内科学

内科学 · I-01

感染症診療と抗菌薬治療の基本原則

Basic Principles of Infectiology and Antimicrobial Therapy

前提:病態
抗菌薬治療の原則:経験的・標的・予防的治療抗菌薬治療の原則:殺菌性・静菌性抗菌薬と抗菌薬併用抗菌薬治療の原則:時間・濃度・曝露依存性抗菌薬
検査値
プロカルシトニン絶対好中球数白血球数

🧠 全体像:感染症診療では「どこに、何が、どの程度の重症度で感染しているか」を仮説化し、適切な検体を採取してから治療を始め、と全身管理を同時に進める。を受けたら、薬剤を足し続けるのではなく、狭域化・投与量最適化・終了判断まで行う。1

診療の基本フロー

flowchart TD
  A["感染症を疑う症候"] --> B["重症度と敗血症を評価"]
  B --> C["感染臓器と起因微生物を仮説化"]
  C --> D["抗菌薬前に良質な検体を採取"]
  D --> E["患者背景と局所耐性率から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='empiric therapy'>経験的治療</span>"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='source control'>感染源コントロール</span>と支持療法"]
  F --> G["培養・迅速検査・臨床反応を再評価"]
  G --> H["狭域化・経口化・期間決定"]

循環不全やでは、検体採取のために治療を遅らせない。血液培養は可能なら抗菌薬前に採るが、蘇生と有効な抗菌薬投与が優先される。

問診と診察

領域 確認する内容
時間軸 発症時刻、急性・亜急性・慢性、悪化速度、反復性
咳・喀痰、、腹痛・下痢、皮疹、頭痛・、関節痛
年齢、妊娠、免疫抑制、、糖尿病、腎肝機能、異物・カテーテル
曝露 渡航、食物・水、動物、昆虫、性行動、職業、結核接触、医療曝露
薬剤 直近の抗菌薬、アレルギーの具体像、薬物相互作用、ワクチン
診察 バイタル、意識、皮膚・口腔、、呼吸音、、CVA、デバイス挿入部

「発熱がある」ことと「細菌感染がある」ことは同義ではない。、自己免疫、悪性腫瘍、血栓症、内分泌疾患も並行して考える。

炎症マーカーと画像

検査 解釈
・分画 は細菌感染を支持し得るが、ステロイド・ストレスでも上昇する。ウイルス感染でもとは限らない
反応は比較的速いが非特異的。単回値より臨床経過と推移を重視
変化が遅く、慢性炎症の補助となるが急性反応の追跡には不向き
・早期感染で低値となり得るため単独診断には使わない。敗血症などでは臨床評価と組み合わせた抗菌薬中止支援に利用できる2

胸部X線、超音波、造影CT、、は感染部位と問いに合わせて選ぶ。好中球減少患者では胸部X線が正常でも肺感染を否定できず、症状があればを検討する。

微生物学的診断

良い検体の原則

  • 感染部位から、汚染を最小限にして、抗菌薬開始前に採る。
  • 膿瘍では表面より穿刺液・組織を優先する。
  • 喀痰は口腔内唾液でないことを確認し、必要ならで品質を評価する。
  • 尿培養は症状と採取法を合わせて解釈し、を感染と誤認しない。
  • は死菌核酸や保菌も検出し得るため、臨床像と結び付ける。

血液培養

項目 要点
採取 通常2セットを採取し、各ボトルの規定量と十分な総採血量を確保する。多部位採取を基本としつつ、施設手順と汚染防止を優先する1
量 陽性率は採血量に強く依存する。各ボトルへ規定量を入れる
汚染 などは、陽性セット数・時間・宿主・デバイスで真の菌血症か判断
再培養 黄色ブドウ球菌、カンジダ、、持続発熱・臨床悪化などで、十分なセット数を反復採取して陰性化を確認

菌血症では「菌名を当てる」だけでなく、、、膿瘍、閉塞など源を探す。

経験的治療の組み立て

判断軸 具体例
感染臓器 髄膜・肺・胆道・尿路では到達性とが異なる
重症度 ショック、臓器障害、好中球減少では初期カバー不足の害が大きい
直近の培養、抗菌薬、入院、施設曝露、保菌歴、地域
患者因子 アレルギー、妊娠、腎肝機能、QT延長、相互作用、免疫状態
感染源 閉塞解除、ドレナージ、異物除去が可能か

は「最も広い薬」ではなく、見逃せない起因菌を必要十分に覆う治療である。微生物が判明したらへ狭域化する。

感染源コントロール

flowchart TD
  A["抗菌薬だけで改善しない"] --> B{"除去可能な感染源があるか"}
  B -->|"膿瘍・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='empyema'>膿胸</span>"| C["穿刺または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surgical drainage'>外科的ドレナージ</span>"]
  B -->|"閉塞性胆管炎・尿路閉塞"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urgent decompression'>緊急減圧</span>"]
  B -->|"感染デバイス・壊死組織"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='removal (of a tube/catheter/drain)'>抜去</span>・交換・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='debridement'>デブリードマン</span>"]
  B -->|"明らかな感染源なし"| F["診断・薬剤・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='host factors'>宿主要因</span>を再評価"]

抗菌薬が届きにくい、異物表面の、壊死組織では、感染源処置の遅れがにつながる。

抗菌薬の薬力学

PK/PD指標 代表薬 投与設計
濃度がを超える時間(fT>) βラクタム系 投与回数増加、持続・延長投与を検討
最高濃度/(Cmax/) アミノグリコシド系 十分なピークを得る1日1回投与が基本となる場面が多い
濃度/(/) フルオロキノロン、バンコマイシン を確保し、毒性との均衡を取る。バンコマイシンの 400〜600 mg·h/L目標は主に重症感染に適用する3

は感染部位への到達、接種菌量、を含まないため、感受性判定だけで成功は保証されない。

は規定割合、通常99.9%の菌を殺す最低濃度である。特殊な感染症以外ではルーチン測定せず、臨床とを中心に解釈する。

殺菌性と静菌性

  • はを減らし、は増殖を抑えるという実験室上の分類である。
  • 同じ薬剤でも菌種・濃度・環境で挙動が変わり、が臨床的に劣るとは限らない。
  • 心内膜炎や髄膜炎など、が特に重視される病態では推奨レジメンに従う。

抗菌薬後効果

は、が未満になっても増殖抑制が続く現象である。アミノグリコシドやフルオロキノロンの設計に関係する。

併用療法

目的 例 注意点
初期カバー拡大 ショック時に耐性菌リスクを踏まえて複数薬 培養後は速やかに整理する
一部の腸球菌心内膜炎など 腎毒性・耳毒性を上回る利益がある場合に限定
耐性出現抑制 の 単剤化してはいけない感染症がある
複数菌感染 でと嫌気性菌をカバー 1剤で十分なら重複カバーを避ける

同じ菌に二重に効く薬を漫然と続けることは、毒性と耐性選択を増やす。

予防投与

  • 周術期予防:切開前に適切な濃度を確保し、多くの清潔・では後の漫然投与を避ける。
  • 曝露後予防:髄膜炎菌、百日咳、など、病原体・曝露条件ごとの基準に従う。
  • の予防:、/、真菌などを免疫抑制の種類と期間で選ぶ。
  • :再発性蜂窩織炎、など、利益が確立した状況に限定する。

48〜72時間の抗菌薬タイムアウト

再評価項目 問い
診断 本当に感染症か。感染部位は正しいか
微生物 培養・迅速検査・感受性から絞れるか
感染源 ドレナージ、、手術が必要か
薬剤 用量、、臓器移行、相互作用は適切か
経路 循環が安定し吸収可能なら経口化できるか
期間 起点と終了日が明確か。最短の有効期間か

まとめ

  • 感染臓器、起因微生物、重症度を仮説化してから検査と治療を組み立てる。
  • 良質な検体を抗菌薬前に採るが、不安定患者の蘇生・治療を遅らせない。
  • 抗菌薬、、支持療法は同時に進める。
  • 培養後の狭域化、経口化、最短有効期間までが抗菌薬治療である。

出典

  1. 1.Blood Culture Utilization in the Hospital Setting: a Call for Diagnostic Stewardship(2022)血液培養では適応、セット数、採血量、汚染防止と結果解釈を一体で管理することを確認した。閲覧 2026-08-13
  2. 2.Benefits and Harms of Procalcitonin- or C-Reactive Protein-Guided Antimicrobial Discontinuation in Critically Ill Adults With Sepsis: A Systematic Review and Network Meta-Analysis(2024)敗血症でPCTを臨床評価と組み合わせた抗菌薬中止支援が投与期間短縮に役立つことを確認した。閲覧 2026-08-13
  3. 3.Clinical Practice Guidelines for Therapeutic Drug Monitoring of Vancomycin in the Framework of Model-Informed Precision Dosing(2022)重症MRSA感染でのバンコマイシンAUC標的と腎障害回避を確認した。閲覧 2026-08-13