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Drug Atlas · B35 Targeted cancer therapy / 分子標的薬

ゾンゲルチニブ

zongertinib

分類
Targeted cancer therapy / 分子標的薬
商品名(日本)
ヘルネクシオス
科目
PharmacologyPulmonology and Thoracic Surgery
トピック
B35: Drugs used in cancer treatment V (Small molecule signal transduction inhibitors. Retinoids)32: Chemo-, immune- and targeted therapy of lung cancer
承認適応
非小細胞肺癌
副作用
下痢皮疹倦怠感悪心
監視検査値
トランスアミナーゼ左室駆出率
影響検査値
トランスアミナーゼ

🧠 全体像:は、の約2〜4%を占めるHER2を選択的に阻害する経口のである。従来の汎HER阻害薬(等)はHER2と同時に野生型EGFRも阻害してしまい、激しい下痢やのために十分な用量を投与できなかった。は野生型EGFR温存型のHER2阻害薬として設計されており、毒性の壁を克服して既治療例で71%、未治療例で76%という高いと良好なを実証した123。

薬効群の中での位置づけ

HER2遺伝子異常には「蛋白・遺伝子増幅」と「(主にexon 20)」があり、肺癌におけるHER2は作用機序と選択性によって整理できる。

世代・分類 代表薬 標的プロファイル 主な HER2変異肺癌への有効性
汎HER不可逆的TKI(第2世代) 、ポジオチニブ EGFR・HER2・HER4を非選択的に阻害 重度下痢、重症皮疹(野生型EGFR阻害に起因) 不十分(毒性により有効濃度を維持困難)
抗HER2抗体+ 、骨髄抑制、悪心 高い(既治療後の標準治療として確立)
HER2選択的不可逆的TKI HER2選択的阻害(野生型EGFRを温存)3 、軽度〜中等度下痢(重度下痢は約3%)4 極めて高い(既治療変異71%・未治療76%)12
HER2/EGFR可逆的TKI HER2およびEGFRの 下痢、皮疹、、 高い(既治療64%・未治療71%)

⭐ 「野生型EGFRを温存する」が臨床的ブレークスルーをもたらした。 HER2とEGFRはキナーゼ領域の相同性が極めて高く、従来の低分子阻害薬は両者を同時に遮断していた。や表皮のには野生型EGFRシグナルが不可欠であるため、汎HER阻害薬では重篤な下痢やがとなっていた。(開発コードBI 1810631)は野生型EGFRシグナル伝達を温存しつつHER2を選択的に共有結合阻害することで、重度(Grade 3以上)の下痢や皮疹を低率に抑えながら十分な抗腫瘍曝露を達成する43。

機序

flowchart TD
    A["HER2<span class='jp-term jp-term-diagram' title='activating variant (mutation)'>活性化変異</span><br>(exon 20<span class='jp-term jp-term-diagram' title='insertional mutation'>挿入変異</span> A775_G776insYVMA等)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ligand-independent'>リガンド非依存性</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='constitutive activation'>恒常的活性化</span>"]
    B --> C["細胞内チロシンキナーゼ活性の持続的亢進"]
    C --> D["下流の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='RAS-MAPK pathway'>RAS-MAPK経路</span>およびPI3K-AKT経路が活性化"]
    D --> E["腫瘍細胞の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='self-sufficient proliferation (autonomous proliferation)'>自律的増殖</span>・生存促進"]
    F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='zongertinib'>ゾンゲルチニブ</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oral'>経口投与</span>"] --> G["HER2のATP結合ポケットへ選択的に結合"]
    G --> H["HER2と不可逆的な共有結合を形成"]
    H --> I["HER2リン酸化および<span class='jp-term jp-term-diagram' title='downstream signal'>下流シグナル</span>を持続的に遮断"]
    I --> J["腫瘍細胞の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='growth arrest'>増殖停止</span>・退縮"]
    G -.->|"野生型EGFRシグナル伝達を温存"| K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal mucosa'>腸管粘膜</span>・皮膚の恒常性が保たれ<br>重篤な下痢・皮疹が軽減される"]

💡 耐性後や脳転移例にも及ぶ抗腫瘍活性。 では耐性を含む多様なHER2依存性肺癌モデルで増殖抑制が確認されており3、臨床(Beamion LUNG-1試験)でもHER2標的既治療例(コホート5、31例)で48%1、さらに活動性脳転移を有する症例(コホート4、30例)で47%を達成している2。

薬物動態

項目 特徴
(1日1回、食事の有無を問わない)45
吸収・食事の影響 は76%。後では空腹時に対しAUCが1.27倍、Cmaxが1.26倍であり、臨床上食事制限を要しない4
分布・半減期 ヒトは99%超(主にアルブミン)。時のは約8.5〜9.5時間4
代謝・排泄 主にCYP3A4/5による酸化、UGT1A4によるおよびで代謝され、投与量の93%が糞便中、1.3%が尿中に排泄される4
薬物相互作用 強いCYP3A(カルバマゼピン併用でAUC 0.36倍)は有効性減弱のおそれがあるため併用を可能な限り避ける。またP-gpおよびBCRP阻害作用を有し、等のBCRP基質薬の血中濃度を上昇させる(AUC 2.30倍)4

適応

対象病態 位置づけ
がん化学療法後に増悪したHER2遺伝子変異陽性のな進行・再発 日本の電子添文における。Beamion LUNG-1試験の既治療変異コホート(75例)で71%(中央値14.1か月、12.4か月)を達成41
未治療例を含むHER2陽性の Beamion LUNG-1試験の未治療コホート(74例)で76%(中央値15.2か月、14.4か月)を示し、米国では2026年2月改訂で未治療例を含むへ拡大された(日本の電子添文では一次治療の有効性・安全性は未確立と記載)452

用法・用量

承認用量は日本と米国で規定が異なるため注意を要する(第Ib相試験の初期探索用量であった240 mgはいずれの国でも承認用量ではない)。

  • 日本(電子添文):通常、成人にはとして1日1回120 mgをする。副作用発現時の減量用量は1日1回60 mgであり、60 mgに減量してもが認められない場合は投与を中止する4。
  • 米国(FDA添付文書):体重に基づく用量設定が採用されており、体重90 kg未満では1日1回120 mg、体重90 kg以上では1日1回180 mgを食事の有無にかかわらずする(減量は180 mg→120 mg→60 mg、または120 mg→60 mg)5。

なお、は湿気を避けるため乾燥剤入りの元のボトル容器で密栓保存する4。

禁忌・注意

  • 禁忌:日本の電子添文では本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者が禁忌である(米国添付文書では禁忌の設定なし)45
  • ⚠️ :電子添文で重大な副作用としてが35.2%に報告されている。投与開始前および投与中は定期的にALT・AST・を測定し、Grade 3以上の増加時はのうえ60 mgへの減量、ALTまたはASTが基準値上限3倍以上かつが2倍以上(またはGrade 4ビリルビン増加)では投与を中止する4
  • ⚠️ 下痢:全グレードでは約54〜57%にみられるものの大半は軽度〜中等度であり、重度の下痢は3.0%にとどまる。(等)で2日以上改善しないGrade 2やGrade 3以上では・に従う45
  • ⚠️ ・:電子添文で1.3%に報告されている(既治療3コホート主解析では薬剤関連0例)。呼吸困難・咳嗽・発熱の初期症状と胸部画像を観察し、Grade 3以上(または14日以内に回復しないGrade 2)では投与を中止する41
  • ⚠️ 低下・血球減少・:投与開始前および投与中に心エコー等によるLVEF評価と定期的な血算確認(貧血17.8%等)を行い、妊娠可能な患者にはを踏まえたを行う45

副作用

頻度 主な症状・臨床異常
高頻度(30%以上) 下痢(54〜56.8%、大半がGrade 1〜2で重度は3.0%)、(35.2%)45
中等度(15〜30%未満) 皮疹(26.7〜28%)、疲労・倦怠感(米国併合解析25%)、悪心(米国併合解析23%、国内添文10〜20%未満)、疼痛、、ALT・AST増加(各18.2%)、貧血(17.8%)、そう痒症(15.3%)45
軽度(15%未満) 、爪の障害、、、45
重篤・重要 重度肝機能障害、(1.3%)、減少、4

まとめ

  • は、野生型EGFRシグナル伝達を温存しつつHER2を選択的に共有結合阻害する経口・不可逆的TKIである。
  • Beamion LUNG-1試験において、既治療のHER2変異陽性で71%、未治療例で76%、既治療例でも48%の確定を達成し、重度の下痢や皮疹を低率に抑えた。
  • 日本ではがん化学療法後に増悪した・進行再発例に対し1日1回120 mg(減量時は60 mg)、米国では未治療例を含む非扁平上皮例のに対し体重別(90 kg未満120 mg、90 kg以上180 mg)で承認されている。
  • が高頻度に生じるため定期的なモニタリングを徹底し、、LVEF低下、血球減少、ならびに強いCYP3AやBCRP基質薬との相互作用に留意して管理する。

出典

  1. 1.Zongertinib in Previously Treated HER2-Mutant Non-Small-Cell Lung Cancer(The New England Journal of Medicine・2025)既治療の進行HER2変異陽性非小細胞肺癌を対象とした第Ia/Ib相Beamion LUNG-1試験の主解析(2024年11月29日カットオフ)を抄録で確認した。120 mg 1日1回投与における確定客観的奏効率は、チロシンキナーゼドメイン変異・HER2標的抗体薬物複合体未使用のコホート1(75例)で71%(95% CI 60〜80%、奏効期間中央値14.1か月、無増悪生存期間中央値12.4か月、Grade 3以上の薬剤関連有害事象17%)、HER2標的抗体薬物複合体既治療のコホート5(31例)で48%(95% CI 32〜65%)、非チロシンキナーゼドメイン変異のコホート3(20例)で30%(95% CI 15〜52%)であり、3コホートを通じて薬剤関連の間質性肺疾患は0例であった。閲覧 2026-11-02
  2. 2.First-Line Zongertinib in Advanced HER2-Mutant Non-Small-Cell Lung Cancer(The New England Journal of Medicine・2026)未治療の進行・転移性非扁平上皮HER2変異陽性非小細胞肺癌を対象としたBeamion LUNG-1試験コホート2(74例、120 mg 1日1回)および活動性脳転移を有する探索的コホート4(30例)の抄録を確認した。未治療例での盲検下独立中央判定による確定客観的奏効率は76%(95% CI 65〜84%)、奏効期間中央値15.2か月、無増悪生存期間中央値14.4か月(Grade 3以上の治療関連有害事象19%)であり、活動性脳転移コホートでは頭蓋内確定客観的奏効率47%(95% CI 30〜64%)を示した。閲覧 2026-11-02
  3. 3.Zongertinib (BI 1810631), an Irreversible HER2 TKI, Spares EGFR Signaling and Improves Therapeutic Response in Preclinical Models and Patients with HER2-Driven Cancers(Cancer Discovery・2025)共有結合型HER2阻害薬ゾンゲルチニブ(BI 1810631)が野生型EGFRシグナル伝達を温存しつつHER2を選択的かつ強力に阻害し、トラスツズマブ デルクステカン耐性モデルを含むHER2依存性非小細胞肺癌モデルおよび初期臨床症例で抗腫瘍活性を示すことを抄録で確認した。閲覧 2026-11-02
  4. 4.ヘルネクシオス錠60mg 電子添文(独立行政法人医薬品医療機器総合機構(日本ベーリンガーインゲルハイム、2025年11月改訂・第2版)・2025)日本の電子添文(2025年11月改訂・第2版)本文を取得して確認した。効能又は効果はがん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌(一次治療における有効性・安全性は確立していないと記載)、用法及び用量は成人1日1回120 mg経口投与(減量基準は1日1回60 mg、60 mgで忍容不能なら中止)、禁忌は本剤成分に対する過敏症既往歴である。薬物動態では絶対バイオアベイラビリティ76%、高脂肪食後でAUC 1.27倍・Cmax 1.26倍、血漿蛋白結合率99%超、消失半減期約8.5〜9.5時間、主にCYP3A4/5・UGT1A4・グルタチオン抱合で代謝され、放射能投与量の93%が糞便中・1.3%が尿中に排泄される。P-gpおよびBCRP阻害作用を示し(ロスバスタチンAUC 2.30倍・Cmax 3.02倍)、強いCYP3A誘導薬(カルバマゼピン併用でAUC 0.36倍)との併用は可能な限り避ける。重大な副作用は重度の下痢(3.0%)、肝機能障害(35.2%)、血球減少(貧血17.8%等)、間質性肺疾患(1.3%)であり、120 mg投与236例の主な副作用は下痢(56.8%)、発疹(26.7%)、ALT増加(18.2%)、AST増加(18.2%)、そう痒症(15.3%)である。閲覧 2026-11-02
  5. 5.HERNEXEOS (zongertinib tablets), for oral use — Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration(Boehringer Ingelheim Pharmaceuticals、2026年7月改訂版)・2026)米国添付文書(2026年7月改訂)を確認した。2025年8月の既治療例での初回迅速承認後、2026年2月改訂で未治療例を含むHER2(ERBB2)チロシンキナーゼドメイン活性化変異陽性の切除不能・転移性非扁平上皮非小細胞肺癌へ迅速承認が拡大されたこと、推奨用量は体重別(体重90 kg未満は120 mg、90 kg以上は180 mgを1日1回、食事の有無を問わず経口投与;減量は180→120→60 mgまたは120→60 mg)であり禁忌の設定はないこと、警告・注意事項として肝毒性、左室機能不全、間質性肺疾患・肺臓炎、胚・胎児毒性が規定されていることを確認した。閲覧 2026-11-02