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便中カルプロテクチン
Fecal calprotectin
- 別名
- カルプロテクチン
- 臓器系
- 消化器
- 科目
- Internal Medicine
- トピック
- 内科学 L-47:炎症性腸疾患内科学 G-03:炎症性腸疾患内科学 S-28:過敏性腸症候群
- 関連疾患
- クローン病回腸嚢炎潰瘍性大腸炎
🧠 全体像:便中カルプロテクチン fecal calprotectin 便中カルプロテクチン(fecal calprotectin) fecal calprotectin(便中カルプロテクチン) は、好中球が腸管粘膜 intestinal mucosa 腸管粘膜(intestinal mucosa) intestinal mucosa(腸管粘膜) に集まっているかどうかを映す非侵襲的マーカーである。何の病気かは教えないが、「炎症が今そこにあるか」は鋭く拾う。下部消化管症状の患者で内視鏡が必要な炎症性腸疾患inflammatory bowel disease, IBD 炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease, IBD)inflammatory bowel disease, IBD(炎症性腸疾患) (IBDIBD, inflammatory bowel disease)と器質的異常 structural abnormality 器質的異常(structural abnormality) structural abnormality(器質的異常) のない過敏性腸症候群irritable bowel syndrome, IBS過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome, IBS)irritable bowel syndrome, IBS(過敏性腸症候群)をふるい分ける場面と、IBDと確定した後に治療反応・粘膜治癒mucosal healing 粘膜治癒(mucosal healing)mucosal healing(粘膜治癒) を追う場面とでは、見るべき値も判断の重みが違う。
何を測っているか
カルプロテクチンcalprotectin カルプロテクチン(calprotectin)calprotectin(カルプロテクチン) は好中球細胞質の大半を占めるカルシウム・亜鉛zinc 亜鉛(zinc)zinc(亜鉛) 結合蛋白 binding protein 結合蛋白(binding protein) binding protein(結合蛋白) で、S100A8とS100A9のヘテロ二量体 heterodimer ヘテロ二量体(heterodimer) heterodimer(ヘテロ二量体) (S100A8/A9複合体)からなる。腸管粘膜intestinal mucosa 腸管粘膜(intestinal mucosa)intestinal mucosa(腸管粘膜) へ好中球が遊走し細胞が壊れると管腔内 intraluminal 管腔内(intraluminal) intraluminal(管腔内) へ放出され、蛋白分解酵素proteolytic enzyme 蛋白分解酵素(proteolytic enzyme)proteolytic enzyme(蛋白分解酵素) に対して比較的安定なため、糞便中でも数日間は測定可能な濃度を保つ。この安定性が、血中の急性期蛋白 acute-phase 急性期蛋白(acute-phase) acute-phase(急性期蛋白) より腸管局所の炎症を反映しやすい理由になっている。
腸管以外の炎症(関節炎、感染症など)でも好中球由来のため軽度上昇し得るが、糞便で測る以上、実質的には消化管粘膜の好中球性炎症 neutrophilic inflammation 好中球性炎症(neutrophilic inflammation) neutrophilic inflammation(好中球性炎症) を映す指標として使われる。
基準値と単位
| 区分 | 目安の値 | 意味 |
|---|---|---|
| 正常域 | 50 µg/g未満 | 腸管の好中球性炎症 neutrophilic inflammation 好中球性炎症(neutrophilic inflammation) neutrophilic inflammation(好中球性炎症) は考えにくい1 |
| グレーゾーン | 50〜150 µg/g(小児は〜200 µg/g程度) | 炎症を否定も肯定もできない。症状が続くなら再検・経過観察1 |
| 明らかな高値 | 150 µg/g前後〜250 µg/g以上 | 診断時は150 µg/g前後で良好な診断精度、モニタリングでは実臨床で250 µg/gが目安2 |
これらは健常者の基準範囲 reference range 基準範囲(reference range) reference range(基準範囲) ではなく、下部消化管症状のある患者で次の検査へ進むかを決める判断閾値である。50 µg/gは一次・二次医療で共通に用いる値として、IBDの見落としを避けるため感度側に寄せて設定されている1。数値は測定キット(ELISAELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)・POCTなど)や施設で動く。報告書に記載されたカットオフ cut-off カットオフ(cut-off) cut-off(カットオフ) を優先し、経過を追うときは同一検査室・同一測定法で比較する。
高値の意味
| 機序 | 代表的な状況 | 特徴 |
|---|---|---|
| 腸管粘膜intestinal mucosa 腸管粘膜(intestinal mucosa)intestinal mucosa(腸管粘膜) の慢性炎症 | クローン病Crohn disease, CDクローン病(Crohn disease, CD)Crohn disease, CD(クローン病)、潰瘍性大腸炎ulcerative colitis, UC潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis, UC)ulcerative colitis, UC(潰瘍性大腸炎)などのIBD | 高値ほど内視鏡的炎症を疑う根拠が強まるが、確定は内視鏡・組織による |
| 感染性の腸管炎症 | 細菌性腸炎Bacterial Enterocolitis細菌性腸炎(Bacterial Enterocolitis)Bacterial Enterocolitis(細菌性腸炎)、Clostridioides difficile感染症など | IBDの初発と鑑別できない。便培養stool culture便培養(stool culture)stool culture(便培養)・毒素検査で除外する |
| 薬剤性の粘膜傷害 mucosal injury粘膜傷害(mucosal injury) mucosal injury(粘膜傷害) | NSAIDsNSAIDs(nonsteroidal anti-inflammatory drugs)腸症、アスピリン | 消化管全体で微小びらん microerosion微小びらん(microerosion) microerosion(微小びらん)・透過性亢進が起こり上昇する |
| 腫瘍性病変 | 大腸癌、進行腺腫advanced adenoma進行腺腫(advanced adenoma)advanced adenoma(進行腺腫) | 上昇はIBDほど高くないことが多いが、警告徴候alarm feature 警告徴候(alarm feature)alarm feature(警告徴候) があれば除外が必要 |
| その他の腸管炎症 | 憩室炎diverticulitis憩室炎(diverticulitis)diverticulitis(憩室炎)など | 急性炎症acute inflammation 急性炎症(acute inflammation)acute inflammation(急性炎症) があれば同様に上昇する |
IBDだけの検査ではない。 「炎症がある」ことは高い精度で拾えても、「なぜ炎症があるか」は答えない。
臨床での使いどころ
① 下部消化管症状でのIBDとIBSIBS(irritable bowel syndrome)のトリアージ triageトリアージ(triage) triage(トリアージ):警告徴候 alarm feature 警告徴候(alarm feature) alarm feature(警告徴候) のない下部消化管症状(腹痛、便通変化など)で過敏性腸症候群 irritable bowel syndrome, IBS 過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome, IBS) irritable bowel syndrome, IBS(過敏性腸症候群) が疑わしい患者では、低値であればIBDの可能性は低く、侵襲的な内視鏡を回避する根拠になる1。目的は陰性的中率 negative predictive value, NPV 陰性的中率(negative predictive value, NPV) negative predictive value, NPV(陰性的中率) を武器に不要な内視鏡を減らすことであり、高値だから即IBD確定というわけではない。
② IBD確定後の粘膜治癒 mucosal healing 粘膜治癒(mucosal healing) mucosal healing(粘膜治癒) モニタリング(目標達成型治療treat-to-target目標達成型治療(treat-to-target)treat-to-target(目標達成型治療)):クローン病 Crohn disease, CDクローン病(Crohn disease, CD) Crohn disease, CD(クローン病)・潰瘍性大腸炎ulcerative colitis, UC 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis, UC)ulcerative colitis, UC(潰瘍性大腸炎) と診断された後は、症状だけでなくCRP・便中カルプロテクチンfecal calprotectin 便中カルプロテクチン(fecal calprotectin)fecal calprotectin(便中カルプロテクチン) の推移で治療反応を追い、目標達成型治療treat-to-target 目標達成型治療(treat-to-target)treat-to-target(目標達成型治療) の中間目標として用いる。STRIDE-IIはCRPCRP(C-reactive protein)の基準値上限未満への正常化とあわせて便中カルプロテクチン fecal calprotectin 便中カルプロテクチン(fecal calprotectin) fecal calprotectin(便中カルプロテクチン) 100〜250 µg/gへの低下を中間目標とし、閾値を低く取るほど内視鏡的・組織学的により深い治癒を反映するとしている3。モニタリングでの理想的なカットオフ cut-off カットオフ(cut-off) cut-off(カットオフ) には明確なコンセンサスがなく、臨床試験clinical trial (clinical study) 臨床試験(clinical trial (clinical study))clinical trial (clinical study)(臨床試験) では100 µg/g、実臨床では250 µg/gが目安として使われている2。
測定上の注意
⚠️ 便中カルプロテクチンfecal calprotectin 便中カルプロテクチン(fecal calprotectin)fecal calprotectin(便中カルプロテクチン) は炎症以外の要因でも動く。単回値の解釈には次を確認する。
- 下痢の有無、便の性状(水様便watery stool 水様便(watery stool)watery stool(水様便) は希釈されて値が変わりうる)、採便部位による不均一性 heterogeneity不均一性(heterogeneity) heterogeneity(不均一性)。検体はよく撹拌するか複数箇所から採る。
- 偽陰性:近位小腸に限局したクローン病 Crohn disease, CDクローン病(Crohn disease, CD) Crohn disease, CD(クローン病)。感度は本来低くなり得るとされてきたが、メタ解析Meta-analysis メタ解析(Meta-analysis)Meta-analysis(メタ解析) ではカットオフ cut-off カットオフ(cut-off) cut-off(カットオフ) 50 µg/gで陰性的中率 negative predictive value, NPV 陰性的中率(negative predictive value, NPV) negative predictive value, NPV(陰性的中率) 90%相当の診断能が報告されている。それでも「陰性だから小腸病変なし」とは断定しない2。
- 偽陰性:直腸に限局した軽症の直腸炎 proctitis直腸炎(proctitis) proctitis(直腸炎)。潰瘍性直腸炎 proctitis 直腸炎(proctitis) proctitis(直腸炎) など炎症が直腸に限局する病変は、炎症範囲が狭いため便中カルプロテクチン fecal calprotectin 便中カルプロテクチン(fecal calprotectin) fecal calprotectin(便中カルプロテクチン) の絶対値そのものが低くなりやすい2。
- NSAIDs、アスピリン、プロトンポンプ阻害薬proton pump inhibitor, PPI プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor, PPI)proton pump inhibitor, PPI(プロトンポンプ阻害薬) (PPIPPI, proton pump inhibitor)は消化管粘膜傷害 mucosal injury 粘膜傷害(mucosal injury) mucosal injury(粘膜傷害) を介して偽陽性方向に働きうる。
- 小児は生理的に高め、高齢者でも基準がやや動くとされ、年齢層ごとの目安を踏まえて解釈する。
- 日内変動diurnal variation日内変動(diurnal variation)diurnal variation(日内変動)・日差変動があり、1回の測定だけで寛解・再燃relapse 再燃(relapse)relapse(再燃) を断定しない。
経時変化とモニタリング
診断時も治療中も、単回の絶対値より推移が情報を持つ。同じ患者・同じ測定法で下降しているか上昇しているかを見る。
内視鏡の代替として使う場合、便中カルプロテクチンfecal calprotectin 便中カルプロテクチン(fecal calprotectin)fecal calprotectin(便中カルプロテクチン) は内視鏡的炎症の良い代理指標 surrogate endpoint 代理指標(surrogate endpoint) surrogate endpoint(代理指標) だが、内視鏡そのものではない。狭窄・瘻孔など構造的合併症の評価はできず、クローン病Crohn disease, CD クローン病(Crohn disease, CD)Crohn disease, CD(クローン病) かUCかの鑑別にも使えない。持続する高値や治療中の再上昇 rebound 再上昇(rebound) rebound(再上昇) は、症状が乏しくても内視鏡を含む再評価を促す所見として扱う。
まとめ
- 好中球細胞質のS100A8/A9複合体で、腸管粘膜intestinal mucosa 腸管粘膜(intestinal mucosa)intestinal mucosa(腸管粘膜) の好中球性炎症 neutrophilic inflammation 好中球性炎症(neutrophilic inflammation) neutrophilic inflammation(好中球性炎症) を反映する。便中で安定である。
- 目安は正常50 µg/g未満、グレーゾーン50〜150 µg/g、明らかな高値150〜250 µg/g以上だが、カットオフcut-off カットオフ(cut-off)cut-off(カットオフ) は施設・キット依存。
- IBDだけでなく感染性腸炎 infectious enteritis (infectious enterocolitis)感染性腸炎(infectious enteritis (infectious enterocolitis)) infectious enteritis (infectious enterocolitis)(感染性腸炎)、NSAIDs腸症、腫瘍性病変、憩室炎diverticulitis 憩室炎(diverticulitis)diverticulitis(憩室炎) でも上昇する。
- 使いどころは①症状患者でのIBD/IBSトリアージ triageトリアージ(triage) triage(トリアージ)、②IBD確定後の治療反応・粘膜治癒mucosal healing 粘膜治癒(mucosal healing)mucosal healing(粘膜治癒) モニタリングの2つで、目的が異なる。
- PPI・NSAIDs、年齢、便の性状、日差変動が結果に影響するため、単回値で判断しない。
出典
- 1.Faecal calprotectin testing for differentiating amongst inflammatory and non-inflammatory bowel diseases: systematic review and economic evaluation(NIHR Journals Library(Health Technology Assessment 17巻55号)・2013)一次医療と二次医療で同一のカットオフ50 µg/gを用いるべきとしていること、これはIBDの見落としが不要な大腸内視鏡より重大な結果を招くという理由で感度を優先した閾値であること、50〜150 µg/g(小児ではおよそ200 µg/gまで)はわずかな上昇として経過観察の対象になること、陰性であればIBDはきわめて考えにくく内視鏡を省く根拠になること、対象は一次医療でIBSが疑われる下部消化管症状の成人と二次医療へ紹介されたIBD疑い例(小児を含む)であることを確認した。なお本資料はNICE DG11そのものではなく、NIHR HTAの系統的レビュー・経済評価報告書である。閲覧 2026-08-04
- 2.ECCO-ESGAR Guideline for Diagnostic Assessment in IBD Part 1: Initial diagnosis, monitoring of known IBD, detection of complications(European Crohn's and Colitis Organisation / European Society of Gastrointestinal and Abdominal Radiology・2019)初期診断時の便中カルプロテクチンは約150 µg/gのカットオフで良好な診断精度が得られる一方、IBD以外の腸管炎症との鑑別には特異性を欠くこと、モニタリングでの理想的なカットオフには明確なコンセンサスがなく臨床試験では100 µg/g、実臨床では250 µg/gが目安として使われていること、近位小腸に限局したクローン病では初期の研究で感度低下が指摘されていたがメタ解析ではカットオフ50 µg/gで陰性的中率90%の診断能が示されていること、潰瘍性直腸炎など直腸に限局した病変では便中カルプロテクチンの絶対値が低くなりやすいことを確認した。閲覧 2026-08-04
- 3.Crohn's disease management: translating STRIDE-II for UK clinical practice(Therapeutic Advances in Gastroenterology・2024)STRIDE-II原著ではなく、そのTable 1を再掲した二次文献(成人クローン病に絞った英国向け解説)で、STRIDE-IIがTable 1の中間目標の行としてCRPの基準値上限未満への正常化とあわせて便中カルプロテクチン100〜250 µg/gへの低下を挙げていること、閾値を低く取るほど内視鏡的・全層性・組織学的な深い治癒を反映し、高く取るほど緩やかな目標になることを確認した。STRIDE-II自体は成人・小児のクローン病と潰瘍性大腸炎を対象とすると本文献に明記されている。閲覧 2026-08-04