病理学

病理学 · C/108

頭蓋内出血

Intracranial haemorrhages

応用トピック
外傷性頭蓋内出血非外傷性頭蓋内出血自発性くも膜下出血の診断・治療・予後脳血管障害の分類
疾患
エーラス・ダンロス症候群マルファン症候群脳海綿状血管奇形脳内出血(非外傷性)
症状
雷鳴頭痛

🧠 全体像:4つのは「どの血管が」「どの腔に」出血するかで見分けられる——実質内(高血圧、古典的にはCharcot-Bouchard動脈瘤)、くも膜下(破裂)、硬膜下(、)、(、でを来す)。像の形と縫合を越えるかどうかが鑑別の決め手になる。

概要

  • は頭蓋内の様々な部位に起こり、各々に特有の原因がある。
  • 一般的原因:
    • 高血圧やその他の圧の変化。
    • (破裂)。
    • 外傷(本トピックの4型では主に硬膜下・。外傷ではに伴う出血も生じる→下の💡)。

💡 には、ここで扱う血管性の出血以外に、そのものの損傷(・)がある。 はだけでなく、脳が頭蓋内で反対側へ衝突する対側部位(contrecoup)にも生じうる。(DAI)は「びまん性」という呼称に反して脳全体に一様な損傷ではなく、高速・長時間の加速後に脳幹・大脳皮質の傍矢状白質・・皮質の部という特定領域に優位に生じる軸索の広範な損傷で、受傷直後の・はしばしば正常にみえる1。

脳出血(脳実質内出血)

定義

  • 高血圧に関連した内への出血。
  • BP > 200 mmHg = 血管破裂のリスク(講義の目安。病因の説明であって急性期の目標ではない)。

部位

  • 内血管:大脳基底核(が第1位)、視床、橋、小脳。

発生機序

  • 高血圧が小血管に小動脈瘤を作る = Charcot-Bouchard動脈瘤(古典的にはそう説明される)。
  • → 血管壁へのタンパク沈着 → → 破裂(講義の説明。下の⚠️のとおり、破綻の機序そのものは未解明とされる)。

⚠️ Charcot-Bouchard動脈瘤がの原因かどうかには、1世紀来の論争がある。 高血圧例35例・非高血圧例20例の厚切り脳切片を、による内皮染色とマイクロラジオグラフィで再検討した研究では、高血圧性4例を含む両群ともが際立って認められなかった。従来の報告で用いられた血管注入法では、細動脈のコイル状・ねじれ構造が動脈瘤と誤認されうること、同施設の10年間2,800剖検の通常切片でも内動脈瘤はまれであったことから、注入とを除けばCharcot-Bouchard動脈瘤はまれで、との関係は乏しいとされている2。2,700例超の剖検を調べた2021年の研究でもC-B動脈瘤は12例とまれで、大きなを伴ったのは1例だけだった。同研究は、高血圧性で血管が破れる機序そのものがまだ分かっていない(とC-B動脈瘤がともに候補とされてきた)としたうえで、C-B動脈瘤はの有意な原因ではないかもしれず、重いの一表現だろうとしている。なお同研究は、脂肪硝子変性(リポヒアリノーシス)は加齢・でみられる硝子性の壁肥厚()とは別物としている3。つまり「存在しない」のではなく「稀で、出血との因果が確かでない」。実習・試験では従来どおりの説明で問われうるので、名称と概念はそのまま保持する。上の「による」も講義の説明であり、これが確立した代わりの機序というわけではない。

結果

  • 出血 → ICP上昇 → → → 呼吸・心血管不全 → 死。

くも膜下出血

定義

  • への出血。
  • 脳動脈の(ベリー)動脈瘤の非破裂。

発生機序

  • の分岐血管がを来しやすい。
  • 最多部位:。
  • 破裂 → の「ジェット様」出血 → 急性ICP上昇。

臨床像

硬膜下血腫

定義

  • への出血。
  • 皮質との間のの。

発生機序

  • 脳の急速な加速・ → を。
  • 高齢者の → が伸展 → 破裂に敏感(軽微な外傷でも)。

型

  • 急性SDH:交通事故、突然の外傷、急速な悪化。
  • 慢性SDH:長期の外傷(ボクシング)または高齢者+萎縮。
    • 反復出血 → 線維化 → 髄膜周囲の → 進行性の神経症状(、歩行変化)。

💡 の「反復出血」は、内の脆弱なから起こる。 に形成される被膜はの遠位枝に由来する未熟なを含み、そこからのが反復することで血腫が増大・持続すると考えられている5。この機序から、塞栓術というが新たな選択肢として試みられている。症候性の亜急性・400例を対象にした無作為化試験(EMBOLISE)では、手術に塞栓術を追加した群は手術単独群に比べ90日以内の血腫再発・増悪によるが少なかった(4.1%対11.3%、0.36)。ただし塞栓術関連の重篤な有害事象が2.0%(後遺障害を残す脳卒中2例を含む)にみられ、著者自身が安全性にはさらなる検討が必要としている6。

形態

  • CTで(凹)の血腫。
  • を越えるが/テントは越えない。

硬膜外血腫

定義

  • 硬膜と頭蓋骨の間のへの出血。
  • 頭蓋骨骨折と関連。

発生機序

  • 硬膜は通常、頭蓋内板に強固に密着(と癒合)。
  • の破裂(硬膜と頭蓋骨の間)、典型的にはでのによる。
  • → 血液の蓄積が硬膜をから剥離 → 血腫が脳表面を圧迫。
  • 患者はより感受性が高い(反射障害 → 危険な転倒)。

意識清明期

  • 2つの相の間の意識清明相。
  • 順序:(衝撃)→ 意識回復 → (ICP上昇)→ 2回目の。
  • に古典的。

⚠️ 「」はの古典的な経過として教えられるが、実際にこの経過をたどる患者は少数派である——ただしこの点を数値で示せるのは、ここで引く小児の連続症例までである。1〜16歳の手術例146例の連続症例では、を認めたのは37%にとどまり、頭蓋骨骨折を伴わない例も30例あった。・手術時昏睡・の存在はいずれも予後不良の徴候だった(全体死亡率10%)7。「が無い=を除外できる」わけではない。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='head injury (head trauma)'>頭部外傷</span><br>(衝撃)"] --> B["1回目の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='loss of consciousness'>意識消失</span>"]
    B --> C["意識の回復<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lucid interval'>意識清明期</span>)"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='middle meningeal artery'>中硬膜動脈</span>からの出血が持続<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='raised intracranial pressure'>頭蓋内圧上昇</span>"]
    D --> E["2回目の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='loss of consciousness'>意識消失</span>"]

形態

  • CTで(レンズ状)の血腫。
  • 縫合を越えない(硬膜がそこで癒合)。
  • +テントは越えうる。

比較表

型 原因 血管 像 臨床
(内) 高血圧 Charcot-Bouchard動脈瘤(古典的説明。出血との因果に論争あり)/(講義の説明。破綻の機序は未解明) 実質内 大脳基底核/視床/橋、ICP上昇、ヘルニア
くも膜下 破裂 (前交通) 、脳幹周囲 「」、ADPKD、Ehlers-Danlos
硬膜下 静脈 、縫合を越えは越えない 高齢者、ボクサー、緩徐な静脈出血
頭蓋骨骨折(側頭) (レンズ状)、縫合を越えない → 悪化

💡 ポイント: 内() = 高血圧、大脳基底核/視床/橋/小脳のCharcot-Bouchard動脈瘤(古典的な説明。出血との因果には論争あり)。の出血ならCAAを疑う。くも膜下 = の破裂(前交通が最多)、「雷鳴/」、ADPKD/Ehlers-Danlos。硬膜下 = 、、縫合を越える、高齢者//ボクサー、萎縮で慢性。 = (/pterion)、、縫合を越えない、( → 清明 → )。

まとめ

  • (内出血)は、古典的には高血圧によるCharcot-Bouchard動脈瘤の破裂が原因とされるが、このは稀でとの因果には1世紀来の論争があり2、血管が破れる機序そのものも未解明とされる3。好発部位は大脳基底核()・視床・橋・小脳。の出血では(CAA)を疑う(A/32のBoston基準v2.0を参照)。
  • はの(が最多)の非破裂で生じ、「」を呈する。
  • はのによるもので、でを呈し縫合を越えるが・テントは越えない。高齢者やで慢性化しやすい。
  • は頭蓋骨骨折による破裂で生じ、でを呈し縫合を越えない。
  • は→→再度のという古典的な経過をとるが、小児の手術例146例ではを認めたのは37%にとどまり、が無いことはを否定する根拠にならない7。

出典

  1. 1.Current concepts: diffuse axonal injury-associated traumatic brain injury(Archives of Physical Medicine and Rehabilitation・2001)抄録で、びまん性軸索損傷(DAI)という呼称は誤称であり、脳全体に一様に生じる損傷ではなく高速・長時間の加速減速損傷後に脳の特定領域(脳幹、大脳皮質の傍矢状白質、脳梁、皮質の灰白質-白質境界部)に優位に生じる軸索の広範な損傷であること、受傷直後のCT・MRIはしばしば正常であることを確認した閲覧 2026-08-27
  2. 2.The Charcôt-Bouchard aneurysm controversy: impact of a new histologic technique(Journal of Neuropathology and Experimental Neurology・1992)抄録で、Charcot-Bouchard微小動脈瘤の頻度と脳内出血との関係は1世紀にわたり論争があること、高血圧例35例・非高血圧例20例の厚切り脳切片をアルカリホスファターゼ内皮染色と高分解能マイクロラジオグラフィで再検討したところ、高血圧性脳内出血4例を含む両群とも微小動脈瘤が際立って認められなかったこと、従来の血管注入法では細動脈のコイル状・ねじれ構造が動脈瘤と誤認されうること、10年間2,800剖検の通常切片でも脳実質内動脈瘤はまれであったこと、注入アーチファクトと誤読を除けばC-B動脈瘤はまれで脳内出血との関係は乏しいと結論したことを確認した。抄録は代わりの破綻機序(脂肪硝子変性・硝子細動脈硬化など)には触れていない閲覧 2026-08-24
  3. 3.Charcot–Bouchard aneurysms revisited: clinicopathologic correlations(Modern Pathology・2021)Europe PMCの全文(PMC8592842)で確認した。高血圧とCAAが原発性脳内出血の最も多い原因だが、いずれも出血の機序は不明で、フィブリノイド壊死とCharcot-Bouchard動脈瘤が血管破綻の候補として挙げられてきたこと、2,700例超の剖検でC-B動脈瘤を認めたのは12例にとどまり大きな脳内出血を伴ったのは1例だけであったこと、C-B動脈瘤は脳内出血の有意な原因ではないかもしれず(may not be)重い脳小血管病の一表現であると結論したこと、脂肪硝子変性(lipohyalinosis)は加齢・細動脈硬化でみられる硝子性の壁肥厚とは別物であることが合意されている(It is agreed that lipohyalinosis is distinct from hyaline wall thickening seen in aging and arteriolosclerosis)と述べていること閲覧 2026-09-24
  4. 4.Incidence of subarachnoid haemorrhage: a systematic review with emphasis on region, age, gender and time trends(Journal of Neurology, Neurosurgery and Psychiatry・2007)抄録で、21か国58研究集団・延べ45,821,896人年を対象とした系統的レビューで、45〜55歳を基準にした発症率比が25歳未満の0.10から85歳超の1.61まで年齢とともに上昇すること、発症率は10万人年あたり日本22.7・フィンランド19.7・その他地域9.1と地域差が大きいことを確認した閲覧 2026-09-24
  5. 6.Adjunctive Middle Meningeal Artery Embolization for Subdural Hematoma(New England Journal of Medicine・2024)症候性の亜急性・慢性硬膜下血腫で外科的除去の適応がある400例を、中硬膜動脈塞栓術+手術群(197例)と手術単独群(203例)に無作為割付けした多施設試験(EMBOLISE)で、90日以内の血腫再発・増悪による再手術は塞栓術併用群4.1%(8例)に対し手術単独群11.3%(23例)で、塞栓術併用により相対危険度0.36(95%信頼区間0.11〜0.80)に低下したこと、90日時点の神経学的機能悪化は塞栓術群11.9%対手術単独群9.8%(リスク差2.1ポイント、95%信頼区間−4.8〜8.9、非劣性解析)であったこと、30日までに塞栓術関連の重篤な有害事象が4例(2.0%、うち後遺障害を残す脳卒中2例)に生じ、著者が安全性のさらなる検討が必要と結論していることを確認した閲覧 2026-08-27
  6. 7.Extradural hematoma: analysis of 146 cases(Child's Nervous System・1993)抄録で、1〜16歳の硬膜外血腫手術例146例の連続症例において意識清明期を認めたのは37%にとどまったこと、146例中30例には頭蓋骨骨折が無かったこと、全体死亡率が10%(CT導入後6%、単純X線時代16%)であったこと、死亡例のGCSはすべて8未満で、散瞳・手術時昏睡・意識清明期の存在が予後不良の徴候であったことを確認した閲覧 2026-08-27