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Drug Atlas · B5 Antiarrhythmics / 抗不整脈薬

イブチリド

ibutilide

分類
Antiarrhythmics / 抗不整脈薬
科目
PharmacologyClinical Pharmacology
トピック
B5: Drugs influencing cardiac electrophysiology21: Atrial fibrillation
承認適応
心房細動(発症が新しいもの。米国の承認適応)心房粗動(発症が新しいもの。米国の承認適応)
副作用
低血圧動悸頭痛悪心
監視検査値
QT延長(QTc)カリウムマグネシウム

🧠 全体像:は、静注で使うクラスIIIで、米国の添付文書では発症が新しい心房細動・を、短時間でに戻すために使う(90日を超える不整脈での有効性は確立していない)1。で特に効き、停止は多くが30分以内に起こる。⚠️ ただし最大の問題はtorsades de pointes(QT延長に伴う)で、登録試験では1.7%でを要した。このためモニタリングとが備わった環境でだけ投与し、LVEFが低い患者では避ける。国内ではPMDAの添付文書検索で成分名・主な表記ゆれのいずれも該当がなく(2026年11月6日確認)、本ノートの用法・用量は米国の添付文書に基づく。

薬効群の中での位置づけ

発症が新しい心房細動の薬理学的に使う薬は、転換までの時間と安全性の弱点で使い分ける。2023年の米国指針の一覧は次のとおりである2。

薬剤 投与 転換までの時間 主な弱点
静注(10分) 30〜90分 、QT延長、torsades de pointes
静注 8〜12時間 徐脈、低血圧、QT延長、、torsades de pointes
静注 30〜60分 低血圧、房室ブロック、HFrEFの悪化、QT延長、
経口(単回) 3〜8時間 、房室ブロック、HFrEFの悪化、
経口(単回) 3〜8時間 、房室ブロック、HFrEFの悪化、

⭐ は「速いが、心室性の不整脈が弱点」。同じ静注のと比べると、発症3時間〜90日の・心房細動127例の無作為化試験で、1.5時間以内の停止が58.3%(35/60)対18.3%(11/60)で、では76%対14%、心房細動では51%対21%だった。群では7例が低血圧になった3。

💡 との位置づけも押さえる。 米国指針は、血行動態が安定した例やを行えない場面で、薬理学的は「の代わりとして妥当」とする(クラス2a)。急ぐ場面では成功率の高いがふつう優先される(あるで、の成功率78.2%、薬理学的59.2%、様子見37.9%)2。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ibutilide'>イブチリド</span>を静注"] --> B["心房・心室の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='action potential duration (APD)'>活動電位持続時間</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='refractory period'>不応期</span>を延長(クラスIII作用)"]
    B --> C["不整脈が停止し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sinus rhythm'>洞調律</span>に戻る<br>(再分極の延長が作用の基礎と考えられている)"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='QT interval'>QT間隔</span>が用量に関連して延長する"]
    D --> E["徐脈・心拍の変動・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypokalemia'>低カリウム血症</span>があると<br>torsades de pointesの危険が増す"]
    E --> F["持続性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polymorphic ventricular tachycardia'>多形性VT</span>(約1.7%)"]
    F --> G["投与中止・カリウムと<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnesium'>マグネシウム</span>の補正・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnesium'>マグネシウム</span>静注・ペーシング・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='defibrillation'>除細動</span>"]

電子添文は、が遅い内向き電流(主にナトリウム)の活性化によって再分極を遅らせ、外向きのカリウム電流を遮断して作用する多くの他のクラスIII薬とは機序が違うと述べる1。一方、マウスの心房腫瘍細胞では、は急速活性型(IKr)の強力な遮断薬で(EC50 20 nmol/L、は12 nmol/L)、著者は臨床作用が少なくとも一部IKr遮断によるとした(内向き電流への作用は除外されない)4。⭐ 「クラスIII=カリウム電流遮断」で覚える場合でも、は電子添文が述べる機序が別、という特殊性を押さえておく。

電子添文によれば、の延長はと直接に相関し、QRS幅には影響しない(0.03 mg/kgまでの10分静注で臨床的に有意な変化なし)。とはわずかに遅くなる。LVEFが35%の上下の患者でも、0.03 mg/kgまでは心拍出量・・肺毛細管圧に臨床的に有意な影響はなかった1。

薬物動態

項目 内容
(10分かけて)。静注のみ
分布 定常状態のが大きい(約11 L/kg)。蛋白結合は約40%と低い
消失 クリアランスは肝血流に近い(約29 mL/分/kg)。は平均約6時間(2〜12時間)で、が大きい
代謝・排泄 8つの代謝物(側鎖のω酸化と)。尿中に約82%(未変化体は約7%)、糞便に約19%。活性のある代謝物はω-ヒドロキシ体だけで、はの10%未満
腎機能 心房細動・285例で、クリアランスは21〜140 mL/分の範囲で腎機能に依存しなかった
用量との関係 0.01〜0.10 mg/kgで線形

の数値は米国添付文書による1。

⭐ 半減期は平均6時間でも、転換は開始後30分以内に起こることが多い。一方、危険なのは、注入を止めた後でも最初の注入開始から通常40分以内に出ている(後述)。電子添文は注入後少なくとも4時間のモニタリングを求める。

適応

項目 内容
適応 発症が新しい心房細動・のへの迅速な転換。より長く続く不整脈ほど反応が悪く、90日を超える不整脈での有効性は確立していない
前提 心房細動が2〜3日を超える場合は、通常少なくとも2週間の十分な抗凝固が必要
患者の選択 慢性の心房細動はに戻っても再発しやすく、を維持する治療にも危険がある。転換の利益が、の危険との危険を上回る患者を選ぶ

以上は米国添付文書の適応の項による1。⚠️ 不整脈の経過が長いほど効かない。 登録試験で、発症が30日未満の患者の反応率は42%と50%、より慢性の患者は16%と31%だった(2つの有効性試験)。

試験での成績

試験 結果
466例の2つの比較試験 0.0125 mg/kgを超える用量で反応率(注入中または注入後1時間以内の停止)43〜48%、2%。のほうが心房細動より有効(48%以上と40%以下)。転換者の約70%が開始後30分以内にに戻り、最も遅い転換は90分
第2試験(1.0 mgに続き0.5 mgまたは1.0 mgの再投与) 90分以内の転換は43%と44%(2%)。で48%と63%、心房細動で38%と25%
との比較(319例) で1 mg 53%、2 mg 70%、18%。心房細動で1 mg 22%、2 mg 43%、10%
後(302例) 1.5時間での転換は、で4%、0.25 mg 56%、0.5 mg 61%、1 mg 78%。心房細動で20%、0.25 mg 28%、0.5 mg 42%、1 mg 44%

試験の成績は米国添付文書のの項による1。

2023年の米国指針は、プラセボ対照試験で心房細動の変換率が約30%(2%)、は38〜63%で、大部分が30〜90分以内にになると述べる2。

用法・用量

体重 初回の(10分) 追加
60 kg以上 1 mg(1バイアル) 初回の終了後10分たっても停止しなければ、さらに10分あけて同量を10分かけて
60 kg未満 0.01 mg/kg(0.1 mL/kg) 同上
  • 不整脈が停止したら、ただちに中止する。 持続性または非持続性の、QT・QTcの著しい延長が現れたときも中止する。
  • 投与前に・を補正する。
  • 調製:原液のまま、または50 mLのか5%ブドウ糖液に加えて投与する。10 mLのバイアル(0.1 mg/mL)を50 mLの輸液バッグに加えると、約0.017 mg/mLになる。希釈液は室温で24時間、冷蔵で48時間、化学的・物理的に安定。
  • 60 kg超の患者で2 mgを単回投与する方法も、との比較試験で有効だった。後の試験では0.5 mgの1〜2回投与(60 kg未満は1回0.005 mg/kg)が有効だった。用法・用量は米国添付文書による1。

⭐ 投与前のが、torsades de pointesと過度のQT延長の危険を下げうるとも指針は述べる2。

禁忌・注意

  • 米国添付文書の禁忌は、またはへの過敏症のみである1。⚠️ これは米国の1本の記載で、他国の文書の禁忌欄を確認したものではない。
  • ⚠️ torsades de pointesなどのの既往がある患者には勧められない。
  • ⚠️ LVEFが低い患者では避ける。 で、の既往がある患者の持続性は5.4%、ない患者は0.8%だった1。2023年の米国指針は、を「LVEFが40%未満でない」心房細動の薬理学的に勧め(クラス2a、A)、HFrEFでは独立した危険因子でLVEF 40%以下では避けるのが最善と述べる2。
  • 投与の環境:モニタリング、(を含む)を認識・治療できる人員、・ペーシング・薬剤を備える。投与後少なくとも4時間、またはQTcがベースラインに戻るまでで観察する。不整脈があればさらに長く観察する。肝機能が異常な患者は、4時間を超えるが望ましい。
  • 登録試験では、QTcが440 msecを超える患者は通常登録されず、は4.0 mEq/L超が求められた。
  • 併用しない薬:Ia群(、、)と他のIII群(、)は、投与前後(投与後4時間以内)に併用しない。、三環系・、一部の抗ヒスタミン薬()などQT延長薬は、不整脈の危険を増しうる。ジゴキシンは、がを隠すことがあるため血中濃度が高い患者では注意する。、β遮断薬、ジゴキシンの併用は、試験で有効性・安全性に影響しなかった。
  • 妊娠:では催奇形性(欠損、、)と胚致死作用があった。小児(18歳未満)の安全性・有効性は確立していない。

⚠️ 初回のは、注入が終わった後に起こることが多い。 登録試験の多くのは注入を止めた後で、最初の注入開始から通常40分以内だったが、約3時間後に再発した例もあった。2例ではVTがに悪化して即時のを要した(以上、禁忌・注意の項は米国添付文書による)1。

副作用

区分 内容(頻度は586例の第II/III相試験)
の有害事象 586例のうち149例(25%)が報告。持続性 1.7%、非持続性 2.7%
他の心室性・ 非持続性 4.9%、5.1%、1.9%、房室ブロック1.5%(可逆性のは9例で、1度5例・2度3例・1例)、QT延長1.2%、徐脈1.2%
その他 低血圧2.0%、頻脈2.7%、1.0%、悪心1.9%(より1%を超えて多い)、頭痛3.6%(プラセボ群3.1%)
後の試験 1 mg群70例で持続性が2例(2.9%)、非持続性が2例(2.9%)。0.5 mg群(73例)と0.25 mg群(75例)ではの報告がなかった

頻度は米国添付文書の有害事象の項による1。過量時は再分極の延長が強まり、増強したや房室ブロックが起こる。個々の事象にふさわしい治療を行う。

多形性VTが出たとき

電子添文は次を示す:の中止、電解質(特にカリウムと)の是正、、または、薬物療法では静注。の投与はできるだけ避ける。

まとめ

  • は静注のクラスIIIで、発症が新しい心房細動・をに戻す。のほうが効きやすく、転換は多くが30〜90分以内。90日を超える不整脈での有効性は確立していない。
  • 用量は60 kg以上で1 mg(10分)、60 kg未満で0.01 mg/kg。停止しなければ10分あけて同量を追加する。停止したらただちに中止し、投与前に低カリウム・を補正する。
  • ⚠️ 最大の危険はtorsades de pointes(持続性約1.7%)。モニタリングを注入後少なくとも4時間続け、LVEFが低い患者(40%以下)では避ける。Ia群・他のIII群との併用は投与前後4時間以内は避ける。
  • 作用機序は、電子添文が「遅い内向きナトリウム電流の活性化」と述べる一方、IKr遮断も示されている。QRS幅は変えない。
  • 日本の添付文書は確認できなかった。国内の診療では、他の薬との位置づけで考える。

出典

  1. 1.CORVERT (ibutilide fumarate) injection — Prescribing Information(Pharmacia & Upjohn Company LLC(Pfizer。米国の添付文書。DailyMedの掲載版の効力発生日は2024年1月25日、本文の改訂記号はLAB-0385-5.0 November 2023)・2024)全文を取得して確認した。適応は発症が新しい心房細動・心房粗動の洞調律への迅速な転換で、90日を超える不整脈での有効性は確立していない。持続性多形性心室頻拍(torsades de pointesを含む)が登録試験で1.7%(電気的除細動を要した)、心電図の連続モニタリングと対応できる人員が必須、心房細動が2〜3日を超えるときは通常少なくとも2週間の十分な抗凝固。禁忌は過敏症のみ。警告は低カリウム血症・低マグネシウム血症の是正、投与後少なくとも4時間またはQTcがベースラインに戻るまでの連続心電図モニタリング、心不全の既往での持続性多形性VTの頻度5.4%対0.8%。相互作用はIa群と他のIII群を投与中・投与後4時間以内は併用しない。用法は体重60 kg以上で1 mgを10分、60 kg未満で0.01 mg/kg、停止しなければ10分後に同量を再投与。薬物動態は半減期の平均約6時間(2〜12時間)、クリアランスが肝血流に近く腎機能に依存しない。作用機序は活動電位持続時間の延長(遅い内向き電流の活性化と記載)。臨床試験466例で反応率43〜48%(プラセボ2%)、心房粗動のほうが心房細動より有効、開心術後の試験も確認した。なお本文書は米国の先発品Corvert(Pfizer)の1本で、他国の文書は確認していない。閲覧 2026-11-06
  2. 2.2023 ACC/AHA/ACCP/HRS Guideline for the Diagnosis and Management of Atrial Fibrillation(American College of Cardiology / American Heart Association・2023)PMC全文(PMC11095842)の薬理学的除細動の推奨表で、左室機能が低下していない(LVEF 40%未満でない)心房細動で薬理学的除細動にイブチリドが妥当であること(クラス2a、エビデンスレベルA)、本文が「イブチリドはQT延長とtorsades de pointesを伴い、HFrEFで特に多く、LVEF 40%以下では避けるのが最善」「イブチリド投与直前のマグネシウム点滴がtorsades de pointesと過度のQT延長の危険を下げうる」「変換率は心房細動で約30%(プラセボ2%)、心房粗動は38〜63%」と述べること、表22でイブチリドが静注で30〜90分、肝で消失、消失半減期2〜12時間、主な副作用が非持続性VT・QT延長・torsades de pointesであること、直流除細動の成功率(78.2%)が薬理学的除細動(59.2%)より高いという後ろ向き解析を紹介していることを確認した。閲覧 2026-11-06
  3. 3.Conversion efficacy and safety of intravenous ibutilide compared with intravenous procainamide in patients with atrial flutter or fibrillation(Journal of the American College of Cardiology(Volgman AS, Carberry PA, Stambler B, et al.)・1998)抄録(Europe PMC、PMID 9581743)で、発症3時間〜90日(平均21日)の心房粗動・心房細動127例を、イブチリド1 mgの10分静注2回とプロカインアミド400 mgの10分静注3回に無作為割付し、1.5時間以内の停止がイブチリド58.3%(35/60)対プロカインアミド18.3%(11/60)(p<0.0001)、心房粗動76%(13/17)対14%(3/22)、心房細動51%(22/43)対21%(8/38)であったこと、イブチリド群の1例(プロトコール違反)に持続性多形性心室頻拍があり、プロカインアミド群の7例が低血圧になったことを確認した。誌面は購読制で未取得。閲覧 2026-11-06
  4. 4.Ibutilide, a methanesulfonanilide antiarrhythmic, is a potent blocker of the rapidly activating delayed rectifier K+ current (IKr) in AT-1 cells. Concentration-, time-, voltage-, and use-dependent effects(Circulation(Yang T, Snyders DJ, Roden DM)・1995)抄録(Europe PMC、PMID 7882490)で、モルモット心筋では「IKrを遮断せず遅い内向きナトリウム電流を増やす」とされていたイブチリドが、IKrが主な遅延整流電流であるマウス心房腫瘍細胞(AT-1細胞)ではドフェチリド(EC50 12 nmol/L)と同様に強力なIKr遮断薬(EC50 20 nmol/L)であったこと、遮断が開口チャネル遮断の特徴(脱分極の長さ・使用依存性)を示したこと、著者が臨床作用は少なくとも一部IKr遮断によると結論し、内向き電流への作用は除外されないとしたことを確認した。誌面は購読制で未取得。閲覧 2026-11-06