchart TD
    A["思春期の急速な身長増加+肥満による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='axial loading'>軸方向荷重</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proximal femoral physis'>大腿骨近位骨端線</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypertrophic zone'>肥大層</span>(もっとも脆弱な層)"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='head of femur'>大腿骨頭</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epiphysis'>骨端</span>)が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='femoral neck'>大腿骨頸部</span>に対し<br>後下方へすべる(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Salter-Harris type I'>Salter-Harris I型</span>相当)"]
    C --> D{"荷重できるか"}
    D -->|"できる:安定型"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='osteonecrosis of the femoral head'>大腿骨頭壊死</span>リスク10%未満"]
    D -->|"できない:不安定型"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='head of femur'>大腿骨頭</span>への血流が高度に障害され<br>壊死リスク24〜47%"]

💡 不安定型で壊死リスクが跳ね上がるのは、すべりに伴ってを栄養するが牽引・されやすいためである。 安定型は慢性に緩徐進行し血流が保たれやすいのに対し、不安定型は急性の高度な変位で血流そのものが絶たれる。この違いが治療のと予後を分ける最大の軸になる。

疫学・危険因子

⭐ 肥満は単一で最大の危険因子である1。好発年齢は女児で平均11.2歳、男児で平均12.0歳とやや男児が遅く、男児にやや多い。片側発症が多いが、対側の発症は経過中に約25%で生じるため、初診時に無症状の対側にも注意を払う1。

⚠️ な年齢(10歳未満または16歳超)・・非肥満・両側同時発症・型のすべりでは、内分泌・代謝疾患の合併を疑い評価する2。代表的な原因は甲状腺機能低下症、・、(に伴う)で、これらはの強度そのものを低下させるため、肥満という「力学的な」危険因子がなくてもすべりが生じうる2。

⚠️ ()中の患者もこの非典型群に含まれる。 GH治療はの急速な成長を促す一方で、との力学強度のバランスを崩しうるため、治療中に股関節・大腿・膝の痛みやが出現したらSCFEを疑って評価する。

臨床像

  • 患側股関節を位に保とうとする(・)
  • 股関節の、屈曲に伴う不随意な()
  • ⚠️ 痛みの部位は必ずしも股関節ではない。 股関節痛が約半数、が約3分の1、が約4分の1を占め、これは股関節を支配するがにも分布するためのである1。このように股関節から離れた部位に及ぶの分布そのものが、診断の遅れを生む要因になる。
  • 症状の経過は数週〜数か月にわたって緩徐に進行することが多く(安定型)、診断までの遅れが平均で数か月に及ぶとされる1

⭐ 「小児が膝や大腿の痛みを訴えたら、股関節を診る」——これがSCFEを見逃さないための最重要の姿勢である。 膝の診察だけで異常なしと判断して股関節を診なければ、すべりは進行し不安定型へ移行しうる。

診断

flowchart TD
    A["思春期の股関節・大腿・膝の痛み、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='claudication'>跛行</span>"] --> B["両側股関節の正面撮影+<br>ラウエンシュタイン(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='frog-leg position'>蛙肢位</span>)撮影"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Klein line'>Klein線</span>を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='femoral neck'>大腿骨頸部</span>上縁に沿って引く"]
    C --> D{"線が骨頭に交わるか"}
    D -->|"交わらない(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Trethowan sign'>Trethowan徴候</span>陽性)"| E["SCFEと診断"]
    D -->|"交わるが臨床的に強く疑う"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epiphyseal line'>骨端線</span>周囲の浮腫・開大を確認(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='preslip stage'>前すべり期</span>)"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Southwick classification'>Southwick分類</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='slip angle'>すべり角</span>を評価し重症度を分類"]

正面像に加え、ラウエンシュタイン()撮影は後下方へのすべりを最も鋭敏に描出するため必須である(不安定型では無理なを避け側面像で代用する)。は上縁に沿って引いた線で、正常ではを通過するが、SCFEではこの線が骨頭に交わらない()。すべりの重症度はによって軽度・中等度・重度()に分類し、の参考にする1。臨床的に強く疑うが単純X線が正常に近い場合は、で周囲の・の開大()を確認する。

⚠️ 見逃してはいけないもの・緊急度

  • ・のみを訴える患者で股関節が診察されず見逃されるパターンが最頻。 思春期・肥満の患児の下肢痛では、必ず股関節の可動域(特に)を確認する。
  • 不安定型()は整形外科的緊急事態である。 診断がついた時点で直ちに荷重を禁止し、可及的速やかに手術()を行う。
  • 非典型例(若年・非肥満・両側性)では内分泌精査を先送りにしない。 手術のタイミングを遅らせない範囲で、甲状腺機能・GH軸・腎機能などのスクリーニングを行う。

治療

⭐ 安定型・不安定型を問わず、診断確定後は緊急のin situ(ピンニング)が標準治療である1。無理な整復操作はさらなる血流障害を招くため、強制的な整復は行わず、体位による自然な整復にとどめてスクリューをに対しほぼ垂直に、中心部へ留置する。安定型は術後早期からを許可できることが多いが、不安定型は数週間の制限を要する1。

対側の(無症候のへの)は、内分泌疾患合併例など対側発症リスクが高いと判断される場合に検討されることがあるが、全例に行うものではなく整形外科的な個別判断による。

合併症・予後

  • :安定型では10%未満だが、不安定型では24〜47%に達し、SCFEの最も重篤な合併症である1。
  • :の急速な破壊で、スクリューのなどが誘因となりうる。
  • 対側発症:経過中に約25%で生じるため、初診時に無症状の対側も定期的に評価する1。
  • 長期的には()を介して早期のに至りうる。

まとめ

  • SCFEは大腿骨近位のでが後下方へすべる病態で、思春期・肥満・男児に多い。
  • ・として受診し股関節が診察されないと見逃される。小児の下肢痛では股関節の診察を省かない。
  • な年齢・非肥満・両側性では甲状腺機能低下症・・などの内分泌疾患を疑い評価する。治療中もこの文脈で注意する。
  • 荷重可能な安定型とな不安定型に分け、不安定型はリスクが著しく高い(24〜47%)。
  • 診断は股関節正面+と。診断確定後は荷重を止めて緊急でを行う。

出典

  1. 1.Slipped Capital Femoral Epiphysis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)大腿骨頭すべり症が成長板の肥大層で大腿骨頭近位骨端が後下方へ変位する病態でSalter-Harris I型に相当すること、肥満が単一で最大の危険因子であること、平均発症年齢が女児11.2歳・男児12.0歳であること、膝痛での受診が約26%を占め閉鎖神経経由の関連痛で説明されること、Loder分類で安定型(荷重可能、大腿骨頭壊死リスク10%未満)と不安定型(荷重不能、壊死リスク24〜47%)に分かれること、Southwick分類ですべり角により軽度・中等度・重度に分けること、股関節正面・蛙肢位(frog-leg lateral)撮影とKlein線・Trethowan徴候で診断すること、安定型・不安定型ともに緊急のin situピンニングが標準治療であること、対側発症が約25%に及ぶことを確認した閲覧 2026-08-19
  2. 2.Slipped Capital Femoral Epiphysis Associated with Endocrine Disorders(Journal of Pediatric Orthopaedics・1995)非典型的な年齢(10歳未満または16歳超)・低身長・非肥満で発症した大腿骨頭すべり症では甲状腺機能低下症・成長ホルモン欠乏症・下垂体機能低下症・腎性骨異栄養症などの内分泌・代謝疾患の合併を疑い内分泌学的評価を行うべきであることを確認した閲覧 2026-08-19