病理学

病理学 · A/23

化生・異形成(病態機序)

Pathomechanism of metaplasia and dysplasia, examples

タグ
Mechanism / 機序High-yield / ポイント
応用トピック
表皮前癌病変皮膚上皮内悪性腫瘍
疾患
バレット食道

🧠 全体像:化生は「分化した細胞が別の分化した細胞に置き換わる」可逆的な適応、異形成は「秩序を失ったの増殖」——両者は連続体で、慢性の傷害が除かれなければ 正常→化生→異形成→→浸潤癌 と進みうる。ただし各段階で止まることも戻ることもあり、とくにの異形成は自然に消退することが多い(一方通行のベルトコンベアではない)。基底膜を破るかどうかがと浸潤癌の。

化生

  • ある分化した細胞型が、ストレスに適した別の細胞型に可逆的に置き換わること — 細胞適応の一形態。
  • 機序: で持続的な傷害による・サイトカイン・シグナルを介した幹細胞の(の直接変換ではない)。
  • 有害因子が除かれれば可逆的。持続すると → 異形成を経てしうる(化生上皮そのものは癌ではない)。

例

  • 気管支の(円柱上皮 → 扁平上皮):最も多い型。喫煙者。線毛・粘液を失う → 異形成+扁平上皮癌のリスク。
  • (扁平上皮 → を伴う円柱上皮):(GERD)・酸逆流による → 食道下1/3の腺癌のリスク。診断に()の組織学的確認を要件とするかは国・学会で一致しておらず、米国はの確認を診断要件とする一方、英国消化器病学会()は円柱上皮への置換のみで診断可能としの有無は必須としない1。腺癌への進展率も、デンマークの11,028例の全国コホートでは年間0.12%(95%CI 0.09〜0.15)にとどまり、従来の指針の根拠であった想定リスク0.5%より大幅に低いことが示された2。
  • 子宮頸部の(円柱上皮 → 扁平上皮):思春期・妊娠で頸管の円柱上皮が腟側へし、酸性の腟内環境にさらされることでに生理的に起こる(慢性炎症でも促進される)。この未熟な化生上皮はヒトパピローマウイルス()に感染しやすく、のの多くがここから生じる。
  • 胃の(胃固有腺 → 上皮):(H. pylori感染・自己免疫性)を背景に生じ、のリスクとなる。
  • 軟部組織における。

異形成

  • 均一性との方向性を失った無秩序な — 。
  • 長期の過形成・化生からしばしば生じる。
  • 特徴: 、細胞のサイズ・形の多様性()、核/細胞質比(N:C比)の増加、、配列の乱れ・極性の消失、の増加。
  • 順序:正常 → 化生 → 異形成 → 腫瘍(適応 → 変異の蓄積 → )。
flowchart TD
    A["正常上皮"] --> B["化生<br>幹細胞の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reprogramming'>リプログラミング</span>(可逆的)"]
    B --> C["異形成<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='precancerous lesion'>前癌病変</span>(N:C比増加・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pleomorphism'>多形性</span>)"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carcinoma in situ, CIS'>上皮内癌</span><br>全層に異型、浸潤なし"]
    D --> E["浸潤癌<br>基底膜の破綻"]

異形成のは病理医間のが低いことが知られ、とくにでその傾向が強い。129例・549生検を用いた検討では、患者単位でのは非異形成・で実質的一致(κ=0.66・0.76)だったのに対し、はκ=0.31(fair)にとどまった3。

子宮頸部上皮内腫瘍

  • ()に生じる。基底(前駆)細胞に似たが上皮を下から進行性に置き換える:
    • CIN1 = 下1/3、CIN2 = 下2/3まで、CIN3 = 2/3を超えて全層まで(旧来のを含む)。
  • 基底膜の破綻 → 浸潤癌。
  • ⚠️ 現行の組織診断は2段階(LSIL/HSIL)である。 米国病理医協会と米国・子宮頸部病理学会による 勧告(2012年)は、3段階の 表記を扁平上皮内病変()と扁平上皮内病変()の2段階へ置き換え、必要なら「( 2)」のように旧表記を括弧で併記するとした。CIN1 は 、CIN3 は に対応する。CIN2 は病理医間の再現性が低い曖昧な区分とされ、p16 免疫染色が陽性なら 、陰性なら に振り分ける4。したがって「CIN2 = HSIL」でも「HSIL = CIN3 だけ」でもない。

💡 ポイント: 化生 = 幹細胞による可逆的な細胞型の転換(、喫煙者の気管支)。異形成 = の異型(N:C比増加、、配列の乱れ)。・全層で浸潤がなければ = 。

まとめ

  • 化生はな傷害に対する幹細胞のによる可逆的な細胞型の転換で、有害因子が除かれれば戻るが持続するとしうる。
  • 代表例は気管支の(喫煙者、扁平上皮癌のリスク)と(GERD・酸逆流、腺癌のリスク)。
  • 異形成はの無秩序なで、・N:C比増加・配列の乱れ・増加を特徴とする。
  • 進行順序は 正常→化生→異形成→→浸潤癌 で、基底膜の破綻が浸潤の。ただし一方通行ではなく、の異形成は自然消退も多い。
  • 子宮頸部では形態上CIN1(下1/3)→CIN2(下2/3まで)→CIN3(全層まで、を含む)と段階分類されるが、現行の組織診断は2段階で、CIN1=、CIN3=、CIN2はp16陽性なら・陰性ならとする。

出典

  1. 1.Barrett's Esophagus: A Comprehensive and Contemporary Review for Pathologists(The American Journal of Surgical Pathology・2016)バレット食道の診断基準には世界的に論争があり、とくに生検で杯細胞(腸上皮化生)の組織学的同定を要件とするかどうかで一致していない。米国の立場は「腸上皮化生(杯細胞を伴う)が唯一悪性化しうる食道円柱上皮であるため、BE診断に腸上皮化生を要件とする」というものである一方、英国のBSGは「遠位食道の正常な扁平上皮が化生性円柱上皮に置換され、内視鏡的に明らかで(≥1cm)組織学的に確認されていること」を基準とし杯細胞の有無を必須としない。国際コンセンサスグループは内視鏡的な円柱上皮の存在を基準とし、杯細胞の有無は病理報告に記載すべきとした。閲覧 2026-08-27
  2. 2.Incidence of adenocarcinoma among patients with Barrett's esophagus(The New England Journal of Medicine・2011)デンマークの1992〜2009年の全国データを用いた集団ベースコホート研究で、バレット食道患者11,028例を中央値5.2年追跡した。腺癌の発生率は1,000人年あたり1.2例で、年間絶対リスクは0.12%(95%CI 0.09〜0.15)であり、当時のサーベイランス指針の根拠であった想定リスク0.5%より大幅に低かった。異形成のない患者の発生率は1,000人年あたり1.0例、低異型度異形成のある患者では5.1例であった。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Substantial Interobserver Agreement in the Diagnosis of Dysplasia in Barrett Esophagus Upon Review of a Patient's Entire Set of Biopsies(The American Journal of Surgical Pathology・2018)バレット食道129例・549生検を3名の病理医が患者ごとにまとめて再評価した検討。患者単位の一致率(Fleiss κ)は、非異形成とバレット高異型度異形成では実質的一致(それぞれκ=0.66、κ=0.76)だったのに対し、低異型度異形成はκ=0.31にとどまり一致率は低かった(fair)。低異型度と高異型度を「異形成あり」として一括した場合の一致率はκ=0.70に戻り、不一致の多くは異形成の有無ではなく程度の判定に起因することが示唆された。閲覧 2026-08-27
  4. 4.Revised terminology for cervical histopathology and its implications for management of high-grade squamous intraepithelial lesions of the cervix(Obstetrics & Gynecology・2012)PMC収載の著者最終稿(PMC4054813)の全文で、LAST勧告が3段階の-IN表記に代えてLSIL・HSILの2段階を勧め、旧表記は必要なら括弧内に併記するとしたこと(例「HSIL(CIN 2)」)、CIN 2は再現性の低い曖昧な診断でp16陽性ならHSIL・陰性ならLSILに分類すること、従来のCIN 1とp16陰性CIN 2がLSIL、従来のCIN 3すべてとp16陽性CIN 2がHSILになることを確認した閲覧 2026-09-23