微生物学

微生物学 · 1/32

能動免疫:任意(非定期)ワクチン

Active immunization: non-obligatory vaccines

🧠 ワクチンは「全員に一律」ではなく「特定のリスク集団への狙い撃ち」で考える。 髄膜炎菌ワクチンは血清型(ACYW/単価C/B)で製剤が分かれ、肺炎球菌ワクチンは年齢・基礎疾患で対象が絞られ、・は流行地への渡航者に限定される——「誰が」「どの病原体に」「なぜ」曝露リスクが高いのかを軸に整理すると覚えやすい。の原理・ワクチンの5分類の理論は前項(義務ワクチン)を参照。

髄膜炎菌ワクチン

製剤 内容 対応血清型
ACYW A・C・Y・W血清型
単価C(Monovalent C) C血清型
B ワクチン(Bexsero、Trumenba) B血清型

いずれも小児・若年成人・流行地への渡航者に推奨される。

💡 なぜB血清型だけ「多糖ワクチン」ではなく「ワクチン」なのか。 Neisseria meningitidis血清型Bの莢膜は宿主分子と構造が似ている()ため、多糖ワクチンでは十分な免疫応答を誘導できない。具体的には、B群のはヒトの神経細胞が発現するポリとほぼ同じ構造をしており、免疫系からとみなされてが乏しい(しかも誘導される抗体の一部が自己抗体になりうる)。このため多糖を用いた初期のB群ワクチン開発はことごとく失敗し、莢膜以外の表面露出抗原を探す非多糖アプローチへ転換した結果として、結合タンパク(fHbp)などを含むワクチン(Bexsero、Trumenba)が生まれた1。

⚠️ 「ワクチンとして髄膜炎菌B/C/ACWYがある」は国の制度とは別の話。 ハンガリーの接種スケジュールに載っているはC群のみ(12か月・15か月・6年生時、任意)で、ACWY群とB群は国のスケジュールには含まれない2。製剤として存在することと、その国で公費提供されることは別に覚える。

肺炎球菌ワクチン

  • Streptococcus pneumoniae(肺炎球菌)感染の予防(成人)
  • 最も重要な23血清型のを含む(23価ワクチン, PPSV23)
  • 60歳以上、およびをはじめとする慢性疾患を持つ人に推奨される

⚠️ 成人のは「23価多糖ワクチン」だけではなくなった。 多糖単独ワクチンはでを残さないという弱点があるため、高価数の結合型ワクチンが成人にも広がった。ハンガリーの現行スケジュールでは12歳時にPCV15+PPSV23またはPCV20、65歳以上にPCV20が推奨されている2。「23価・60歳以上」という組み合わせは古い版の記述として、現行の推奨と対比して覚える。

腸チフスワクチン

Salmonella typhi感染の予防。2つの剤形がある。

  • 経口弱毒生菌製剤(内服)——Ty21a株
  • 死菌または製剤()——Viポリサッカライドワクチン

推奨対象:流行地への渡航者(渡航2週間前までに接種)、感染者の家族、検査室勤務者。

⚠️ は3種類ある——上の2つに Vi(TCV)を足す。 は2018年の見解書で、TCV(Vi多糖をタンパクに結合させた)を全年齢で優先すべきとした。理由は、免疫学的特性が優れること、生後6か月という低年齢から使えること(Ty21aは幼児に使えず、Vi多糖単独は2歳未満でが乏しい)、防御期間がより長いことである。TCVは生後6か月〜45歳に単回筋注で接種し、または菌の負担が高い国での導入が優先される3。

コレラワクチン

流行地への渡航者向けの経口。防御効果は約50%のみで、汚染水を避けることが引き続き重要である。

💡 「約50%」という数字は、いつの時点を見るかで変わる。 死菌全菌体の系統的レビュー・によれば、2回接種の防御効果は12か月時点で55%・実地有効性69%、48か月時点では44%・有効性47%までする。1回接種はより早く減衰し、6か月時点で約70%、30か月時点で約42%だった。さらに5歳未満の小児では2回接種のが31%にとどまり、5歳以上の62%と比べて明らかに低い4。「約50%」は数年単位で見たときのおおよその値であって、接種直後の値ではない。年齢とを添えて覚える。

スケジュール外での追加接種が必要な状況

感染リスクに応じて、定期スケジュール外でも追加接種が必要になる。

病原体 追加接種が必要な状況
破傷風 受傷時
百日咳 感染者との接触時
ジフテリア 感染者との接触時、および流行地への渡航時

任意接種ワクチンの一覧

  • 髄膜炎菌 B/C/ACWY
  • 水痘(varicella、chicken pox)
  • インフルエンザ
  • A型肝炎
  • HPV
  • :弱毒生(経口Ty21a)。ただし注射用のViポリサッカライドワクチンと結合型TCVは生ワクチンではない
  • :弱毒生(O1血清型)+サブユニット
  • ワクチン

⚠️ 上の一覧のの記述は、本文の「経口」と食い違っている。 が事前認証しているはDukoral・Shanchol・Euvichol-Plusの3種で、いずれも死菌(不活化)全菌体ワクチンであり、弱毒生ではない。Dukoralだけが防御に寄与するBサブユニット(CTB、)を併せ持ち、CTBを欠くShancholとEuvichol-Plusはが最適とはいえない5。「死菌全菌体+(Dukoralのみ)組換えCTB」が正しい構成であり、「弱毒生」は誤りとして訂正しておく。なお弱毒生の(CVD 103-HgR)も別に存在するので、旧記載の由来としては覚えておいてよい。

💡 この一覧は「今あるワクチン」の全部ではない——ここ数年で加わったものを足して覚える。 主なものは次のとおり。RSウイルス:高齢者向けおよび妊婦向けのワクチンに加えて、乳児にはモノクローナル抗体による受動免疫(、)が用いられる。かつてのは2025年12月31日で販売終了となった6。髄膜炎菌B群:上述のワクチン。帯状疱疹:から組換えワクチンへ主役が移り、19歳以上の免疫不全者にも2回接種で適応が拡大した——生ワクチンが禁忌の集団に使えることが決定的な違いである7。mRNAプフォーム:で実用化された。マラリア:RTS,S/AS01とR21/Matrix-Mの2種が使えるようになった。系統的レビューではRTS,S/AS01が生後6〜12週群でマラリアリスクを23.0%低下(0.77)、5〜17か月群では両ワクチンとも0.61で、効果は時間とともに減衰するため追加接種が要る8。

まとめ

  • ワクチンは対象を絞ったワクチンで、髄膜炎菌(ACYW/単価C/B)、肺炎球菌、、などが代表例である。
  • 髄膜炎菌B血清型のみワクチンが必要な理由は、莢膜が宿主分子をするため多糖ワクチンでは免疫応答が不十分になるからである。
  • は60歳以上・など慢性疾患保有者に推奨され、・は主に流行地渡航者向けである。
  • 破傷風・百日咳・ジフテリアはスケジュール外でも、受傷時・接触時・渡航時に追加接種が必要になりうる。
  • ワクチンには他に水痘・・インフルエンザ・A型肝炎・・ワクチンなどが含まれる。
  • 近年加わった/変わったものとして、RSウイルス(高齢者・妊婦へのワクチンと、乳児へのモノクローナル抗体による受動免疫)、髄膜炎菌B群のワクチン、、mRNAプフォーム、マラリアワクチン(RTS,S/AS01・R21/Matrix-M)、のTCV、成人の高価数肺炎球菌(PCV20など)を押さえる。

出典

  1. 1.Approach to the Discovery, Development, and Evaluation of a Novel Neisseria meningitidis Serogroup B Vaccine(Methods in Molecular Biology (Springer)・2016)A・C・W・Y群では莢膜多糖-タンパク結合型ワクチンが成功したのに対し、B群の莢膜多糖はヒトの神経細胞が発現するポリシアル酸と類似した構造を持つ(抗原的擬態)ため自己抗原とみなされて免疫原性が乏しく、多糖を用いた初期のB群ワクチン開発が失敗したことを確認した。そのためB群ワクチンは莢膜以外の表面露出抗原を探索する非多糖アプローチへ転換し、多様な侵襲性B群株に対して広く防御的な応答を誘導できる抗原を選ぶ必要があったことも確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Vaccine Scheduler: Recommended vaccinations in Hungary(European Centre for Disease Prevention and Control (ECDC)・2026)2026年2月10日更新版のハンガリー接種スケジュールで、髄膜炎菌ワクチンは**C群のみ**が12か月・15か月・6年生時に任意接種として載っており、ACWY群およびB群は国のスケジュールに含まれないこと、肺炎球菌は乳児期にPCV15、12歳時にPCV15+PPSV23またはPCV20、**65歳以上にPCV20**が推奨されること、HPVは7年生時に男女とも9価ワクチンを任意・無料で提供することを確認した。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Summary of the WHO Position Paper on Typhoid vaccines: WHO position paper – March 2018(World Health Organization (WHO)・2018)3種のワクチン(結合型ワクチンTCV、非結合Viポリサッカライドワクチン、生弱毒経口ワクチンTy21a)のうちTCVが免疫学的特性・低年齢での使用可能性・より長い防御期間から全年齢で優先されること、疾病負担または薬剤耐性菌の負担が高い国で導入を優先すべきこと、TCVは生後6か月から45歳までに単回筋注で接種することを確認した。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Protection from killed whole-cell cholera vaccines: a systematic review and meta-analysis(The Lancet Global Health / GTFCC OCV Working Group・2025)2回接種の経口コレラワクチンの防御効果は12か月時点で効力55%・実地有効性69%、48か月時点で効力44%・有効性47%まで漸減すること、1回接種では6か月時点で有効性約70%、30か月時点で約42%とより早く減衰すること、5歳未満の小児の2回接種効力(31%)は5歳以上(62%)より明らかに低いことを確認した。閲覧 2026-08-26
  5. 5.A thermostable, dry formulation inactivated Hikojima whole cell/cholera toxin B subunit oral cholera vaccine(Vaccine・2023)WHOが事前認証している経口コレラワクチンはDukoral・Shanchol・Euvichol-Plusの3種で、いずれも**液状の不活化(死菌)全菌体ワクチン**であること(弱毒生ではない)、Dukoralだけが防御に寄与するコレラ毒素Bサブユニット(CTB)抗原を含み、CTBを欠くShancholとEuvichol-Plusは効力が最適とはいえないこと、多成分構成とコールドチェーン要求が製造・保管・輸送費を押し上げるため、GTFCCが熱安定な乾燥製剤の開発を優先課題としていることを確認した。閲覧 2026-08-26
  6. 6.Use of Clesrovimab for Prevention of Severe Respiratory Syncytial Virus–Associated Lower Respiratory Tract Infections in Infants: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices — United States, 2025(CDC Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP)・2025)ニルセビマブ(体重5kg未満50mg/5kg以上100mg)とクレソロビマブ(固定105mg、初回シーズン限定)の用量・適応、および2回目シーズンはニルセビマブのみ対象であること、パリビズマブが2025年12月31日で販売終了となることを確認した。閲覧 2026-08-26
  7. 7.Use of Recombinant Zoster Vaccine in Immunocompromised Adults Aged ≥19 Years: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices — United States, 2022(CDC ACIP・2022)組換え帯状疱疹ワクチンが19歳以上の免疫不全者にも適応拡大され、通常2〜6か月間隔(迅速な免疫が必要な場合は1〜2か月間隔まで短縮可)で2回接種することを確認した。生ワクチンが使えない集団にも使える点が、弱毒生水痘帯状疱疹ワクチンとの決定的な違いである。閲覧 2026-08-26
  8. 8.Efficacy and immunogenicity of RTS,S/AS01 and R21/Matrix-M malaria vaccines: Systematic review and meta-analysis(Journal of Infection and Public Health・2026)マラリアワクチンとして現在利用可能なのはRTS,S/AS01とR21/Matrix-Mの2種であること、8研究を対象とした系統的レビュー・メタ解析でRTS,S/AS01は生後6〜12週群でマラリアリスクを23.0%低下(リスク比0.77)、5〜17か月群では両ワクチンともリスク比0.61を示したこと、効果は時間とともに減衰するため追加接種が重要であること、R21は高い有効性と強い抗体応答を示す一方で有害事象の頻度は高かったことを確認した。閲覧 2026-08-26