薬理学

薬理学 · Core43

抗菌薬治療の原則:時間・濃度・曝露依存性抗菌薬

Core43: Principles of antimicrobial treatment - time-, concentration- and exposure-dependent antibiotics

前提:病態
Core20:半減期Core42:抗菌薬治療の原則:殺菌性・静菌性抗菌薬と抗菌薬併用
応用トピック
感染症診療と抗菌薬治療の基本原則カルバペネム系・モノバクタム系・βラクタマーゼ阻害薬クロラムフェニコール・ポリミキシン・葉酸拮抗薬アミノグリコシド系キノロン系・フルオロキノロン系グリコペプチド・リポペプチド・バシトラシン・ムピロシンペニシリン系セファロスポリン系

🧠 全体像:同じ濃度・同じでも、抗菌薬は血中濃度の「形」のどこが効き目を決めるかが系統ごとに違う。なら濃度がを上回っている「時間の長さ」、なら「ピークの高さ」、なら「1日のの」が効き目を決める。だから投与設計も変わる——の薬は投与回数を増やす・時間を延ばす・にする、の薬は1回量を増やして回数を減らす、の薬は1日総量を目標値に合わせる。⚠️ 指標はいずれも濃度で定義される点と、系統と指標の対応には例外がある点に注意する。

基本概念

  • () = 特定の培地で24時間培養したときに、その微生物の目に見える増殖を阻止する最低の1。すべてのPK/PD指標はを分母(または基準)に置く。
  • MICとMBCがin vitroの有効性の指標であるのに対し、in vivoの有効性と最適な用量はPK/PD指標で決まる1。
  • 投与設計は、その薬の有効性を規定しているPK/PDドライバーに合わせる。
  • ⚠️ 指標はいずれもの濃度で定義される。率の高い薬では、総濃度で考えると効き目を過大評価する。

PK/PDの3パターン

種類 主なPK/PD指標 効き目を決めるもの 投与設計の方向 例
fT>MIC(に占める、を上回っている時間の割合) 濃度がを超えている時間の長さ 回数を増やす・時間を延ばす・ βラクタム系、マクロライド系、テトラサイクリン系
fCmax/MIC(非結合型との比) ピークの高さ 1回量を増やして回数を減らす アミノグリコシド系。例:
fAUC24/MIC(非結合型の24時間との比) 1日のの 1日総量を目標値に合わせる 、、バンコマイシン

(3指標の定義は1による。同レビューは3つ目を “co-dependent” と呼んでいる=時間と濃度の両方に依存するという意味である)

xychart-beta
    title "MICに対する3つのPK/PDプロファイル(模式図)"
    x-axis "投与後時間(相対単位)" 0 --> 12
    y-axis "非結合型濃度(MIC=1)" 0 --> 5
    line "時間依存性:MIC超の時間を確保" [3, 2.5, 2, 1.6, 3, 2.5, 2, 1.6, 3, 2.5, 2, 1.6, 3]
    line "濃度依存性:高いピーク" [5, 4, 3.2, 2.5, 1.9, 1.4, 1, 0.7, 0.5, 0.35, 0.25, 0.18, 0.12]
    line "曝露依存性:曲線下面積" [3.5, 3, 2.6, 2.2, 1.9, 1.6, 1.4, 1.2, 1, 0.9, 0.7, 0.6, 0.5]
    line "MIC" [1, 1, 1, 1, 1, 1, 1, 1, 1, 1, 1, 1, 1]

この図は異なる薬剤・投与設計の形を比較するための模式図で、用量やを示さない。ではより上にある横方向の長さ、では縦方向のピーク、では曲線下の面積を見る。

flowchart TD
    A["血中濃度ー<span class='jp-term jp-term-diagram' title='concentration-time curve'>時間曲線</span>のどこが効くのか"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='minimum inhibitory concentration'>MIC</span>より上にいる時間<br>= fT><span class='jp-term jp-term-diagram' title='minimum inhibitory concentration'>MIC</span>"]
    A --> C["ピークの高さ<br>= fCmax/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='minimum inhibitory concentration'>MIC</span>"]
    A --> D["曲線の下の面積<br>= fAUC24/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='minimum inhibitory concentration'>MIC</span>"]
    B --> B1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='time-dependent'>時間依存性</span><br>βラクタム系など"]
    C --> C1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='concentration-dependent'>濃度依存性</span><br>アミノグリコシド系"]
    D --> D1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exposure-dependent'>曝露依存性</span><br>フルオロキノロン・バンコマイシン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='colistin'>コリスチン</span>"]
    B1 --> B2["回数を増やす<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='intravenous drip infusion (IV infusion)'>点滴</span>時間を延ばす<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='repeated/continuous dosing'>持続投与</span>にする"]
    C1 --> C2["1回量を増やして<br>回数を減らす(1日1回投与)"]
    D1 --> D2["1日総量を目標に合わせる<br>バンコマイシンは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='area under the curve'>AUC</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='minimum inhibitory concentration'>MIC</span>で管理"]

💡 この3分類は絶対ではなく、例外は「両方向」に出る。 濃度依存的に効く薬の有効性はCmax/や/で、時間依存的に効く薬はを上回る時間で予測されるという枠組みは多くの薬に当てはまるが、アジスロマイシンは時間依存的な殺菌活性を示すのに/が最適指標であり、逆にアルベカシンは濃度依存的なプロファイルなのにCmax/が良い指標にならない2。系統名から指標を決め打ちせず、その薬で何が検証されているかを見る。

時間依存性抗菌薬

  • の十分な割合で、非結合型のがを上回っている必要がある。
  • fT>MIC を維持するには、を短くするのが最も素直な方法である。
  • 例:

💡 回数を増やす以外に、時間を延ばす・にするという手がある。 βラクタム系では、1回のを数時間かける延長投与や、24時間かけ続けるでも fT> を稼げる。敗血症の重症成人7,202例を7か国104のでしたBLING III試験では、-またはのはと比べ90日に統計的有意差を示さなかった(24.9%対26.8%、0.91、95%信頼区間0.81-1.01、P=.08)が、14日までの臨床治癒は群で高かった(55.7%対50.0%、絶対差5.7%、95%信頼区間2.4%〜9.1%)3。⚠️ 著者らは「は、重要な効果が無い可能性と、臨床的に意味のある利益がある可能性のどちらも含んでいる」としており、「効かなかった試験」とも「効いた試験」とも読まない3。

濃度依存性抗菌薬

  • に対してが高いほど、殺菌が速く・確実になる。
  • しばしばPAE()を示す。
    • がを下回ったあとも、細菌の増殖抑制がしばらく続く現象をいう。
    • PAEがあるぶん、谷()の時間が長くても菌は増えてこない。
  • 重要な:Cmax、AUC、PAE。
  • 例:。

⭐ アミノグリコシドの1日1回投与は、「の殺菌」+「PAE」の2つの性質から理にかなう。 ピークが高いほど殺菌が強まり、濃度がを下回ったあともPAEで増殖抑制が続くので、1回量を増やして回数を減らしても効果は落ちない。無作為化試験21件・3,091例のでも、1日1回投与はと同等の(失敗の0.83、95%信頼区間0.57-1.21)でありながら、腎毒性のリスクが低かった(0.74、0.54-1.00)4。⚠️ 耳毒性と死亡率には有意差が出なかったが、原著自身が「有意な差を検出する検出力は低かった」と断っており、「耳毒性が増えないと証明された」とは読まない4。⚠️ またには「の既往が無い患者では」という限定が付く4。薬剤ごとの毒性の偏りとモニタリングは C13:アミノグリコシド系 で扱う。

曝露依存性抗菌薬

⭐ バンコマイシンのは、から/へ移った。 2009年版のコンセンサスガイドラインは、/(目標400 mg×時間/L)の代替指標として15〜20 mg/Lを目標にすることを推奨していた。ところがその運用が広まったあと、成人・小児のいずれでも腎毒性の増加が多数報告され、/で管理するとと腎毒性がともに有意に下がることが示された5。

  • 2020年の改訂版(ASHP・・PIDS・SIDP合同)の推奨1は、重症感染が疑われる/確定した患者で、微量液体によるを1 mg/Lと仮定したうえで/比400〜600を個別化した目標として掲げるべきだとする(推奨の格付けは A-II)5。
    • を1 mg/Lと仮定するので、AUC24としては400〜600 mg×時間/Lに相当する。「比」と「単位付きの」を混同しない。
    • 目標は治療開始早期(24〜48時間)に評価する5。
    • ⚠️ が1 mg/Lを超える菌では、通常用量で/ 400以上を達成することは見込みにくい5。
  • だけを見る旧来の運用は、この目標に置き換わったと理解する。糖ペプチド系の詳細は C17:グリコペプチド・リポペプチド・・ で扱う。

まとめ

  • = fT>。 を上回る時間を稼ぐ。回数を増やす/時間を延ばす/にする。
  • = fCmax/。 ピークを高くする。PAEがあるので回数は減らせる。
  • = fAUC24/。 1日のを目標に合わせる1。
  • ⚠️ 3指標はいずれも非結合型濃度で定義され、の指標はに占める割合として表す1。
  • ⚠️ 系統と指標の対応には例外が両方向にある(アジスロマイシン、アルベカシン)2。
  • アミノグリコシドの1日1回投与は同等の有効性で腎毒性を下げる。ただし耳毒性のは検出力不足で、対象はの既往が無い患者である4。
  • バンコマイシンは / 400〜600(を1 mg/Lと仮定、A-II) が現行の目標で、管理は腎毒性を増やすため置き換わった5。
  • βラクタムのは90日死亡を有意には下げなかったが臨床治癒は高く、著者自身が「利益が無い可能性も臨床的に意味のある利益がある可能性も残る」としている3。

出典

  1. 1.Bactericidal versus bacteriostatic antibacterials: clinical significance, differences and synergistic potential in clinical practice(Journal of Antimicrobial Chemotherapy・2025)全文(PMC11695898)で確認した。MICとMBCがin vitroの有効性の指標であるのに対し、in vivoの有効性と最適用量はPK/PD指標で決まるとしたうえで、逐語で "For concentration-dependent antimicrobials, the ratio of the free maximal concentration to MIC (fC max /MIC) is critical, whereas time-dependent antimicrobials rely on the time above the MIC expressed as a percentage of the dosing interval (fT > MIC). For co-dependent antimicrobials, the ratio of the (unbound) 24 h AUC to MIC (fAUC 24 /MIC) is used." と述べる。すなわち3つの指標はいずれも**非結合型(free)**濃度で定義され、時間依存性の指標は「投与間隔に占める割合」として表される。MICの定義は「特定の培地で24時間培養したときに微生物の目に見える増殖を阻止する最低濃度」である。時間ー生菌数曲線は殺菌が時間依存性か濃度依存性かを判定する別のモデルとして位置づけられている。閲覧 2026-09-22
  2. 2.A proposal of a pharmacokinetic/pharmacodynamic (PK/PD) index map for selecting an optimal PK/PD index from conventional indices (AUC/MIC, Cmax/MIC, and TAM) for antibiotics(Drug Metabolism and Pharmacokinetics・2014)抄録(J-STAGE、PMID 25008846)で確認した。濃度依存的に効く抗菌薬のin vivo有効性はAUC/MICまたはCmax/MICで、時間依存的に効く抗菌薬はMICを上回る時間(time above MIC、TAM)で予測できるという従来の分類を示したうえで、一部の抗菌薬では最適な指標が定まっていないとする。著者らが作成したPK/PD indexマップは、従来の分類の例外となる薬剤でも臨床成績とおおむね一致した——逐語で "AUC/MIC was an optimal index for azithromycin despite its time-dependent bactericidal activity, and C max /MIC was a poor index for arbekacin despite its concentration-dependent profile" と、**両方向の例外**を挙げている。閲覧 2026-09-22
  3. 3.Continuous vs Intermittent β-Lactam Antibiotic Infusions in Critically Ill Patients With Sepsis: The BLING III Randomized Clinical Trial(JAMA・2024)全文(PMC11170452)で確認した。オーストラリア・ベルギー・フランス・マレーシア・ニュージーランド・スウェーデン・英国の7か国104のICUで、敗血症の重症成人7,202例を無作為化し、ピペラシリン-タゾバクタムまたはメロペネムを持続投与(3,498例)と間欠投与(3,533例)に割り付けた非盲検試験。主要評価項目の90日全死亡は持続投与864/3,474例(24.9%)対間欠投与939/3,507例(26.8%)で、絶対差−1.9%(95%信頼区間−4.9%〜1.1%)、オッズ比0.91(0.81-1.01)、P=.08と統計的有意差に達しなかった。副次評価項目の14日までの臨床治癒は持続投与1,930/3,467例(55.7%)対間欠投与1,744/3,491例(50.0%)で絶対差5.7%(2.4%〜9.1%)。⚠️ 結論は逐語で "the confidence interval around the effect estimate includes the possibility of both no important effect and a clinically important benefit in the use of continuous infusions in this group of patients" と、**利益が無いことも臨床的に意味のある利益があることも否定できない**と述べている。閲覧 2026-09-22
  4. 4.Single or multiple daily doses of aminoglycosides: a meta-analysis(BMJ・1996)全文(PMC2350289)で確認した。1966年から1995年1月までの無作為化試験21件・細菌感染症患者3,091例(大半は腎疾患の既往が無い)のメタ解析で、1日1回投与は分割投与に比べ治療失敗のリスクが有意でない程度に低く(変量効果モデルでリスク比0.83、95%信頼区間0.57-1.21)、緑膿菌の分離比率が高い試験ほど1日1回投与の利点が大きかった。腎毒性のリスクは1日1回投与で低かった(固定効果モデルでリスク比0.74、0.54-1.00)。⚠️ 耳毒性には有意差が無かったが、原著自身が逐語で "the power of the pooled trials to detect a meaningful difference was low" と検出力の低さを明記している。死亡率にも有意差は無かった。結論は "Once daily administration of aminoglycosides in patients without pre-existing renal impairment is as effective as multiple daily dosing, has a lower risk of nephrotoxicity, and no greater risk of ototoxicity." で、**腎機能障害の既往が無い患者**という限定が付いている。閲覧 2026-09-22
  5. 5.Therapeutic Monitoring of Vancomycin for Serious Methicillin-resistant Staphylococcus aureus Infections: A Revised Consensus Guideline and Review by the American Society of Health-system Pharmacists, the Infectious Diseases Society of America, the Pediatric Infectious Diseases Society, and the Society of Infectious Diseases Pharmacists(Clinical Infectious Diseases(ASHP・IDSA・PIDS・SIDP合同コンセンサスガイドライン)・2020)⚠️ この url(Clinical Infectious Diseases 71巻6号1361-1364頁)は出版社サイトが403で本文を取得できなかったため、同じ4学会が同時に公表した同一内容のexecutive summary(J Pediatric Infect Dis Soc 2020;9:281-284、PMC7358040)の全文で逐語を照合した。2009年版はAUC/MIC(目標400 mg×時間/L)の代替指標としてトラフ値(目標15〜20 mg/L)のモニタリングを推奨していたが、その運用の導入後に成人・小児のいずれでも腎毒性の増加が多数報告され、AUC/MICでの管理により曝露量と腎毒性がともに有意に減少することが示された。改訂版の推奨1は逐語で "In patients with suspected or definitive serious MRSA infections, an individualized target of the AUC/MIC BMD ratio of 400 to 600 (assuming a vancomycin MIC BMD of 1 mg/L) should be advocated to achieve clinical efficacy while improving patient safety (A-II)." であり、**微量液体希釈法(BMD)によるMICを1 mg/Lと仮定した比**として定義されている。経験的投与ではMICを1 mg/Lと仮定し、目標は治療開始早期(24〜48時間)に評価すべきとされる。MIC_BMDが1 mg/Lを超える場合、通常用量でAUC/MIC 400以上の達成は見込みにくいとも述べる。なお本ガイドラインの完全版は Am J Health Syst Pharm 2020;77(11):835-864 である。閲覧 2026-09-22