病理学

病理学 · A/24

心不全(心機能不全)

Pathomechanism of cardiac insufficiency

タグ
Mechanism / 機序High-yield / ポイント
応用トピック
心不全

🧠 全体像:心不全は「後方へのうっ滞」と「前方への灌流不足」の両面を持ち、は肺(呼吸困難)、右心不全は全身(浮腫・腹水)に症状が出る。(交感神経・=)は短期的に血圧を保つが、Na⁺・水を貯留させ前負荷・を増やすことで、長期的にはかえって心不全を悪化させる悪循環になる。

定義

左心不全

型 EF() 機序
(=の低下した心不全) 低下(40%以下)1 左室が力強く収縮できない。拡張した弱い左室 → 拍出しきれない血液が後方(左房・)へうっ滞する(弁の「逆流」とは別の話)
軽度低下() 41〜49% との中間の病態(ただし下の⚠️のとおり、 2026年版は病態生理が寄りとみなす)。かつては「」と呼ばれたが、2021年の普遍的定義(米国心不全学会・心不全学会・日本心不全学会の合同文書)と 2021年版では「」に改称された21
(=の保たれた心不全) 保たれる(50%以上) 硬く厚い左室が充満できない → 拍出量低下

⚠️ 上表の3区分は 2021年版と2021年の普遍的定義の書き方である(普遍的定義はこれに改善型のHFimpEFを加える)。 現行の2026年版ガイドラインは2021年版を置き換え、を廃止して、( 50%未満かつ心不全の症状・徴候)と( 50%以上)の2区分に改めた3。💡 理由として同ガイドラインは、の病因がと似ており、病態生理も「低下・」ののほうに「硬さの増大・」のより近く、薬物治療の効果もに近いことを挙げている3——つまり「中間」というより「()側の軽いもの」として扱い直したことになる。定義の合意文書の側でも、2021年の普遍的定義は(41〜49%)とHFimpEFを置いていたが2、2026年の第2次普遍的定義()はな閾値から離れ、心不全を低下・保持・改善の3群に組み直している4。区分名には拠った文書と版を添える。

右心不全

  • ⚠️ 右心不全とは同義ではない。は肺実質・肺血管の原発性疾患による肺高血圧で右室が肥大・拡張したものを指し、左心疾患による右室の変化は定義上含めない。右心不全はそのを一部として含む、より広い概念である。
  • 右室が・の上昇に耐えられない → → 不全 → 静脈のうっ滞 → 。
  • 原因: 肺高血圧、肺塞栓、(COPD)、嚢胞性線維症・、肺気腫。左心を侵すほぼすべての心筋疾患(冠動脈疾患、高血圧、弁膜症、心筋症、心筋炎)が右心不全の原因になりうる。経過で分けると、慢性の右心不全はに伴うものが最も多く、急性の右心不全では肺塞栓と(主に閉塞による)が多い5。
  • 症状: 、腹水、、、呼吸困難、心拍数増加。
  • 急性(50%以上を閉塞する肺塞栓 → 右室の拡張のみ)と慢性(遷延する負荷 → 右室肥大±拡張)。

代償機構

  • 交感神経の活性化+RAAS → 血管収縮+Na⁺・水の貯留 → 前負荷・の増加 → 最終的に。
  • ANP()/BNP()が拮抗的に作用(・血管拡張)。は診断マーカー。
flowchart TD
    A["心拍出量の低下"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sympathetic activation'>交感神経活性化</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renin-angiotensin-aldosterone system'>RAAS</span>活性化"]
    B --> C["血管収縮+Na⁺・水の貯留"]
    C --> D["前負荷・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='afterload'>後負荷</span>の増加"]
    D --> E["心負荷の悪化→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decompensating'>代償不全</span>"]

💡 ポイント: → 肺(呼吸困難、III音、・)、右心不全 → 全身(浮腫、腹水、)。は慢性右心不全の最多の原因(では肺塞栓・が多い)。 = EF低下、 = EF保持。・交感神経の代償は最終的に心不全を悪化させる。

まとめ

  • 心不全は心拍出量の低下により後方うっ滞または前方への灌流不足を来す状態。
  • は肺うっ血(呼吸困難)、右心不全は全身うっ血(浮腫・腹水)を来し、は慢性右心不全の最多の原因(急性では肺塞栓・が多い)。右心不全とは同義ではなく、は肺原発の疾患による右室変化に限る。
  • 心不全(、EF低下)と心不全(EF保持、充満障害)に分けられる。
  • 交感神経・活性化はだが、Na⁺・水の貯留と血管収縮により前負荷・を増やし、最終的にを来す悪循環を形成する。
  • ANP/はこの悪循環に拮抗するで、は心不全の診断マーカーとして用いられる。

出典

  1. 1.2021 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure(European Society of Cardiology・2021)2021年版が心不全を左室駆出率でHFrEF(40%以下)・HFmrEF(41〜49%、旧称「中間型(mid-range)」から「軽度低下型(mildly reduced)」へ改称)・HFpEF(50%以上)へ3区分していることを確認した。⚠️ この版は2026年版(esc-hf-2026)に置き換えられており、3区分は現行のESCの区分ではない閲覧 2026-08-27
  2. 2.Universal definition and classification of heart failure(Heart Failure Society of America / Heart Failure Association of the ESC / Japanese Heart Failure Society・2021)抄録(Europe PMC、PMID 33605000)で確認した。米国心不全学会・ESC心不全学会・日本心不全学会の合同文書として、LVEFによる分類をHFrEF(症候性でLVEF 40%以下)・HFmrEF(HF with mildly reduced ejection fraction、41〜49%)・HFpEF(50%以上)・HFimpEF(ベースラインLVEF 40%以下、そこから10ポイント以上の上昇、2回目の測定で40%超)と提案している。旧称「中間型(mid-range)」からの改称の経緯は抄録には書かれていない閲覧 2026-09-16
  3. 3.2026 ESC Guidelines for the management of heart failure(European Society of Cardiology・2026)本文全文(Wayback Machine の id_ 付き出版社ページ、20260910061149)で次を逐語で確認した。①前文は「This guideline updates and replaces the previous version from 2021」。②Table 4 New concepts は「HFrEF has been expanded to include LVEF up to 50%」「HFmrEF has been removed」「HFpEF includes LVEF from 50% and above」。③3.3.1節は、HFmrEFの病因がHFrEFと似ており、病態生理は「reduced contractility and systolic dysfunction」のHFrEFのほうに「increased stiffness and diastolic dysfunction」のHFpEFより近く、薬物治療の効果もHFrEFに近いと述べたうえでHFmrEFを廃止し、HFrEF(LVEF <50% and symptoms and/or signs of HF)とHFpEF(LVEF ≥50%かつ症状・徴候があり、左室拡張障害または充満圧上昇に合致する構造的・機能的異常の客観的証拠を伴う)の2区分に再分類した閲覧 2026-09-16
  4. 4.AHA/ACC/ESC/WHF Expert Consensus Document: Second Universal Definition of Heart Failure (2026)(American Heart Association/American College of Cardiology/European Society of Cardiology/World Heart Federation・2026)抄録(Europe PMC、PMID 42370864)で確認した。2021年に複数の学会が心不全の定義を標準化したのに続く第2次普遍的定義であり、表現型の分類を固定的なLVEFカットオフから離し、駆出率低下・保持・改善の3群にまとめ直すと述べ、改善・寛解・回復という経過の軌跡も扱う。抄録には各群のLVEF閾値は書かれていない。治療指針ではなく定義の合意文書である閲覧 2026-09-16
  5. 5.Right ventricular failure in left heart disease: from pathophysiology to clinical manifestations and prognosis(Heart Failure Reviews(Dini F, et al., 2023, DOI 10.1007/s10741-022-10282-2)・2023)左心を侵すほぼすべての心筋疾患(冠動脈疾患、高血圧、弁膜症、心筋症、心筋炎)が右心不全の原因となりうること(抄録)、全文(Europe PMC、PMC9596338)の病因の節で急性右心不全の最多原因は肺塞栓と主に右冠動脈閉塞による急性心筋梗塞であり、慢性右心不全は左心不全に伴うものが最も多いと述べていることを確認した閲覧 2026-09-23