病態生理学

病態生理学 · P-1-13

閉経と骨粗鬆症 症例1

Menopause & 骨粗鬆症, Case 1

前提:病態
カルシウム・リン代謝のホルモン調節カルシウム・リン代謝と骨格系への影響

🧠 全体像:腎結石の既往・胃のびらん・倦怠感をもつ56歳女性。鍵は 補正しても高い血清Ca(2.8 mmol/L)++高値 と、ビタミンDが保たれていることで、を最も疑う。ただし確定には の測定が要り、本例には 値が無い。腎結石の既往と Tスコア −2.5 以下はどちらも手術を勧める基準に当たる。

症例提示

56歳女性。約半年かけて徐々に増悪する倦怠感を訴える。3か月前に高血圧を指摘され、阻害薬を内服中。胃痛で施行した胃内視鏡でに多発性の局所びらんを認め、治療が推奨された。で Helicobacter pylori は陰性。既往としてのエピソードがある。

: 身長: 162 cm。体重: 50 kg。RR: 142/90 Hgmm。

血液検査:

  • ESR: 20 mm/h
  • CRP: 6 mg/L
  • RBC: 4.68 T/L
  • ヘモグロビン: 144 g/L
  • : 0.42
  • Na⁺: 142 mmol/L
  • K⁺: 4.1 mmol/L
  • Ca²⁺: 2.8 mmol/L
  • PO₄³⁻: 0.6 mmol/L
  • アルブミン: 38 g/L
  • 25(OH) ビタミンD level: 34 ng/mL (20-40 ng/mL)
  • クレアチニン: 122 µmol/L
  • eGFR: > 90 ml/min
  • AST: 30 U/L
  • ALT: 22 U/L
  • ALP: 450 U/L
  • GGT: 40 U/L

尿検査:

  • 蛋白: 陰性
  • 糖: 陰性
  • 比重: 1018 g/L

尿沈渣:

  • WBC: 2/hpf
  • RBC: 4/hpf
  • 結晶

DEXA検査:

  • T-score: -2.8
  • T-score: -2.5

主要な記述と解釈

所見・数値 解釈
Ca²⁺ 2.8 mmol/L(高値); アルブミン 38 g/L; PO₄³⁻ 0.6 mmol/L(低値) アルブミンが軽度低値なので補正すると Ca はむしろやや上がり(補正後およそ2.84 mmol/L)、真の高 Ca 血症である。高 Ca 血症+低 P 血症はに典型的な生化学パターン( が Ca を上げ、腎でリン酸排泄を増やしてリン酸を下げる)
⚠️ が測定されていない の診断は、補正 Ca 高値に「高値または不適切に正常な」intact を伴うことを、少なくとも2週間あけて2回確かめて行う1。本例の生化学パターンは強く示唆するが、 が抑制されていれば悪性腫瘍に伴う高 Ca 血症など 非依存性の原因を考える
ALP 450 U/L(高値); 40 U/L・/ 正常 が正常なので肝胆道由来より骨由来を考えやすく、 過剰による・亢進を示す
「の既往」; 尿沈渣の「結晶」 高 Ca 尿によるカルシウム含有腎結石
「の多発性局所びらん」、H. pylori 陰性 高 Ca 血症が・を刺激し、消化性びらん(「腹部症状」)を来しうる
「倦怠感」; 新規に指摘された高血圧(142/90 mmHg) 高 Ca 血症に伴う非特異症状。高 Ca 血症は高血圧に寄与しうる
25(OH) ビタミンD 34 ng/mL(正常) ビタミンD 欠乏によるは考えにくく、原発性を支持
クレアチニン 122 µmol/L; > 90 ⚠️ 課題文の2つの値は食い違う。クレアチニン 122 µmol/L(約1.38 mg/dL)は56歳女性では 90 超と両立しにくく、この値が正しければ はおよそ 45 mL/min/1.73 m² 前後になる(-EPI 2021 式での概算)。 60 未満は手術を勧める基準の1つで、の鑑別にも関わるので、腎機能は再検して確かめる1
DEXA T −2.8、 T −2.5 慢性 過剰による亢進に伴う骨粗鬆症域の骨密度(T ≤ −2.5)。いずれかの部位の Tスコア −2.5 以下は、で手術を勧める骨の基準に当たる1

要点

  • 診断: の疑いが最も強い( 過剰、典型的には)。確定には の測定が要る1。
  • 生化学所見: 高 Ca 血症 + 低 P 血症 + 高値で、ビタミンD は保たれる。腎機能は課題文のクレアチニンと が食い違うので再検して確かめる。
  • 古典的な臨床像: 英語圏の語呂「結石・骨・腹部症状・精神症状(stones, bones, groans, psychic moans)」に対応する、腎結石、骨粗鬆症・、胃のびらんなどの消化管症状、倦怠感。
  • 手術適応: 2022年の第5回国際ワークショップは、腎結石・や骨折などの明らかな骨・腎合併症を伴うものを症候性とし、無症候例でも、血清Caがを1 mg/dL(0.25 mmol/L)超上回る、またはいずれかの部位でTスコア −2.5 以下、 60 mL/min 未満、腎結石・、(女性で250 mg/日超・男性で300 mg/日超)、50歳未満のいずれか1つ以上で手術を勧める12。本例は腎結石の既往と Tスコア( −2.8、 −2.5)の2点で基準に当たる。Ca は 2.8 mmol/L で、を 2.6 mmol/L とすると上回る幅は 0.25 mmol/L に届かない(上限は施設で異なる)。
  • 病態生理: が、腎での Ca 再吸収、ビタミンD 活性化を促進し、高 Ca 血症と骨量低下を来す。
  • 鑑別: (血清 Ca は通常正常。の安全性は60歳未満・閉経後10年以内で最も良いとされる3が、本例のような高Ca血症をまずとして除外する必要がある)や(低 Ca、腎不全背景)と異なる。CaSR遺伝子異常による(FHH)も鑑別に挙がる。カルシウム/クレアチニン・クリアランス比が0.01未満ならFHHを示唆するが、のの約10%も同様の値を示しうるため、この比だけでは確定できない4。本例は腎結石の既往があり、を思わせる点でFHHらしくないが、24時間尿Caで確かめる。
  • 骨粗鬆症治療への含み: 本例のTスコアは骨粗鬆症域(-2.8、-2.5)だが根本治療はである。並存するへを選択する場合、FREEDOM試験とその延長試験のでは、中止後の率が投与中の1.2/100人年から7.1/100人年へ上がり(を中止した群は8.5/100人年と同程度)、中止後にを来した人の60.7%がだったとの報告があり、中止時は代替のへ速やかに移行する必要がある5。

出典

  1. 1.Evaluation and Management of Primary Hyperparathyroidism: Summary Statement and Guidelines from the Fifth International Workshop(Fifth International Workshop on Primary Hyperparathyroidism・2022)誌上版全文(Wayback 保存の asbmr.onlinelibrary.wiley.com、20221121155611)で確認した。1.1 は高カルシウム血症性の原発性副甲状腺機能亢進症を「アルブミン補正血清カルシウム高値に、高値または不適切に正常な intact PTH を伴う(少なくとも2週間あけて2回)」と定義する。1.2.1 は家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症を、カルシウム/クレアチニン・クリアランス比が0.01未満の若年者や高カルシウム血症の家族歴がある者で疑うとする。2.1 は腎結石・腎石灰化・骨折などの明らかな骨・腎合併症を伴うものを症候性と分類する。5.1 は、無症候例を含め、①血清カルシウムが基準上限を1 mg/dL(0.25 mmol/L)超上回る、②椎体骨折またはいずれかの部位でTスコア −2.5 以下、③eGFR またはクレアチニン・クリアランス 60 mL/min 未満、画像での腎石灰化・腎結石、高カルシウム尿(例:女性250 mg/日超・男性300 mg/日超)、④50歳未満、のいずれか1つ以上があれば手術を推奨する閲覧 2026-09-24
  2. 2.Primary hyperparathyroidism: clinical manifestations, diagnosis and evaluation according to the Fifth International Workshop guidelines(Reumatologia・2023)2022年の第5回国際ワークショップ基準(無症候性原発性副甲状腺機能亢進症への手術適応)は高カルシウム尿の基準値を性別で分け、女性は24時間尿中カルシウム250 mg超、男性は300 mg超としている閲覧 2026-08-26
  3. 3.The 2022 hormone therapy position statement of The North American Menopause Society(The North American Menopause Society(現 The Menopause Society)・2022)ホルモン療法の安全性は60歳未満または閉経後10年以内に開始した健康な女性で最も良好である(timing hypothesis)閲覧 2026-08-26
  4. 4.Familial Hypocalciuric Hypercalcemia(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)CaSR遺伝子の不活化変異による家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH)は軽度の高カルシウム血症・正常〜軽度上昇したPTH・低カルシウム尿を呈し、尿中Ca/クレアチニンクリアランス比0.01未満で約80〜90%の症例でFHHが示唆されるが、孤発性原発性副甲状腺機能亢進症の約10%も同様の値を示しうるため単独では確定できない閲覧 2026-08-26
  5. 5.Vertebral Fractures After Discontinuation of Denosumab: A Post Hoc Analysis of the Randomized Placebo-Controlled FREEDOM Trial and Its Extension(Journal of Bone and Mineral Research・2018)FREEDOM試験本体と延長試験でデノスマブ中止後、脊椎骨折率は投与中1.2/100人年から7.1/100人年へ上昇し(プラセボ中止後は8.5/100人年)、脊椎骨折を来した例のうち多発椎体骨折の割合はデノスマブ中止後60.7%・プラセボ中止後38.7%であった閲覧 2026-08-26