微生物学

微生物学 · 1/31

能動免疫。義務(定期)ワクチン

Active immunization. Obligatory vaccines

薬剤
狂犬病ワクチン

🧠 は「自分の免疫系に作らせる」、受動免疫は「できあがった抗体をもらう」——この一行がすべての分類の出発点になる。 は(不活化・弱毒生・・サブユニット・)によって「何を注射しているか」が変わるだけで、原理は常に「宿主自身にを作らせる」ことにある。ハンガリーのスケジュールは、この5分類を病原体ごとに当てはめた実例として読む。

免疫の種類:能動免疫と受動免疫

は、または受動免疫によって獲得され、いずれもまたはに起こりうる。

項目 受動免疫
機序 宿主自身が免疫応答を起こし、抗体・免疫反応性リンパ球を自ら産生する 他の個体で作られた抗体・免疫反応性リンパ球を受け取る
成立までの時間 遅い(免疫応答の誘導に日〜週単位を要する) 速い(投与直後から効果)
持続期間 長い——ヒトでは数十年に及ぶこともある 短い——典型的には数週間程度
あり なし
代表例 ワクチン接種、自然感染後の獲得免疫 免疫グロブリン注射、胎盤・母乳を介した母子免疫移行

💡 「速いが短い」受動免疫、「遅いが長い」。 この対比を覚えておくと、受動免疫がなぜ「曝露後の緊急避難」に使われ、(ワクチン)がなぜ「曝露前の予防」に使われるのかが自然に理解できる。

能動免疫の種類

とは、抗原への曝露に応じて体自身が作り出す免疫のことである。治療・予防のために人工的に誘導することもできる。

  • :さまざまな病原体への曝露がまたはを起こし、その結果としてその病原体に対する応答が成立する
  • :生きた病原体・死んだ病原体・またはそれらの構成成分を投与することで免疫を誘導する

ワクチン

ワクチンとは、特定の疾患に対する能動的な獲得免疫を与える生物学的製剤である。予防的にもにも用いられうる。

  • が生涯持続するもの:麻疹、()、、、結核——については36研究・22報告の系統的レビューで単回接種による生涯免疫が確認され、かつて義務づけられていた10年ごとの追加接種は不要とされた(感染者・乳児・小児・妊婦・重度栄養不良者は個別に判断する)1
  • が数か月程度しか持続しないもの:
  • の接種時期:生後2〜3か月(ジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオ)または13〜15か月(・麻疹)
  • ほとんどのワクチンは病原体への曝露前に投与される予防的接種だが、一部は曝露後にに投与される(例:)

💡 ワクチンの有効性は病原体の増殖速度・・に左右される。 破傷風では曝露から10年以内かつ創傷が軽微(表在性)であれば追加接種()のみで十分だが、が短く少量の病原分子でも致死的になりうる状況(例:破傷風+ジフテリアへの同時曝露)では、だけに頼れない。

ワクチンの種類

種類 内容 例
病原性を持っていた病原体を培養し、化学薬品・熱・放射線・抗菌薬で死滅させたもの 、、百日咳
され病原性を無力化された生きた病原体(多くはウイルス) 、結核(BCG=型 Mycobacterium bovis, Bacillus Calmette-Guérin)、
化学的・熱処理で不活化した成分。毒性は失われても免疫応答は誘導できる ジフテリア、破傷風、
病原体の一部(タンパク質または多糖)のみからなる B型肝炎(ウイルス表面タンパクのみ)、インフルエンザ(・サブユニット)
細菌の多糖莢膜をタンパク質(毒素など)に結合させたもの b型

⭐ 多糖はそのままでは「弱い抗原」——で強化する。 多糖はの弱い抗原であり、IgM応答のみでを残さない。タンパク質と結合()させることでの応答に変換し、と記憶形成を高める。この原理はだけでなく、後述の()にも共通する。担体タンパクとして実際に使われているのは・・その変異タンパクCRM197で、結合型にすることで生後2か月からをもちを誘導できるようになる——乳児期に接種できること自体が化の最大の実利である2。

💡 ワクチンの「型」は5分類で終わりではない。 上の表の5分類はな区分であり、この数十年でワクチン・核酸(mRNA・)ワクチン・()という新しいプフォームが加わった。全病原体を使うが病原体そのものの培養を必要とするのに対し、ベクター・核酸ワクチンは病原体の遺伝子配列さえ分かれば構築できるため、開発と製造が桁違いに速い2。上の表のワクチンは、のmRNAワクチンは核酸プフォームにあたる。

ハンガリーの小児定期接種スケジュール

ワクチン 内容 接種時期(ECDCのハンガリー版スケジュール)3
BCG 。 出生時(義務)。結核低蔓延の欧州諸国の多くがをやめへの選択接種に切り替えたなかで、ハンガリーは全新生児への接種を続けている
DTaP(ジフテリア・+無細胞百日咳, diphtheria-tetanus-acellular pertussis) + 生後2・3・4か月に基礎接種、18か月・6歳・11歳に追加。破傷風はその後10年ごとの追加接種が推奨される
IPV(不活化ワクチン, inactivated polio vaccine) 不活化 -Hibとの混合として生後2・3・4か月と18か月
Hib の多糖莢膜() 同上(-IPV-Hib混合)
(肺炎球菌) 肺炎球菌の・タンパク質。かつては13価(最も重要な13血清型に対応)だったが、ハンガリーの現行スケジュールは乳児期に15価(PCV15)を用いる 生後2・3・4・6か月。12歳時にPCV15+PPSV23またはPCV20、65歳以上にPCV20
VZV(, varicella-zoster virus) 15か月と18か月。2018年7月31日より後に生まれた児から義務になった
MMR(麻疹・・風疹, measles-mumps-rubella) すべて弱毒生 15か月と6年生時
B型肝炎 乳児期ではなく学校での7年生時の集団接種(義務)。 HBs抗原陽性の母から生まれた児だけは出生後12時間以内・1か月後・6か月後に接種する
HPV(ヒトパピローマウイルス, human papillomavirus) ウイルスの9血清型のタンパクをしたもの——義務ではないが、スケジュールに含まれ無料で提供される 7年生時に男女とも任意・無料

合計で細菌ワクチン6種+ウイルスワクチン6(7)種。

⚠️ 「の内容」は国ごとに違う——この表はハンガリーのものであって普遍的な標準ではない。 同じ欧州でもB型肝炎を出生時に接種する国と学齢期に接種する国があり、を全員に打つ国とだけに打つ国がある。ECDCのVaccine Schedulerは加盟国ごとのスケジュールを並べて比較できるようにした資料で、この差そのものを見るためにある3。試験で「か否か」を問われたら、まずどの国の話かを確かめる。

💡 なぜ経口生ポリオワクチン(OPV)ではなく(IPV)なのか。 OPVは弱毒生ウイルスなので腸管免疫を誘導でき安価だが、してワクチン由来(VDPV)となり麻痺を起こしうる。とくにの患者はウイルスを排除できず長期に排泄し、免疫不全関連VDPV(iVDPV)を生じる。1962〜2024年にへ報告されたiVDPV 184例のうち2型が53%と最多だったが、2016年に2型を含むOPVが世界的に中止されたあと急減し、2009〜2016年の63例に対して2017〜2024年は6例にとどまった4。ポリオ流行のない国が生ワクチンからへ移った理由はここにある。

⭐ ワクチンの接種回数は2022年に変わった。 従来は2回または3回接種だったが、2022年12月には、9〜20歳では単回接種でも2回接種と同等の有効性と防御持続が得られるとして、代替の(適応外の)単回接種スケジュールを選択肢として認めた5。回数を減らせばが上がるという上の判断が背景にある。国によって採用状況が異なるので、ハンガリーの現行スケジュール(7年生時、男女、9価、任意・無料)とは分けて覚える。

まとめ

  • は宿主自身が抗体・を産生する免疫で、成立は遅いが長期間(時に生涯)持続する。受動免疫はできあがった抗体を受け取るためだが短命でを残さない。
  • は自然獲得(不・)と人工獲得(ワクチン接種)に分けられ、ワクチンは予防的にも(例:)にも使われる。
  • ワクチンは不活化・弱毒生・・サブユニット・の5種類に分類され、多糖抗原は単独では弱抗原のため()でを高める。
  • ワクチンの有効性は病原体の増殖速度・・に依存し、破傷風の追加接種要否の判断はその典型例である。
  • ハンガリーのスケジュールは・・IPV・Hib・・・MMR・B型肝炎・からなり、細菌6種+ウイルス6(7)種で構成される。ただしの中身は国ごとに違う——ハンガリーはを全新生児に接種し、B型肝炎は乳児期ではなく7年生時に接種し、肺炎球菌は13価ではなくPCV15を用い、水痘は2018年8月以降の出生児から義務化されている。
  • 近年変わった点として、経口生ポリオワクチンからへの移行(ワクチン由来対策、2016年の2型OPV世界的中止)と、ワクチンの単回接種を認めた2022年のの方針転換を押さえる。

出典

  1. 1.Efficacy and duration of immunity after yellow fever vaccination: systematic review on the need for a booster every 10 years(The American Journal of Tropical Medicine and Hygiene・2013)36研究・22報告を対象とした系統的レビューで、黄熱ワクチンの単回接種が高い免疫原性を示し生涯にわたる防御免疫を与えるため、それまで規定されていた10年ごとの追加接種は不要と結論されたこと、ただしHIV感染者・乳児・小児・妊婦・重度栄養不良者では個別の考慮を要することを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.A guide to vaccinology: from basic principles to new developments(Nature Reviews Immunology・2021)多糖-タンパク結合型(コンジュゲート)ワクチンの担体タンパクが主に破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイド、またはその変異タンパクCRM197であり、結合型化によって生後2か月から免疫原性をもち免疫記憶を誘導できるようになることを確認した。従来の生ワクチン・非生ワクチンに加えて、ウイルスベクター、核酸(RNA・DNA)ワクチン、ウイルス様粒子という複数のプラットフォームが過去数十年で開発され、ベクター・核酸ワクチンは病原体の遺伝子配列だけで構築できるため開発・製造が大幅に速いことも確認した。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Vaccine Scheduler: Recommended vaccinations in Hungary(European Centre for Disease Prevention and Control (ECDC)・2026)2026年2月10日更新版のハンガリー定期接種スケジュールを確認した。BCGは出生時(義務)、DTaP-IPV-Hib混合は生後2・3・4か月に基礎接種し18か月・6歳・11歳に追加、B型肝炎は乳児期ではなく学校での7年生時の集団接種(義務)、麻疹・ムンプス・風疹は15か月と6年生時、水痘は15か月と18か月で2018年7月31日より後に生まれた児は義務、肺炎球菌は生後2・3・4・6か月に**PCV15**(かつての13価から更新)で12歳時にPCV15+PPSV23またはPCV20、65歳以上にPCV20、髄膜炎菌はC群のみが12か月・15か月・6年生時に任意、HPVは7年生時に男女とも9価ワクチンを任意・無料で提供する。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Immunodeficiency-Related Vaccine-Derived Poliovirus (iVDPV) Infections: A Review of Epidemiology and Progress in Detection and Management(Pathogens (MDPI)・2024)一部の原発性免疫不全症患者は経口ポリオ生ワクチン(OPV)に曝露するとウイルスを排除できず、ワクチン株が復帰変異して免疫不全関連ワクチン由来ポリオウイルス(iVDPV)となり患者に麻痺を起こしうること、1962〜2024年にWHOへ報告された184例のうち2型が53%と最多だったが、2016年の3価OPVから2価OPVへの切り替え(2型OPVの世界的中止)の後に急減し、2009〜2016年の63例に対して2017〜2024年は6例のみだったことを確認した。生ワクチンから不活化ポリオワクチンへ移行した理由がここにある。閲覧 2026-08-26
  5. 5.Human papillomavirus vaccines: WHO position paper (2022 update)(World Health Organization(Weekly Epidemiological Record 97(50):645-672)・2022)2022年12月にWHOがHPVワクチンの接種回数に関する立場を改め、9〜20歳では単回接種でも2回接種と同等の有効性と防御持続が得られるとして、代替の(適応外の)単回接種スケジュールを選択肢として認めたことを確認した。この勧告はSAGEが2022年4月に行ったものである。閲覧 2026-08-26