発生学

発生学 · 7.5

胎児期と胎盤:分娩

The Fetus and Placenta — Parturition

応用トピック
早産陣痛と早産分娩時の子宮活動と陣痛異常分娩第1期・第2期と管理分娩第3期・第4期と管理分娩誘発と陣痛促進産後出血と子宮内反症正常産褥

🧠 分娩は「血中プロゲステロンが急に下がる」のではなく、子宮局所でプロゲステロンの静穏化作用が機能的に弱まり、炎症・エストロゲン・プロスタグランジン・オキシトシンへの応答が高まる過程と捉える。 分娩の経過は3期(・・)に分け、オキシトシンは開始の単独引き金ではなく、伸展から収縮を強める正のフィードバックの増幅役として理解する。12

分娩開始のホルモン機序

妊娠中はプロゲステロン(は主に胎盤由来、07-2-placenta-fetal-membranes)がの収縮を抑制し、妊娠を維持する()。分娩の開始には、この抑制が解除され、複数のシグナルが協調して子宮収縮を促進する必要がある。

flowchart TD
  A["胎児・胎盤の成熟<br>機械刺激・母体胎児境界の炎症"]
  A --> B["局所プロスタグランジンと炎症性シグナルが増加"]
  B --> C["機能的プロゲステロン作用消退<br>血中濃度の単純低下ではない"]
  C --> D["エストロゲン作用と<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='uterine muscle'>子宮筋</span>の収縮刺激への感受性が増加"]
  D --> E["プロスタグランジンが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cervical canal (uterine cervix)'>子宮頸管</span>を軟化・子宮収縮を促進"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cervical canal (uterine cervix)'>子宮頸管</span>の伸展が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='posterior pituitary'>下垂体後葉</span>からのオキシトシン分泌を促す(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Ferguson reflex'>Ferguson反射</span>:正のフィードバック)"]
  F --> G["子宮収縮がさらに強まり分娩が進行"]

⭐ (の伸展→オキシトシン分泌増加→子宮収縮増強→さらなる頸管伸展)という正のフィードバックループは、分娩が一度始まった後の進行を自己増幅する。母体血オキシトシンは分娩に向けて漸増し、最大の上昇は出生時にみられるため、分娩開始前の急増を単独の引き金とは考えない。2

分娩の3期

病期 内容
第1期(, dilation stage) 規則的な子宮収縮の開始からが完全に開大(約10cm)するまで。最も長い病期
第2期(, expulsion stage) 完全開大から胎児娩出まで。母体の()が加わる
第3期(, placental stage) 胎児娩出後、胎盤が子宮壁から剥離し娩出されるまで

胎盤の剥離

正常では胎盤は・側の生理的剥離面で子宮壁から分離する。剥離後、の強い収縮により胎盤剥離面の血管が圧迫され止血される(子宮収縮不良=はの主要な原因)。

娩出のされ方には2つの様式が記載されている。どちらも正常な娩出であり、異常の分類ではない。

  • Schultze様式: 剥離が胎盤の中央から始まり、辺縁が最後まで付着したまま胎盤後方に血液がたまる()。この血腫がに包まれたまま胎盤を押し出すため、胎児面(つるつるした羊膜面)を先にして娩出される。3
  • Duncan様式: 胎盤が下縁(辺縁)から下降して娩出される。3 このとき先に現れるのは胎盤の縁、すなわちが付着した粗な母体面の側である。

⚠️ どちらが多いかは資料によって割れる。 を積極的に管理した332例ではSchultze様式が81.9%(272例)、Duncan様式が18.1%(60例)だった4が、19世紀末にローマで観察された正常例では逆にDuncan様式が75%、Schultze様式が25%と報告されている3。「Schultzeが必ず多数派」と覚え込まない。

💡 胎盤剥離後の子宮収縮不全(, uterine atony)は分娩後大量出血の主要な原因である。は、単に絨毛の「侵入力が強い」病態ではなく、子宮瘢痕部などの子宮内膜―筋層境界の欠損と形成不全を基盤に、胎盤が異常に付着・進展する病態として理解する。5

まとめ

  • 分娩開始は単一ホルモンではなく、機能的プロゲステロン作用消退、炎症、エストロゲン、プロスタグランジンなどの協調で起こる。
  • の伸展がオキシトシン分泌を促すは、分娩開始後の進行を自己増幅する。
  • 分娩は・・の3期に分けられる。
  • 胎盤は・側の生理的剥離面で分離し、Schultze様式(中央から剥離し胎児面が先)またはDuncan様式(下縁から下降し母体面が先)で娩出される。どちらも正常で、どちらが多数派かは報告により異なる。
  • 胎盤剥離後の子宮収縮不全()はの主要な原因。

出典

  1. 1.The hormonal control of parturition(Physiological Reviews・2024)ヒト分娩は機能的プロゲステロン作用消退、エストロゲン・炎症・プロスタグランジンなどの協調で進むこと閲覧 2026-08-22
  2. 2.Maternal plasma levels of oxytocin during physiological childbirth - a systematic review with implications for uterine contractions and central actions of oxytocin(BMC Pregnancy and Childbirth・2019)母体血オキシトシンは妊娠末期から分娩中に漸増し、出生時に大きな上昇を示すこと閲覧 2026-08-22
  3. 3.The Third Stage of Labour(Transactions of the Edinburgh Obstetrical Society・1894)全文(PMC5563180)の本文で確認した。Baudelocque-Schultze説では剥離は胎盤の中央から始まり辺縁が最後まで付着したままで、胎盤後方に貯留した血液(胎盤後血腫)が卵膜に包まれた状態で胎盤を押し出し、胎盤は胎児面(羊膜面)を先にして娩出される。一方Duncanらは自然な娩出は胎盤の下縁から起こると主張した。著者Curatuloがローマの産科施設で15か月間に観察した正常例では75%がDuncanの様式、25%がSchultzeの様式で娩出され、Schultzeの様式は異常ではないと結論している閲覧 2026-09-06
  4. 4.Intraumbilical versus intramuscular oxytocin in the management of the third stage of labor(Obstetrics & Gynecology Science・2023)全文(PMC10025866)のMethodsとTable 2で確認した。分娩第3期の積極的管理を院内規定とする施設で行われた無作為化比較試験332例において、胎盤の娩出様式(Schultze/Matthew Duncan)が記録変数の一つとされ、全体ではSchultze様式が272例(81.9%)、Duncan様式が60例(18.1%)であった閲覧 2026-09-06
  5. 5.Obstetric Care Consensus No. 7: Placenta Accreta Spectrum(American College of Obstetricians and Gynecologists and Society for Maternal-Fetal Medicine・2018)癒着胎盤スペクトラムの基盤が瘢痕部の子宮内膜―筋層境界異常と脱落膜形成不全にあること閲覧 2026-08-22