内科学

内科学 · L-15

慢性閉塞性肺疾患

Chronic obstructive pulmonary disease

前提:病態
閉塞性肺疾患(COPDなど)COPDと肺線維症の呼吸力学・血液ガスへの影響選択的β2刺激薬およびその他の気管支拡張薬
前提:正常
肺気量と気道・胸壁・肺の力学的性質
症状
労作時呼吸困難
検査値
スパイロメトリー

🧠 全体像:は、有害粒子・ガスへの曝露とにより生じる持続性呼吸器症状との疾患である。診断には気管支拡張後が必須で、は禁煙・ワクチン・吸入・、増悪時は短時間作用薬、短期全身ステロイド、適応のある抗菌薬、酸素・を用いる。

病因と病態

  • 曝露:喫煙、、、大気・/。
  • :肺、早産、、加齢、欠乏など。
  • 炎症・線維化、、線毛機能障害、破壊・低下が組み合わさる。
flowchart TD
    A["有害曝露+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='host factors'>宿主要因</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='small airways'>小気道</span>炎症・リモデリング"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alveolar wall'>肺胞壁</span>破壊・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='elastic recoil'>弾性収縮力</span>低下"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='airway obstruction'>気道狭窄</span>・粘液貯留"]
    C --> E["気腫・air trapping"]
    D --> F["持続性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='expiratory flow limitation'>呼気流制限</span>"]
    E --> F
    F --> G["呼吸困難・咳・喀痰・増悪"]

「/」は病態のを過度に二分する歴史的表現であり、現在の診断・治療分類には用いない。

臨床像

  • 進行性の、、喀痰、喘鳴・。
  • 進行例では、、、体重減少、チアノーゼ、浮腫・。
  • 併存症:心血管疾患、肺癌、骨粗鬆症、、うつ・不安、GERD、睡眠障害。

診断

曝露歴と症状のある患者で、気管支拡張後/ <0.70 を確認する1。比が0.60〜0.80なら生物学的変動があるため別日に再検を考える。固定比は高齢者で過剰診断、若年者で過少診断し得るため、と臨床像も参照する。

⚠️ 固定比0.70と(LLN)はしばしば食い違う。 オーストリアのBOLDコホートでは、固定比だけが異常でLLNでは正常という不一致群が実在し、その大半は高齢者で、そのものは軽度だった2。は実務上の簡便さから固定比をとして維持しているので、「0.70未満」は診断の入口であって重症度でもでもないと切り分けて覚える。

グレード 気管支拡張後(予測値比)
GOLD 1 ≥80%
GOLD 2 50–79%
GOLD 3 30–49%
GOLD 4 <30%

診断後はCATまたは、過去1年の増悪・入院、、喫煙状況、、併存症を評価する。胸部X線・は他疾患、気腫、、肺癌などの評価に使うが、単独でを確定しない。若年、非喫煙、、家族歴では欠乏を検索する。

症状負担の評価

評価テスト(CAT)は咳、痰、、・坂道での、家事活動、外出の自信、睡眠、エネルギーの8項目を各0〜5点で評価する。CAT ≥10は症状負担が大きい目安である。

グレード 呼吸困難の程度
0 激しい運動時だけ
1 平地を急ぐ、または緩い坂を上ると
2 同年齢より遅く歩く、または自分の速度でも息継ぎのため停止
3 平地を約100 mまたは数分歩くと停止
4 外出困難、または更衣でも

CATとは同じ概念ではなく、CATは以外の健康障害も拾う。初回値だけでなく、増悪後や治療変更後の変化を追う。

💡 2026年版でCATは「Chronic Airways Assessment Test()」へ改称された。 質問項目も10点という閾値も変わらず、CAAT ≥10 または mMRC ≥2 が「臨床的に意味のある症状」としてそのままA群とB群の境界に使われる3。旧版の資料や試験では「CAT」の名称で問われる。

安定期の非薬物治療

  • 禁煙支援は最重要で、行動支援と禁煙薬を組み合わせる。
  • インフルエンザ、COVID-19、肺炎球菌、などを年齢・地域推奨に沿って接種する。
  • 、、栄養、増悪時行動計画、教育を行う。
  • はの重度安静時低酸素血症で生命予後を改善する。中等度低酸素や運動時低下だけに一律処方しない4。

安定期の吸入治療

のA・B・E群は症状と増悪歴で決める。A群は、症状の多いB群は長時間作用性β₂刺激薬+、増悪リスクの高いE群も+を基本とする1。との併用を単剤より優先する方針はのガイドラインとも一致する5。

⚠️ ABCD分類は2023年版でABE分類に置き換わった。 2011のABCD分類は・症状・増悪リスクを組み合わせたもので、2017年版で群から閾値が外され、2023年版で高リスクのC群とD群が「増悪歴だけで決まるE群」へ統合された6。旧C・D群はEに吸収されたという対応で覚える。さらに 2026年版はE群の閾値を下げ、過去1年に中等度または重度の増悪が1回でもあればE群とする(従来は中等度2回以上、または入院を要する増悪1回以上)3。A群とB群は増悪歴のない患者に限られ、CAAT <10 かつ mMRC <2 ならA群、CAAT ≥10 または mMRC ≥2 ならB群である。

💡 ABE分類が旧ABCD分類より予後をよく当てるとは示されていない。 ABEへの改訂は初期治療の選択を簡潔にすることが目的であり、死亡予測能で2017年版ABCD分類を上回るという結果は得られていない6。分類は治療の出発点であって予後スコアではない。

E群で ≥300/μL などICS反応性が高い場合は++の初期導入を考慮する1。+ICSは単独の優先組合せではなく、ICSが必要なら原則としてを検討する。 2026は、喘息症状を伴わないで+ICSから開始することを、増悪抑制効果が劣り肺炎リスクが増えることを理由に明確に非推奨としている3。喘息を合併する場合はICSを含める。ICSは肺炎、口腔カンジダ、嗄声などの害と、増悪歴・好酸球に基づく利益を比較する7。

💡 は「1回測って終わり」にしない。 は同一患者でも時期による変動が大きく、1回の値だけで分類すると誤分類につながるため、に複数回測って傾向を見る3。逆に ≥300/μL の患者ではICSの中止も推奨されない。

💡 2026はでも増悪する好酸球性に生物学的製剤を載せた。 があり ≥300/μL の患者への(抗)はBOREAS・NOTUS試験で中等度〜を30〜34%減らし、(抗IL-5)はMETREX・METREO・MATINEE試験で18〜21%の減少にとどまり肺機能・症状・生活の質の改善は示さなかった3。効果量はより小さく、生物学的製剤どうしの直接比較試験は無い。

急性増悪

増悪は通常14日以内に呼吸困難、咳・喀痰が悪化するイベントで、感染、汚染、肺炎、心不全、PE、気胸などを鑑別する。

⚠️ 増悪のは「受けた治療」から「受診時の」へ変わった(Rome提案)。 従来は投与された治療で後ろ向きに決めていた(のみ=軽度、全身ステロイド/抗菌薬=中等度、入院・救急受診=重度)。 2026年版はRome提案を採用し、呼吸困難、呼吸数、心拍数、安静時SaO₂とその低下幅、、血液ガス、意識、の使用から受診時点で分類する3。

Rome分類 呼吸困難 呼吸数 心拍数 安静時SaO₂ 血液ガス・意識
軽度 <5 <24/分 <95/分 ≥92% <10 mg/L 測定不要、意識正常
中等度 ≥5 ≥24/分 ≥95/分 <92% ≥10 mg/L 測定不要、意識正常。を使う
重度 中等度と同じ 中等度と同じ 中等度と同じ 中等度と同じ 中等度と同じ PaO₂ ≤60 mmHg かつ/またはPaCO₂ >45 mmHg でpH <7.35、意識障害

旧分類(治療ベース)は入院適応や過去のカルテを読むときに今も使われるので、どちらの意味で「中等度」と書かれているかを確かめる。

初期治療

  • ±を反復吸入する。
  • 換算40 mg/日を通常5日間1。が可能なら静注を優先しない。
  • 喀痰膿性の増加に呼吸困難・喀痰量増加を伴う場合、または侵襲的/を要する場合は抗菌薬を考え、地域耐性・既往培養に合わせ通常5〜7日とする8。
  • 酸素はSpO₂ 88–92% を目標にし、血液ガスでCO₂貯留・アシドーシスを再評価する9。
  • 急性高CO₂性呼吸不全では禁忌がなければを優先する。NIV開始の慣用的な閾値はpH <7.35 かつPaCO₂ 6.5 kPa(約49 mmHg)超だが、重度のアシドーシスそれ自体はNIVトライアルの禁忌ではない10。挿管判断を固定pH値だけで決めず、意識、、分泌物、循環、NIV反応を統合する。
  • は有害事象が多く、ルーチン使用しない。

退院前にを再開・最適化し、、禁煙、ワクチン、リハビリ、早期フォローを整える。

まとめ

  • の確定には気管支拡張後/ <0.70が必要で、症状・増悪歴と併せて評価する(固定比とLLNは食い違い得る)。
  • は禁煙、ワクチン、リハビリと/が中心で、ICSは増悪歴・好酸球・喘息合併から選ぶ。旧C・D群は2023年版でE群へ統合され、2026年版はE群を「中等度以上の増悪1回以上」まで広げた。
  • 増悪時は酸素を88〜92%へし、短期ステロイド、適応のある抗菌薬、NIVを病態に応じて用いる。

関連ノート

出典

  1. 1.Global Strategy for the Diagnosis, Management, and Prevention of Chronic Obstructive Pulmonary Disease: 2026 Report(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD)・2026)気管支拡張薬後FEV₁/FVC 0.70未満という診断基準、GOLD 1〜4の気流閉塞グレード(80%以上/50〜79%/30〜49%/30%未満)、A・B・E群の割り付けと初期吸入療法、血中好酸球300/µL以上でのICS併用、増悪時の全身ステロイド短期投与を確認した。閲覧 2026-08-02
  2. 2.Subjects with Discordant Airways Obstruction: Lost between Spirometric Definitions of COPD(Pulmonary Medicine(Lamprecht B, et al.、Austrian BOLD study)・2011)固定比0.70と基準下限値(LLN)で気流閉塞の判定が食い違い、固定比のみ異常となる不一致群は主に高齢者で気流閉塞自体は軽度であることを確認した。閲覧 2026-08-14
  3. 3.GOLD 2026: Transforming COPD Management with Early Intervention, Multi-dimensional Assessment, and Personalized Care(Drugs・2026)GOLD 2026がE群の閾値を「過去1年に中等度または重度の増悪1回以上」へ下げたこと(旧基準は中等度2回以上または入院1回以上)、CATをChronic Airways Assessment Test(CAAT)へ改称しCAAT 10以上またはmMRC 2以上でA群とB群を分けること、E群の初期治療をLABA/LAMAとし喘息がなければLABA/ICSでの開始を明確に非推奨としたこと、血中好酸球300/µL以上でICS反応性が高くLABA/LAMAでも増悪する例では三剤併用へ直接上げること、増悪の重症度分類をRome提案(呼吸困難VAS・呼吸数・心拍数・SaO₂・CRP・血液ガス・意識・補助呼吸筋)に基づく受診時の臨床所見へ切り替えたこと、中等度増悪では約5日間の全身ステロイドを用い抗菌薬は喀痰膿性化・細菌感染の証明・換気補助を要する場合に限ること、三剤併用でも増悪する好酸球300/µL以上の症例へデュピルマブ(BOREAS・NOTUSで増悪30〜34%減)とメポリズマブ(METREX・METREO・MATINEEで18〜21%減、肺機能・症状・QOLの改善なし)を追加選択肢としたことを全文で確認した。閲覧 2026-08-25
  4. 4.Home Oxygen Therapy for Adults with Chronic Lung Disease: An Official American Thoracic Society Clinical Practice Guideline(American Thoracic Society・2020)長期酸素療法の適応閾値と使用時間、安定期・増悪後の再評価、中等度低酸素血症や運動時低下だけでは適応にならないことを確認した。閲覧 2026-08-02
  5. 5.Pharmacologic Management of Chronic Obstructive Pulmonary Disease: An Official American Thoracic Society Clinical Practice Guideline(American Thoracic Society・2020)呼吸困難や運動制限のあるCOPDではLABAとLAMAの併用を単剤より優先し、増悪歴に応じてICSの追加または中止を個別化することを確認した。閲覧 2026-08-20
  6. 6.Prognostic risk profiling in COPD using Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease 2023 ABE and comorbidity assessment: evidence from a register-based COPD cohort(Journal of Global Health・2025)GOLD 2011のABCD分類が2017年版で群からスパイロメトリー閾値を外し、2023年版で高リスクのC群とD群を増悪歴だけで決まるE群へ統合してA・B・E分類になった経緯と、ABE分類の死亡予測能が2017年版ABCD分類を上回るとは示されていないことを確認した。閲覧 2026-08-25
  7. 7.Comparative effectiveness of LABA-ICS versus LAMA as initial treatment in COPD targeted by blood eosinophils: a population-based cohort study(The Lancet Respiratory Medicine・2018)COPDでのICSの利益が血中好酸球高値や頻回増悪例に偏る一方、肺炎リスクを増やすことを確認した。閲覧 2026-08-09
  8. 8.Appropriate Use of Short-Course Antibiotics in Common Infections: Best Practice Advice From the American College of Physicians(Annals of Internal Medicine (American College of Physicians)・2021)COPD増悪では喀痰膿性化に呼吸困難増加または喀痰量増加を伴う場合に抗菌薬を用い、期間は5日程度の短期で足りることを確認した。閲覧 2026-08-09
  9. 9.BTS guideline for oxygen use in adults in healthcare and emergency settings(British Thoracic Society(Thorax 2017;72:ii1–ii90)・2017)高CO2血症リスクのある患者の目標SpO2域が88〜92%であることを確認した。閲覧 2026-08-14
  10. 10.British Thoracic Society/Intensive Care Society Guideline for the ventilatory management of acute hypercapnic respiratory failure in adults(British Thoracic Society / Intensive Care Society(BMJ Open Respiratory Research 2016;3:e000133)・2016)非侵襲的換気開始の慣用的な閾値がpH 7.35未満かつPaCO2 6.5 kPa(約49 mmHg)超であること、重度アシドーシス単独はNIVトライアルの絶対的禁忌にならないことを確認した。閲覧 2026-08-03