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セクレチン刺激試験

Secretin stimulation test

別名
セクレチン負荷試験secretin stimulation test
臓器系
消化器内分泌・代謝
科目
PhysiologyInternal Medicine
トピック
生理学 6.4:膵臓の外分泌とその調節・肝臓の胆汁産生・胆汁色素の代謝と分泌内科学 E-07:神経内分泌腫瘍
関連疾患
カルチノイド症候群・神経内分泌腫瘍(ゾリンジャー・エリソン症候群、インスリノーマを含む)

🧠 全体像は、空腹時が境界域(100〜1,000 pg/mL)で(ZES)の診断が確定しない患者に追加する検査である。原理はそのもの——正常な分泌を抑制されるのに、細胞は逆に刺激されて分泌が増える。この反応の有無で、腫瘍によると、など他のを鑑別する。PPI服用中は施行できないというが、この検査を使える場面そのものを規定している。

何を見ているか

は本来、十二指腸粘膜のが低pH刺激で分泌するで、膵管細胞のHCO3⁻分泌を促す。正常な胃前庭部のに対しては、分泌を抑制する側に働く。

ところが細胞では、この生理的な抑制系が壊れている。を発現してはいるものの細胞内のがねじれており、が結合すると分泌が抑制されるどころか急激に刺激される。正常組織には見られない腫瘍細胞に特異的な反応で、腫瘍の・脱制御を直接映す。

💡 空腹時だけでは「高いかどうか」しか分からない。が加えるのは「その高さが自律的(腫瘍性)かどうか」という一段深い情報であり、これが境界域の判定を前進させる理由になる。

ZES診断の中での位置づけ

flowchart TD
    A["ZESを疑う臨床像<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='refractory peptic ulcer'>難治性消化性潰瘍</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secretory diarrhea'>分泌性下痢</span>など)"] --> B["PPI<span class='jp-term jp-term-diagram' title='drug holiday (treatment interruption)'>休薬</span>下で空腹時<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gastrin'>ガストリン</span>と<br>胃内pH・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gastric acid secretion'>胃酸分泌</span>を確認"]
    B --> C{"空腹時<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gastrin'>ガストリン</span>は<br>どの範囲か"}
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='markedly elevated'>著明高値</span>かつ胃内pH≤2"| D["ZES診断が成立"]
    C -->|"境界域(100〜1,000 pg/mL)"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secretin stimulation test'>セクレチン刺激試験</span>を追加"]
    E --> F{"投与後<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gastrin'>ガストリン</span>が<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='cut-off'>カットオフ</span>を超えて増加するか"}
    F -->|"陽性"| G["ZESを支持"]
    F -->|"陰性"| H["ZES以外の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypergastrinemia'>高ガストリン血症</span>を再検討"]
    G --> I["局在診断へ進む"]
    D --> I

手順

項目 内容
少なくとも12時間絶食し、は投与予定時刻の5半減期以上前に中止する
投与 0.4 µg/kgをに1分かけて投与する1
採血 投与前に基礎値として2回、投与後は1・2・5・10・30分に採血してを測定する1

💡 同じ「」という名前でも、を評価する検査(膵液・十二指腸液中のHCO3⁻濃度をみる)は0.2 µg/kgを使う別物であり、ZES診断で使う0.4 µg/kgの刺激試験とは目的も採血対象も異なる1。名前だけで用量やプロトコルを類推しない。

判定基準 ⭐

ベースラインからの増加量で判定する。は資料によって複数が併存しており、単一の「正解」はない。

基準 特徴
現在広く推奨される基準 ≥120 pg/mL増加 感度94%・特異度100%とされ、他の基準より特異度が高い23
FDA添付文書の基準 ≥110 pg/mL増加 ChiRhoStim®の添付文書に記載される目安1
古典的に広く使われてきた基準 ≥200 pg/mL増加 特異度は≥120 pg/mL基準に劣るとされる2

に伴うは多発性・早期発症の傾向があり、空腹時が正常〜境界域にとどまっていてもだけが陽性になることがある。ある調査では患者20例中4例が空腹時正常範囲内でも刺激試験陽性となり、画像で腫瘍が検出される前の生化学的な早期発見に役立ったと報告されている2が疑われる若年例・多発例では、この検査を定期的なに組み込む意義が大きい。

⚠️ 測定上の注意

⚠️ PPI服用中は施行できないを強力に抑制し、それ自体がフィードバック解除による偽を来す。をPPI服用下で行うと偽陽性になるため、測定前のが前提になる。の目安は資料によって幅があり、少なくとも1週間とする記載がある一方3、FDA添付文書はを投与2日前・を5半減期前に中止するとしつつPPIについては個々の製剤の添付文書を参照するよう求め、単一の日数を定めていない1

ただし、ZESでPPIを急に中止すると、による消化性潰瘍の出血・穿孔を招くリスクがある。このため一部のグループは、せず用量をしながら診断を進める運用を提案している4するかどうかは検査の精度と患者の安全を天秤にかける臨床判断であり、機械的にを指示しない。

⚠️ 他のとの鑑別:この検査が診断的価値を持つのは、あくまでZESとそれ以外のを分ける場面である。H. pylori関連)や腎不全など、の低下または排泄低下によって二次的にが上がっている病態では、を投与しても細胞のような反応は起こらず、増加量は陰性域にとどまる。ヘリコバクター・抗体胃炎の評価は、この検査を行う前に済ませておくと解釈がぶれない。

  • 偽陰性であっても、の発現異常などにより刺激に反応しない腫瘍が報告されている。臨床的にZESの疑いが強いのに1回の検査が陰性であれば、それだけで否定せず、再検査やなど別の刺激試験を検討する。
  • 入手性:試験に用いる製剤は流通量が限られ、施行できる施設・時期が限られることがある。「いつでも追加できる検査」として扱えない理由の一つになる。

次に進むべき検査

が陽性になれば、次は局在診断に進む。が確定したあとに行う画像検索であり、いずれも役割が異なる。

検査 何がわかるか 使いどころ・限界
・遠隔転移の全身検索 感度が高く転移検索の中心になる
膵・十二指腸のの描出 断層画像で指摘できない小さなの検出に優れる
造影CT/MRI 腫瘍の局在・血管への近接 手術計画に必須だが、小さな十二指腸原発病変は見逃しやすい

局在が確認できれば外科的切除、・転移例ではなどや高用量PPIによる制御が治療の中心になる。詳細はを参照。

まとめ

  • は、空腹時が境界域でZESの診断が確定しないときに追加する検査である。
  • 正常な分泌が抑制されるが、細胞は逆に刺激されて分泌が増えるという反応が診断原理になる。
  • 判定は投与後の増加量で行うが、は≥110〜≥200 pg/mLまで複数の基準が併存し、現在は≥120 pg/mLが特異度の高さから広く推奨される。
  • PPI服用中は偽陽性のため施行できない。 の目安は資料により幅があり、自体が消化性潰瘍出血・穿孔のリスクを伴うため、するかどうかは臨床判断になる。
  • ・腎不全など他のでは反応が起こらないため陰性にとどまる。一部のでは偽陰性になりうる。
  • に伴うでは空腹時が正常でもこの検査だけが陽性になることがあり、早期発見に役立つ。
  • 陽性後は/68Ga- PET・EUSによる局在診断へ進む。

出典

  1. 1.Gastrinoma(StatPearls Publishing (NCBI Bookshelf)・2026)セクレチン刺激試験の陽性基準としてベースラインからのガストリン増加>120 pg/mLと、測定前にPPIは少なくとも1週間・H2受容体拮抗薬は48時間の休薬が重要であることを確認した。閲覧 2026-08-04
  2. 2.ENETS Consensus Guidelines Update for the Management of Patients with Functional Pancreatic Neuroendocrine Tumors and Non-Functional Pancreatic Neuroendocrine Tumors(Neuroendocrinology(Falconi M, Eriksson B, Kaltsas G, et al.)・2016)セクレチン刺激試験はPPI服用中は偽陽性のため施行できないこと、一部の専門家グループは真のZES患者でPPIを急に中止すると酸ペプティック合併症のリスクがあるため休薬せず漸減しながら診断する運用を提案していることを確認した。閲覧 2026-08-04
  3. 3.ChiRhoStim (Human Secretin for Injection) Prescribing Information(U.S. FDA / ChiRhoClin, Inc.(DailyMed)・2017)ZES診断目的での用法用量(合成ヒトセクレチン0.4 µg/kgを1分かけて静注)、採血タイミング(投与前2回、投与後1・2・5・10・30分)、ベースラインから110 pg/mL以上のガストリン増加を陽性の目安とする添付文書上の基準、H2受容体拮抗薬は2日前・抗コリン薬は5半減期前に中止しPPIは個々の製剤の添付文書を参照するという休薬指示を確認した。閲覧 2026-08-04
  4. 4.Secretin Stimulation Test and Early Diagnosis of Gastrinoma in MEN1 Syndrome: Survey on the MEN1 Florentine Database(The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism・2022)≥120 pg/mL基準がNIHの大規模比較(非ZES例とZES例)で他の基準(≥110 pg/mL・≥200 pg/mL)より特異度が高いとされていること、MEN1患者20例中4例は空腹時ガストリンが正常範囲内でもセクレチン刺激試験が陽性となり、画像で腫瘍が検出される前の生化学的な早期診断に役立ったことを確認した。閲覧 2026-08-04