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Drug Atlas · B36 Targeted cancer therapy / 分子標的薬

テリソツズマブ ベドチン

telisotuzumab vedotin

分類
Targeted cancer therapy / 分子標的薬
科目
Pulmonology and Thoracic SurgeryPharmacology
トピック
32: Chemo-, immune- and targeted therapy of lung cancerB36: Drugs used in cancer treatment VI (Large molecule signal transduction inhibitors. Immunostimulant anticancer drugs)
承認適応
肺癌
副作用
末梢神経障害霧視末梢浮腫食欲不振呼吸困難咳

🧠 全体像:は、METの「遺伝子の異常」ではなく、c-Met蛋白が腫瘍細胞の表面にどれだけ出ているか(の染色強度)を目印にして、MMAEを腫瘍細胞へ運ぶADC()である1。米国では2025年5月に、c-Met蛋白高発現の既治療へされた。⚠️ 効果は35%・中央値7.2か月というの指標で認められたもので、生存延長はまだ示されていない。 日本の添付文書情報には該当がなく、未承認である(2026年11月の検索時点)。

薬効群の中での位置づけ

「MET」を狙う肺癌薬は3つの異なる異常を見ているので、検査結果と薬を取り違えない。

見ている異常 検査 代表薬 薬の種類
MET exon 14 カプマチニブ、テポチニブ MET阻害薬(経口)
MET増幅(の) と併用するサボリチニブまたはテポチニブ MET阻害薬(経口)
c-Met蛋白高発現 ADC()

肺癌の既治療例では、ほかにも(HER2)や(TROP2)のようなADCが並ぶ。前者は蛋白のを目印にでき、後者の肺癌適応は例である。ADCは「抗体=宛先、=切り離し装置、=殺細胞薬」の3部品で理解する。

部品
抗体 c-Metを認識するヒト化IgG1κ抗体
プロテアーゼで切断される―シトルリン型
MMAE()。抗体1分子あたり平均3分子

⭐ 「」は積み荷(MMAE)の名前。、と抗体の宛先は違うが、積み荷が同じなので末梢神経障害という副作用が共通する。

機序

c-Metは肝細胞の受容体である。本剤はこの受容体そのものを遮断する薬ではなく、受容体を「入口」として細胞内へ入り込み、MMAEを放出することで殺細胞効果を出す1。

flowchart TD
    A["抗体部分が腫瘍細胞表面の<br>c-Metに結合"] --> B["複合体が細胞内へ取り込まれる(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='internalization'>内在化</span>)"]
    B --> C["プロテアーゼが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='linker'>リンカー</span>を切断"]
    C --> D["MMAEが細胞内で遊離"]
    D --> E["微小管のネットワークが破綻"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cell cycle arrest'>細胞周期停止</span>とアポトーシス"]

💡 標的の「量」が効果の入口になる。 キナーゼ阻害薬は異常なシグナルを止めるので変異や増幅を見るが、ADCは細胞内へ薬を運べれば足りる。そのため、遺伝子異常がなくても蛋白が多く出ていれば対象になりうるという発想で患者を選ぶ。

適応と患者選択

項目 内容
米国の適応 FDA承認検査で判定したc-Met蛋白高発現[腫瘍細胞の50%以上が強い(3+)染色]の局所進行・転移性非扁平上皮で、全身治療を受けた成人1
承認の種類 とに基づく。臨床的有用性は確認試験で検証されることが継続承認の条件
日本 添付文書情報に該当なし(未承認)

⚠️ 試験で効果を確かめたのは「EGFR野生型」の集団である。 添付文書の適応文はEGFRの状態を限定しないが、有効性解析の84例はEGFR野生型で、前治療の化学療法が1ラインまでの症例だった。陽性例のデータは乏しい。

⚠️ 中間発現(25%以上50%未満が3+)は適応に含まれない。 第2相試験では中間発現でもが見られたが(下記)、承認された対象は高発現に限られる2。

用法・用量

  • 1.9 mg/kgを30分かけてし、2週毎に、または耐えがたい毒性まで続ける。体重100 kg以上は上限190 mg。
  • 減量は1.6 → 1.3 → 1 mg/kgの3段階で、1 mg/kgに耐えられなければ中止する。
  • が出た患者には、次回から30〜60分前に抗ヒスタミン薬(H1・H2)、、副腎皮質ステロイドを前投与する。
  • 末梢神経障害・ILD・などは重症度に応じて、減量または中止する1。

有害事象

米国添付文書にはなく、禁忌も「なし」だが、の中身は重い。LUMINOSITYの安全性解析168例では、重篤な有害事象が35%、致死的な有害事象が5%、有害事象による恒久中止が30%、が44%、減量が28%だった1。

事象 頻度 要点
末梢神経障害 51%(Grade 3が11%) 45%、運動性9%。発現までの中央値105日と遅れて出る。13%で恒久中止
・ 10%(Grade 3が3%、Grade 4が0.6%) 致死例3例。発現までの中央値48日。7%で恒久中止
25% 15%、角膜炎11%、5%。Grade 2以上はして眼科へ紹介
3% 呼吸困難、、悪寒、悪心、胸部不快感、低血圧。発現までの中央値28日
疲労・・食欲低下 各20%以上 末梢神経障害とあわせ、20%以上の主な有害事象(疲労29%、22%、食欲低下22%)
肺炎 13%(Grade 3以上が6%) 重篤な有害事象の一つ
  • 末梢神経障害は「蓄積して遅れて出る」。・灼熱感・・筋力低下を毎回聞き、悪化があれば減量する。としてのILDは咳、呼吸困難、発熱が出たらすぐ報告させる。
  • では、、角膜炎(角膜炎)、が問題になる。
  • :MMAEは動物で胎児死亡と奇形を起こした。妊娠可能な女性は最終投与後2か月、男性(妊娠可能なパートナーがいる場合)は4か月、有効な避妊を続ける。授乳は投与中と最終投与後1か月は避ける。

肝機能障害・相互作用・薬物動態

  • 中等度〜重度の(がの1.5倍超)では使用を避ける。 MMAEの曝露が増えるおそれがあるが、試験の対象外だった。軽度ではは不要。
  • 強いCYP3A阻害薬(、、など)でMMAEのAUCが増えうるため、副作用を注意して観察する。併用のMMAEのAUC増加は約1.4倍と予測されている。逆に強いCYP3A(リファンピシン)ではMMAEのAUCが約70%低下すると予測される(いずれもではなくモデル予測)。
  • 半減期はADCが約3日、MMAEが約4日。MMAEの血中濃度は投与の約5日後に最高となり、ほとんど蓄積しない。MMAEは主にCYP3A4で代謝され、の基質である1。

根拠——LUMINOSITY試験

単群・多コホートの第2相試験で、局所進行・転移性のc-Met蛋白NSCLCを対象にした。比較対照はなく、評価の中心はとである。ステロイドを要したILD・の既往などがある症例は除外されていた。

添付文書の有効性解析(c-Met高発現、EGFR野生型、非扁平上皮) 第2相の全体(172例)2
例数 84例 172例(高発現と中間発現)
35%(95%CI 24〜46)。0%、35% 全体28.6%、高発現34.6%、中間発現22.9%
中央値 7.2か月(反応例29例)。6か月以上59%、12か月以上21% 全体8.3か月
・ — 無増悪生存5.7か月、14.5か月
  • 前治療はが96%、が82%で、MET阻害薬の前治療は3.6%。対象の中心はと免疫療法の後の症例である。
  • 約6か月長い追跡の更新解析でもは29.2%(高発現34.5%)で、前治療の種類で効果は変わらなかった3。
  • ⚠️ とはの記述的な値で、などに対するを示す数字ではない。この薬の位置づけは、既治療後の選択肢を増やしたところまでである。

まとめ

  • 標的の目印はc-Met蛋白の高発現(で50%以上が3+)。MET exon 14やMET増幅とは別の検査・別の薬で扱う。
  • 米国で既治療のに。日本は未承認。1.9 mg/kgを2週毎にする。
  • 末梢神経障害(51%)・ILD(10%、致死例あり)・(25%)が三本柱の有害事象。
  • 積み荷はMMAEで、など他の製剤と神経障害を共有する。の中等度以上では避け、強いCYP3A阻害薬に注意する。

出典

  1. 1.EMRELIS (telisotuzumab vedotin-tllv) for injection, for intravenous use — Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration(AbbVie Inc.)・2025)Drugs@FDAの米国添付文書(改訂表示「Revised: 5/2025」)を全文読んで確認した。適応は、FDA承認検査で判定したc-Met蛋白高発現[腫瘍細胞の50%以上が強い(3+)染色]の局所進行・転移性非扁平上皮非小細胞肺癌で、前治療として全身治療を受けた成人。承認は奏効率と奏効期間に基づく迅速承認で、臨床的有用性は確認試験での検証が条件。用法は1.9 mg/kg(体重100 kg以上は最大190 mg)を30分かけて2週毎に点滴し、減量は1.6、1.3、1 mg/kgの3段階。禁忌は「None」で、枠組み警告の記載はない。警告は末梢神経障害(51%、Grade 3が11%)、ILD/肺臓炎(10%、致死3例)、眼表面障害(25%)、投与関連反応(3%)、胎児毒性。強いCYP3A阻害薬でMMAEのAUCが増加し、中等度〜重度の肝機能障害では使用を避ける。LUMINOSITY試験の有効性解析対象84例で確定奏効率35%(95%CI 24〜46)、奏効期間中央値7.2か月。閲覧 2026-11-02
  2. 2.Telisotuzumab Vedotin Monotherapy in Patients With Previously Treated c-Met Protein-Overexpressing Advanced Nonsquamous EGFR-Wildtype Non-Small Cell Lung Cancer in the Phase II LUMINOSITY Trial(Journal of Clinical Oncology・2024)抄録で確認した。第2相LUMINOSITY試験の第1・2段階で非扁平上皮・EGFR野生型NSCLC 172例にテリソツズマブ ベドチン1.9 mg/kgを2週毎に投与し、奏効率は全体28.6%、c-Met高発現(50%以上が3+)34.6%、c-Met中間発現(25%以上50%未満)22.9%。奏効期間中央値は全体8.3か月、無増悪生存期間中央値5.7か月、全生存期間中央値14.5か月。最も多い治療関連有害事象は末梢感覚神経障害(30%、Grade 3以上が7%)。閲覧 2026-11-02
  3. 3.Telisotuzumab Vedotin Monotherapy in Patients With Previously Treated c-Met Protein Overexpressing, Nonsquamous, EGFR Wild-type Advanced NSCLC: Updated Analysis of the LUMINOSITY Trial(JTO Clinical and Research Reports・2026)抄録で確認した。約6か月長い追跡の更新解析で、効果評価可能168例(c-Met高発現84例、中間発現84例)の奏効率は29.2%(c-Met高発現34.5%、中間発現23.8%)、奏効期間中央値7.2か月。前治療(白金製剤、免疫チェックポイント阻害薬、または両方)の種類は有効性の結果に影響しなかった。最も多い治療関連有害事象は末梢感覚神経障害(31%、Grade 3以上が7%)。閲覧 2026-11-02