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Disease Atlas · 耳鼻咽喉科 · 疾患

悪性外耳道炎

Malignant otitis externa

別名
壊死性外耳炎壊死性外耳道炎
臓器系
耳鼻咽喉科感染症
科目
Otorhinolaryngology
トピック
耳鼻咽喉科 09:耳介・外耳道の疾患耳鼻咽喉科 14:中枢性・末梢性顔面神経麻痺の鑑別と末梢性顔面神経麻痺の原因
上位概念
外耳炎
関連疾患
骨髄炎
治療薬
シプロフロキサシン
原因微生物
Pseudomonas aeruginosa
症状
耳痛耳漏顔面神経麻痺脳神経麻痺

🧠 全体像:⚠️ 「悪性」は腫瘍という意味ではない。 外耳道の感染がを越えて骨に入り、・頭蓋底の骨髄炎になったものである。高齢の糖尿病患者・免疫抑制患者に生じ、緑膿菌が代表的な起因菌で、治療は数週〜数か月におよぶになる。局所治療で治らないが続き、にが出て、やがてが現れる——この並びを見たら、普通のとして経過を見てはならない。

名前——「悪性」でも「腫瘍」でもない

現在はという呼称も広く使われる。癌ではないが体内で急速に広がりうる病態であり、この呼び名のほうが侵襲的な性質を正確に表す、というのが改称の理由である1。本ノートでは両方を同じ疾患として扱う。

⚠️ 外耳道の悪性腫瘍(扁平上皮癌・など)も治りにくい・・出血で発症し、本症と紛らわしい。名前が似ているだけでなく臨床像も重なるので、治療抵抗性の病変では生検を行う。

誰に、どんな像で起きるか

70論文2,274例を統合した系統的レビューの数字2。

項目 値
年齢中央値 69.2歳
男性 68%
糖尿病 84%
免疫抑制の危険因子の報告が無かった例 10%
96%
浮腫 76%
69%
緑膿菌が分離された 62%
起因菌が検出されなかった 14%

⚠️ 「糖尿病が無いから違う」とは言えない。 危険因子の報告が無い例が10%ある2。

⚠️ 「緑膿菌の病気」で止めない。 分離は62%で、残りには多様な細菌・真菌が含まれ、14%は起因菌が検出されていない2。で緑膿菌を外さないのは当然として、培養を必ず取る理由がここにある。

💡 高齢の糖尿病患者に集まるのは、糖尿病がとをもたらすためと説明される1。

進展経路——外耳道から頭蓋底へ

flowchart TD
    A["外耳道の感染"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='osseocartilaginous junction'>骨軟骨移行部</span>と<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='fissures of Santorini'>Santorini裂</span>を通って外へ抜ける"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='temporal bone'>側頭骨</span>・頭蓋底の骨髄炎"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stylomastoid foramen'>茎乳突孔</span>付近の顔面神経が侵される"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='jugular foramen'>頸静脈孔</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoglossal canal'>舌下神経管</span>の周囲へ進展"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='facial nerve palsy'>顔面神経麻痺</span>"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multiple cranial nerve palsies'>多発脳神経麻痺</span>"]

とという抜け道が進展経路である1。⭐ 顔面神経が脳神経のなかで最も侵されやすいのは、の後方に近接しているという解剖上の位置による1。

疑う所見

  • 通常のに反応しない、夜間に強い持続する1
  • 持続する膿性の1
  • ()の2
  • 、とくに

⚠️ 高齢・糖尿病・免疫抑制という背景に、この並びが一つでも重なったら本症を疑う。局所だけで経過を見ない。

顔面神経麻痺をどう位置づけるか

米国の全国入院サンプル(2016〜2022年)を用いた研究では、による入院5,585件のうち695件(12.4%)、およそ8件に1件でが併存していた3。⚠️ 母集団で数字が変わる——系統的レビューでは症例の21%に報告されている1(入院を分母にした前者と、症例集積を分母にした後者の違いである)。

指標 あり なし
平均年齢 71.16歳 56.07歳
男性 70.7% 55.6%
7.80日 5.21日
自宅への通常退院 46.4% 67.8%
の利用 28.6% 17.5%
入院中死亡 0% 0.4%(有意差なし、P=.157)

⚠️ 「が出たら死亡率が上がる」と単純に覚えない。 この研究ではの延長と自宅退院の減少ははっきりしたが、入院中死亡には有意差が無かった3。同じ論文のは、を死亡のとし1年以内の死亡が約3倍と報告したイスラエルの研究と、麻痺の有無で差が無かったイランの研究の双方を引用しており、これらはこの研究の結果ではない3。⭐ 確実に言えるのは、麻痺の出現が頭蓋底への進展と併存症負荷の大きさを示し、より重い臨床経過と結びついていることである。

画像

目的 用いるもの
骨びらんの検出
軟部組織浸潤・ 造影MRI
治療効果の判定 ——白血球を標識するのでより炎症の推移を詳細に追える

で炎症の消退を追い、正常化し、かつも正常化してから1週間でを中止するという運用が示されている1。

⚠️ ただしこの運用は高い水準の根拠に支えられていない。 2023年の系統的レビューは、診断にも経過観察にも最適な画像は不明であったとしている2。「Ga-67で治療終了を決める」は広く教えられている手順だが、確立した基準ではない。

治療

  • が治療の基本。 に優れるフルオロキノロンが通常好まれる1。
  • 期間が長い。 期間の中央値7.2週で、最適なレジメンの確定的な根拠は無い2。
  • と免疫抑制状態への対処を並行して行う。
  • 手術は限定的。 内科的治療がしなかった例に限られ1、系統的レビューでは21%が手術を受けたが、時期・適応・術式は大きくばらついていた2。
  • は効果を認めない研究が多い1。

⚠️ 数日で効かないからと抗菌薬を切り替え続けない。 骨髄炎であり、週の単位で反応を見る疾患である。

転帰

指標 値
1年 2%2
22%2
再発率 7%2
死亡率(歴史的→現在) 50〜60% → 10〜20%1
再発率(別の集計) 15〜20%1

💡 数字が食い違って見えるのは、測っているものが違うため。 系統的レビューの2%は1年の死亡で、10〜20%は死亡率一般の記載である。系統的レビュー自身が「が論文間で大きくばらついていた」「73%が症例集積で残りも方法論的な質が低かった」と述べており2、この疾患の数字はどれも幅をもって読む必要がある。

まとめ

  • 「悪性」は腫瘍の意味ではない。外耳道の感染が骨へ抜けた・頭蓋底の骨髄炎で、とも呼ばれる。
  • 高齢(年齢中央値69.2歳)・男性(68%)・糖尿病(84%)に多いが、危険因子の報告が無い例も10%ある。
  • 緑膿菌が代表的な起因菌(分離62%)だが、真菌を含む多様な起因菌があり14%は検出されない。培養を必ず取る。
  • 局所治療に反応しない夜間の・持続する・のが疑う手掛かり。
  • とを通って頭蓋底へ進み、顔面神経が最も侵されやすい。入院例の12.4%にが併存する。
  • はの延長と自宅退院の減少に結びつくが、死亡率への影響は研究間で一致していない。
  • で骨びらん、造影MRIで軟部・頭蓋内、で治療効果を判定する。ただし最適なは確立していない。
  • 治療はで、期間の中央値は7.2週。手術は内科的治療の不応例に限る。

出典

  1. 1.Necrotizing (Malignant) Otitis Externa(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)本症が癌ではないものの体内で急速に広がりうるため「壊死性外耳炎」という呼称のほうが旧称「悪性外耳道炎」より病態の侵襲的な性質を正確に表すこと、主要な起因菌がグラム陰性桿菌の緑膿菌であること、免疫抑制の主な危険因子が耐糖能異常または確立した糖尿病であり糖尿病が細小血管症と免疫機能不全をもたらすこと、感染が外耳道の骨軟骨移行部と外耳道軟骨外側のSantorini裂を通じて広がること、夜間に強い持続する耳痛と通常の局所抗微生物薬に反応しない耳漏が特徴であること、顔面神経麻痺が21%の症例で生じ骨性外耳道の後方に近接するため脳神経のなかで最も侵されやすいこと、Ga-67シンチグラフィが白血球を標識するため炎症の推移をTc-99mより詳細に追え本症の消退を監視する有用な方法であること、全身抗菌薬をGa-67シンチグラフィが正常化してから1週間で中止すべきとされること、組織移行性に優れるフルオロキノロンが通常好まれること、高気圧酸素療法の上乗せ効果を認めない研究が多いこと、手術は内科的治療が奏効しなかった例に限られること、死亡率が歴史的な50〜60%から現在の10〜20%へ大きく低下したこと、再発率が15〜20%であることを確認した。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Systematic review of the diagnosis and management of necrotising otitis externa: Highlighting the need for high-quality research(Clinical Otolaryngology・2023)2021年4月30日までのMedline・Embase・Cochrane Library・Web of Scienceを検索した系統的レビューで、最終統合に70論文2,274例が含まれ、うち73%が後方視的症例集積で残りも方法論的な質が低かったこと、症例定義が論文間で大きくばらついていたこと、患者年齢の中央値が69.2歳、男性が68%、糖尿病が84%であり、免疫抑制の危険因子が報告されていない例が10%あったこと、耳痛がほぼ全例(96%)にみられ、最も多い徴候が浮腫(76%)と肉芽(69%)であったこと、緑膿菌が62%で分離された一方で多様な細菌・真菌が報告され14%は起因菌が検出されなかったこと、診断にも経過観察にも最適な画像モダリティが不明であったこと、抗微生物薬治療期間の中央値が7.2週で最適なレジメンの確定的な根拠が無かったこと、21%が手術を受けたが時期・適応・術式は大きくばらついていたこと、1年疾患特異的死亡率が2%、治療失敗率が22%、再発率が7%であったことを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-03
  3. 3.Facial Nerve Palsy in Malignant Otitis Externa Hospitalizations: Outcomes and Risk Factors(Otolaryngology–Head and Neck Surgery・2026)2016〜2022年の米国National Inpatient Sampleを用いた後方視的横断研究で、悪性外耳道炎による入院5,585件のうち695件(12.4%)に顔面神経麻痺の診断が併存したこと、麻痺を伴う入院が高齢(71.16±13.4歳 対 56.07±21.1歳)・男性(70.7% 対 55.6%)に多く診断数と慢性疾患数も多かったこと、慢性合併症を伴う糖尿病・高血圧・末梢血管疾患が麻痺群で有意に多かったこと、在院日数が長く(7.80±7.5日 対 5.21±6.8日)自宅への通常退院の割合が低かった(46.4% 対 67.8%)こと、他施設への転院(21.4% 対 9.7%)と訪問看護の利用(28.6% 対 17.5%)が多かったこと、入院中死亡は両群とも少なく有意差が無かった(0% 対 0.4%、P=.157)ことを確認した。なお本文の考察でイスラエルの後方視研究が顔面神経麻痺を疾患特異的死亡の独立予測因子とし1年以内の死亡が約3倍と報告したこと、イランの100例超の研究では麻痺の有無で差が無かったことが紹介されているが、これらは本研究の結果ではなく引用である。閲覧 2026-09-03