病理学

病理学 · B/07

EGFR・ABL・BCL2遺伝子(腫瘍形成への関与)

EGFR, ABL and BCL2 genes and their roles in tumor development

タグ
Mechanism / 機序High-yield / ポイント
応用トピック
濾胞性リンパ腫慢性リンパ性白血病・小リンパ球性リンパ腫分子標的治療の基礎頭頸部癌の放射線・外科・薬物療法肺癌の外科治療と薬物療法肺癌の病理と分子生物学肺癌の化学療法・免疫療法・分子標的療法
疾患
濾胞性リンパ腫

🧠 全体像:EGFRとABLは「をにONにする」型の(受容体型・)、BCL2は「死なない」型の(抗アポトーシス)である。発癌には増殖の亢進との両輪が必要で、この3遺伝子はその2つの軸を代表する好例になっている。

概要

これら3遺伝子は、発癌の2つの主要テーマを示す:増殖を駆動するの活性化(EGFR、ABL)と、アポトーシスの回避(BCL2)。

EGFR(HER1/ErbB1)— 受容体型チロシンキナーゼ

  • 正常時:EGFが結合 → → → 活性化受容体 → RAS/MAPK+PI3K/AKT → 転写、増殖、生存。リガンドなし = シグナルなし。
  • 活性化 — (リガンドなしで持続的シグナル)または・増幅(微量のリガンドにも過敏)。
  • 疾患:肺の扁平上皮癌・腺癌など。
  • ⚠️ 「が効く」の意味は臓器で異なる。 ではEGFR遺伝子の自体のがシグナルを増強し、この変異の有無がEGFR-感受性を左右する——が著効した9例中8例にこの領域の変異があり、無効の7例には1例もなかった1。現在の代表的なEGFR-であるの米国添付文書でも、一次治療などの適応はexon19欠失またはexon21 L858R変異をもつ腫瘍に限られている2。一方、大腸癌ではEGFR自体の変異ではなく下流のKRAS遺伝子の変異の有無がの効果を決める——KがあるとEGFR遮断とはにが活性化し続けるため、KRAS(exon2)変異腫瘍ではの恩恵がなかった3。現在はKRASに加えてNRASも含めたRAS野生型の確認が投与の前提になっている4。
  • (ERBB2)はEGFRファミリーの一員で、主に遺伝子増幅()によって活性化する点でEGFRと異なる。1987年の原著では原発性乳癌189例の30%で/neu遺伝子が増幅しており、増幅は・再発までの期間の有意な予測因子で、他の予後因子で調整しても有意性を保った5。ただし活性化型の変異をもつ腫瘍もあり、米国では変異陽性のに抗()が承認されている6。
  • 治療 — 受容体を遮断:細胞外の抗体、小分子TK阻害薬。EGFR-は世代で分かれ、第1世代(/)に対し、感受性変異に加えてT790Mも選択的に阻害する第3世代のは、未治療の陽性進行肺癌で第1世代よりを延長した(18.9か月対10.2か月)7。米国ではexon19欠失・L858R変異陽性の転移性の一次治療のほか、EGFR-治療後に進行したT790M変異陽性例にも適応をもつ2。

ABL — 非受容体型(細胞質)チロシンキナーゼ

  • 正常時は核内。分化・分裂・接着を調節し、傷害細胞ではアポトーシスを促進する。
  • t(9;22)():ABL(9番染色体)がBCR(22番染色体)に融合 → BCR-ABL → な細胞質TK → -STAT、SRC、RASを活性化 → 増殖+アポトーシス障害。
  • 疾患:CML(約95%)、Ph陽性ALLも、稀にAML。
  • ⭐ の大きさは疾患で異なる。 BCR-ABLにはP190・P210・P230という大きさの異なる主要な型があり、Ph陽性白血病の異なる病型にみられる(ではP210が主で、P190はPh陽性B細胞性に多くではまれ)。ただしマウスモデルでは3型とも様の骨髄増殖を同程度に起こし、P190はリンパ性白血病をより早く起こした8。
  • ⭐ は慢性期の予後を根本から変えた。 試験の中央値10.9年の追跡で、初回治療としてを投与された慢性期患者の10年推定全生存率は83.3%であった9。
  • T315Iはや第2世代のBCR-ABL阻害薬に抵抗性を示す。・の抵抗性・例またはT315I変異例を対象とした第2相試験では、第3世代のポナチニブでT315I変異陽性の慢性期患者の70%が主要的、66%が完全的を達成した10。ABLのに結合してBCR-ABLのキナーゼ活性を阻害するも、米国でT315I変異をもつ慢性期に適応をもつ(この場合は通常より高用量の200 mg 1日2回)11。ただし国で区分が違い、ではT315I変異例への適応は「ポナチニブに抵抗性・または」な患者に限られ12、日本の効能は「」(慢性期)で用法は1回80 mg 1日1回だけであり、T315I変異例向けの200 mg 1日2回は承認されていない13。
  • 治療 — BCR-ABL阻害薬()。

BCL2 — 抗アポトーシス性ミトコンドリアタンパク質

  • 正常時はBax/Bakを阻害 → ミトコンドリアからのチトクロムc放出を防ぐ → 内因性アポトーシスを遮断。
  • t(14;18):BCL2(18番染色体)がIgHプロモーター(14番染色体)下に置かれる → → B細胞がアポトーシスに抵抗 → 蓄積 → (リンパ節腫脹、)。
  • BCL2に選択的な阻害薬としてがある。BCL-2とBCL-XLの両方を阻害するナビトクラクスでは、BCL-XL阻害による血小板減少が問題だったため、BCL2選択的に作り直されたで、BCL2依存性腫瘍の増殖をin vivoで阻害しつつヒト血小板を温存し、難治性患者3例では単回投与で24時間以内に腫瘍崩壊が生じた14。米国では・と、75歳以上または併存症のため強力なが行えない新規診断の(・・低用量のいずれかとの併用)に承認されている15。ではの併用相手がに限られ(低用量は含まれない)16、日本では再発又は難治性のにも適応がある17。

💡 ポイント: EGFR = RTK → RAS/MAPK+、肺癌での・増幅(抗EGFR療法)。ABL = 細胞質TK、t(9;22) BCR-ABL = ()。BCL2 = 抗アポトーシス、t(14;18) = 。活性化と(BCL2)。

まとめ

  • EGFRはで、または・増幅がRAS/MAPK・/AKT経路を持続的に活性化する(肺癌、抗EGFR療法の標的)。肺癌のEGFR-は変異(exon19欠失・L858R)の有無で効果が決まり、T790Mも阻害する第3世代のが一次治療の適応をもつ。大腸癌のはRAS野生型が前提。
  • ABLは正常時は核内でアポトーシスを促進するが、t(9;22)でBCRと融合するとな細胞質チロシンキナーゼとなりを引き起こす(で阻害)。T315I変異は・第2世代薬に抵抗性で、ポナチニブやが選択肢になる。
  • BCL2は正常時にBax/Bakを阻害してアポトーシスを防ぐが、t(14;18)でIgHプロモーター下に置かれするとを引き起こす。
  • 3遺伝子は「増殖の亢進(EGFR・ABL)」と「アポトーシスの回避(BCL2)」という発癌の2つの柱を代表する。

出典

  1. 1.Activating mutations in the epidermal growth factor receptor underlying responsiveness of non-small-cell lung cancer to gefitinib(The New England Journal of Medicine・2004)ゲフィチニブに反応した非小細胞肺癌患者9例中8例でEGFR遺伝子のチロシンキナーゼドメインに体細胞変異を認めた一方、反応しなかった患者7例では変異を認めず、これらの変異が増殖因子シグナルの増強とゲフィチニブ感受性の獲得に関連することを確認した閲覧 2026-08-27
  2. 2.TAGRISSO (osimertinib) tablets — Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration / DailyMed・2024)改訂表示「Revised: 9/2024」(患者向け情報末尾の印字も「Revised: 09/2024」、SPLのEffective Time 2024-09-25)の米国添付文書(AstraZeneca)で、転移性非小細胞肺癌の一次治療を含む各適応がEGFR exon19欠失またはexon21 L858R変異をもつ腫瘍に限られること、別にEGFR-TKI治療後に進行したEGFR T790M変異陽性の転移性非小細胞肺癌の適応があること、12.1で本剤がEGFRの特定の変異型(T790M・L858R・exon19欠失)に野生型の約9分の1の濃度で不可逆的に結合することを確認した閲覧 2026-09-23
  3. 3.K-ras mutations and benefit from cetuximab in advanced colorectal cancer(The New England Journal of Medicine・2008)化学療法不応の大腸癌572例をセツキシマブ併用支持療法群と支持療法単独群に無作為割付した試験で、解析できた394例中42.3%にK-ras遺伝子exon2の活性化変異があり、K-ras変異腫瘍を持つ患者はセツキシマブの恩恵がなかった一方、野生型K-ras腫瘍を持つ患者ではセツキシマブが有効であったことを確認した閲覧 2026-08-27
  4. 4.Vectibix 20 mg/mL concentrate for solution for infusion - Summary of Product Characteristics(electronic Medicines Compendium (UK SmPC, EU承認内容を反映)・2025)改訂日2025年7月21日の英国SmPCで、4.1の適応がRAS野生型の転移性大腸癌に限られ、4.2でKRASとNRASの双方(いずれもexon2・3・4)について野生型であることを検証済みの検査法で確かめてから開始するよう求めていることを確認した閲覧 2026-09-23
  5. 5.Human breast cancer: correlation of relapse and survival with amplification of the HER-2/neu oncogene(Science・1987)原発性乳癌189例の解析で、EGFR受容体族に関連するが別個の遺伝子であるHER-2/neuが腫瘍の30%で2〜20倍以上に増幅しており、この増幅がリンパ節転移陽性乳癌において全生存期間・再発までの期間の有意な予測因子であったことを確認した閲覧 2026-08-27
  6. 6.ENHERTU (fam-trastuzumab deruxtecan-nxki) injection, powder, lyophilized, for solution(Daiichi Sankyo Inc.(DailyMed 米国添付文書)・2026)改訂表示「Revised: 5/2026」(Medication Guide末尾の印字も「Revised: 05/2026」、SPLのEffective Time 2026-05-15)の米国添付文書で、適応の1つが、前治療歴のある切除不能または転移性の非小細胞肺癌のうち活性化型HER2(ERBB2)変異をもつ腫瘍への単剤投与であることを確認した閲覧 2026-09-23
  7. 7.Osimertinib in Untreated EGFR-Mutated Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer(New England Journal of Medicine・2018)抄録で確認した。オシメルチニブを、EGFR-TKI感受性変異とEGFR T790M耐性変異の両方を選択的に阻害する経口・第3世代・不可逆的EGFR-TKIと位置づけ、未治療のEGFR変異(exon19欠失またはL858R)陽性進行非小細胞肺癌556例を対象とした二重盲検第3相試験(FLAURA)で、標準EGFR-TKI(ゲフィチニブまたはエルロチニブ)に比べ無増悪生存期間中央値を延長したこと(18.9か月対10.2か月、ハザード比0.46)を確認した閲覧 2026-09-23
  8. 8.The P190, P210, and P230 forms of the BCR/ABL oncogene induce a similar chronic myeloid leukemia-like syndrome in mice but have different lymphoid leukemogenic activity(The Journal of Experimental Medicine・1999)抄録と全文(PMC2193055)で確認した。BCR/ABLにはP190・P210・P230の3つの主要な型があり、Ph陽性白血病の異なる病型にみられる。序論はP210が慢性期CMLに、P190がPh陽性B細胞性急性リンパ性白血病に多くCMLではまれと整理している。本研究では、IL-3依存性リンパ系細胞株(Ba/F3)の増殖刺激能が型により異なりチロシンキナーゼ活性と相関した一方、5-FU前処置ドナーのマウス骨髄移植モデルでは3型ともCML様の骨髄増殖症候群を同程度に誘導し、P190はリンパ性白血病をより短い潜伏期で誘導した閲覧 2026-08-27
  9. 9.Long-Term Outcomes of Imatinib Treatment for Chronic Myeloid Leukemia(The New England Journal of Medicine・2017)IRIS試験の中央値10.9年の追跡で、初回治療としてイマチニブを投与された慢性期CML患者の10年推定全生存率は83.3%、82.8%が完全細胞遺伝学的奏効を達成し、長期投与でも許容できない累積毒性・遅発性毒性を認めなかったことを確認した。対照群(インターフェロンα+シタラビン)は65.6%がイマチニブへクロスオーバーしたため、この長期成績はイマチニブ群に焦点を当てた解析に基づく閲覧 2026-08-27
  10. 10.A phase 2 trial of ponatinib in Philadelphia chromosome-positive leukemias(The New England Journal of Medicine・2013)抄録で確認した。ダサチニブまたはニロチニブに抵抗性・不耐容、またはBCR-ABL T315I変異をもつ重度前治療歴のあるCML・Ph陽性ALL患者449人を対象とした第2相試験(PACE)で、慢性期CML 267例のうちT315I変異例では70%が主要細胞遺伝学的奏効、66%が完全細胞遺伝学的奏効を達成したこと、抄録がT315IをTKI抵抗性の変異と表現し、ポナチニブをT315Iを含む変異型BCR-ABLの強力な阻害薬と位置づけていることを確認した閲覧 2026-08-27
  11. 11.SCEMBLIX (asciminib) tablet, film coated — full prescribing information(Novartis / DailyMed (U.S. National Library of Medicine)・2025)2026-09-23に取得した現行SPL(DailyMedが表示する改訂は「Revised: 11/2025」=SPLのEffective Time 2025-11-25、Version 12。文書本体に印字された改訂表示は患者向け情報末尾の「Revised: 10/2024」だけ)で、適応が初発のPh陽性慢性期CML(主要分子学的奏効率に基づく加速承認)、既治療のPh陽性慢性期CML、T315I変異をもつPh陽性慢性期CMLの3つであり、T315I変異例の推奨用量が200 mg 1日2回であること、12.1で本剤がABLのミリストイルポケットに結合してBCR::ABL1のキナーゼ活性を阻害し、in vitro・動物モデルでT315Iを含む変異型にも活性を示すことを確認した閲覧 2026-09-23
  12. 12.Scemblix (asciminib) : EPAR - Product Information (Annex I: Summary of Product Characteristics)(European Medicines Agency・2026)PDF全文を取得して確認した。4.1 の適応は「Ph陽性慢性期CMLの成人」と「T315I変異をもつPh陽性慢性期CMLで、ポナチニブに抵抗性・不耐容または不適格な成人」の2つで、T315I変異例の用量は200 mg 1日2回である。10. DATE OF REVISION OF THE TEXT は空欄なので、year はEPARランディングページの表示(Product information の Last updated: 07/08/2026)で判定した閲覧 2026-09-23
  13. 13.セムブリックス錠20mg/セムブリックス錠40mg 電子添文(ノバルティスファーマ株式会社(PMDA 電子添文)・2026)2026年3月改訂(第7版)の本文を取得して確認した。4. 効能又は効果は「慢性骨髄性白血病」(5.2 で慢性期に限る)で、6. 用法及び用量は「1回80mgを1日1回、空腹時」だけであり、T315I変異例に向けた別の用量(200 mg 1日2回)は無い閲覧 2026-09-23
  14. 14.ABT-199, a potent and selective BCL-2 inhibitor, achieves antitumor activity while sparing platelets(Nature Medicine・2013)ABT-199(ベネトクラクス)はBCL-2に選択的な経口BH3ミメティックで、BCL-2依存性腫瘍の増殖をin vivoで阻害しヒト血小板を温存すること、難治性慢性リンパ性白血病の3例では単回投与により24時間以内に腫瘍崩壊が起こったことを確認した閲覧 2026-08-27
  15. 15.VENCLEXTA (venetoclax) tablet, film coated; VENCLEXTA (venetoclax) kit(AbbVie Inc.(DailyMed 米国添付文書)・2026)改訂表示「Revised: 5/2026」(Medication Guide末尾の印字も「Revised: 05/2026」、SPLのEffective Time 2026-05-20)の米国添付文書で、適応が成人の慢性リンパ性白血病・小リンパ球性リンパ腫と、75歳以上または強力な寛解導入化学療法が行えない併存症をもつ新規診断の急性骨髄性白血病へのアザシチジン・デシタビン・低用量シタラビンとの併用であることを確認した閲覧 2026-09-23
  16. 16.Venclyxto (venetoclax) : EPAR - Product Information (Annex I: Summary of Product Characteristics)(European Medicines Agency・2026)PDF全文を取得して確認した。4.1 のAMLの適応は「低メチル化薬との併用で、強力化学療法に不適格な未治療の急性骨髄性白血病の成人」で、併用相手に低用量シタラビンは挙がっておらず、年齢の限定も無い閲覧 2026-09-23
  17. 17.ベネクレクスタ錠10mg/ベネクレクスタ錠50mg/ベネクレクスタ錠100mg 電子添文(アッヴィ合同会社(PMDA 電子添文)・2026)2026年7月改訂(第11版)の本文で、4. 効能又は効果が「慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)」「再発又は難治性のマントル細胞リンパ腫」「急性骨髄性白血病」の3つであることを確認した閲覧 2026-09-23