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Microbe Atlas · 真菌

Sporothrix schenckii

分類
二形性真菌 / Dimorphic fungiSporothrix
科目
Medical Microbiology
トピック
4/6: Superficial and sub-cutaneous mycoses
原因となる疾患
Parinaud眼腺症候群スポロトリコーシスリンパ管炎

🧠 全体像:Sporothrix schenckiiは同じ二形性真菌でも、Histoplasma capsulatumらの「吸入→肺→全身」という全身性4菌種とは軸が違う——バラのとげや土いじりによる皮膚の(“rose gardener’s disease=”)で感染し、局所からリンパ管に沿って上行するを作るの代表菌である。地理ではなく(園芸・農作業)が診断の入口になる。

微生物学的な特徴

  • 環境中形態(25℃・カビ形):菌糸に分生子の房飾り(rosette)とを持つ。
  • 組織内形態(37℃・):酵母(4〜6 μm)。
  • 全身性4菌種(Histoplasma capsulatum・Coccidioides immitis・Blastomyces dermatitidis・Paracoccidioides brasiliensis)と同じ温度依存的二形性を持つが、感染経路が吸入ではなくである点が本質的に異なる。

単一種ではなく種複合体として扱う

⚠️ 「S. schenckii」は現在、で分けられた複数種の総称としても使われる。 ではSporothrix属に53種が認識され、そのうちヒト病原性を持つ臨床の代表が*S. brasiliensis*・S. schenckii・S. globosa・S. luriei である(原典はこの4種を例示として挙げており、臨床をこの4種に限定していない)。地域ごとに優占種が明確に異なり、どの種による感染かで臨床像と重症度が変わる1。

地域 優占種 占める割合
南米南(ブラジルなど) S. brasiliensis 88%
南米・中米・北米 S. schenckii 89%
オーストラリア・南アフリカ S. schenckii 94%
アジア(日本を含む) S. globosa 99.3%

💡 日本で問題になるのは主にS. globosa、ブラジルのネコ関連流行はS. brasiliensis という対応を押さえておく。S. brasiliensisはマウスモデルで最も病原性が高く、な臨床像や重症型——免疫正常者でも状を伴う全身性疾患を起こす型——と関連づけられている1。

病原性の仕組み

  • 土壌・植物(バラのとげ、コケ類、干し草、腐敗植物)に付着した分生子・菌糸断片がに皮膚へ接種され、体温でへ転換する。
  • 接種部位にを起こした後、菌がリンパ管に沿って近位へ広がり、に沿って連続的に結節を形成する——“sporotrichoid spread”と呼ばれるこの拡がり方は、Nocardia brasiliensisや(Mycobacterium marinum)、でも見られる共通パターンで、の枠組みとして併せて覚えておく価値がある。
  • 組織中では(asteroid body、酵母を好酸性物質が取り囲むSplendore-Hoeppli現象)が見られることがあるが、組織中の菌体数自体は乏しく(“paucity of organisms”)、の感度は他の二形性真菌より低い。

感染経路と疫学

  • 土壌(庭)、バラのとげ、コケ類()、樹皮など植物に存在し、により感染する(rose gardener’s disease)。
  • :園芸従事者、造園業、農業従事者、花卉市場関係者。
  • ネコからの感染も報告される(ブラジルで集団発生が確認されており、ネコは重い菌量を保有しヒト・他のネコへ伝播しうる)——皮膚外傷(ネコの咬傷・引っかき傷)を介した人獣共通感染症としての側面もある。このブラジルの人獣共通流行の原因種はS. brasiliensisで、北へ向かって拡大している2。
  • 世界中に分布するが熱帯・亜熱帯気候でより高頻度。

起こす疾患

本菌が起こす疾患の総称はで、病型は次の通り分かれる。

病型 頻度・宿主 特記事項
最多(報告によって症例の46〜92%)1 接種部位の→、その後リンパ管に沿って上行性に新たな結節が
2番目に多い(平均25%)1 リンパ管への拡がりを伴わず局所にとどまる。宿主の抵抗性が強い、あるいは菌株の・病原性が低いことによると考えられている
ホームレス・者に多い 分生子の吸入による稀な病型。急性/慢性の経過をとる
播種性・ 免疫不全患者(等) 多発皮膚病変、関節・骨への播種

診断

  • 培養が最も感度の高い確定診断法——25℃で、37℃でへの転換を確認する
  • :組織中の菌体数が少なく感度が低い。、を認めることがある
  • 皮膚生検:・を混じた
  • (スポロトリキン):向けで急性期診断には使いにくい

治療と予防

国際ガイドラインはの2007年版が現時点でも唯一であり1、ネコ関連流行が続くブラジルでは2022年に国内向けの学会推奨が加わった。

病型 治療
皮膚(リンパ管型・固定型) 200 mg/日が第一選択(A-II)。全病変が消失してから2〜4週間続け、合計でおおむね3〜6か月3
上記に反応しない皮膚病変 200 mgを1日2回へ増量、500 mgを1日2回、または(SSKI)(5滴1日3回からに応じて40〜50滴1日3回まで増量)——いずれもA-II。400〜800 mg/日はこれらが使えないときに限る(B-II)3
骨関節 200 mgを1日2回で最低12か月(A-II)3。ブラジルの学会推奨は同じ400 mg/日を6か月で開始し、治癒していれば中止、症状が残れば200〜400 mg/日でさらに6か月とする1
播種性(全身性) 脂質製剤3〜5 mg/kg/日で導入し、反応後に200 mg 1日2回へ step-down して合計12か月以上3
肺 薬剤・用量・期間について合意が無く、重症度で判断する。軽症は経口、重症は1
小児 を第一選択にしない。2歳以上の軽症〜中等症では、軽症の局所型ではが優先される1
妊婦・ は避ける(は催奇形性・)。も妊娠・授乳が禁忌なので、皮膚病変にはなどのを用い、重症例に限ってを使う(催奇形性がなく、この状況で使用が認められる唯一の薬)31

⚠️ は「安いから気軽に使える薬」ではない。 腎不全・ヨウ素アレルギー・自己免疫疾患・妊娠・授乳が禁忌で、や重症型の単剤使用も禁忌である。投与前に本人と家族のの既往をし甲状腺機能を確認する。・阻害薬との併用での危険が増す1。

💡 温熱療法が効く理由は菌側にある。 Sporothrixは39℃を超える温度に耐えられないため、病変部を42〜43℃に20〜30分・1日3回温めることが治療になる1。全身投与を避けたい妊婦でこのが主役になるのは、この性質に支えられている。

  • 予防は園芸・造園作業時の手袋着用など、とげ・土壌との直接接触を避けることが中心。ネコ関連流行地では発症したネコの診療・飼育での防護と獣医学的管理も必要になる。ワクチンはない。

まとめ

  • 全身性4菌種と同じ温度依存的二形性(25℃菌糸/37℃)を持つが、感染経路は吸入ではなくという点で軸が異なるの代表菌。
  • バラのとげ・コケ類・土いじりによる接種(“rose gardener’s disease”)が典型的な感染機転で、ネコを介した人獣共通感染も報告される。
  • 接種部位からリンパ管に沿って結節が連続的に出現するsporotrichoid spreadが臨床像の核——Nocardia・・と共通する拡がり方として鑑別に活きる。
  • は菌体数が少なく感度が低いため、培養が確定診断の主力。
  • 現在は種複合体として扱い、地域ごとに優占種が違う——アジアはS. globosa、ブラジルのネコ関連流行は病原性の高いS. brasiliensis。
  • 治療は皮膚病変に200 mg/日(病変消失後2〜4週まで、合計3〜6か月)が第一選択で、反応しない場合に増量・・へ移る。播種性病変は導入後にへ移行し合計12か月以上。
  • 妊婦・ではもも使えないため、()が中心で、重症例に限ってを用いる。

出典

  1. 1.Human sporotrichosis: recommendations from the Brazilian Society of Dermatology for the clinical, diagnostic and therapeutic management(Anais Brasileiros de Dermatologia(ブラジル皮膚科学会)・2022)Europe PMCのオープンアクセス全文(PMC9582924)で確認した。「The last international guideline dates from 2007.」と述べ、IDSA 2007が現時点で唯一の国際ガイドラインであることを確認できる。系統解析で53種が認識され臨床クレードは*S. brasiliensis*・*S. schenckii*・*S. globosa*・*S. luriei*で、優占種は南米南東部が*S. brasiliensis*(88%)、南米西部・中米・北米が*S. schenckii*(89%)、オーストラリアと南アフリカが*S. schenckii*(94%)、アジアが*S. globosa*(99.3%)。*S. brasiliensis*はマウスモデルで最も高病原性で、非典型的な臨床像と重症型(免疫正常宿主での皮膚症状を伴う全身性疾患を含む)に関連する。病型はリンパ管型が最多で症例の46〜92%、固定型が2番目で平均25%。イトラコナゾールは有効率90〜100%・エビデンスA-IIで第一選択だが小児では第一選択にしない。テルビナフィンは妊娠リスク区分Bで2歳以上の小児の軽症〜中等症の第一選択、イトラコナゾールに絶対的禁忌があるときの代替。ヨウ化カリウムは腎不全・ヨウ素アレルギー・自己免疫疾患・妊娠・授乳、および播種型・重症型の単剤使用が禁忌で、投与前に甲状腺疾患の既往と甲状腺機能を確認する。アンフォテリシンBは催奇形性がなく重症型で妊娠中に使用が認められる唯一の薬。温熱療法は*Sporothrix*が39℃超に耐えられない性質に基づき42〜43℃を20〜30分・1日3回。骨関節病変はイトラコナゾール400 mg/日を6か月で開始し、肺病変は薬剤・用量・期間に合意が無い閲覧 2026-09-27
  2. 2.The spread of cat-transmitted sporotrichosis due to Sporothrix brasiliensis in Brazil towards the Northeast region(PLOS Neglected Tropical Diseases・2021)Europe PMCの抄録で、ブラジル北東部で2016年10月〜2019年12月に診断された皮下スポロトリコーシス122例の症例集積であり、PCRで種を確定できた71例が*S. brasiliensis*によること、病型はリンパ管型58.2%・固定型39.4%で、115例がスポロトリコーシスと診断されたネコとの接触歴を報告していることを確認した。表題は北東部へ向かうネコ由来スポロトリコーシスの拡大を述べる。⚠️ ネコの保有菌量に関する記述は抄録には無い(本エントリはネコ関連流行の原因種が*S. brasiliensis*であることの裏づけに限って用いる)。抄録の範囲にとどまる閲覧 2026-09-27
  3. 3.Clinical Practice Guidelines for the Management of Sporotrichosis: 2007 Update by the Infectious Diseases Society of America(Infectious Diseases Society of America・2007)発行元ページとDOI先がbot判定で読めなかったため、Consensusの全文抜粋で推奨本文を逐語で確認した。皮膚・リンパ管型は「itraconazole 200 mg orally daily ... for 2-4 weeks after all lesions have resolved, usually for a total of 3-6 months (A-II)」、反応しない場合はイトラコナゾール200 mgを1日2回、テルビナフィン500 mgを1日2回、またはSSKI(標準的な点眼器で5滴1日3回から忍容性に応じて40〜50滴1日3回まで増量)がいずれもA-II、フルコナゾール400〜800 mg/日は他剤が使えないときに限る(B-II)。局所温熱療法は妊婦・授乳婦など他のレジメンを安全に使えない固定型皮膚病変の患者に用いる(B-III)。骨関節型はイトラコナゾール200 mgを1日2回で最低12か月(A-II)。播種型はアンフォテリシンB脂質製剤3〜5 mg/kg/日(B-III、デオキシコール酸製剤0.7〜1.0 mg/kg/日も可だがパネルは非優先)で導入し、反応後はイトラコナゾール200 mg 1日2回へstep-downして合計12か月以上とする(B-III)。妊娠中に治療を要する重症例はアンフォテリシンBを用いてアゾール系は避ける(B-III)、妊婦の皮膚病変には局所温熱療法を用いてよい(B-III)閲覧 2026-09-27