産科学

産科学 · 19

分娩第3期・第4期と管理

Stages of delivery. Management of the third and fourth stage

前提:病態
平滑筋作用薬・子宮収縮作用薬
前提:正常
胎児期と胎盤:分娩
薬剤
カルベトシン
疾患
会陰裂傷産科的肛門括約筋損傷

🧠 全体像:は児娩出からまで、第4期はその直後の回復・監視期である。最優先はの予防と早期認識で、全例に有効なを投与し、第一選択はオキシトシンとする。

分娩第3期

児娩出後から胎盤・の完全娩出までで、通常は数分〜30分程度である。時間だけでなく、出血量、子宮緊張、胎盤剥離徴候、母体状態で判断する。

胎盤剥離徴候

  • 腟から血が流出する。
  • 臍帯が外へ長くなる。
  • 子宮底が上昇し、子宮が硬くになる。
剥離様式 図の理解 出血の見え方
Schultze様式 剥離が胎盤の中央から始まり辺縁は最後まで付着したままで、胎盤後方にたまった血液()が辺縁とを壁から剥がしながら胎盤を押し下げるため、胎児面(羊膜面)が先に出る1 血液が胎盤の後ろに抱え込まれるため、外出血はまで遅れ得る
Matthews Duncan様式 剥離が下縁(辺縁)寄りから進み、が下縁の付着を破ったあと胎盤が滑るように下降して、母体面の縁が先に出る1 早期から外出血が見えやすい

⚠️ どちらが多いかは資料によって割れる。 を積極的に管理した332例ではSchultze様式が81.9%(272例)、Duncan様式が18.1%(60例)だった2のに対し、19世紀末にローマで自然の娩出力のみによる正常例を観察した報告では逆にDuncan様式が75%、Schultze様式が25%だった1。どちらも正常であり、「Schultzeが必ず多数派」と覚え込まない。

第3期の積極的管理

flowchart TD
    A["児娩出"] --> B["予防的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='uterotonics'>子宮収縮薬</span><br>第一選択 オキシトシン"]
    B --> C["安定児では<span class='jp-term jp-term-diagram' title='delayed cord clamping'>遅延臍帯結紮</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='skin-to-skin contact'>皮膚接触</span>を支援"]
    C --> D["胎盤剥離徴候を確認"]
    D --> E["子宮を支えながら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='controlled cord traction'>制御臍帯牽引</span>"]
    E --> F["胎盤・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fetal membranes'>卵膜</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='completeness'>完全性</span>を確認"]
    F --> G["子宮緊張と出血量を反復評価"]

💡 積極的管理は「3点セット」ではなく、を主役とするである。 2025年の統合ガイドラインは、各構成要素の寄与についての理解が更新されたとして、このパッの主要な介入はであり、オキシトシンを投与している文脈ではが加える利益はわずか、は予防には利益を加えない、早期臍帯は一般に禁忌、と整理している3。8試験・8,892例を統合したCochraneレビューも、積極的管理は1,000 mL超の出血を減らす可能性はあるが証拠の確実性は非常に低く、母体の上昇・分娩後嘔吐・使用の増加といった有害な影響を伴うとして、構成要素ごとに検討し直す必要があるとしていた4。⚠️ 古い教科書が挙げる「+早期臍帯+」という並列の3点セットで覚えると、いま推奨されていない早期臍帯まで一緒に覚えることになる。

子宮収縮薬

全分娩で品質の保証されたを1剤だけ用いる。2025年の統合ガイドラインが予防に挙げるのはオキシトシン・・の3剤で、複数の選択肢がある環境ではオキシトシンが選択薬である3。

薬剤 位置づけ・注意
オキシトシン 予防の第一選択。10 IUを筋注または静注。⭐ 経腟分娩でが既にある場合は、希釈して1〜2分かけて緩徐に静注するほうが筋注より望ましい(推奨8)
100 µgを筋注または静注。全分娩での予防に推奨され、オキシトシンの低温流通(2〜8℃)を安定して維持できない環境ではが選択薬になる(推奨7.2・11)
400 µgまたは600 µgを経口。注射薬を扱える医療者がいない場面へ委譲できるのが利点で、も無い環境の代替でもある(推奨7.3・11・12)。発熱・悪寒・悪心・下痢に注意
⚠️ 予防には推奨されない(推奨9.1)。治療の二次選択としては残る

⚠️ /は「高血圧を除外できれば予防に使ってよい薬」ではなくなった。 2018年の推奨では、高血圧性疾患を安全に除外できる場合に限るという条件付きの選択肢として予防に挙がっていたが、2025年の統合ガイドラインは更新された証拠を検討したうえで、予防目的では推奨しないへ変更した(推奨9.1、Not recommended・Updated)。理由は、予防効果が限定的である一方で高血圧(1,000分娩あたり43件の増加)・悪心・嘔吐・頭痛といったの危険が高いままで、より安全なオキシトシン・・が利用できることである。同じ推奨枠でオキシトシンとの配合剤(5 IU/500 µg筋注)と注射用プロスタグランジン(・)も予防には推奨されない(推奨9.2・9.3)3。

💡 ただしこれは「予防」に限った判断で、「治療」には及ばない。 同じガイドラインは、静注オキシトシンが使えないか出血がオキシトシンに反応しないときの二次選択として、静注・オキシトシン+配合剤・プロスタグランジン(舌下800 µgを含む)を今も推奨している(推奨25)。自身、歴史的な慣行と調達の都合から予防目的の使用が各国で続いていると述べており、予防と治療のどちらの話をしているのかを取り違えないことが要点である3。

臍帯結紮と胎盤娩出

  • 臍帯:生後1分未満の早期臍帯は、児が仮死で直ちに蘇生の場へ移す必要がある場合を除いて推奨されない(推奨19)。通常の新生児ケアを行いながら1〜3分の遅延を行う。この推奨は経腟分娩と帝王切開に、また早産児とに等しく当てはまり、早産児では遅延の利益がとくに重要とされる3。15試験・3,911組の母児を統合したCochraneレビューでは、遅延はの頻度を増やさず、児の出生時体重・生後24〜48時間のヘモグロビン・3〜6か月時点の鉄欠乏を改善したが、を要する黄疸がやや増えた5。
  • 💡 予防的は児娩出後できるだけ早く(できれば1分以内)投与するが、その投与がを妨げてはならない。 両者は競合しない3。
  • :熟練した分娩介助者がいる環境での経腟分娩に対する条件付き推奨で、出血量の平均11 mL減・第3期の平均6分短縮という小さな利益を介助者と本人が重視する場合に行う(推奨16)。熟練者がいない環境では行わず、予防的を投与したうえでとする(推奨17)。手技は子宮を恥骨上で支え、剥離徴候を確認してから行う。誤って行うと子宮や胎盤遺残を起こすため、抵抗があるのに強く引かない3。フランスの5大学病院・4,000例超の(TRACOR)では、両群とも児娩出直後に予防的オキシトシンを投与したうえでを追加しても、500 mL以上のは有意に減らなかった(9.8%対10.3%)6。
  • 胎盤は母体面の小葉、胎児面、、管2動脈1静脈を確認する。
  • 胎盤遺残と出血では、麻酔・鎮痛、抗菌薬、出血対応を整えて用手剥離を行う。盲目的なを自動的に行わず、超音波や吸引法を含め状況に応じる。

分娩第4期

後の最初の2時間は性出血とが起こりやすく、とくに厳重な監視を要する。ただし致死的な出血はこの時期を過ぎても起こりうるため、分娩後24時間を通じて監視を続ける3。

観察項目

  • 意識、血圧、脈拍、呼吸、、体温
  • 定量的出血量と出血速度
  • 子宮底の高さ・硬さ、
  • 頸管、腟、会陰の裂傷と血腫
  • 疼痛、悪心、麻酔からの回復
  • 新生児の体温、呼吸、授乳・

⭐ 出血量は目分量ではなくに測る。 2025年の統合ガイドラインは全分娩で量をに測定することを推奨し(推奨21)、経腟分娩では目盛り付きドレープなどを挙げる。そのうえで初期治療を開始する基準を、①に測定した出血量300 mL以上+血行動態の異常所見(脈拍100/分超、1超、100 mmHg未満、60 mmHg未満のいずれか)、または②に測定した出血量500 mL以上の、分娩後24時間以内に先に到達したほうと定めた(推奨22、新設)。子宮の緊張は全例で腹壁から評価する(推奨23)3。💡 これは分類のための定義ではなく治療開始の判断を導くための「定義」であると同ガイドライン自身が述べている。

⚠️ は予防と治療で立場が正反対である。 経腟分娩・帝王切開のいずれでも予防目的の投与は推奨されない(推奨14・15、いずれも新設)が、すでにを来した場合には分娩後3時間以内のを標準治療に追加することが推奨される(推奨27)3。

子宮が軟らかく出血が多ければ、として、オキシトシン、、血液検査、輸液・輸血準備を同時に進める。子宮が硬いのに出血する場合は裂傷を疑う。💡 も予防と治療で立場が分かれる——予防的オキシトシンを受けた産婦への持続的は予防としては推奨されない(推奨20)が、すでに起きたの治療としては推奨される(推奨26)3。

裂傷修復

  • 十分な照明、鎮痛・麻酔下に頸管、腟、会陰を系統的に確認する。
  • で解剖学的に修復し、第3・4度では・直腸粘膜を確認する。
  • 修復後ので直腸内縫合や未認識損傷がないか確認する。

産褥血栓症

リスクは妊娠中からに上昇し、特に出生後最初の6週間が高い。帝王切開、肥満、既往、、長期不動などから機械的・薬物的予防を個別化する。

まとめ

  • 第3期は児娩出から、第4期は直後の母体回復・監視期である。
  • 予防の第一選択はオキシトシン(10 IU筋注/静注)で、代替はとである。系は2025年の統合ガイドラインで予防から外れたが、治療の二次選択としては残る3。
  • 積極的管理の主役はで、のは小さく、は予防には利益を加えず、早期臍帯は一般に禁忌である3。
  • 生後1分未満の早期臍帯は児の仮死時を除いて推奨されず、1〜3分の遅延を行う(・早産に共通)3。
  • 熟練した分娩介助者がいる環境では、胎盤剥離徴候を確認してを行い、胎盤・のを確認する。
  • 胎盤の娩出様式はSchultze様式(中央から剥離し胎児面が先)とDuncan様式(下縁から下降し母体面が先)に分かれ、どちらも正常である。どちらが多数派かは報告により逆になる。
  • 第4期は出血量、子宮緊張、裂傷、バイタルを反復評価し、異常時は原因検索と蘇生を同時に進める。出血量はに測定し、300 mL+血行動態異常または500 mLで初期治療を開始する3。

出典

  1. 1.The Third Stage of Labour(Transactions of the Edinburgh Obstetrical Society・1894)Europe PMCの全文(PMC5563180)で確認した。Baudelocque-Schultze説では剥離は胎盤の中央から始まり辺縁は最後まで強く付着したままで、胎盤後方に貯留した血液(retroplacental haematoma)が辺縁と卵膜を壁から剥がしながら胎盤を押し下げ、胎盤は羊膜面(胎児面)を先にして娩出される。著者Curatuloが子宮底に付着した症例で触知した経過もこれに一致する。一方、子宮底より下方の壁に付着した多数例では、収縮の合間に隆起するのは中央ではなく下縁に近い帯状の部分であり、胎盤後血腫が下縁の付着を破ったあと胎盤が滑るように下降してDuncanの記載どおりの様式で娩出された。ローマの産科施設で15か月間に観察した正常例(自然の娩出力のみによるもの)では75%がDuncanの様式、25%がSchultzeの様式であり、Schultzeの様式を異常とみなすことはできないと結論している閲覧 2026-09-06
  2. 2.Intraumbilical versus intramuscular oxytocin in the management of the third stage of labor(Obstetrics & Gynecology Science・2023)Europe PMCの全文(PMC10025866)のMethodsとTable 2で確認した。分娩第3期の積極的管理(予防的オキシトシン10 IU筋注、制御臍帯牽引、子宮マッサージ)を院内規定とする施設で行われた無作為化比較試験332例で、胎盤の娩出様式(Schultze/Matthew Duncan)が記録変数の一つとされ、Table 2では全体でSchultze様式が272例(81.9%)、Duncan様式が60例(18.1%)であった閲覧 2026-09-06
  3. 3.Consolidated guidelines for the prevention, diagnosis and treatment of postpartum haemorrhage(世界保健機関(WHO。FIGO・ICMと共同で公表)・2025)WHO IRISのPDF全文(116頁、2025年10月5日公開、ISBN 978-92-4-011563-7)の推奨一覧と各推奨の Justification・Remarks で確認した。予防では推奨7「The use of a quality-assured uterotonic is recommended for the prevention of postpartum haemorrhage during the third stage of labour for all births.」のもとに7.1オキシトシン10 IU筋注/静注、7.2カルベトシン100 µg筋注/静注(低温流通を保証できない環境では耐熱性製剤)、7.3ミソプロストール400 µgまたは600 µg経口を置き、推奨10で「In settings where multiple uterotonic options are available, oxytocin (10 IU, intramuscularly/intravenously) is the recommended uterotonic agent of choice」とする。推奨8は経腟分娩で静脈路が既にある場合、10 IUを希釈して1〜2分かけて緩徐に静注することを筋注より優先して推奨する(Context-specific)。推奨9(Updated・Not recommended)は9.1エルゴメトリン/メチルエルゴメトリン、9.2オキシトシン・エルゴメトリン配合剤(5 IU/500 µg筋注)、9.3注射用プロスタグランジン(carboprost・sulprostone)を予防には推奨しないとする。9.1のRemarksは「Ergometrine/methylergometrine was previously included in the 2018 WHO recommendations on uterotonics as a context-specific option for PPH prevention, with the condition that it is used only when hypertensive disorders could be safely excluded.」と2018年版からの変更を明示し、GDGが重視した根拠として高血圧の増加(43 per 1000 births)を挙げ、「This recommendation applies only to the use of ergometrine/methylergometrine for prevention of PPH; it does not relate to its use in the treatment of PPH, where it may still be considered as part of second-line management (see Recommendation 25).」と治療への適用外を明記する。推奨14・15(いずれもNew・Not recommended)はトラネキサム酸を経腟分娩・帝王切開のいずれでも予防には推奨しない。推奨16はCCTを熟練した分娩介助者がいる環境での条件付き推奨とし、Remarksで出血量の平均11 mL減・第3期の平均6分短縮という小さな利益と、誤った手技での子宮内反・胎盤遺残の危険を挙げる。推奨17は熟練者がいない環境ではCCTを推奨せず待機的管理と予防的子宮収縮薬を優先する。推奨19(Revalidated・Not recommended)は「Early cord clamping (<1 minute after birth) is not recommended unless the neonate is asphyxiated and needs to be moved immediately for resuscitation.」で、Remarksは「Delayed cord clamping (for 1–3 minutes) should be performed during the provision of essential newborn care.」「The recommendations for the timing of cord clamping apply equally to preterm and term births.」と述べる。推奨20は予防的オキシトシンを受けた women への持続的子宮マッサージを予防目的には推奨しない。推奨19・20のRemarksは積極的管理パッケージについて「the primary intervention within this package is the use of a uterotonic. When oxytocin is administered, controlled cord traction may offer a small additional benefit, while uterine massage appears to offer no added value in preventing PPH. Early cord clamping remains generally contraindicated.」と整理する。診断では推奨21が全分娩での産後出血量の客観的測定(経腟分娩では目盛り付きドレープなど)を推奨し、推奨22(New)が「objectively measured blood loss threshold of ≥300 mL with any abnormal haemodynamic sign (pulse >100 bpm, shock index >1, systolic blood pressure <100 mmHg, or diastolic blood pressure <60 mmHg), or objectively measured blood loss of ≥500 mL, whichever occurs first within 24 hours after birth, and with particular vigilance during the first 2 hours」を初期治療開始の基準とする。推奨23は全例での腹壁からの子宮緊張評価、推奨24は治療の子宮収縮薬として静注オキシトシン、推奨25は静注オキシトシンが使えないか反応しない場合の静注エルゴメトリン・オキシトシン+エルゴメトリン配合剤・プロスタグランジン(舌下ミソプロストール800 µgを含む)、推奨26は治療としての子宮マッサージ、推奨27は分娩後3時間以内の静注トラネキサム酸を標準治療に追加することを推奨する。オキシトシン・カルベトシンとも「best given immediately (preferably within 1 minute) after the birth of the baby or babies. Administration for prevention of PPH need not impede the delaying of cord clamping.」と付記されている閲覧 2026-09-07
  4. 4.Active versus expectant management for women in the third stage of labour(Cochrane Database of Systematic Reviews・2019)8試験・8,892例(高所得国7、低所得国1)を統合したCochraneレビューで、第3期の積極的管理(子宮収縮薬・早期臍帯結紮・制御臍帯牽引)は出血1,000 mL超の頻度を減らす可能性があるが証拠の確実性は非常に低く、貧血(Hb 9 g/dL未満)は減らす可能性がある一方、母体拡張期血圧上昇・分娩後嘔吐・鎮痛薬使用増加などの有害な影響も認められ、構成要素(早期臍帯結紮・特定の子宮収縮薬)ごとの検討が必要と結論した。閲覧 2026-08-26
  5. 5.Effect of timing of umbilical cord clamping of term infants on maternal and neonatal outcomes(Cochrane Database of Systematic Reviews・2013)15試験・3,911組の母児を統合したCochraneレビューで、早期臍帯結紮と比べ遅延結紮は産後出血の頻度に有意差がなく、児の出生時体重増加・生後24〜48時間のヘモグロビン増加・3〜6か月時点の鉄欠乏減少と関連したが、光線療法を要する黄疸がやや増えた。閲覧 2026-08-26
  6. 6.Effect of routine controlled cord traction as part of the active management of the third stage of labour on postpartum haemorrhage: multicentre randomised controlled trial (TRACOR)(BMJ・2013)フランス5大学病院・4,000例超のRCTで、両群とも児娩出直後に予防的オキシトシンを投与した上で、制御臍帯牽引の追加は標準的な胎盤娩出待機と比べて産後出血500 mL以上の頻度を有意に減らさなかった(9.8%対10.3%)。制御臍帯牽引はルーチンで産後出血を予防するという根拠は乏しく、子宮収縮薬が中核であることを示唆する。閲覧 2026-08-26