内科学

内科学 · L-55

消化管出血

Gastrointestinal Bleeding

前提:病態
消化性潰瘍
前提:正常
止血と血小板の役割
疾患
血管異形成
症状
血行動態不安定消化管出血
スコア
Glasgow-Blatchfordスコア

🧠 全体像:消化管出血は出血部位の推定より先に循環を安定化する。・は上部、血便は下部が多いが、ショックを伴う血便では大量上部出血を必ず考え、安定性と活動性に応じ内視鏡またはを選ぶ。

表現と主な原因

表現 示唆 主な原因
/ 上部消化管 潰瘍、静脈瘤、Mallory–Weiss、腫瘍、血管病変
多くは上部、小腸・右側大腸でも 同上、小腸出血
血便 多くは大腸・直腸;大量上部も 憩室性病変、、大腸炎、腫瘍、痔
/鉄欠乏 慢性微量出血 、潰瘍、セリアック、、

部位・病態別の原因一覧

病態 上部消化管 下部消化管・小腸
びらん・炎症性 消化性潰瘍、食道炎、びらん性胃炎/十二指腸炎 、・感染性・虚血性・放射線性大腸炎、、性/
血管性 食道・、門脈圧亢進性症、GAVE、、 、、、大腸・
腫瘍 、胃癌 大腸・肛門癌、ポリープ、
外傷・医原性 Mallory–Weiss、異物、術後出血、胆道出血、大動脈腸管瘻 肛門直腸外傷、後、下腹部外傷
その他 Meckel憩室、、小児固有原因

血便にclotを伴うと下部病変を支持し、、、循環不安定な血便、/クレアチニン比上昇は上部病変を支持するが、いずれも決定的ではない。

初期対応

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hematemesis'>吐血</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='melena'>黒色便</span>・血便/原因不明貧血"] --> B["ABCDE+太い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='IV access'>静脈路</span>+血算・凝固・腎肝機能・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blood typing'>血液型判定</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='irregular antibody screening'>不規則抗体スクリーニング</span>"]
    B --> C["晶質液+必要時RBC、抗凝固薬を評価"]
    C --> D{"循環不安定/活動性大量出血"}
    D -->|"上部疑い"| E["安定化後24時間以内にEGD、静脈瘤疑いは12時間以内"]
    D -->|"血便・下部疑い"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='computed tomography angiography'>CTA</span>で局在→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='angiography'>血管造影</span>塞栓"]
    D -->|"安定"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='risk stratification'>リスク層別化</span>+適切な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conditioning'>前処置</span>後内視鏡"]
    E --> H["内視鏡止血→再出血は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='repeat endoscopy'>再内視鏡</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interventional radiology'>IVR</span>"]
    G --> H

Hbは直後には低下しないことがある。/クレアチニン上昇は上部出血を支持するが確定しない。RBC輸血は多くの患者でHb 7 g/dLを目安とするを用い、ACS、持続ショック、重い併存症では個別化する。血小板、フィブリノゲン、抗凝固薬拮抗は出血重症度・薬剤・に合わせる。

⭐ 制限的輸血の根拠は、Hb 7 g/dLと9 g/dLを直接比べた無作為化試験である。 重症急性921例を<7 g/dLで輸血する制限戦略と<9 g/dLで輸血する自由戦略に(肝硬変の有無で層別化して)割り付けたところ、制限戦略群では51%が輸血を受けずに済み(自由戦略群14%)、転帰は制限戦略の方が有意に良かった1。なお、この試験は大量の失血性出血(輸血が救命的になりうる)、・症候性・脳卒中・、90日以内の輸血、最近の外傷・手術、再出血リスクの低い例(0かつHb 12 g/dL超)を除外しており、これらの患者には結果をそのまま当てはめない1。「出血しているのだから早く輸血」は誤りで、とくに肝硬変では輸血が門脈圧を押し上げ再出血を招く。

Glasgow–Blatchfordスコアは上部出血の低リスク外来管理、Oaklandスコアは一部の下部出血のリスク評価を補助するが、臨床判断を置き換えない。

💡 Glasgow–Blatchfordスコア0–1なら外来管理でよい。 6施設3,012例の前向き国際研究で、GBSは輸血・・・手術・30日死亡の複合を予測するが0.86と、full Rockall(0.70)、PNED(0.69)、admission Rockall(0.66)、AIMS65(0.68)を上回り、外来管理へ回す閾値としてはスコア≤1が最適とされた2。ただし再出血やの予測では各スコアのが0.80未満にとどまり、そこには使えない2。

上部消化管出血

  • 非静脈瘤性疑い:内視鏡前後にを用い、安定化後24時間以内にEGD。活動性出血、などをクリップ、、併用で止血し、エピネフリン単独にしない3。
  • 静脈瘤疑い:血管作動性薬(、など)と抗菌薬を直ちに開始し、12時間以内を目安に内視鏡。制御不能または高リスクでは早期/救済を検討する4。
  • 再出血はを優先し、失敗時は、さらに手術へ進む3。

⚠️ 非静脈瘤性出血では「12時間以内の超早期内視鏡」が転帰を改善しない。 ESGEはを安定化させたうえで24時間以内の早期内視鏡を推奨する一方、12時間以内の緊急内視鏡は転帰を改善しないとして推奨していない3。急ぐべきは内視鏡より蘇生である(の12時間はこれとは別枠)。にはエピネフリン単独ではなく接触または機械的止血を併用し、後は高用量(80 mg後8 mg/時を72時間)を用いる3。2回目のも失敗したら(TAE)へ、TAEが不可・失敗なら手術へ進む3。

下部・小腸出血

安定例では十分な腸管後に入院中または適切な時期のを行う。全例を24時間以内に急いでも転帰改善は明確でない。持続する血行動態上重大な血便ではを第一にし、造影剤があれば速やかに塞栓へつなぐ。

⭐ では大半がするため、緊急は原則不要である。 の2023年改訂は、入院して内視鏡を行う患者の大半で非緊急のを推奨する——来院24時間以内の緊急が再出血など重要な転帰を改善すると示されていないためである5。同改訂では、病院での介入を要さない低リスク例を見分けるツールの使用、重症例でのの役割拡大、・服用中の生命を脅かす出血への拮抗薬、止血後の・抗凝固薬再開が主な変更点として挙げられている5。

EGD・で不明な反復出血は、再検の適応を見直した上でを小腸評価の第一選択とし、や(CTE)へ進む。

大量出血で陰性かつ間欠性出血が疑われる場合、施設によって標識赤血球を局在補助に用いる。ただし解剖学的局在は粗く、陽性後の・内視鏡へ迅速につなげられる場合に限る。

退院前の再発予防

H. pyloriを検査・除菌し、不要なを中止する。・抗凝固薬は止血後、出血リスクとを比較して早期再開を計画する。心血管アスピリンを漫然と長期中止しない。原因不明は鉄補充だけで終えず、年齢・性別に応じ上下部消化管を評価する。

まとめ

  • 最初に循環を安定化し、ショックを伴う血便では大量上部出血も考える。
  • 上部出血は安定化後EGD、活動性大量下部出血は→塞栓を中心に進める。
  • 制限的輸血、原因治療、H. pylori除菌、再開計画までを一連の管理とする。

出典

  1. 1.Transfusion strategies for acute upper gastrointestinal bleeding(New England Journal of Medicine・2013)重症急性上部消化管出血921例を、ヘモグロビン7 g/dL未満で輸血する制限戦略461例と9 g/dL未満で輸血する自由戦略460例に無作為化(肝硬変の有無で層別化)。制限戦略群では51%が輸血を受けずに済み(自由戦略群14%)、制限戦略は自由戦略に比べ転帰を有意に改善した。全文(Wayback 保存版)の Methods で、除外基準に大量の失血性出血(massive exsanguinating bleeding)、急性冠症候群・症候性末梢血管疾患・脳卒中・一過性脳虚血発作・90日以内の輸血、最近の外傷・手術、下部消化管出血、Rockallスコア0かつHb 12 g/dL超が含まれることを確認した(2026-09-24)閲覧 2026-08-25
  2. 2.Comparison of risk scoring systems for patients presenting with upper gastrointestinal bleeding: international multicentre prospective study(BMJ・2017)6施設3,012例の前向き国際多施設研究で、Glasgow–Blatchfordスコアは輸血・内視鏡治療・IVR・手術・30日死亡の複合エンドポイントの予測でAUROC 0.86と、full Rockall(0.70)・PNED(0.69)・admission Rockall(0.66)・AIMS65(0.68)を上回ったこと、外来管理へ回す閾値としてはスコア1以下が最適と結論されたこと、再出血・在院日数など他のエンドポイントに対する各スコアのAUROCは0.80未満で臨床的有用性は限られることを確認した閲覧 2026-08-25
  3. 3.Endoscopic diagnosis and management of nonvariceal upper gastrointestinal hemorrhage (NVUGIH): European Society of Gastrointestinal Endoscopy (ESGE) Guideline - Update 2021(European Society of Gastrointestinal Endoscopy・2021)循環動態の安定化後24時間以内の早期内視鏡を推奨し、12時間以内の緊急内視鏡は転帰を改善しないため推奨しないこと。活動性出血潰瘍(Forrest Ia/Ib)にはエピネフリン局注単独ではなく接触熱凝固または機械的止血との併用を推奨すること。再出血例ではover-the-scope clipを検討し、2回目の内視鏡的止血が失敗したら経カテーテル動脈塞栓術(TAE)を、TAEが施行できないか失敗した場合に手術を行うこと。内視鏡的止血後は高用量PPI(80 mgボーラス後8 mg/時を72時間)を推奨すること閲覧 2026-08-25
  4. 4.Baveno VII – Renewing consensus in portal hypertension(Journal of Hepatology・2022)Baveno VIIが門脈圧亢進症の急性出血エピソードの管理、初回非代償化の予防、さらなる非代償化の予防を含む9領域について合意声明をまとめたこと、代償性進行性慢性肝疾患(cACLD)と臨床的に有意な門脈圧亢進症(CSPH)の有無を軸に診療を個別化する枠組みを示したことを確認した閲覧 2026-08-25
  5. 5.Management of Patients With Acute Lower Gastrointestinal Bleeding: An Updated ACG Guideline(The American Journal of Gastroenterology・2023)入院を要する急性下部消化管出血で内視鏡を行う場合、来院24時間以内の緊急大腸内視鏡は再出血など重要な臨床転帰を改善するとは示されていないため、大半の患者では非緊急の大腸内視鏡を推奨すること、病院での介入を要さない低リスク例を見分けるリスク層別化ツールの使用、重症下部消化管出血におけるCTAの役割の拡大、ビタミンK拮抗薬・DOAC服用中の生命を脅かす出血に対する拮抗薬の位置づけ、止血後の抗血小板薬・抗凝固薬の再開が今回の主な改訂点であることを確認した閲覧 2026-08-25