薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · B36 Targeted cancer therapy / 分子標的薬 · 必修

トラスツズマブ デルクステカン

trastuzumab deruxtecan

分類
Targeted cancer therapy / 分子標的薬
商品名(日本)
エンハーツ
商品名(EU)
Enhertu
科目
Pathology
トピック
B-07: EGFR, ABL and BCL2 genes and their roles in tumor development
承認適応
乳癌肺癌胃癌
副作用
呼吸困難咳悪心
監視検査値
好中球数左室駆出率

🧠 全体像:(T-DXd)は「抗HER2抗体+切断可能な+」というADC()で、HER2陽性だけでなく・HER2乳癌にも効くという点で従来の(、 エムタンシン)の枠を破った薬である。⚠️ 一方でクラス全体を象徴する(ILD)/という致死的にもなりうる特有の毒性を持ち、これは通常の化学療法性肺障害とは別に扱うべきである。

薬効群の中での位置づけ

薬剤 特徴
なし(裸の抗体) — HER2陽性腫瘍に対する最初の抗HER2抗体。ADCではない
エムタンシン(T-DM1) (DM1) 非切断性 第1世代ADC。が乏しい
(T-DXd) () 切断可能 高い(DAR)とにより・腫瘍にも効く

⭐ 「切断可能な」が低発現腫瘍への効果を可能にした鍵。 が腫瘍細胞内で切断されが遊離すると、HER2を発現しない隣接腫瘍細胞にも薬剤が拡散して傷害する「」が生じる。これにより、従来ADCが効かなかった・腫瘍にも治療域が広がった。

機序

flowchart TD
    A["抗HER2抗体部分が腫瘍細胞表面のHER2に結合"] --> B["受容体複合体が細胞内へ取り込まれる(エンドサイトーシス)"]
    B --> C["リソソーム内で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='linker'>リンカー</span>が切断される"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='topoisomerase I inhibitor'>トポイソメラーゼI阻害薬</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deruxtecan'>デルクステカン</span>)が遊離"]
    D --> E["DNA<span class='jp-term jp-term-diagram' title='single-strand break'>一本鎖切断</span>を誘導し細胞死"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='membrane permeability'>膜透過性</span>が高く隣接細胞へ拡散(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bystander effect'>バイスタンダー効果</span>)"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='HER2-low'>HER2低発現</span>・非発現の隣接腫瘍細胞も傷害"]

適応

適応 対象 用法
HER2陽性早期乳癌 術前・ 5.4 mg/kg 3週毎
HER2陽性 一次治療(併用)、既治療の単剤 5.4 mg/kg 3週毎
・HER2 既治療(または化学療法後) 5.4 mg/kg 3週毎
活性化型HER2変異陽性の既治療 のある又は転移例() 5.4 mg/kg 3週毎
HER2陽性胃癌 既治療(を含むレジメン後)の単剤 6.4 mg/kg 3週毎(乳癌・肺癌より高用量)
HER2陽性(IHC 3+)横断 既治療() 5.4 mg/kg 3週毎

⭐ の定義はIHC 1+、またはIHC 2+かつin situ hybridization陰性。 DESTINY-Breast04試験(557例)では、陽性集団で10.1か月対選択化学療法5.4か月、23.9か月対17.5か月と大きく上回った(52.3%)1。この結果が適応をHER2陽性から・へ広げる転換点になった。

💡 HER2変異陽性では・ではなくが標的。 EGFR・ABL・BCL2遺伝子で扱うHER2/neu増幅(乳癌の予後因子)とは異なるで、DESTINY-Lung02試験(HER2変異陽性転移性152例)は5.4 mg/kgと6.4 mg/kgを比較し、有効性・安全性のバランスから5.4 mg/kgが2022年8月の米国承認の根拠になった2。

禁忌・注意

⚠️ (ILD)/はクラス全体を象徴するであり、通常の化学療法性肺障害とは別に扱う。 発現率は(5.4 mg/kg)で12%(致死的転帰0.9%)、併用でも12%(致死的転帰0.5%)、胃癌(6.4 mg/kg)で10%3。

Grade 対応
Grade 1(無症候性) 。28日以内に消失すれば同用量で再開、28日超なら減量
Grade 2以上 永続中止し、直ちに副腎皮質ステロイドを開始する
  • ⭐ 「軽症でも」「Grade 2以上は再開せず永続中止」がILD管理の骨格。 呼吸器症状・低酸素・画像所見の変化を早期に捉え、他の原因(感染・腫瘍進行)を除外したうえでステロイド治療を開始する。
  • 好中球減少:投与法により58〜79%に生じ、Grade 3-4が17〜51%。投与前に血球数を確認し、必要に応じ減量・する。
  • :投与前・投与中に定期的にLVEFを評価し、LVEF 40%未満または20ポイント超の低下、症候性心不全があれば中止する。
  • がに含まれ、妊娠可能な女性には投与前の妊娠検査とが必要。

副作用

高頻度の副作用は悪心・好中球減少・貧血・倦怠感などで、通常のと重なる部分が多い。ILD/は頻度こそ数%〜十数%だが、重症化・死亡に至る可能性がある特有の有害事象であり、他の抗HER2薬(、 エムタンシン)と比べて頻度が高い。も定期モニタリングの対象になる。

まとめ

  • は抗HER2抗体++ので、により・腫瘍にも効く。
  • 適応はHER2陽性・低発現・乳癌、HER2変異陽性、HER2陽性胃癌、HER2陽性横断と多岐にわたり、胃癌のみ用量が6.4 mg/kgと高い。
  • /はクラスを象徴する——Grade 2以上は永続中止・ただちにステロイド開始という管理を、通常の化学療法性肺障害と混同しない。
  • DESTINY-Breast04試験が乳癌へのの、DESTINY-Lung02試験がHER2変異陽性への適応の根拠になった。
  • 好中球減少・も定期モニタリングが必要な重要な有害事象。

出典

  1. 1.Trastuzumab Deruxtecan in Previously Treated HER2-Low Advanced Breast Cancer(New England Journal of Medicine(DESTINY-Breast04)・2022)HER2低発現(IHC 1+、又はIHC 2+かつin situ hybridization陰性)の既治療(1〜2レジメン)転移性乳癌557例を対象に、トラスツズマブ デルクステカンと医師選択化学療法を2:1に割り付けた第3相試験。ホルモン受容体陽性494例(88.7%)での無増悪生存期間中央値はトラスツズマブ デルクステカン群10.1か月対化学療法群5.4か月、全生存期間中央値は23.9か月対17.5か月であった。奏効率は52.3%。この試験がHER2低発現転移性乳癌への適応拡大の根拠になった。閲覧 2026-09-26
  2. 2.Trastuzumab Deruxtecan in Patients With HER2-Mutant Metastatic Non-Small-Cell Lung Cancer: Primary Results From the Randomized, Phase II DESTINY-Lung02 Trial(Journal of Clinical Oncology・2023)プラチナ製剤を含む前治療歴のあるHER2変異陽性転移性非小細胞肺癌152例を、トラスツズマブ デルクステカン5.4 mg/kg(n=102)または6.4 mg/kg(n=50)に2:1で割り付けた第2相試験。両用量とも奏効は強く持続的だったが、有効性・安全性のバランスから5.4 mg/kgが優先され、2022年8月の米国承認(5.4 mg/kg)の根拠になった。閲覧 2026-09-26
  3. 3.ENHERTU (fam-trastuzumab deruxtecan-nxki) injection, powder, lyophilized, for solution(Daiichi Sankyo Inc.(DailyMed 米国添付文書)・2026)改訂表示2026年5月15日の米国添付文書。枠組み警告は間質性肺疾患(ILD)/肺炎(重症・生命を脅かす・死亡例を含む)と胎児毒性の2項目。適応はHER2陽性早期乳癌(術前・術後補助療法)、HER2陽性転移性乳癌(一次治療でペルツズマブ併用、既治療の単剤)、HER2低発現・HER2超低発現転移性乳癌、活性化型HER2変異陽性の既治療非小細胞肺癌(迅速承認)、HER2陽性胃癌(既治療の単剤)、HER2陽性(IHC 3+)の固形癌横断適応(迅速承認)の多岐にわたる。用法は多くの適応で5.4 mg/kgを3週毎点滴、胃癌は6.4 mg/kg。機序はヒト化抗HER2抗体に切断可能なリンカーを介してトポイソメラーゼI阻害薬デルクステカンを結合した抗体薬物複合体。ILD/肺炎の発現率は単剤療法(5.4 mg/kg)で12%(致死的転帰0.9%)、ペルツズマブ併用で12%(致死的転帰0.5%)、胃癌(6.4 mg/kg)で10%。管理はGrade 1(無症候性)で休薬し28日以内に消失すれば同用量で再開、Grade 2以上は永続中止しただちに副腎皮質ステロイドを開始する。好中球減少は投与法により58〜79%(Grade 3-4が17〜51%)に生じ、投与前に血球数を確認する。左室機能低下も重要な警告で、LVEF 40%未満または20ポイント超の低下、症候性心不全で中止する。閲覧 2026-09-26