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Lab values · Published

便中カルプロテクチン

Fecal calprotectin

別名
カルプロテクチン
臓器系
消化器
科目
Internal Medicine
トピック
内科学 L-47:炎症性腸疾患内科学 G-03:炎症性腸疾患内科学 S-28:過敏性腸症候群
関連疾患
クローン病潰瘍性大腸炎

🧠 全体像は、好中球が腸管粘膜に集まっているかどうかを映す非侵襲的マーカーである。何の病気かは教えないが、「炎症が今そこにあるか」は鋭く拾う。下部消化管症状の患者で内視鏡が必要な異常のないをふるい分ける場面と、IBDと確定した後に治療反応・を追う場面とでは、見るべき値も判断の重みが違う。

何を測っているか

は好中球細胞質の大半を占めるカルシウム・で、S100A8とS100A9の(S100A8/A9複合体)からなる。腸管粘膜へ好中球が遊走し細胞が壊れるとへ放出され、に対して比較的安定なため、糞便中でも数日間は測定可能な濃度を保つ。この安定性が、血中のより腸管局所の炎症を反映しやすい理由になっている。

腸管以外の炎症(関節炎、感染症など)でも好中球由来のため軽度上昇し得るが、糞便で測る以上、実質的には消化管粘膜のを映す指標として使われる。

基準値と単位

区分 目安の値 意味
正常域 50 µg/g未満 腸管のは考えにくい1
グレーゾーン 50〜150 µg/g(小児は〜200 µg/g程度) 炎症を否定も肯定もできない。症状が続くなら再検・経過観察1
明らかな高値 150 µg/g前後〜250 µg/g以上 診断時は150 µg/g前後で良好な診断精度、モニタリングでは実臨床で250 µg/gが目安2

これらは健常者のではなく、下部消化管症状のある患者で次の検査へ進むかを決める判断閾値である。50 µg/gは一次・二次医療で共通に用いる値として、IBDの見落としを避けるため感度側に寄せて設定されている1。数値は測定キット(ELISA・POCTなど)や施設で動く。報告書に記載されたを優先し、経過を追うときは同一検査室・同一測定法で比較する。

高値の意味

機序 代表的な状況 特徴
腸管粘膜の慢性炎症 などのIBD 高値ほど内視鏡的炎症を疑う根拠が強まるが、確定は内視鏡・組織による
感染性の腸管炎症 Clostridioides difficile感染症など IBDの初発と鑑別できない。便培養・毒素検査で除外する
薬剤性の NSAIDs腸症、アスピリン 消化管全体で・透過性亢進が起こり上昇する
腫瘍性病変 大腸癌 上昇はIBDほど高くないことが多いが、があれば除外が必要
その他の腸管炎症 など があれば同様に上昇する

IBDだけの検査ではない。 「炎症がある」ことは高い精度で拾えても、「なぜ炎症があるか」は答えない。

臨床での使いどころ

① 下部消化管症状でのIBDとIBSののない下部消化管症状(腹痛、便通変化など)でが疑わしい患者では、低値であればIBDの可能性は低く、侵襲的な内視鏡を回避する根拠になる1。目的はを武器に不要な内視鏡を減らすことであり、高値だから即IBD確定というわけではない。

② IBD確定後のモニタリング(と診断された後は、症状だけでなくCRPの推移で治療反応を追い、の中間目標として用いる。STRIDE-IIはCRPの上限未満への正常化とあわせて100〜250 µg/gへの低下を中間目標とし、閾値を低く取るほど内視鏡的・組織学的により深い治癒を反映するとしている3。モニタリングでの理想的なには明確なコンセンサスがなく、では100 µg/g、実臨床では250 µg/gが目安として使われている2

測定上の注意

⚠️ は炎症以外の要因でも動く。単回値の解釈には次を確認する。

  • 下痢の有無、便の性状(は希釈されて値が変わりうる)、採便部位による。検体はよく撹拌するか複数箇所から採る。
  • 偽陰性:近位小腸に限局した。感度は本来低くなり得るとされてきたが、では50 µg/gで90%相当の診断能が報告されている。それでも「陰性だから小腸病変なし」とは断定しない2
  • 偽陰性:直腸に限局した軽症の。潰瘍性など炎症が直腸に限局する病変は、炎症範囲が狭いための絶対値そのものが低くなりやすい2
  • NSAIDs、アスピリン、は消化管を介して偽陽性方向に働きうる。
  • 小児は生理的に高め、高齢者でも基準がやや動くとされ、年齢層ごとの目安を踏まえて解釈する。
  • ・日差変動があり、1回の測定だけで寛解・を断定しない。

経時変化とモニタリング

診断時も治療中も、単回の絶対値より推移が情報を持つ。同じ患者・同じ測定法で下降しているか上昇しているかを見る。

内視鏡の代替として使う場合、は内視鏡的炎症の良い代理指標だが、内視鏡そのものではない。狭窄・瘻孔など構造的合併症の評価はできず、かUCかの鑑別にも使えない。持続する高値や治療中のは、症状が乏しくても内視鏡を含む再評価を促す所見として扱う。

まとめ

  • 好中球細胞質のS100A8/A9複合体で、腸管粘膜のを反映する。便中で安定である。
  • 目安は正常50 µg/g未満、グレーゾーン50〜150 µg/g、明らかな高値150〜250 µg/g以上だが、は施設・キット依存。
  • IBDだけでなく、NSAIDs腸症、腫瘍性病変、でも上昇する。
  • 使いどころは①症状患者でのIBD/IBS、②IBD確定後の治療反応・モニタリングの2つで、目的が異なる。
  • PPI・NSAIDs、年齢、便の性状、日差変動が結果に影響するため、単回値で判断しない。

出典

  1. 1.Faecal calprotectin testing for differentiating amongst inflammatory and non-inflammatory bowel diseases: systematic review and economic evaluation(NIHR Journals Library(Health Technology Assessment 17巻55号)・2013)一次医療と二次医療で同一のカットオフ50 µg/gを用いるべきとしていること、これはIBDの見落としが不要な大腸内視鏡より重大な結果を招くという理由で感度を優先した閾値であること、50〜150 µg/g(小児ではおよそ200 µg/gまで)はわずかな上昇として経過観察の対象になること、陰性であればIBDはきわめて考えにくく内視鏡を省く根拠になること、対象は一次医療でIBSが疑われる下部消化管症状の成人と二次医療へ紹介されたIBD疑い例(小児を含む)であることを確認した。なお本資料はNICE DG11そのものではなく、NIHR HTAの系統的レビュー・経済評価報告書である。閲覧 2026-08-04
  2. 2.ECCO-ESGAR Guideline for Diagnostic Assessment in IBD Part 1: Initial diagnosis, monitoring of known IBD, detection of complications(European Crohn's and Colitis Organisation / European Society of Gastrointestinal and Abdominal Radiology・2019)初期診断時の便中カルプロテクチンは約150 µg/gのカットオフで良好な診断精度が得られる一方、IBD以外の腸管炎症との鑑別には特異性を欠くこと、モニタリングでの理想的なカットオフには明確なコンセンサスがなく臨床試験では100 µg/g、実臨床では250 µg/gが目安として使われていること、近位小腸に限局したクローン病では初期の研究で感度低下が指摘されていたがメタ解析ではカットオフ50 µg/gで陰性的中率90%の診断能が示されていること、潰瘍性直腸炎など直腸に限局した病変では便中カルプロテクチンの絶対値が低くなりやすいことを確認した。閲覧 2026-08-04
  3. 3.Crohn's disease management: translating STRIDE-II for UK clinical practice(Therapeutic Advances in Gastroenterology・2024)STRIDE-II原著ではなく、そのTable 1を再掲した二次文献(成人クローン病に絞った英国向け解説)で、STRIDE-IIがTable 1の中間目標の行としてCRPの基準値上限未満への正常化とあわせて便中カルプロテクチン100〜250 µg/gへの低下を挙げていること、閾値を低く取るほど内視鏡的・全層性・組織学的な深い治癒を反映し、高く取るほど緩やかな目標になることを確認した。STRIDE-II自体は成人・小児のクローン病と潰瘍性大腸炎を対象とすると本文献に明記されている。閲覧 2026-08-04